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 頭の中に響く声。それは自らを(イー)と名乗り、ハルトに対話を持ち掛ける。


『しかし名前か。憑いた相手を知っておくのは悪いことじゃないよな』

「(ついた?)」

『取り憑くの憑くだ。おっとマテ、そんなに怒るなよ。俺様は悪い奴じゃない。むしろおまえを救ってやったんだぞ』

「(……どういう意味だ?)」


 頭の中で会話しているからか、喜びや怒り、悲しみといった感情は読み取られるらしい。心を読まれているようで気分が悪いと思いつつ、Eが何故自分に接触してきたのか分かるのだろうかと話を聞く。


『自分が毒に侵されてるのは理解してるよな? その影響を抑えてたのが俺様だ。宿主に死なれると都合が悪いんでな』

「(あれが毒の影響だとして、どこで毒を受けた? 仮に毒を受けたとしてなぜ今になって体に異常が現れた? 何よりおまえはいつ憑いた?)」

『待て待て。俺様にだってわからないことはあるし、一度に聞かれてもどれから答えるか迷うし、なんなら答え損ねる質問だって出てくる。どうせ時間は持て余してんだろ。落ち着けって』


 先ほどまでハルトの心を逆なでするような言動を繰り返していたEだが、あれは無視されたことに対する細やかな反抗でしかなく、彼を追い詰めるような悪意は持ち合わせていないらしい。まさか気遣われるとは思っていなかったハルトは動揺しつつ、親切にしておいて何か狙いがあるのではないかと疑う。


『……まあいきなり信用されても気味悪いが、だからと言って親切にしても疑われるのは辛いところだな』

「(そう思うなら心を読むんじゃない)」


 自分でも取り扱いの定まらない相手からの好意というのは厄介だ。そもそもハルトは話している相手の正体すら知らない。感情の波を読まれる時点で平等な関係は無理だとしても、会話するならば妥協の上に成り立つ対等な立場を望むくらいは許されたいものだとため息をついた。


『制御しろといわれても難しいな。それは俺様にとって足元が揺れていることに気づくなって言われてるようなもんさ』

「(ならせめて口に出すな。そうしている間は俺はおまえが心を読むってことを忘れていられる)」

『はいはい気を付けますよ。それでどこまで話したっけな……』


 愚痴を軽く受け流されたが、もともと話を脱線したのは自分が暴走したからだということを思い出し、それ以上の追及は避けてEのその言葉が本当であることを願うだけに留める。


『そうだ、毒の話だ。いちいち会話に割り込まれてあれこれ聞かれる前に全部一気に話すから、聞きたいこととか抜けてる話はあとにしてくれよ』


 そう言ってEは話を始める。

 内容を簡潔に纏めるなら、毒といっても毒消しやリスポーンで治癒するものではないということ。そしてEにはその影響を軽減することができる。ただ根本的な解決となると毒を与えた本体を倒し、完全な抗体を用意する必要があるという。話の途中に気になったところがあるとすれば、ゲーム内の存在だからかはわからないが、リスポーンについては蘇生という名称を用いていたことだろう。世界観を壊さないようにという配慮なのかもしれないが、それならEという名前は何なのか。どちらかというとSFやミステリーの類のコードネームだろうと思い、今更取り繕われても会話が複雑になるだけだと感じるハルトだった。


「(致命的だな)」

『ついでに言えば俺は所謂魔族を基底に持つ存在だ。だからさっきの坊やみたいな甘さの目立つやつならまだしも、厳格な精霊術士に見つかれば俺は浄化されるだろう。おまえの安否なんて気にせずに』

「(……聞きたくなかった)」

『なんだ隠しておいたほうがよかったか? あいにく俺は"土壇場で明かされる衝撃の真実!"みたいなくだらないことはしない主義なんだよ』


 毒と呪いは別物で、体を溶かす毒は体を蝕む呪いによって拮抗する。シキの療法はこの体が呪いにのみ蝕まれている状況であれば非常に有用だったのだろうが、こうなってしまっては彼の好意を受け取ることはできない。

 しかし今のEの話を聞く限り、シキが頼るような相手がハルトに慈悲を与えてくれるような相手ではないのだろう。自分が消えたくないからEが嘘をついている可能性はある。それでも座して破滅を待つくらいなら自分の判断で結果を得たい。


