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 朽ちかけた教会に残された御神体は藻類に覆われ、白かったはずの躯体は日に焼け黄褐色に変色し、目に嵌まっていた宝石は腐食しぽっかりと穴が開いている。


 信奉者の失われた神など無価値だとでもいうように、その場所は静かに時間だけが流れていた。


~~~~


 山を目指して歩いて1日ほどが経った。いまだ山は遠くにあるように感じるが、緩やかな斜面を歩いているということに気づいたので、近づいてはいるようだ。

 そんなハルトの前に、見覚えのある顔が現れた。


「おや、あの時の人じゃないですか」

「……こんな森の奥で営業してるのか?」

『誰だ?』

「訪問販売ですよ。今は営業の途中に休憩をとっていただけです」


 そう口にするのはかつてファーストリアで会った武器商人だ。連れもなしに森の奥、道なき道を辿るには適していないだろう馬車には荷物が積まれている。

 そんな武器商人は、ハルトの外見が魔族だというのに以前と変わらない様子で接する。そんな彼の姿はどこか異様に写った。


「(以前武器を売ってもらったことがある相手だ)」

『今のおまえを見ても平然としてるが、何者なんだ?』

「(正直よくわからない)」

「道半ばでの飛び入り仕事というのも乙なものです。卸す予定のもの以外でしたらお売りしますよ」


 Eと話をしている間に商人は仕事だといわんばかりに積み荷を弄りはじめる。その様子を見たハルトは怪しいだけで害はないのだろうと判断する。そう考えた背景には、これがハルトが求めてやまない武器を手に入れる機会だというのもある。

 ただ、武器を買うには2点問題があった。1つはハルトに手持ちがないこと、そしてもう1つはファーストリアで仕事をする商人が扱う武器の性能に不安があることだった。


「手持ちがないんだが」

「売るものが何もないということではないでしょう。物々交換でも私は一向にかまいませんよ」


 そういわれ、ハルトはインベントリを確認する。

 中には道中倒した魔物の素材がいくつかある。どうやら山の麓は魔物の生息域らしく、2時間に1度の頻度で魔物の襲撃に遭った。


 魔装には元となる素材が要る。しかし短刀の魔装もほかの魔装同様に解除したとたんに崩れ落ち再利用は叶わなかった。そんな武器がない状況では対抗手段がないと思うかもしれない。では何をしたのかといえば、Eの武器精製の力を借りた。

 それができるのなら武器を買う必要ないのではないか。そう思うかもしれないが、前回の戦闘の傷から回復していないEに能力を使用させた結果、傷の治りが遅くなった。その事情から治癒するまで負担をかけたくないという考えもあるが、それ以外にもEが実体化するとなると武器精製はできなくなりハルトは無手になってしまうという問題がある。

 Eが分離すると毒が進行することはわかっている。そのため基本的にはそんな状況にならないよう立ち回るのが最善だ。そうはいっても不測の事態に陥る可能性は考慮しなければならない。その備えの1つが武器なのだ。


「これは売れるか?」


 そういってハルトがインベントリから取り出したのは30cmほどの卵。インベントリでは「怪鳥の卵」と書かれていた素材は、魔装に使っても期待できなさそうなものだ。とはいえ、魔装は素材をドロップした魔物の特性を身にまとう能力のため、卵の特性が発現するとも限らないのだが。

 とはいえこれから向かう場所が最終ダンジョンだというのなら、このエリアで得た素材の価値は相対的に下がるだろう。売り払っても問題はないと考えた。


「食材は専門外なんですが、まあいいでしょう」

「……食べるのか?」

「魔物は害獣として扱われていますが食べられないわけではないですよ。まあ珍味の類で家畜よりうま味があるわけではないのですが。それに防具や武器の素材になる部位の方が高く売れるのも間違いないです」


 魔物は食べられないと認識していたが、そんなこともないらしい。その情報に衝撃を受けつつ、インベントリからほかにいくつか見繕い武器商人に提供した。


「なるほど。この質と量であれば、こちらの武器なんていかがでしょうか」


 一通り取り出し、品切れだと言うと武器商人は馬車から1つのケースを取り出す。

 それは今まで扱ったことのない弓に属する武器だった。


「刃物じゃないのか」

