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サイドストーリー:プレイヤーネーム「シルク」編第2部第2話

 依頼人の素性くらいは知っておくべきだろうという流れになり、依頼内容の前に、彼らが何者なのか自己紹介を済ませておこうという流れになった。


「私は探偵業を勤めているエルヴォだ。張り紙なんて使う仕事なんてそう多くないから意外性はないかもしれないな」

「その助手をしているネイルよ」

「なお、社員は我々2人だけだ。求人はいつも出しているが、トラブルがない限り戦闘をしないし、いつも依頼があるとは限らない。結果として不人気な職業であることは間違いないな」

「紹介どうもありがとうございます。私はシルクといいます。職業は剣士です」


 2人の正体は探偵だったらしい。いわれてみれば納得ではあるが、長身でどこか圧倒されるような雰囲気の男と、口が達者で勢いでまくし立ててくるような女。雰囲気だけでいえば探偵より向いていることがありそうだと感じる部分もある。

 そんな彼らにシルクも簡単な自己紹介を済ませ、本題に移る。


「それで、君の言っていた目撃情報というのは?」

「地図に書いてもらいました。とはいえ目撃者本人の記憶もあいまいで、見たような気がするという話でしたが」

「探偵はどんな情報でも価値を見出す。目撃情報は不確かでも無いよりはいい。……ネイル、おまえは近隣住民への聞き込みをしてこい」

「えー、肉体労働はちょっと……」

「……減給」

「わかったわよ!」

「2時間以内に戻ってこい。買い物で寄り道して遅れたら減給だ」

「鬼! 早く戻ってきたらボーナス貰うからね!」

「『早く戻ってきたら』な」


 なぜだか2人は漫才のようなやり取りなしには会話が成り立たないらしい。とはいえエルヴォの指示でネイルは部屋を出て行ったので、一旦騒々しいやり取りは見なくて済むらしい。


「ところで、張り紙をはがして捜索を打ち切るような行動を取っているのに、実際は捜索を続けているんですか?」

「当然の疑問だな。とはいえ、これ以上の情報は依頼主に関係する。提供してくれた情報に価値があったと判断すれば、その時点で謝礼を払う。だからここで手を引くのも手だろう。なにせ聞いてしまったら最後、本格的に捜査に協力してもらうことになる。好奇心はあると思うが慎重に判断してくれ」

「少し考える時間をください」


 ここにきて情報を出し渋られるとは思っていなかっただけに思考が止まる。考えを整理する時間をもらい思案する。そうして出た結論は、自分がこの場所に情報を持ってきたことには何か意味があるはずだということ。そもそも張り紙が気になってこの小屋を訪れたのも、唐突な命令を面倒だと思いつつこなしたのも、何かあると思っていたからだ。それなら最後までやり通すべきだろう。


「決まりました。私も捜査に協力します。だから情報を教えてください」

「本当にいいんだな」

「はい」

「……わかった」


「この事件の発端は、町を取り仕切る役員の不祥事によるものだ」

「事件の詳細を知っている連中で、身元不明の人物は拘束されるし、そいつに情報を漏らした奴も見つけ次第処分される。だからこの情報は安易に人に漏らすなよ。聞き込みの中で捜査内容について聞かれても、正確な情報を与えることは避けるんだ」

「話が逸れたな。それでその不祥事だが、収容していた危険生物が脱走した。一見無害そうな張り紙の犬は、危険な魔物の分裂体。そいつ単体ではそれほど戦闘力は高くないが、そいつが本体と合流すると、休眠状態だった本体が活動を再開して大きな被害が出る可能性がある」

「弱いなら殺せばいいと思うかもしれないが、それでも本体が活動を再開する。合流された時よりは弱体化するとはいえ、休眠から目覚めるだけで大きな被害が出る相手だ。できれば安全に管理したいところだろう」


 一連の事件についての話を聞いて、内容は理解した。しかし逃げた魔物の分裂体が野放しになっているというのなら、捜索を続けるべきだろう。なぜ張り紙を剥がすことに繋がるのかシルクには理解できなかった。


