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 宿に戻り休憩する。呪いの状態異常からの回復条件がわからず、継続的にHPが減少していく。そのせいで本来あまり気にする必要のなかった自傷ダメージやミラージュのコストが重く感じられるほどだ。その一方ですぐにHPが0になるほど減少量は多くない。それどころか耐性のレベル上昇に伴って減少量が少なくなり、まどろっこしいと感じるほどだ。

 この調子ならHPが0になる前には夜が明けるだろう。町の店が開くころには呪いについて人から聞くことができるのではないか。そう考えると回復する条件があるなら無理やりリスポーンして状態異常をリセットする必要はないだろう。それほどリスポーンをためらわないハルトだが、ほかに方法があるものを強引な方法で解決するやり方は好みではないらしく、おとなしく現状を受け入れる。


 寝直す気はないというのもあるが、寝ている間に継続ダメージでリスポーンするのは間抜けに思えるので避けたい。そんな思いもあり、宿屋の一室では座って時間が過ぎるのを待つ。そんな有り余った時間の中で考えるのは、あのダンジョンについてのことだ。


 装備を整えれば渡り合える相手だとは感じた。しかしそれはあくまで1体の話。最後の断末魔で呼び寄せられた気配は複数あり、あの断末魔が置き土産ではなくピンチになった個体が条件なく使ってくるような能力だとすると分が悪い。となるとあの叫び声を使わせないために相手を圧倒する必要が出てくるのだが、その要求水準は高い。セカンダリア周辺のレベル上げに適した場所がどこにあり、どの程度の経験値効率なのかはわからないが、期待を満たしてくれるかどうかは怪しい。

 とはいえ初めて見つけたダンジョンだ。もしもまだ挑むべきではない場所だとしてももう少し足掻いてみたいという気持ちがある。


「となるとパーティか……」


 ファーストリアでは結局一度も組む機会に恵まれなかったが、パーティを組む意味は大きい。あの骸骨兵との戦闘にしても、後衛がいれば無理に攻める必要がなく、魔法職がいれば物理しか攻め手がない不利を背負う必要がない。あの攻撃を凌げる前衛がいればそちらにヘイトを押し付けることで初撃以外の場面でも戦況に応じてハイドアンドアサルトを使うことができるだろう。

 人数や異なる役割で立ち回れる人が増えることで選択肢は広がる。不利を押し付けることができれば格上相手でも一方的に負けることはなく、同格の相手に少ない消耗で勝てるだろう。


「なんにせよ呪いを解かないことには不便だから、そのあとになるだろうけどな」


 しかしパーティメンバー探しは解呪のあとの話だ。今から考えてもメンバーが見つからないかもしれないなんて必要のない憂慮しかしないのだと考えを切り上げ、スキルやアビリティ、ステータスの確認を始める。そのころにはもう寝起きの機嫌の悪さは薄れ、もう気にならなくなっていた。


~~~~


 どうやら少し眠ってしまったらしく、目を覚ますと朝日が昇っていた。現実では寝起きがいい方ではなかったので、早朝に起きるのは慣れない環境のせいだろうかと思いつつ、そろそろ起きているNPCもいるだろう。呪解の方法を聞き出さなければと思い、宿の外に出る。

 しかしいざNPCに声をかけようとすると、なぜか逃げられる状況に陥ってしまう。


「困ったな」


 前日はこんな反応をされることはなかったため、十中八九呪いの状態異常が原因だというのは分かる。しかしその呪いの解決法を聞くためにNPCに話しかけたいのに、それができない。

 呪いについて知っていそうな相手に心当たりはない。ならばせめてギルドであればだれか対応してくれるのではないか。そんな期待を込め、人が集まる場所に出向くのは迷惑だろうと思いつつ、彼は一度ギルドに出向いた。


 なんだかんだセカンダリアのギルドを訪れるのは初のことだ。平時ならギルドに張り出されている依頼を見て、どんな魔物が出るのか確かめたりする場面だが、そんな余裕はなくすぐに受付へ向かう。


「解呪の方法を紹介してほしい」

「なんで魔族が町の中に!?」


 どこに魔族がいるのか。そもそも魔族は何なのか。そんな疑問を頭に浮かべ問いかけようとする間もなく響いた叫び声に頭を抱えるハルトだった。