「(しかしそうなるとここから出ないとな)」

『……? 出たければ出ればいいだろ』

「(丸腰なのに鉄格子と看守がいる)」

『丸腰って?』

「(武器がないだろ。なんなら手錠がつけられてる)」


 目がない相手だ。今のハルトの状況を知っているわけではないのかもしれないと口頭で説明したのだが、Eには不評らしい。


『そんなことを言ってるんじゃない。……まさか、気づいてないのか?』

「(何に?)」

『マジかよ』


 そういうとEは何がおかしいのか笑い始める。頭の中で響く不快な笑い声に頭を抱え耳を塞ごうとするが、手錠のせいで上手くできない。仮に耳をふさぐことができたところで頭に直接響く声なのだから意味はないのだが。

 奇妙な同居人の存在に早くも苦痛を覚える。そんな様子のハルトを気に掛けることなく、Eはひとしきり笑ったあと、ようやく落ち着いて話ができる状態になる。何度か声をかけたが笑っている間は何も聞こえていない様子だった。


『はー、笑った。こんなに笑ったのはいつぶりだろうな』

「(何がそんなにおかしいんだよ。俺が何に気づいていないっていうんだ?)」


 苛立ちを隠す様子もなくそう告げると、ようやく答え合わせの時間がやってくる。


『おまえ、今の自分が無害だと思ってんのか? それは大きな間違いだ。その手錠も、目の前の鉄格子も、周りを囲んでいる分厚い石の壁も、おまえにとっては何の障害にもなりえない』

「(は? そんな怪力俺にはないぞ)」

『純粋で物理的な力の話じゃない。しかし本当に気づいてないのか』


 インベントリからものを取り出すことはできないが、ステータスの確認は行った。毒の影響はステータスの上限を削るという形で現れたが、それ以外の変化はないはず。そう考えていたハルトの言葉はEによって一蹴される。


『おまえは今、俺様の魔族的な力の一部を取り込んだ。厳密には取り込んだのとは違うんだが、この際細かい話をしても仕方ない。おまえが力を自覚できてないってことはいくつか問題があるんだろうが、まあ力を使うことはできるはずだ。そしてその力に対して対人用の措置は悉く無力になる』


 「プライマリスキル」と呼ばれるそれは、プレイヤーが扱う通常のスキル,アビリティといったものとは違うらしい。そんな例外が本当にあるのだろうか。例外だとして、それを使うには何を支払うのか。尋ねてもEは答えてくれない。


『このままシキ? とかいう精霊術士に任せてこの牢屋で過ごすなら勝手にしろ。でもそれは嫌なんだろ?』

「……そうだな。俺は身勝手なことに、自分の運命を他人に任せる気にはなれない。――モック・コリジョン」


【警告:登録外の技能が使用されました。不明な能力による危機は未知数です。直ちに技能の使用を中断してください】


 一瞬視界にノイズが走ったかと思うと、手錠が腕をすり抜けて地面に落ちる。手が自由に動かせるようになり、異常な現象が起きた体の安全を確認するように体に触れるが、特にそれらしい異常はみられない。


『ぼーっとしてる暇ないぞ』

「わかってる。……悪い、シキさん」


 Eの催促を受けてハルトは牢屋の壁に触れる。するとその壁は先ほどの手錠のように体をすり抜け、ハルトの体は壁の向こうに出る。とはいえ牢屋はギルドの地下にある。牢屋を抜け出した先は土の中らしく、真っ暗な空間が広がっている。


『この上は町だ。せめて町の外には出たいところだな。あ、能力解除したら窒息するから気をつけろよ』

「わかった」


 ゲームでいえばバグが起きた時、あるいはデバッグモードを使用した時のような挙動というとわかりやすいのかもしれない。しかしゲーム内のキャラクターが壁に埋まってもセーブデータが壊れないか心配するくらいで済むが、自分がそんな状況に身を置くことになるとそう気楽に構えることはできない。長居したくはないし、そうする理由も見当たらないだけに、何が起こるかわからない不安な状況からはできるだけ早く抜け出してまともな状態に戻りたい。そんな思いを胸に抱き、町から遠ざかるように移動するハルトだった。

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