「こちらは銀枝の弓という商品になります。引き心地を確認していただいて構いません」


 疑問を口にしたが、商人は気にした様子もなく商品を勧める。どのみち素材を買い取ってもらうことができなければ武器は手に入らないのだ。勧められた商品を買うしかないのだろう。

 とはいえ粗悪品や扱えないものを買うくらいなら素材を売らないほうがいい。そう思いつつ弓を手に取り弦をひく。

 アバターによる補正がかかっているのか、扱いがわかっていない素人のハルトでも何となく要領を得た動きをとることができる。まともに使うには多少練習は要るだろうが、扱えないというほどではない。


「試し撃ちはできるか?」

「矢をつがえるのは手間でしょう。魔力を込めてみてください」


 そういわれ、ハルトは言われた通り弓の(にぎり)に魔力を通し、その状態で弦を引く。するとそこには黒い矢が現れる。


「珍しい魔力ですね」

「気味悪いとかそういう表現のほうが一般的だろうがな」

『おいおい、傷つくだろ』

「(一般論の話だ。俺の体を流れる力を俺が忌み嫌う理由はない)」


 頭の中で漫才みたいなやり取りをしつつ、つがえた魔力の矢を飛ばす。

 飛んでいった矢は木に突き刺さり、深い傷を残してふっと消えた。


「込めた魔力次第で矢が実在し続ける時間が変わります。とはいえ無際限に魔力を込められるわけではありません。30秒程度が限度でしょうね」

「どうして俺のこの弓を勧めたんだ?」

「お相方は近接戦が得意なようでしたので、無駄にしている適正を生かして後衛を担ってはいかがかと思いましてね」

『は? こいつ俺様に気づいてんのか!?』

「商談は成立したようですので、私はこれで。またお会いしましょう!」


 ハルトの質問に答え終えるころ、いつの間にか片付けを終えていた武器商人は馬車に乗り、彼らに手を振って森の木々の隙間を走りだす。それはまるで障害物などないかのように軽やかで、あっという間に加速した馬車を目で追うが、その姿はすぐに茂みの向こう側へと消えた。


『やっぱあいつ怪しいだろ』

「同意するよ。でも悪い取引じゃなかった」


 手元に残った弓を眺め、そう感想をこぼす。

 Eを実体化させずに戦う時には近接武器に劣るのではないかという不安、魔力を消耗する点で魔装との相性の悪さや継戦能力への不満、そもそも初期職業の狩人から引き継いでいる弓適正はあれど初めて持つ武器でどこまでやれるのかという懸念。決して楽観視できる状況ではないが、それでも近接戦闘よりは負傷しにくくなり、Eの武器生成や魔装頼りの戦闘からも解放される。

 あの武器商人の正体は気になるが、友好的な間は過度に気にする必要はないだろう。

 まだ先は長いのだから、これ以上立ち止まっているのはよくないと歩みを再開する。


「お、また当たった」

『外してるほうが多いくせによくいうよ』

「事実は面白くない。気分だけでも盛り上げたいだろ」


 そんな道中、矢を射って魔物に当てると、その一撃でHPが0になったそれは地面に斃れ光となって消える。インベントリにはドロップアイテムが入っていた。

 認識フィルターの制限が解除されても、このあたりの表現はゲームのままだった。奇妙な感覚ではあるが、ボスやプレイヤーのアバターを除く敵Mobにあたるキャラクターは実体を持たずデータのみの存在らしい。そしてデータのみの存在は死亡と同時にリソースに還元される。その変化を可視化したものが目の前で散っていく光の粒だった。


「ゲームは楽しむものだ。そして俺は本来ゲームを遊びにきた。でもデスゲームに参加したかったわけではないし、理不尽なクソゲーを押し付けられるのもごめんだ」

『これは遊びじゃない。それくらいわかってるだろ』

「ああ、わかってる。気づいてしまった以上は目をそらしたところで意味はない。でもまあ、新しい武器を試してそれが上達する。その過程を楽しむくらいバチは当たらないだろ」

『それは……』


 納得のいっていなさそうなEの尻すぼみになった言葉を受け流し、ハルトは再び弓を射る。


「思い通りにいくようになるまではもう少しかかるかな」


 狙った木の脇を掠めどこかへと飛んで行った矢を眺めそんな感想を零す。

 仮にEと共闘するとして、その時こんな精度では味方に当てかねない。慣れていない武器の扱いに苦戦するハルトだった。

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