表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/104

45

 ラルクとミオは、パンドラの襲撃が無いか警戒していたが、緊張の糸が張り詰めている状態が長く持つわけではないらしい。ミオは気分転換を兼ねてラルクに問いかける。


「Eやハルトと親しい様子でしたが、どういった関係なんですか?」

「別に親しくはない。とはいえ、あいつらを支援するような奴は居なかったからな。治療をしていた以上は多少懐かれたんだろうよ」


 ミオの質問に対し、ラルクは辟易したように顔を歪めたが、そんな態度とは裏腹に答えを返す。その内容に、ミオは思い出したように追及する。


「……そうです。あなたには治療技術がある。その技術は一体どこで手に入れたものですか? パンドラの構成員というわけではない様子ですが、ゼウスから分裂した派閥に属しているのか疑わしいですね」

「あいつらと一緒にしないでくれ。上の連中の詳しい素性は知らないが、少なくともそれはない」

「素性を知らないのであれば、否定できないのでは?」

「俺の組織は現実で設立されたものだ。この電脳世界で設立したゼウスやその残存勢力であるパンドラとは無関係だ。……彼らが本当のことを言っているという前提ではあるがな」


 組織の名前は明かさないが、その一方で思いのほか簡単に組織について語るラルク。その話に「現実」という単語が含まれていたことにミオは違和感を覚える。彼女たちミドルやデミにとってはこの世界こそが現実であり、彼らプレイヤーの本体が存在する世界は別世界だ。しかし彼が彼女たちの電脳世界のことを虚構だと考え、当てつけのようにその言葉を使ったのかといえばそういうわけでもない。おそらくその考えは差別的だという自覚が湧かないほど、彼らにとっては当たり前の考え方なのだろう。

 ミオは、指摘すれば言葉を正すのかもしれないと思いつつ、こういう点は指摘するだけ不毛なのだろうと口をつぐんだ。


「なるほど。そうなるとその治療技術はあなただけのものではなく、他にもその技術を持っている者はいるということですね」

「そうだろうな。ただ、俺含め利己的な人間が多いから、同業者が居てもその存在を知る機会はほとんどない。俺が知っている組織のメンバーも、俺に技術を教えてくれた1人を除いてほとんど知らない」

「それでよくこの世界に来る決断をしましたね?」

「目的を達成できなければ生きている意味もない。この世界に来て死んだとしても、ただ呼吸をしている日々と何ら変わりはない。言っただろ。俺は利己的だって」

「その割には、ハルトの治療に手を貸しているようだけれど。人助けが好きなの?」

「これも目的を達成するために必要な過程なんだ。……おしゃべりがすぎた。別におまえさんに話すようなことでもないんだが、なんで話す気になったんだろうな」


 ラルクの目的。彼がなぜハルトを助けるのかという一番知りたい部分については語りたくないらしい。彼は話を切り上げ、拒絶の意思を見せる。その様子にミオもそれ以上の追及は避けた。

 そんな会話をしていた2人だったが、それから数分後、建物が揺れるほどの衝撃に見舞われる。


「何!?」

「どうやらそう上手くはいかないらしい。おそらく連中の攻撃だ」


 この施設には防衛機構が備わっている。そのうえ鍵がなければ扉は固く閉ざされ入ることは叶わない。

 しかし鍵によりこの施設はすでに再稼働している。扉が開かなくとも、それを強引に突破すれば、望んでいた技術は手に入るということなのだろう。施設が発見できなかった期間に準備していたのだろう。この施設の防衛機構を突破するだけの戦力はすでに用意していたらしい。


「だが、あいつらこの施設の性質については理解していないらしいな」

「どういう意味?」

「……あんたなら知っているかと思ったんだが、思い違いだったか。この施設は、技術の秘匿のために損傷割合が一定の基準を超えると自壊するようになってる。先ほどコンソールで確認した」

「そんな。施設が自壊したらハルトは……」

「ああ。瓦礫に押しつぶされるか、爆発に巻き込まれて跡形もなく消し飛ぶだろう。こうなると俺たちは外に出て迎撃するか、扉を開けて連中を中に招き入れるしかない。くそっ、仮にも重要施設だぞ。爆撃なんてしたら内部のデータが破損するとは考えないのか?」


 怒りが収まらない様子のラルクはぶつぶつと小言を呟きつつ、インベントリから何かを取り出す。それは裁縫用の針のような外見をしていたが、その大きさは人差し指の付け根から先端までと同じ程度と布を縫うにとは思えない程度に大きい。ラルクは取り出したそれらの針を外套の裏に収納していく。


「それは何?」

「仕事道具兼武器みたいなものだ。……あ、言い忘れてたが、俺が相手にできるのはゼウスやその残党であるパンドラの関係者だけだ。仮に外に居るのがこの神殿をつぶしに来た神獣だった場合にはあんたに任せることになる」

