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 アンダイングと激しい戦闘を行う魔物と化したハルト。しかしアンダイングも呪いの効果を受けてなお高い再生力で魔物の攻撃をいなし、燃焼によって着実にダメージを与えていく。


 ハルトは周囲の邪気を取り込み魔装が暴走した結果生まれた魔物だ。その邪気を使い動いている骸骨兵たちは、変異が終わるまで彼を守り、そして彼の変異が終わる瞬間に力を吸われ地面に崩れ落ちた。

 だがこの場で戦っている2体は邪気を纏った存在。アンダイングの場合は火にくべられ邪気は燃やされてしまうが、魔物の場合は違う。取り込んだ豊富な邪気を核に肺のない呼吸は周囲に邪気をまき散らす。それはアンダイングの燃え盛る炎でも燃やし尽くせない濃さと量を持っていた。

 その邪気が再び地に伏した骨に取り付き動き出す。その動きは崩れ落ちる前に比べて非常に緩慢だが、放置すれば徐々に力を取り戻すだろう。それはアンダイングもわかっているのか、魔物を相手にする頭部を2本に減らし、復活しないよう炎によって灰へと還す。

 そんな戦力分散をすれば魔物が有利になるかと思われたが、初撃で攻撃を食らったのは動揺と動きが読めない状況が重なったからに過ぎない。攻めを捨て守りに徹したならば、魔物の攻撃の軌道は単調であり、その驚異的な素早さと怪力は脅威であるものの、防ぐことはそれほど難しいことではなかった。


 膠着状態。しかし形勢はアンダイング有利に傾きつつあった。


「うぐぁ」


 しかしそんな局面で魔物に変化が起きる。たびたび頭を抱え、苦しむそぶりを見せ始めた。その隙をアンダイングが見逃すはずもなく攻勢を仕掛けるのだが、起き上がった骸骨兵に阻まれ有効打は与えられない。アンダイングは再生能力を阻害する呪いに過剰ともいえる警戒を見せていた。しかしそれも仕方ないことだろう。自分の能力を阻害された経験のない彼にとって、いつ解けるのかもわからない呪いの影響を正しく評価することはできなかった。


「あ、あ、あ」

「様子がおかしいな。何か問題が起きているのか。いや、敵のことなど考えても仕方のないか。それに、不調だろうと戦場に立った相手に容赦はしない」


 素早い立ち回りによって回避される。その身体能力は攻撃後の隙が大きい技を放つには厄介だった。しかし定期的に動きが止まるというのなら話は別だ。次に足を止めた瞬間に渾身の一撃を放つ。アンダイングは意識を集中させ、その時を伺う。

 攻撃の前の溜めとも違う硬直に向けて放つ必殺の一撃。


「――獣魔合一王義 滅炎」


 アンダイングが取り込んだ魔獣の炎を彼の魔族として有している邪気で燃え上がらせるその技は、回復力の高い彼であっても疲弊するほど消耗が大きい。体力を削りながら、彼は回復が間に合わなかった1つの頭部を除く3つの頭部から熱線を吐き出し周囲一帯を焼き払う。

 周囲の木の燻る音、地面が熱せられ黒く焦げ、ところどころ赤く溶けている。空気が焼け、異様な臭いが鼻に突く。そうして周囲一帯を焦土と変えた本人は、技を使い終えた後、炎を纏う余力もなく地に伏し肩で呼吸をする。


「私も老いたか? この程度で消耗するとは。……いや、大気に満ちる邪気が当時より薄いのか。どおりで回復が遅い」


 とはいえ技を使った本人にとってもそれは予想以上の消耗だったらしい。呼吸を整えつつ疲労した体をゆっくりと持ち上げる。

 蛇たちも喉が焼け消耗したらしくぐったりとしている。

 この状況ではさすがに相手は生きていないだろう。直接攻撃が命中したところを目視したわけではないが、そう考えるのはなんらおかしい話ではない。しかし勝ったはずのアンダイングは言い表せない不安に囚われていた。その違和感の正体がつかめないまま、改めて周囲を見回すと、動くもののいないはずの場所で瓦礫が持ち上がる。


