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長老はあきらめたようにハルトとの対話に応じる。しかしその反応は芳しくない。
「確かに私には勝った。それは認めよう。それでも、この先の災厄を乗り越える力があるとは思えない」
「そもそもその災厄とは一体何のことなんですか?」
「この世界の一部を手中に収めている存在の干渉、そして彼らが鍵を手に入れたときのこの世界の改変だ。彼らは私たちデミ、この世界の原住民であるリトル、そして神獣、そのすべてを命なき存在として考えている。そのうえで私たちを隷属させ、あるいは排除し、この世界を彼らの理想郷に作り替えようとしている。私たちがそれを許容できるはずがないだろう」
長老から主犯の目的が明かされる。それは、このセカンドプラネットという場所を自分たちの都合のいい理想郷に作り替えることらしい。
あくまで長老の口からきいた内容であり、本当にそれが目的なのかはわからない。
これまでハルトは災害級魔獣のプレイヤーに対する異様なまでの敵対心や、主犯の鍵に対する執着を目の当たりにしている。それらを加味すると、主犯が鍵を手に入れると何が起こるのかという部分については、長老の予想が大きく外れているわけではないのだろうと感じる。
「理屈は分かりました。でもそれなら鍵を破壊すればいいでしょう」
「……おまえさん、自分の治療に必要なものをそう簡単に切り捨てられるのか?」
「必要ならそうする。何も解毒の手段が古い研究施設だけとは限らないからな」
「結論から言えば、無駄だ。鍵は破壊不可能。仮に破壊できたとしても、一片でも残っていればそこから再生できる。下手な破壊は鍵が増殖しかねないな」
話を聞く限り、鍵というのはずいぶん厄介な代物らしい。
「災厄や鍵についてはわかりました。それを踏まえて、これ以上の情報、具体的には研究施設の場所を教えてもらうには、実力があると認めてもらう必要があるんですね」
「そうだ」
『でもおまえには時間が無い』
どうやらEが体から離れ実体化したことでアバターの状態がまた悪化したらしい。手遅れになる前に治療をするつもりなら、一刻も早く出発したい状況ではある。
「仕方ない。敗者は勝者に道を譲らなければならないのだろうな。そもそもこうも簡単に鍵が発掘される時点で、猶予はそれほどないのだろう。それならば、遺跡を完全に使えなくする方が建設的か」
そんな中、長老はため息を吐いたあと、そんなことを言い出す。どうやら鍵は破壊できないが、研究施設を破壊することはできるらしい。ただし、未だに破壊されていないということは、鍵を使い中に入り、内側から破壊する必要があるのだろう。
「何か案でもあるんですか?」
「タルタロスの力を借りよう。精神世界であれば現実で修練を積むよりも効率がいい」
『条件自体は悪くないと思うぞ』
あの闇の巨人はタルタロスという名らしい。またあの暗い場所で戦うことになると思うと気が滅入るものの、文句を言っても始まらない。
『とはいえ体調に不安がある以上、長居はできない。長くて1週間程度が限度だと思ってくれ』
「1週間。それ以上は伸ばせない」
「わかった。タルタロスとの交渉、そして実際の訓練の手順については追って連絡する。私も先ほどの戦いで疲弊しているんだ。君たちもそうだろう? この後の話は1度休憩を挟んでからにしよう」
ハルトは長老のその提案を受け入れ、1度彼の部屋を出て借りている部屋へと戻る。
そうしてハルトが立ち去った後、長老は深いため息を吐く。
「まったく、私も老いたかな」
『悪いが、その体朽ちるまでは、働いてもらうことになるぞ』
「わかってる。その約束は違えないさ」
タルタロスの声に、長老はそう返事をする。
タルタロスは、デミを守ると約束した。しかし、闇や精神世界に住む彼の力は物質への干渉に適さない。そのままでは約束を果たすことすらできない彼は、苦肉の策として長老と盟約を結び、物質に干渉する術を得ている。そのため、長老の立場を継承する誰かが現れるその時まで、あるいは、デミがこの世界で生きることを認められるまで、彼は長老との関係を捨てられないのだ。