「当然の疑問ではあるな。……ここまで話した以上この情報を教えても問題ないだろ。幸い、といっていいのかわからないが、町から分裂体が逃げ出したという報告はない。下手な混乱を生むから吹聴しないでほしいんだが、その情報を得た上層部は決断したんだ。『被害が拡大する前に、町ごと魔物を葬り去る』って。おそらく2日後に避難の連絡が入り、3日後に町を1つ消滅させるような大掛かりな兵器で分裂体を消滅させる。だから捜索は打ち切られ、詮索するとペナルティがかけられる。……とはいえ、情報が舞い込んできて黙っていられるほど俺は冷静ではいられなかった。だから君の情報を頼りに調査を始めたわけだ」


 正気とは思えない計画を知るシルク。不祥事を隠すためなのか、あるいは分裂体が本体に合流した時には、町1つでは済まない被害が出るのか。困惑してはいたが、町の滅亡の危機を知ることができてよかったという思いが大きかった。


「それなら、必ず見つけ出して収容しなおさないといけないですね」

「あと2日だ。間に合うと思うのか?」

「間に合わせるしかないでしょう」


 はっきりとそう口にしたシルクの目には、先ほどまでの困惑や迷いは見られない。どうやら覚悟が決まったようだ。

 とはいえ、実際にその分裂体の潜伏先が判明したのかはわからない。ひとまずエルヴォと共にネイルが情報を持ち帰るのを待つことになった。


「聞き込みを2時間で済ませるというのは、短くないですか」

「普通の調査員ならそうなる。だが、探偵は一応職業だ。専門職の補正がかかれば一般人よりも効率よく情報収集ができる」


 職業というと脳裏に浮かぶのは戦闘職ばかりだが、こういった情報収集に特化した職業もあるのだと知り少し意外に感じる。わざわざ職業として実装されていることや、それに適したアビリティの存在は、生産職とも違い、魔物を倒すゲームとしては意外性がある。

 シルクがそんなことを考えていると、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。小屋の扉がノックもなしに開けられ、彼はびっくりして椅子の上で低く跳ねてしまった。


「疲れたー」

「お疲れさま。それで、収穫は?」

「期待以上ね。せっかく張り紙を出していたのに変な魔族の生き残りの張り紙のせいですっかり埋もれて、目撃者がいたのにろくに情報が集まらなかったと知って腹立たしく思ったけれど」


――それにしても張り出されてる魔族の顔、どっかで見たような気がするのよね


 そんなことを呟きつつ、ネイルは雑に椅子に腰かける。

 探偵をやっている以上記憶力が悪いということはないだろう。それでも正確に思い出せないということは、道端ですれ違ったというくらい印象の薄い出会いだったのだろう。しかし魔族の日焼けや褐色とは違う墨のように黒い肌という特徴から考えると、すれ違っただけでもはっきりと記憶に残るはず。ネイルがいくら悩んだところで、なぜ見覚えがあると思うのか見当はつかなかった。


「魔族の生き残りの件も未解決の大きな事件だ。その記憶が確かなら、それなりに価値ある情報なんだが、思い出せないんだから悩むだけ無駄だ」

「無駄かどうかは私が決めるし、気がかりなことが残ってると集中力に支障をきたしかねないの。あー、もやもやするわ……」

「だからもう考えるなって言ってるんだよ。って言っても無理なものは無理か」


 話題がそれたが、犬の情報は手に入っている。次は実際に犬を捕まえる作業になるだろう。


「探偵が捕獲までやるのか?」

「本来なら情報を本職に渡すところだが、魔族の件にかかりっきりでな。犬は封印された本体を探して町を徘徊していると予想される。だからある程度備えはできる。だが魔族のほうは目的が分からない上に1度は捕縛したのに逃げられてる。優先度が高くなるのは仕方ないことだな」