「それ、今になって言うんですか? 頼りにならないですね……」

「十中八九ないだろうが、一応伝えといただけだ。それに、神獣もデミの話なら聞くだろ」

「そんな単純な話でもないんです。無茶言わないでくださいよ」


 そんな会話をしている間にも、外では爆発音が響き、老朽化し脆くなった壁に亀裂が走る。時間はあまり残されていないようだ。

 ミオも武器の状態を確認し、それが終わるとラルクに合図を送る。


「それじゃあ施設の扉を開けるが、その後はどうする?」

「入口で迎撃。無理そうなら退却して出入口付近で押しとどめるということで」

「わかった。俺が先陣を切るが、何が起きても驚かないでくれよ」

「それはどういう……」

「この爆撃音が途切れたら行くぞ。……今だ!」


 ミオが疑問を口にするが、その答えが返ってくる前にラルクが装置に手をかけ、狙ったタイミングで扉を開く。

 ミオは、こんなことになるのなら、雑談などせず敵が攻めてきたときの連携を確認しておけばよかったと後悔したが、そんな沈んだ気持ちのまま戦場に出てはパフォーマンスが落ちる。首を横に振り、頬を軽くたたいて気合を入れなおすと、駆け出したラルクの背を追って施設の出入口から外へと飛び出す。


 爆撃と爆撃の合間のタイミングを狙ったとはいえ、そんな危険地帯に敵兵がいるはずもなく、外に出た直後から交戦するようなことは起きなかった。

 しかし周囲を見回すといくつもの視線を感じる。その視線に警戒を続けつつ、まだ爆撃が続くのか、それとも攻めてきた連中から接触があるか様子を伺う。


「まさか中に人がいるとは思わなかったな」


 爆撃は一旦止み、茂みの奥から1人の男が姿を現す。真っ黒なスーツに身を包み、顔はノイズが掛かって判別ができない。そんな彼は2人を前に白々しくそう告げる。


「何だ? 人が居るのは都合が悪いのか?」

「君、不法侵入という言葉は知っているかい? 人の所有している建物に土足で踏み込み、我が物顔で滞在されて謝罪もなしというのは、礼儀に欠けるだろう」

「……話がかみ合わないな」


 ミオが前に出ようとするのをラルクは手で制し、スーツ姿の男に問いかける。しかしその問いに答えが返ってくることはなく、男は一方的に語りだす。かろうじて理解できることといえば、男が語った内容が、どうやら2人に謝罪を求めているのだろうということくらいだった。


「この人、何を言ってるの?」

「俺なら理解できるとか思ってないか? 無理だ」

「……ふむ。どうやら野蛮人は察しが悪いようだ。仕方ないからおまえたちでもわかるように伝えてやる。――そこを退き、道をあけろ。その施設は我々の……いや、私のものだ」


 ラルクはなんとなく感じ取っていたが、その言葉で予感が確証に代わる。どうやら彼らはゼウス残党ないしパンドラの構成員だろう。そして周囲に潜む伏兵と違い、対面している相手はおそらく幹部。傲慢な立ち振る舞いや言動から、何か必要性に駆られてこの施設の技術の獲得、復元に努めているわけではなく、このセカンドプラネットの支配か、それに類似した何か私的な目的のために技術を欲しているのだろう。

 とはいえ、会話で時間稼ぎができるのならそれに越したことはない。治療が完了するまでの予想時刻まではあと10分程度。とはいえ予想時刻が正確だという保証はなく、毒の除去が終わった直後の憔悴したハルトが問題なく行動できるのかも未知数だった。


「(ひとまずターゲット指定は可能か。対策されている危険もあったが、そこまでは手が回っていないらしいな)」


 服の上から針に触れ、視界に強調表示のアイコンが浮かぶのを確認したラルクは内心安堵する。とはいえ、気を抜ける状況ではない。ターゲットできるということは、彼が所属している組織と敵対している勢力の存在であり、このセカンドプラネット内の技術のみしかもっていないミドルやデミ、能力に制限のあるプレイヤーといった存在よりも厄介な能力を持っている可能性が高い。となると時間稼ぎができるのならそれに越したことはないだろう。そうかんがえたラルクは乗り気はしないが会話に興じることにした。


「話をして時間を稼ぐ。戦闘になった時の判断は任せるからな」

「わかった」

「どうした? 早くそこを退かないか」

「あー、仮にここを退いたとして、俺たちは無事に帰してもらえるのか?」

「何故私がそんなことを保証しなければならない?」

「この施設の鍵を持っているのは俺たちだ。殺されるくらいなら立てこもってやるよ。無理やり扉を破壊するつもりか知らないが、そんなに苛烈な攻撃を加えてこの施設が無事に残っているかな?」

