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c-03

エピウス / 東山徹編 第3部

※都合、a-06後半に第2部を書いています。


【前回までのあらすじ】

 「セカンドプラネット」という正規の手段でログアウトできないゲームに閉じ込められた東山徹。

 彼は周りのプレイヤーを出し抜こうと、何かレアアイテムが無いかと初期エリアの奥へと進み、そこで災害級魔獣という規格外の存在と対面してしまう。

 災害級魔獣、もといセカンドプラネットという仮想世界に存在していた規格外の力を持つ存在「神獣」の1体であるヒュドラー。その攻撃を食らった彼はなすすべなくリスポーンすることになる。

 神獣の攻撃は異常であり、その攻撃による状態異常はリスポーンしても治癒しなかった。それどころかプレイヤーの脳に巣食い、人が思考に使う処理能力を奪い取るという恐ろしい特性を持ち、東山の精神は徐々に蝕まれていく。

 そんな中、なんとか救援が間に合い、彼は完全に自我を失う前に現実へ帰還する。しかし、ゲームからログアウトした程度ではその状態異常は治癒しなかった。

 彼の状態を知る組織により彼は施設へと運び込まれる。そこには黒木明と名乗り、周りの人々からは「博士」と呼ばれる女性が居た。彼女は東山に対して、その症状が電脳障害と呼ばれていること。そして似たような症状を持つ患者がいることを語る。

 そして黒木は東山の合意を得ることなく、彼の治療を開始しようとしていた。

 事態は急を要するらしい。

 周りを流れていく光景が、どこか画面越しのように見える。腕どころか首にも力が入らなくなり、筋肉が弛緩したことで呼吸すら苦しくなる。しかし脳に酸素が行かなくなっているというのに苦痛すら感じない。

 目の前で慌てたように管を持った白衣の誰かがその管を東山の口に突っ込み、喉まで深く差し込む。どうやら呼吸を補助するものらしい。体が正常に機能していれば、咽るどころか喉と管が擦れて血を吐きそうだが、彼の体は抵抗することなくその管を受け入れる。


「こりゃーまずいね。果たして人格のサルベージすら間に合うかどうか。最悪サイボーグ化かなあ」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ。その手段は最終手段ですし、組織でも負担大きいんですからね」

「それに記憶処置効かなくなるから基本組織に飼われることになるよねー……はあ、頭痛いわ」

「一応本人の前でそれ言います?」

「どうせ聞こえてないでしょ。まあ、聞こえてたところで記憶処置するし」


 黒木は愚痴を呟きながらもてきぱきと作業を進め、そうして準備が整った。


「さて、それじゃあ電脳腫瘍の摘出作業を始めますよ」


 そういうと、彼女は機械的でごてごてとしたゴーグルを着け、半透明なメスを握り作業を開始した。




~~~~


 作業が終わり、手術室から続々と人が出てくる。それを横目に誰かを待っている様子の黒服の男の姿があった。


「お疲れ」

「何? あんたが労いのためだけに顔出すなんてありえないんだけど、何かあった? こっちは作業で疲れてんだけど」

「悪いとは思うがこっちも上から命令された仕事なんでな」

「……悪かったよ。疲れてるから余計なこと言った」

「そうか。それじゃあお互い様ってことで。要件はこれだ。後で目を通しておいてくれ」


 そういって男は黒木に手紙を渡す。どうやら通信に載せられない案件らしい。

 この世界のネットワークは常に監視されているようなもの。本当に重要な情報のやり取りは手渡しするのがその組織のルールだった。


「わかった」

「あ、あと他の施設で処置できなかった急患が2名、こっちに送られてくるってよ」

「はぁっ!? 軟弱者がぁっ!! やっぱりこうなりやがったわね。症状が進行した後の患者を送ってくんじゃないわよ愚図が!!」

「おお怖い怖い。大荒れだな。後は霧島に任せて俺はお暇させれもらうとしますかね」


 セカンドプラネットというゲームの発売と、そのプレイヤーが電脳世界に囚われるという事件。未然に防ぐことができなかった大問題を前に事後対応に追われる。

 使命を胸にしながらも、人間には限界があるということを思い知らされる黒木は、手紙を読んだら寝るのだという覚悟を決める。

 しかし、その内容は彼女の想像を超えるものであり、頭を抱え、眠る余裕など失わせるものだった。


「重要参考人が意識不明。それも原因はセカンドプラネット? 監督どもは何やってんのよ……このままじゃマテリアル不足で治療もままならなくなるんだけど……今から代替品の用意が間に合うわけないんだけど……」


 6年前に組織が保護、という名目で確保した大海陽人(おおみはると)という男がいる。彼はセカンドプラネットの基幹を成す電脳世界、そこで生まれた現実への侵攻を目論む勢力「ゼウス」の構成員、その子孫にあたる存在だった。

 ゼウスの構成員は、現実の人間の体を奪い、その体で現実世界に降り立った。つまりはその体は現実の一個人のものであり、それが子孫を作ったところで電脳世界の住人の要素を引き継ぐはずがない。そう考えるのが妥当だろう。

 しかし、精神体、要は魂が実在するということであれば話は別だ。異質な魂が混ざった状態で生まれた大海には、電脳世界の住人が持つ特異な感応性、その一部が備わっている。


 大海の親である元ゼウス構成員は、自分がかつて電脳世界の住人であったことを妻にも息子にも伝えることはなかったし、彼自身元ゼウスであることを恥じて生きていた。しかし身元を隠し続けることはできずに大海の存在が露見し、彼の誘拐事件の最中命を落とした。


 その誘拐事件の後、組織は大海を保護することになる。そんな中、貴重な人間と電脳世界の住人のハーフという存在が研究対象にならないはずがなく、彼の身体は精密検査を受けることになった。

 その中で発見された秘密の一つに、彼の体液を用いた制御回路がある。特殊な機能を持つそれは、電脳障害器具に用いられ、先ほど東山の電脳腫瘍を取り除く際にも用いられた。


 その制御回路の材料の供給が滞るとなれば、黒木にとっても大打撃だった。


「面倒なことになったわね」


 愚痴を零しつつ、彼女は今から何ができるのか考え、対策を練り始める。その頭に、先ほどまでの休むという選択肢は消えていたのだった。

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