 そういってエルヴォはため息を吐く。どうやら本職ではない作業を前にしり込みしているらしい。


「情報は鮮度が命よー。のんびりしてると逃げられるかもね」

「わかってる。……気は進まないが、仕事はしないとな。シルクくん、君もついてきなさい」


 ネイルに催促されようやく重い腰を上げたエルヴォは、立てかけられたロングコートを羽織り帽子をかぶりながらシルクにも声をかけた。


~~~~


 部屋を出て向かう先はシルクが地図に記してもらった場所そのものではなく、その近く。人の少ない場所だった。どうやら張り紙の前にいた男が見た後移動していたらしい。


「念のため補足しておくが、あくまで本体よりははるかに弱いというだけで、単体でもある程度の戦闘能力は有している。倒してはまずいということもあり、油断は禁物だ」

「剣士ってことは魔物を討伐してるんでしょ。だとすると、もしかして捕縛用の装備はない感じ?」

「いわれてみれば、確かに持ち合わせはないですね」

「なるほど。剣士ということは得物は剣でいいのかな?」

「あ、はい。普段は刃渡り80cm程度の長剣を扱っています」

「それならこれを渡しておこう。どちらかというと鈍器に近いので、打った感触に戸惑うかもしれないが、斬撃よりもダメージを抑えられるはずだ」


 そういって渡されたのは、普段使っている武器と同程度の刃渡りを持つ黒い長剣だった。持ってみるといつもより重く感じる。近くで刃を見ると鋭さはなく、角が削られ若干丸みを帯びている。思い切り振れば薪を割る斧くらいの斬撃は与えられるかもしれないが、手を這わせても切れることはない。そんな具合だった。


「お借りします」

「とはいえ、自分の命に危険を感じたら、慣れた自分の武器を使っても構わない。無理をさせてしまうのは、こちらの本意ではないからな」

「おしゃべりはそろそろ終わりにしてよ。相手は獣。気配には敏感なはずだから」


 そんなやり取りをしていると目的地の前に着く。

 ネイルが指さしたのは1つの小屋。使われなくなって久しいのか老朽化した納屋のような建物だった。人気がないとはいえ、恐ろしい魔物が建物の中に逃げ込んでいるというのは想像しにくい。それだけに今まで見つかることなく逃げ延びてきたのだろう。


「突入するぞ」


 エルヴォのその言葉を皮切りに扉を勢いよく開くと、3人はその建物の中へと突入したのだった。


~~~~


 探偵たちが来る少し前。

 

 狼は戸惑っていた。


「ふわふわー」


 子供に抱き着かれ、身動きが取れない。正確に言えば、振り払うことはできる。しかしそんなことをすれば子供はけがをしかねない。

 本当ならすぐにでも本体を探しに行きたいところだ。しかし知恵の回る敵は、どうやら彼の手の届かないところに本体を隠しているようだ。その気配を感じるというのに、肝心の場所はわからない。

 もどかしい気持ちを抱えつつ、見つからないものを探して人前に姿を晒すほうが危険かもしれない。その理論でいえば、すでにこうして子供に見つかっている。言葉を交わすことができない以上、この子供に自分の存在を人に伝えないようにと釘刺すこともできない。

 ただ、この子供はこの小屋にやってきては自分の毛に顔や手を埋めてほおずりするばかりで無害だ。大人を連れてくることもしない。そんな子供にはっきりと拒絶を示すことは難しかった。


「あったかいなあ、おやすみなさい」


 そうして毛皮に包まれながら幸せそうに眠る子供をそのままに、狼は起こさないようにとその場を動かない。

 奇妙な出会いに情を抱き、目的を果たすための最善をとれずに過ごす彼。それは間違いか、それとも必然か。


 そんな穏やかな時間を過ごしていた1人と1体だったが、狼の耳がこちらに近づいてくる静かな足音を拾う。

 この辺りは人気が少ない。それでも通行人がいないというほどではないため、普段ならば警戒はしてもそこまで気を張ることはない。しかし、今回は足音が着実に近づいてくる。この小屋の持ち主が何かの都合で確認に来た。その可能性がないとは言わない。とはいえ見つかったと考えるのが自然だろう。


 仮に戦闘になればこの子供を巻き込むことになる。狼は罪悪感を抱きつつ、眠っている子供を鼻でつつく。


「ん……まだ眠いよ……あっ」


 起きたのを確認したところで襟を加え持ち上げる。


「どうしたのお犬さん?」


 ひとまず安全なところに置いていこう。そう考えた矢先、足音が駆けるような速さに変わる。間に合わない。そう思ったころには勢いよく扉が開いた。


「わっ!? 何?」

「見つけたぞ!」

「え、子供?」


 厄介なことになった。そう思いつつ、襟を加えていた子供を地面に降ろす。

 果たして相手に子供を気遣う紳士的な態度はあるだろうか。1人侵略者の手先も混じっている。期待はできないと思いつつ、彼女の安全をどうやって確保するべきか。

 深い情は判断を鈍らせる。本来自分の身を案ずるべき狼は、自分以上に子供を優先して考えてしまった。

 しかしそれは仕方ないことなのだろう。居場所のない世界に生き続ける彼らにとって、自分自身よりもいつか世界が元通りになったときに生きているべき者たちを守りたい。その心に背くことなどできないのだから。

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