49
アークが生み出したミニオンと呼ばれる怪物は、大きく分けて3種類に分けられた。
第一種、索敵用個体「ハウンド」
かつてゼウスが苦戦し、最終的には取り逃がした神獣「ケルベロス」の劣化複製体であり、外見上は体長3mほどの大型の犬のような外見をしている。索敵能力と量産性に優れている一方、第二種に比べ戦闘能力は劣っている。
第二種、戦闘用個体「ギガース」
ゼウスが壊滅させた種族「オーガ」をモチーフとした個体であり、高い身体能力を有する。知能は高いとは言えないが、それでも武器を扱う程度の器用さは持ち合わせているため、武装次第では単純な戦闘能力について第三種と並ぶ程度の能力を持つ。
第三種、戦闘用個体「ピクシス」
ミドルが信仰する神獣、その配下たる精霊を模して造られた人造精霊とでもいうべき存在。高い知能を有し、他のミニオンを指揮することができる。そのうえ単体でも高い戦闘能力を有している。
劣化した施設内のデータをサルベージし、残っていた製造可能個体を検討。現状のリソースから製造できる最大数として、ハウンド8体、ギガース3体、ピクシス1体が用意されることになった。
それだけのリソースがあれば、ハルトの肉体を再生させることは容易だろうと思うかもしれない。
実際のところ、アバターの製造にはそれほど多量のリソースは必要が無い。それは大量のプレイヤーとそのリスポーンが可能な現状から見て取れるだろう。アバターよりもそれを動かす精神体ないし魂の確保が難しかったからこそ、パンドラは現実世界からわざわざプレイヤーを連れてきたわけだ。
ではなぜアークはハルトのアバターを現時点では用意できないと結論を出したのか。
それは、アークが用意する予定の素体が研究施設アーク内で最も高性能なものにするつもりだからだ。
人型という制約があるため最高性能ではないのだが、それでも単独で神獣と渡り合うことのできる性能の素体だ。もちろんハルト個人のセンスに左右されるため、一概に身体能力が高いからといって神獣に勝てるとは限らないが、それでも規格外な、ゲーム的な言い方をするならチートに類する力であることは間違いない。
アークがそんな余計な力を持った素体を用意しようとしていることなどつゆ知らず、ハルトはデータの海を彷徨っていた。
『ずいぶんとこの世界との親和性が高い様子ですね』
「(普通のプレイヤーは違うのか?)」
『通常は肉体がない状態で長時間自我を保つこと自体難しいとされています。気絶したように休眠状態になるか、それができなければ自我が崩壊し精神体が破損。当機の能力でも復元できない状態になります』
「(怖っ……でも、それなら俺は運がいい……いや、運がいいならそもそのこんな状況になってないか)」
何かと事件に巻き込まれることが多いハルトだが、不思議と命の危機に晒されてもなんとか生き延びている。しかしそれを運がいいと表現するのはどこか違うような気がした。
『とはいえ、この状態が長期化した場合の影響は不明です。精神状態の安定のため、簡易的ではありますがシミュレーターを用意しました』
アークがそう告げた直後、ハルトの視界は揺れ、急に体が重くなったような感覚に陥る。
「なんだ……って、体が」
『はい。仮想の肉体を用意させていただきました。違和感があればおっしゃってください』
「……なんというか、タルタロスとの訓練といい、仮想現実内の仮想現実って妙な感じするんだよな。まあ、仮初とはいえ体があるってのは嬉しい話だが」
視界にはどこまでも続く平行で真っ白な壁と天井があり、まるで無限回廊のようになっている。とはいえ実際に無限なわけではなく、自分がいる場所を起点に先が描画されていないのだろう。多くのリソースをミニオンの製造に割いている以上、余力はそう多くはないはずだ。
そんなことを考えつつ、いつの間にか用意されていたローポリゴンな椅子に腰かけ、机に肘をつく。この空間でアークは小人か羽のない妖精のような見た目で宙を漂っていた。
「それ、あんたの趣味か?」
『趣味とは? ……おそらく製作者の遺志のようなものでしょう。私を作った者の理想。精神体の影響はわずかですが実際に在るようです』
「確かに。小人や妖精を模るつもりなら、もう少し砕けた柔らかい口調、いわば天真爛漫やいたずら好きの子供みたいなものを想像する。となるとその姿はあんた自身が意図したものじゃないってのは納得だ」
そんな話をしつつ、ハルトはアークの知る情報を尋ね、アークはそれに答えていく。
ミニオンによる素材回収が終わるまで、1人と1体はそうやって時間を潰すのだった。