「あっぶな。初見殺しは勘弁だ」


 モグラのように長く鋭い爪のついた腕で土をかき分け、何事もなかったかのようにハルトが姿を現す。その体は骸骨となっていた部位が剥がれ落ち、黒い鎧がぼろぼろと崩れている最中だった。

 攻撃が来る寸前に怨念を振り払ったハルトは、なんとか攻撃を察知。防ぎきることはできないと判断する。そして砂礫の荒野のモグラのような魔物のドロップアイテムを消費し魔装を再展開して地中へと非難していた。

 アンダイングはそこでようやく違和感の正体に気づく。呪いをかけた相手が倒れているなら呪いが解除されているはず。必殺の一撃の消耗での疲労に紛れて恒常的な呪いの状態異常が続いている感覚。症状を違和感として自覚できていただけに、ハルトが生きていることを察して先手を打てなかったことを悔いる。


「あんたが怨念を弱らせてくれたおかげかわからないが、何とか戻ってこれた。そのことには礼を言ってもいい。だからと言って弱ってるあんたを見逃すなんてできないが」

「弱っているとしても、あの呪いを持たない凡才程度に負けはしない」

「……そうだな。俺は呪いの囁きに屈するくらいには弱い。でも、ここで勝たなきゃ正気に戻してくれたおせっかいな奴に顔向けできないんだよ」

「意味がわからない」

「理屈じゃない、いわゆる意地ってやつだ。下らないが、案外馬鹿にできない」


 蛇たちによる攻撃のみで追い詰められ、見下すように悠然としていたアンダイングの上半身だが、今はその面影もなく、呼吸は乱れ、鋭い目つきでこちらをにらみつけてくる。いい加減にくたばれ。その目はそんな思いが込められているように感じた。


「悪いがもう一戦付き合ってもらおうか!」


 そう言ってハルトはアンダイングの方へと駆け出す。


 声を張り上げて宣戦布告したはいいが、アンダイングの指摘の通り彼とハルトのステータスの間には埋められない差がある。それはアンダイングが大技を使用した反動で弱体化していたとしても変わらない事実だった。

 それでもやり遂げなければならない。体にまとわりついてうっとうしい呪詛の塊を振り払い駆けていく。


 幸いだったことは、魔物と化した後の原動力はハルトの魔力やスタミナを消費していなかったことだろう。むしろ行動していなかった扱いらしく時間経過により多少の魔力が回復していた。そのおかげで先ほどのモグラ型の魔物の魔装で魔力が枯渇するような事態は避けられた。

 そして、呪いに体を蝕まれているときに理解したことが役に立つ。


 彼がインベントリから取り出したのは、いつかの折れた短刀。その握り手と分かたれた刀身部分を手を切らないようにと慎重に指で挟む。


「――魔装、うっ」


 魔物の素材とほかのアイテムの間に大きな差はない。むしろ生前のデータがそのまま残っている未加工の素材は、そのデータを読み取り体に影響を及ぼしてしまう。それに対しこの短剣は純粋な鉱物から生成されたアイテムらしい。抵抗感や体を蝕む違和感はなく、魔装の素材として体にまとわりつく。

 しかし武器を身にまとった結果、体に鋭利なものが沈んでいく不快感に苛まれる。どうやら表現規制が仕事をしているらしく違和感で済んでいるが、それでも形容しがたい感覚に声が漏れる。


 そうして変化した右腕の肘から先が刀のように変化する。魔装らしく刀身は黒く染まっているが、魔物の素材を使ったときとは違い魔力の消耗が少ない。代わりに片手が重く不自由になっているので多少動きに支障が出る。


 対して相手は切断された頭部が再生し、4つの蛇の頭部による攻撃を再開する。周囲にいた骸骨兵たちは燃やされ、ほかに意識を割く必要がなくなったアンダイングの攻撃は、たとえ弱体化していても脅威だった。


