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 ハルトは気絶から目が覚めた時には部屋に押し込められていたため、その姿については話に聞いてはいたものの、自分が乗っていた建造物を始めて目にする。


「まるで棺桶だな」


 コンテナを4つ積み上げたような大きさといえば伝わるだろうか。ミニオンという野良の魔物より数段強力な生き物でも運搬は相当な負担だっただろう。随分と目立つ見た目だが、移動中はある程度の隠蔽は行っていたらしく、人気のないこの場所だからその機能を使用していないだけだということはアークから既に聞いている。

 それだけ大きな建造物だが、こうしてはっきりと目視できるのはこれが最後になる。というのも、隠蔽機能を切ってまで現在行われているのは施設の沈下作業なのだ。

 現在は天井にあるハッチを使い侵入可能な地下施設。それが今回の施設の最終的な姿になるらしい。


「これでも原住民からは教会や神殿、遺跡なんかと呼ばれていたのですが」

「あの施設をそのまま持ってきたわけじゃないだろ。時間が無かったとはいえ、こういうのっぺりとした外見で神秘的なものというと、しいて言うならモノリスだろうか……」


 今回はアークもアンドロイドとして付き添っている。今回は掘削や破砕といった大掛かりな作業で時間はかかる。その一方でマニュアル通りに進めることができ、高い処理能力を必要とする作業ではないからこそできる芸当だった。

 そんな作業は夜に行われている。運搬中の揺れを抑えることができる衝撃吸収装置も今回の作業中に生じる振動は抑えきれないため作業中は施設内に居られない。とはいえ日照りの中過ごすのは酷なのでこの時間になった。実際、日中に感じた刺すような暑さは無いためある程度過ごしやすい環境だと言える。とはいえ、砂漠という環境は夜間酷く冷えると聞いたことがある。その場合、過ごしやすいのは今だけかもしれない。今から対策を考えておくべきだろうかと思いつつ、このくらいのことはアークの想定内だろうとあまり深くは考えないことにする。


「モノリスというのは、一枚岩を示す単語だったかと思いますが、岩ですか?」

「本来の意味は知らなかったな。サブカルチャーでなんとなく知っていただけで詳細は知らないが、四角柱状の人工物で、高度なコンピューターのような性質を持ち、その力でサルを人に進化させたという設定で、超生命体が作り出した道具という設定の代物にモノリスと名付けた作品があったらしい。原作は読んでいないから、原点からは二転三転して余計な設定を付け加えていないとも限らないが」


 2001年宇宙の旅という1968年のSF小説に登場したモノリス。作中には複数異なる外見で登場するが、その中でもハルトが語った人類を知的生命体に進化させたという設定を持つものは、作中内で人より二回りほど大きな黒い板状の立方体として描かれている。なお、その立方体は人が認知できる姿を取っている際の外見に過ぎないという設定だ。実体は3次元より上の高次元に存在しているほか、未知の素材や技術で構成されているというのがその作中のモノリスだ。

 それに比べれば巨大で実体もあるとはいえ、高い処理能力を持ったコンピューターであり、進化ではないがミニオンという生物を創造する力を有している。ハルトがなんとなく似ていると感じる程度には共通項があると言えるのかもしれない。


「……検索しました。興味深いですね。この世界は基本的に神話に基づいた価値観を基底としていますから、高度な科学技術の文明に関する情報は影響力が低いように設定されています。そのため重要ではない情報に分類されていました」

「確かにヒュドラーとかハデスとか、基本的に神獣は神話モチーフか。でも、そこでゼウスの連中やアークみたいな存在は異質だよなあ」

「影響力が低いと言いましたが、訂正します。神話系統はそれを模った際、即時にモチーフに沿った影響力を得ることができるため影響が強いという印象を見る者に与えます。しかし、発展性に乏しいという欠点があり、影響が拡大する可能性は低いと言えます。一方で技術や知識系統は反映までのタイムロスが発生し、即時に影響が発生しません。現在遺物として残存しているレベルに到達したのは、神獣たちの統治下で数百年に及ぶ秘匿と検証の結果になります」

