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 この生活も残り2日と言われたハルトは、外に出た後の計画を立てることにする。今後の予定を立てるという考えもないくらいには日時の感覚が無くなっていたので、どうせ後から気に入らないところが出てくるだろうと計画は立てていなかった。


 アークからもたらされた知識は計画の一助になった。その一方でプレイヤーという立場でそれを事実として受け入れることは難しい部分もあり、事実であるにも関わらず信じ切れていない自分がいる。

 その中には、神獣と呼ばれる存在についての情報もある。彼らの存在意義についての項目では、この世界の維持管理を担う存在、言い換えれば意思を持ったオブジェクトというべきものであるという内容が書かれている。


 より具体的な例を挙げて説明するなら、あの場でハデスを討伐した場合、死んだキャラクターやプレイヤーの死骸は放置され、その魂は死体に縛られ続け身動きもできないまま動かず腐敗していく体に幽閉されることになっていただろうという話。ヒュドラーの毒からは解放されたが、今度は新しい替えの利かない素体を手に入れてしまったため相変わらずリスポーンは最終手段というハルトにとっては残機1という状況に対する拒否感は人より軽いが、それでも1体のキャラクターの生死が世界全体に及ぼす影響が大きすぎることに対する理不尽さは感じる。


 とは言ったものの、全ての個体が世界の維持管理に影響があるほどの権能を持つわけではない。ハデスはある意味例外だ。その一方で権能を持たない神獣が居ないのも事実。ハデスに付き添っていた名もなき神獣たちでさえ権能を持ち、ハデスの1人では処理しきれない量の死が起きた際にその負担の一端を肩代わりできる程度の力は有している。


「異物の排除の担当者と現実世界と電脳世界を繋ぐ橋の管理者。この2体が何らかの意図でパンドラの連中に協力している。あるいは支配下にあると考えるのが妥当か」


 全ての個体が何らかの権能を持つとして、その中には今ハルトが口にした権能を持つ個体も居ると予想されている。観測されていない個体のため、神獣の権能とは別の独立したシステムという可能性を否定はできないが、アークはこれまでの記録からその可能性は低いと判断している。そのことをハルトは本を通じて知った。


「今後の目的は、その2柱の解放になるのか」

「現実世界にお戻りになりたいのですか?」

「まだその結論は出せていない。向こうでの俺の立場は特殊なんだ。でも、仮に戻りたいと思ったときにその選択が奪われている状況は受け入れがたい話だからな」


 パンドラの連中に選択肢を奪われている状況は受け入れがたい。そういう意味で、ハルトは権能を持つ個体の発見および復権を目的の一つに掲げる。


「案外、最初のログアウト条件であるゲームクリアというのも、そのあたりに関係しているのかもしれないしな」


 今まで突発的な出来事や敵の出現によって忘れかけていたが、そもそもパンドラの連中は始めにログアウトの条件を提示している。と言っても、あまりに抽象的で行動指針にはならないものだが。

 確かにこのゲームの販売とプレイヤーの幽閉は彼らパンドラの仕業だ。しかし、彼らがログインとログアウトの権能を制御下に置いているとすると、ここまで杜撰な対応にはならないだろう。権能があれば途中で介入し、一般プレイヤ―の多くを回収していった何か、あの存在の干渉も受けなかった可能性が高い。

 だとすると、パンドラが神獣に利用されているというのが最もありえそうな話だ。次点でありえるとすれば、権能の一部を手に入れながら、そのすべてを手中に収めることができていない場合だろうか。権能を完全なものにするためにプレイヤーを使い、この世界の掌握に必要な残りの権能を探させているという可能性はある。


「それに、警戒すべき相手もいる。今の俺ならおそらく問題ない気もするが、慢心して足元を掬われてしまうというのは悔やんでも悔やみきれないだろう」


 彼が警戒すべきと口にしたのは、過去に眠っている間にハルトを連れ去り隔離してみせた謎の存在。おそらくはパンドラ所属の誰かだろうが、やけに気だるげなあの存在は知識が多少増えた今でも理解不能な力で彼を幽閉した。そんな力が無制限に使えるとするなら神獣以上の脅威になりうる。

 と言っても、アークがついている以上ほぼ休みなく警戒は可能。あの時のように無防備に眠っているような状況にはならないだろう。人を移転させるような力となれば多少の予兆はあるはず。あるいはパンドラ製の素体を使用している相手にしか通じないものかもしれない。その場合、素体を替えた今となっては通用しない技と言えるだろう。

 とはいえ、無制限に使える上に予兆もなく一瞬で連れ去ることが可能、なおかつほぼ永久的に維持できる空間であるという可能性はある。ハルトは、そんな力なら遠回りなことをしなくても世界を手中にできそうだと思いつつも可能性として考慮はすることにした。