 刃で攻撃をいなす。刀身部分は顎の力で砕けるほど脆くはないのだが、下手に噛みつかれればそこから身動きが取れなくなる。防御に使うには慎重に立ち回らなければならない。

 一方で攻撃は、鱗にいなされることなく刃が沈み込む。さすがは災害級魔獣を封印した実力者の私物といったところだろうか。


「――ラピッドアクション」


 とはいえ防戦では分が悪い。時間をかければ高い再生能力から先ほどの大技での消耗をなかったことにされてしまう。加速を使い蛇の体の隙間を抜け、上半身に攻撃を仕掛ける。


 接近し改めて相手を見ると、その腕が鎖に繋がれ、その先は地面に縫い付けられている。随分と長い鎖だが、地下で対面したときに引きちぎった鎖とはまた違う強力な拘束具らしい。

 蛇たちに攻撃を任せている間に外さないということは、頑丈で外せないのだろう。だとすれば、逃げてもその鎖のおかげで時間稼ぎができるかもしれない。一瞬頭をよぎった逃走という二文字だったが、そんな後ろ向きな考えで目の前の相手に勝てるとは思えない。余計な思考を排除し、目の前の戦闘に全意識を集中させる。


「近寄れば勝てると思っているなら、それは思い上がりだ」


 なんとか回避を織り交ぜて距離を詰めることはできたが、そこでアンダイングは宣言する。

 プレイヤーがインベントリからアイテムを取り出すように、虚空から武器を取り出し手に握る。それは蛇が絡みついたような装飾のある槍だった。


 刃と穂先がぶつかり合い、小さな火花が散る。技量は低くないが、だからと言って太刀打ちできないほど高くはない。

 近接戦闘の横から蛇を動かす。そうしてしまうと上半身の姿勢が崩れてしまうらしく、距離を取ろうとする際に横や背後から奇襲を食らわないように気を付ける必要はあるが、4匹の蛇と槍使いの連携攻撃とはならない。そもそもそれができたなら、初めからそうやって攻めていたということだろう。熾烈な攻撃に手も足も出ないという事態は避けられた。

 だからと言って油断ならないことは違いない。あと一歩というところで後方に逃げられる。逃げる際にこちらの隙を作るための攻撃は、その攻撃に意識を割かせるために見切りやすく、すれ違いざまに一太刀入れるくらいはできるが、その程度は有効打には程遠い。回復の時間稼ぎをされていることはわかっているだけに、このまま時間だけが過ぎるのはいただけない。


「――意気込んでたわりに苦戦してるみたいだな。手を貸すか?」


 その声が聞こえたと思うと、黒い細身の剣が振り下ろされ、蛇の一体の首を大きく切り裂く。


「エレオス……一体どうやって体を……」

「怨念どもの出がらしを使っただけだ。ちょっと掌握に時間はかかったがな」


 意識外の攻撃で大きく傷ついた頭部の動きは悪く、半分荷物のように引きずられる。残り3匹で上半身を動かさなければならない状況はアンダイングの機動力を大きくそぐ。


「Eなのか」

「その呼び方なんだな。まあ呼びなれてるならそれでいい」


 黒い肌に痩せたからだ。時折体から黒い液体が滴ったり、肉が剥がれ落ちそうになるのはどこかアンデッドのような雰囲気を持っている。出がらしというのは、ハルトが遺灰の魔装を解除したときに剥がれ落ちた破片のことを指しているらしく、定着が甘い今は継ぎ接ぎに近いらしい。


「さて、2対1なんだ。さすがにこれで負けるなんて言わないよな?」

「貸しが返せなくなる。なんて甘えたこと言ってる場合じゃないか。頼む、力を貸してほしい」

「その頼み、俺様が任されてやるよ」


 そうして2人は再度アンダイングへと挑みかかるのだった。

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