「脅しか? そんなものが私に効くと思うな! 素直にこちらに従うなら記憶の消去で済ませてやろうかと思っていたが、残念だよ。――ウォリアーども、こいつらを殺せ!」

「ちっ、交渉決裂かよ」


 こちらを注視していた視線が動き、ラルクが舌打ちをした直後、発砲音と共に2人へ向けて銃弾が発砲される。


「――精霊よ!」


 しかし銃弾が発砲される寸前、かろうじて詠唱が間に合ったミオの呪文によって、その攻撃は防がれる。


「なるほど。タルタロスには劣るが、十分強大な存在だな。1人で十分と判断された理由も納得だ」

「おや、ただの野蛮人ではなかったか。この場所に至っただけはあるようだが……その程度ならどうということはないな」


 ミオが発動したのは召喚呪文であり、呼び出されたのは名もなき奈落の精霊だ。光を通さない黒い霧を纏い、体の表面は鱗で覆われているが、姿はどことなく人間の女性を思わせるスタイルをしている。それはタルタロスに従う精霊の1体であり、彼の命令で今はミオに力を貸していた。

 その黒い霧に触れた弾丸は腐食したように朽ち、2人に届く前に崩れ落ちる。しかしスーツ姿の男は攻撃が効かなかったことに動揺することはなく、むしろそれくらいの抵抗は見せてくれなければ張り合いがないとでもいうように声を弾ませる。


「関心してないであなたも戦ってください。私に任せなかったということは、戦えるんですよね?」

「まあな。さて、役立たずの汚名は返上させてもらうとするかね」


 精霊の使役には魔力と体力を消耗する。確かに召喚呪文が扱えるように仕込まれてはきたが、実践の機会が少ないミオにとって、長期戦は望ましくないと言わざるを得ない。精霊には防御を任せ、彼女自身は手にした槍で敵陣に斬り込む。

 それに対してラルクは懐にしまっておいた針を2本取り出すと、それを周囲の木へと投擲し突き刺す。


「リコンストラクト・マテリアルズ」


 その直後、彼がキーワードを唱えると、その木は姿を変え、地面から根を引き抜くとそれを鞭のようにしならせ周りに潜んでいた射手たちを絡めとる。急な出来事に反応できた者は少なく鎧の上から捻り潰される。


「物質の魔物化と、魔物の使役……」

「よそ見してんじゃねえよ。驚くなって言っただろうが」


 ミオの呟きに対してラルクは愚痴を吐きながら、次の一手を打つ。


「アノマリー・オブ・パッチワークス」


 懐から左手でもう1本の針を取り出すと同時に、右手の親指を噛み血を流す。その流れ落ちた血を針の糸が通る部分にこすりつけると、彼はその針を地面に突き刺す。


「先史文明時代の古戦場なんだ。少しは面白いやつが釣れてくれよ」


 そう呟く彼の足元には巨大な魔方陣が赤く浮かび上がり、地中から何かが這い出して来る前兆として、地震が起きているかのように足元がぐらつく。

 そして水しぶきのように土を巻き上げ現れたのはかつて朽ち果てた神獣の1体。その骸だった。

 その命が絶えてなお骨や皮は腐り崩れることはなく、激しい戦火による傷跡こそ残っているが、その姿は十分な威圧感を伴っている。


「……これはさすがに気分が悪いですね」

「使えるものは使う。それが最善策なら致し方ないことだ」

「この力は、かつて我々が失った技術ではないですか! どうして貴様が……」

「あ? あんたらも似たような技術を持ってたのか? 通りで師匠が忠告してきたわけだ。気が滅入るな……」


 ミオは骸を使役するラルクの術に忌避感を覚えるが、ラルクはそんな彼女の反応にもっと理性的になれと諭す。

 そんな中、スーツの男が妙なことを言い出す。ラルクはどこかで裏切り者でもあらわれて技術が漏れたのか。あるいは似たような別の技術か。何にせよその男がラルクの持つ技術に見覚えがあるという事実は好ましくないと感じ愚痴を零した。


「さて、この戦力を前にしても余裕でいられるのか?」

「多少強力な魔獣を従えたところで我々が負ける道理はない。前大戦に敗れた有象無象ごとき、我々に倒せないはずがないのだからな!!」

「……その大戦で敗走し無様に生き延びた連中が何を言ってるんだか」


 お互いの戦力が出そろい、本格的な戦闘が始まる。

 一見ラルクとミオが優勢に見えるが、ラルクが使用しているのは血を消費する能力だ。大胆不敵な態度をとっているが、ハルトが予定時間通りに復活する前提で使用したという側面が大きく、ミオの召喚術と同様長期戦には向かない。相手がそのことにいつ気づき、無理に攻めず距離を取って時間を稼ぐような戦術を取ってくるとかなりの苦戦を強いられるだろう。人数差という大きなハンデを抱えているため、ハッタリで戦況を有利に傾けるしかないという状況に、彼は内心冷や汗をかくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