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単体だと短い話を2つ纏めてあります。再編時には纏めなおすかもしれません。
e-01:大戦時の怨念(偽ハルト)編 第1話
ハデスが戦闘準備を整える間、ミニオンは着実に戦力を増やしていた。
その背景には、神獣らしき存在と接触したという情報がアークに伝わり、戦闘になる可能性を考慮した結果だ。本来は神獣に感づかれないような規模での魔獣狩りで素体生成のための資源を収集する予定だったが、悠長なことをしていれば敗北するということをかつての大戦を知るアークは理解していた。
『まだ攻めて来ないですね』
しかし、だからこそ腑に落ちない。なぜすぐに攻めて来ないのだろうかと疑問を抱くのだが、準備の整っていないアーク側にとっても時間があるのは都合が良いことではある。
この世界はゼウスの残党であるパンドラの手による干渉を受け、まともに行動できる神獣はごくわずかとなっているうえ、大戦の傷跡によって行動に大きな制限をかけられているのだが、長い休眠状態にあったAIに知る由もないことだった。
「何か言ったか?」
『いいえ。なんでもありません』
「そうか……ところで、なんで俺はこんな訓練みたいなことをさせられているんだ?」
『どうせ暇でしょう? 体が鈍らないようにというだけです』
「その割には随分とハードな訓練だな……危なっ」
そんな思考を行うアークの傍で、ハルトはマネキンのような見た目をした2体のホログラムとの模擬戦を行っていた。
アークとしては、新しい高性能な素体を使いこなすだけの動体視力やセンスを伸ばすための訓練として行っているのだが、その話はハルトには伝えられておらず、結果として彼は意味も分からず反応速度が恐ろしく速いAI相手に2対1という理不尽な組手をさせられていた。
『勝てたら何かご褒美を差し上げましょう……とでもすればモチベーションは上がりますか?』
「やめとくよ。あんたの感性は人間とはどこか違う感じがする。褒美とか言って腕をドリルに改造されるとか、なんかそういう感じがする」
『ドリルはお嫌いということですね』
「……失言だったか? いいか、俺は普通の人型の体に戻れればそれでいいんだからな」
『わかりました』
ハルトはアークの生返事に、本当だろうかと疑わしい目で見つめるが、実はそんなことをしている余裕などなくて、組手の相手の拳が当たり大きく吹っ飛ばされる。
「てめぇ、会話中の攻撃は反則だろ……こうなったら意地でも勝つ!」
そんな過酷な訓練だが、仮想とはいえ毒による体調不良のない体を取り戻した結果感じている全能感のおかげだろうか。命までは取られないと分かっているからか、叛骨心を沸き立たせたハルトはボコボコにされながらも模擬戦の相手に向かって拳を振りぬくのだった。
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対神獣用のミニオン、決戦級個体「ヤルダバオト」
偽りの神の名を冠するその個体は、傲慢で信仰に欠けているとされ、神というよりも悪魔と称されることもある。
そんな逸話があるからか、透明な管の中で成長するその姿は、恐ろしい化け物のような姿をしている。
かつての大戦で神獣たちが恐れた脅威が復活しようとしていた。
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その頃、ハルトの体を乗っ取った太古の怨念はというと、ラルクとミオの2人と共にパンドラを倒す旅の最中に居た。
「迷いなく進んでるが、何を目指してるんだ?」
「遺跡。あるいはその跡地だと何度言ったら分かる? そもそもこの遺物のおかげで移動は格段に楽だろ。なんの不満がある?」
4輪の車、それも魔法によって路面のがたつきをほとんど感じないものに乗りながら荒野を進む中、ラルクの問いかけに偽ハルトは辟易しながらそう答える。
「仮に遺物が残っていれば戦力の増強になるし、もし連中が先に見つけているなら連中の手がかりが残っているはずだ」
「手がかりを残すほど間抜けじゃないだろ?」
「連中の痕跡は隠しきれるほど浅くない。漁った跡があればそこからなんとかする」
「なんとかするって……その方法を聞きたいんだろうが」
ラルクは神殿に残っていた情報を漁ったが、遺跡の情報なんて出てこなかった。それにも関わらず、ハルトは遺跡について知っていると言い、実際迷うことなく目的地に向かっているように見える。遺物と呼ばれているが明らかに車という外見の移動手段の登場に、徒歩での追跡が困難と判断してこうして同行しているが、ハルトに対する違和感が拭えないでいた。
「文句を言っている間にもうそろそろ到着だ。この乗り物に荷物を置き忘れても知らないからな」
しかし今回も最終的には話をはぐらかされてしまう。
車内から景色を見れば、荒野の先にまばらに木が生えている場所が見える。溜め池やオアシスの類だろうかと考えながら車に揺られていると、実際数分でその場所に到着した。
車を降りた3人は、偽ハルトを戦闘にその林の中に踏み入る。
「本当にこんなところに……」
「静かにしてくれ。もし施設が生きていた場合、あまり刺激したくない」
「刺激するとかしないとか、そういう話なのか?」
無機質な施設相手に機嫌を伺うような話をされ思わず疑問を口にするラルク。その様子に偽ハルトは言っても無駄らしいとため息を吐いた。
「あまりしつこく尋ねるのもどうかと思いますよ」
「そうは言ってもなあ……」
背中を軽く叩かれ振り返ったところ、ミオに小声で耳打ちされる。文句を言われてしまったが、ラルクとしては探りを入れている段階であり、積極的に言葉を交わさなければならないと考えていた。
ラルクは、そんなことを思う傍ら、ふと脳裏に自分の本来の仕事について思い返す。
「(そういえばメンバーからの接触も、本部からの通知もないな。まあ、パンドラの連中の手の届かない圏外に居る以上当然か)」
偽ハルトはプレイヤー用の簡素なアバターでの復活に納得しておらず、ゼウス残党もといパンドラとの戦いには強力な武装等で素体の貧弱さをカバーする必要があると考えていた。それに伴い、彼はパンドラの支配領域であるゲームエリアの外で遺跡、もといゼウスの研究施設の捜索と遺物の発掘に時間を使っている。
その都合でラルクもまた、ゲームエリアの外に長期滞在しており、他のメンバーとの連絡を取ったのは1週間以上前という状況に身を置いていた。
しかし元から単独行動が基本の組織であり、そもそもゲームエリア外に出ることについても連絡をしてある。定期報告が遅れた程度で問題はないだろうと高をくくっていた。
「何してる? 早く来ないとおいてくぞ」
「悪かった。おいていかないでくれ」
そんな思考を挟んでいる間に偽ハルトは先へと進む。ただラルクを放っておくほど薄情ではないらしく、一言声をかけてから先へ進んでいく。その背を追うようにラルクは足場の悪い道を急ぎ足で進んだ。
――そういった旅路を経て、3人は遺物を発掘し装備を整えていく。その戦力は、神獣1体と同等かそれ以上となっていくのだが、ラルクとミオがそんな事実を知るのはまだ先の話である。




