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軽い休憩を挟んだが、体調が悪化していると感じる。今回の休息の間にはラルクは現れなかった様子だ。もしかすると彼が処置を施せる段階を過ぎたから現れないのかもしれない。そう思うと、残された時間は決して長くないのだろう。
そんなことを思いつつ、ハルトは長老のところを訪れる。
「来たか。こちらの準備はすでにできているが」
「俺に残された時間は多くないんです。早く始めてください」
「わかった。タルタロス、彼の準備ができたそうだ」
長老のその言葉に反応し、部屋の隅の影から黒い霧状の存在がハルトに纏わりつく。以前は何をされたのかわからなかったが、こうしてみると恐ろしい。そんなことを思いながら、彼は意識を手放す。
「この場所は、好きにはなれそうにない」
『ここはおまえの心の中。その風景を変えることができるのは、おまえだけだ。私の力でもなしえない』
目を覚ますと、そこは以前タルタロスと戦った精神世界だった。そして目の前には、鎧を全身に身にまとった大男が立っている。雰囲気はあの時の巨人と同じだが、戦闘訓練ができるように人型で現れたらしい。自由自在に姿を変えられるのかと思っていると、そんな大男からEと似たような形で思念を感じ取る。どうやら発声器官は持っていないらしい。
「ここが俺の心か。まあ、想像よりはマシか」
『早速だが、訓練を始めよう』
「ああ。そうだな」
どういう理屈かは知らないが、インベントリは開くことができる。武器を取り出したハルトは、弓を構え、訓練を始めるのだった。
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タルタロスは大剣や盾、拳での攻撃を繰り出してきた。その攻撃は苛烈さを極め、殺意すら感じる。単なる訓練ではなく、できる限り早く戦士に足る存在に成長させるための模擬戦だということ。この戦いについていけない相手ならば、この場で死ねといわれているかのような戦いに、肉体も精神も疲弊する。
しかし疲れを見せればすぐに彼の力で回復させられる。現実で興奮作用のある成分を摂取したときに似た、異常に冴えた精神状態に変化させられる。苦しいのに体を動かし続けなければならない。視界に入る相手の動き、周囲の風の動き。そう言った情報全てを無理やり認識させられる。成果は出るが、ぼろ雑巾のように擦り切れるまで体と精神を酷使され、途中から記憶すらあいまいになっていた。
1日目が終わり、倒れるように眠る。軽い頭痛が残った状態で無理やり起こされ、精神世界に引きずり込まれる。その時には頭痛は取り除かれ、微睡むような眠気も覚め、タルタロスの攻撃に晒された。
そんな日々が数日続き、ようやくタルタロスの攻撃に抵抗できるようになったころには、5日が経過していた。