「気の遠くなるような時間の話だなあ。なんというか、電脳世界というと、過程をすっ飛ばして超技術が始めからある、みたいな状態を想像してしまうけれど、そうでもないのか」


 それでも根底となる技術は現実世界のデータを用いているため無からの検証ではない。魔法が存在するからか現実の技術をそのまま流用できないこともあったが、逆に魔法があるため大規模な工具が不要になる場面もあった。一から始めていたなら、数百年程度の期間で精神への干渉を筆頭とする超技術は実現されていないだろう。


「しかし、ゼウスか。神獣のゼウスと組織としてのゼウスに関連はあったのか?」

「いうほどの関連性はありません。一応組織の上層部に血族はいたようですが、その血も薄まった希薄なものだったようです。

 それに、彼の主神は確かに属性としては神獣ですが、その存在は上位存在という概念を持っています。そのため、彼は世界とその調和の維持にのみ関心を示しており、地上でのいざこざにはよほどのことが無い限り干渉しません。……神話の影響を受け、移ろいやすく幾人かの妻を娶ったために、血族はそこそこ地上に居ますが」


 驕った存在がこの世界の主神の名を騙った。それだけの話だとアークは片付ける。それと同時に主神と呼ばれる別格の存在がいることも語る。彼女がヤルダバオトに世界の維持管理システムと語った存在、それがこの世界におけるゼウスの立ち位置だった。

 同時に、ゼウスはプレイヤーの登場や、ハデスが死にかけたことに対しては行動を起こしていない。実際に死んでいたら話は違ったのかもしれないが、どうやら世界の調和というのは大雑把な括りであり、この世界の住民にとっては一大事でも彼には大したことではないとみなされるようだ。


 アークとの雑談をしながら時間が過ぎていく。ほとんど何もしない時間に、退屈さと久しぶりの休息だがそろそろ終わるのだろうかと考える。

 どうやらアークはすでにログアウトに関する権能を持つ相手に目星は付いているらしい。聞いても確証が持てないので今は答えられないと言われてしまいハルトは閉口したが、それでも当てのない旅を続けることにはならなさそうなので、その点は一安心といったところか。