「とはいえ、そんな規格外な相手なら、対策のしようもないんだが」


 最近独り言が増えたような気がする。アークが傍にはいるのだが、どうにも彼女と話しているとノベルゲームの登場人物と会話しているような気分になることがある。失礼とはわかっているが、どうにもこちらの期待した答えばかりが返ってくる状況は人と話している時とは違う印象を受けるようだ。


~~~~


 そんなことをしている間に2日は過ぎた。思ったより時間がかからなかったと思ったのもつかの間、移動が終わっただけで拠点の設置にはまだ数時間かかると言われてしまう。


「ぬか喜びってことか。いや、予定では今日中に終わるらしいし、あくまでアークは目的地に到着といっただけ。到着してすぐに外に出られると思っていた自分が浅はかだっただけだな。それに、数時間で拠点の設営が終わる方が非常識。これ以上を求めるのは高望みしすぎだろう」


 アークは一刻も早く拠点を完成させるため、アンドロイドを動かすリソースすら無く活動している。といっても処理能力を割いたからといって荷物の運搬や製造が早まるのかと問われるとほとんど差はないというのが現実だ。それでも観測していない範囲に遅延の原因が発生するのを嫌ったアークは必要以上のリソースをつぎ込んでいる。

 そんなことも知らずのんきはハルトは、ぼそりとそんなことを呟く。

 現状で満足すべき。そんな妥協の気楽さに身を委ねてしまう程度にはハルトの心は堕落している。一方で無駄に高い望みを持たないという点は美徳ともいえるだろう。捉え方次第といえるそんなハルトの性格に対し、アークは多くを望まないことを頼られていない、あるいは期待されていないと認識してしまい焦りを募らせる。下手な遠慮は尽くすことを喜びとする存在にとっては苦痛らしいが、ハルトはそれを理解していない。

 とはいえ、アークはこなせない量のタスクを課されたとしても文句ひとつ言わず消耗を厭わずに行動するだろう。その先は破滅だ。今のハルトの立場に居る存在が傲慢で無遠慮な奴だったなら、アークは過度な消耗の末崩壊していたかもしれない。高性能だからと言って融通が利くわけではないという事実は、呼称一つ変えるだけの命令を聞き入れないあたりからも察せられるだろう。そういう意味でアークという存在は、精密機器にありがちな丁寧に扱うことを求められる気難しい機械といえた。


「準備が整いました」

「思ったよりも早かったな。何か手伝えればよかったんだけれど……」

「お手を煩わせるようなことは何一つございません。むしろこうして待たせてしまい申し訳ございませんでした」

「謝るようなことじゃない。むしろこちらの勘違いで急かしてしまったんじゃないか?」

「施工開始前に言った通り、無理はしておりませんのでお気になさらず」

「そうか。ならいいんだけれど」


 確かにゼウスの研究施設のように余力のある処理装置を積んでいるわけではない。移動可能となると制約もあり、性能低下している部分はある。しかしそれでも流暢に会話できるほどの相手がアンドロイド一つ動かせなくなるというのは無理をしているのではないかと疑うきっかけになる。と言ってもアンドロイド一つ動かすのにどれくらいの労力を使うのか正確に把握できているわけではないハルトだ。慣れない機械の体を動かすために相当な消耗をしていたなら、今後はアンドロイドを動かす頻度を減らすかどうか聞いてみるべきかもしれない。アークとしてはできるだけ長く主人の傍に居たいと考えているが、それを言葉にしたことはなく、そのためか1人と1体の間には酷い認識のずれが生じている。


 アークに連れられ外に出る。しかし、よく考えてみれば狂暴な外見のミニオンに引きづられるように動く黒い巨大な箱だ。そんなものが町に近づけば騒ぎになるのだから、目的地は人気の少ない場所になる。


「あっつ」


 照りつける日差しに、久しぶりの外だというのに早くも部屋に戻りたくなってくる。なんだか青の短剣を持ってこの世界をゲームとして楽しんでいた頃に狩場にしていた場所を思い出す環境だった。


「……なんというか、閉じ込められているのが嫌だっただけで、外に出たかったわけでも、外に出てやりたいことがあったわけでもないんだよな」


 これが町なら違っただろうかと考えてみる。しかし、どうにも外を謳歌している自分の姿は想像しづらい。下手な防具は体の動きに干渉して邪魔なだけ。消耗品の魔道具も市販品程度では嵩張る荷物になるだけだろう。価値ある美術品やアクセサリーにも興味はないし、露店に並ぶものに品質の期待もできない。町の散策は彼にとってあまり魅力的とは言えないだろう。

 楽しめることがあるとすれば、青の短剣や魔力の矢を扱える弓を売っていた武器商人、ああいった掘り出し物を扱っている相手を探してみることだろうが、低い可能性に期待するのは賢い選択とは言えなかった。


「例外は食事か」


 異国料理を食べるというのは、味の良し悪しに関わらず貴重な経験だ。干し肉や保存食を回復アイテムとして消費していた頃には考えもしなかった娯楽に対して、この世界をゲームとして見ることはもうできなくなっていることを強く実感する。そんな自分の変化や、娯楽のことを考える程度には余裕がある状況など、この世界に来る前には考えもしなかった変化について目を向けたハルトは、淡々と過ぎていく日々に比べ刺激的で面白かったなと思い、軽い笑みを浮かべた。


「ここでの食事に不満がおありですか?」

「いや、現実に近い水準の調味料を使った料理に不満はない。ただ、珍しいものは刺激になる。日常的に食べたいとは思わないものでも、旅先ではそれなりに価値があるって話だ」


 このあたりの人間らしい感覚というのはアークには理解しがたいものかもしれないと思いつつ、果たして今回語った内容はどう受け止められただろうかと考える。しかし、軽く考えてみたが機械の考えることなんてわからない。同じ種族の相手すら理解できないのだから考察はできても理解は困難だ。下手に考え込むとこう考えているだろうと決めつけて良くないことになりかねない気がしたこともあり、途中で思考を放棄するハルトだった。

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