 目的があるというのはモチベーションに繋がる。英気は十分に養ったので、施設の完成をもって次の旅を始めようと考えるハルトだった。


~~~~


 その後、施設はこれといったトラブルもなく地中に埋まった。砂漠地帯に溶け込み、ただの視界にはほとんど映らない状態になっている。とはいえ、この世界にはスキルがあるため感覚を増強する系統の能力によって存在が看破される危険は残っているのだが。

 対策はいくつかされているが、万全とはいいがたいらしい。しかしハルトはアークの言う万全の状態のハードルの高さをなんとなく察している。その辺を神獣が徘徊しているなんて可能性を考慮し始めるときりがないので、おそらくほとんどの場合問題ない水準にはあるのだろうと勝手に解釈した。


「ご主人様の目的は、この世界と実存世界をつなぐ回廊、その維持管理にかかわる権能を持つ存在『クロノス』との接触ということで間違いないでしょうか?」

「いかにもな名前だな。それが今回のターゲットになるのか」


 施設内に戻りまず行ったのが目的のすり合わせ。外では何の耳があるかわからない。神獣に、裏切り者のエレオス、ハルトの想定する敵は思いのほか多く、雑談程度であれば問題ないが、次の行動が読まれるような情報は表では話すことができなかった。

 そのうえで、アークもこれ以上の情報制限はできないと判断したらしい。移動中と異なり今度は情報を開示する。


「アークの分析なら信じるが、そのクロノスという相手について、名前以外の情報はあるのか?」

「彼はこの世界の最果て、壁の向こう側に存在しています」

「壁?」


 単語の意味は分かるが、具体的な想像がつかない。世界の果てに高い壁がある。それは自分が暮らす星が球体だという常識を持つハルトには想像しづらい構造といえた。


「電脳世界の住人が実存世界に憧れを抱く所以です。限られたリソースの中でキャラクターは使いまわされ、新規の存在はほとんど作られず、記憶や素体の再構築によって辛うじて『生活』を演出している。それがこの世界の現状です。数十体居るとはいえ、神獣と呼ばれる個体による世界の維持管理ができるというのは、その程度の規模の世界であるということの裏付けともいえるでしょう」

「俺にとっての現実、この電脳世界の住人にとっての実存世界の住人にとって、この世界は異様だ。この規模、この精度の世界をネットワーク上に作り出しただけでも十分に規格外ではある。だが、言われてみれば実存世界に一度に存在できる人間の数に明確な上限は無いように思えるな」


 食料や元素が有限である以上、現実世界にも一度に存在できる人間の数は有限だ。しかしだからと言って10億人同時に存在すると世界が維持できないといった制限はない。人数に上限があるから子供を作ることはできない、あるいは生まれてくる子供は最近寿命を迎えたある人物の精神で、記憶は消えているがまっさらに新しい人間では無いなんて話は聞かないだろう。


「そのうえで、クロノスはその外側に存在し、一切その存在を脅かされることのない数少ない『例外』の1体であり、同時におそらく今回の現実世界の人々の精神を幽閉に関与していると思われる存在です」

「厄介だな。実存世界の住人の生死を気に留めないような計画の実行者、あるいは共謀者となると、プレイヤーである俺にとっては厄介な交渉相手になるだろうな」

「接触を控えて頂けるのであればその方が良いかと」

「それは、無理な相談だな」


 半ば予想していた答えとはいえアークは肩を落とす。しかし、やると決まれば最善を尽くす。

 話し合いは進み、目的地を定めた彼らは、次の旅を始めるのだった。


~~~~


 ハルトの復活の裏で、ハルトの元の素体を奪った思念体は、ラルクとミオを連れて遺跡での装備品回収を終えていた。

 この世界におけるロストテクノロジーであり、この世界のシステムに干渉するパンドラに対抗できる装備を手に入れた彼らは、ある意味この電脳世界において最も危険な存在となっていた。


「入念な準備が要ると思ってここまで退屈な回収作業に徹してきたが、そろそろ本格的に行動開始と行こうか」

「退屈な回収か……割としょっちゅう邪魔が入った気がするんだが」

「本戦力じゃないだろ。片手間で倒せるような奴らは数に入らないって」

「雑兵ではなかったと思うのだけれど、相手が悪かったからね……」


 通りすがりに破壊行為を行う偽ハルトは、パンドラにとっては恐るべき襲撃者と言える。近代的な建造物を更地に還し、並みのプレイヤー以上に豊富かつ高性能なスキルを習得した素体で襲ってくる構成員たちを、それらスキル以上の性能を持つ遺物で薙ぎ払う。


 なお、この偽ハルトの行為について、神獣やこの世界の住民達からは、正体も居場所も分からない謎の勢力がパンドラの脅威から自分たちを解放してくれていると噂になっているのだが、それらは本人たちには知る由もないことであった。


「しかし、どこに攻め込むんだ?」

「まずはあのホログラムしか表に出してこない臆病な奴だ。因縁のあるやつは先に倒すに限る」

「手がかりあるの?」

「バラバラに砕いたが、それでも情報のかけらはある。逆探知はさすがに気づかれるだろうが、今なら気づいてから逃げようとしてもその前に襲撃を仕掛けられるだろ」


 偽ハルトはそう言いながら袋詰めされた機械の残骸を取り出す。

 ふつうは残骸からそれを作った人物の居場所を辿ることなどできないが、彼は思念の集合体だ。性質として呪いに近いため、気配を辿ることにかけては権能を持つ存在に迫る技能を有している。


 そうして、通りすがりではなく、彼らの本格的なパンドラ掃討作戦が開始されるのだった。

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