~~~~


 その後、衛兵がやってきて身を取り押さえられたり、ギルドの会員証を見せて誤解を解こうと必死になったりしたが、何もうまくいかず手錠をつけられひとまずギルド地下にある牢屋に放り込まれる。


「ギルド、なんでも揃ってるな」


 現実逃避気味にそんなことを考えながら、ぼーっとした時間を過ごす。

 こんな状況になってわかったのは4つ。魔族と呼ばれる存在がいること。それが危険視されていること。それははっきりとした外見的特徴がある種族だということ。そして呪いを受けたハルトはその特徴が体に表れているということだ。

 仮想空間ゆえに寝起きの洗顔は不要。鏡を見る必要はなく自分の容姿に気を遣うことはなかったがゆえに起きた悲劇だ。こんなことになるのならNPCに頼らず自力で解呪の方法を探すか呪い耐性が呪いを打ち消してくれるようになるまで待つという選択肢もあっただろう。それが可能かどうかはわからないが。


 リスポーンで状態異常がリセットされるなら、今こそダメージでHPがゼロにならないだろうかと考えるが、残念ながら減りは遅く頼りにならない。場所のせいか、それとも取り付けられた手錠の効果かはわからないが、インベントリからの取り出しと収納、武器の使用に制限を食らっているので自傷も難しい。壁に頭を叩きつけるみたいなことをすればダメージが入るかもしれないが、自分が人だと証明する機会が残っているかもしれない状況だ。異常者のような行動をとってまでリスポーンする気にはなれなかった。


~~~~


 無事退院できたシキは、リディクロムのところで旅支度を整える。


「支度を手伝っていただきありがとうございます」

「このくらい大したことないさ。それよりも弟子のこと、よろしく頼むよ」

「わかりました。見つけ次第手紙か何かで知らせます」


 そんなやり取りを最後に別れの挨拶を告げると、セカンダリアへ向け出発する。


「邪魔です」


 道中何体かの魔物と遭遇したが、ゴブリンやスライムなんて苦戦するほどの相手ではない。シキは慣れた得物である刀を引き抜き、立ちふさがる敵を一刀両断する。

 武器の形に決まりのない精霊武器を扱うために一通りの武器を扱えるよう訓練しているが、それでも得手不得手はある。脇差を人に渡してしまったため本来の型とは違うが、それでも精霊武器を使うときのように気負うことはない。


「弱すぎる魔物は逆に厄介ですね。実力差があると気づかず襲ってくる」


 精霊術を扱う秘儀を扱う彼の一族だが、その住処に生息する魔物はただ身体能力が高いのではなく賢い。それだけに精霊術士の気配には敏感で、理由もなく襲ってくることはほぼない。それだけに誰彼構わず襲いかかる低級の魔物を相手にしたとき、そんな感想をこぼす。

 楽に狩れるというのは悪いことではないのだろうが、相手を続けていると感覚が鈍りそうだと思う。


 その後はこれといった障害もなくシキはセカンダリアに到着した。

 宿を選び終えると、まずはリディクロムの弟子を見かけていないか尋ねて回る。それ以外には彼に精霊武器を譲ったと思われる人物についても聞き込みをしたが、どちらの情報も思うように手に入らない。

 着いた当日に見つかるほど甘くないということだろう。残念ではあるがそう納得したシキは、聞き込みを切り上げて宿を探す。


 そうして「いこいの宿」という宿屋の部屋を借りる。外観の割に安い値段だったが、泊まろうとするとセカンダリアの住民から耳打ちされる。なんでも魔族が正体を隠して泊まっていたという部屋があり、誰も泊まりたがらないので宿泊費を下げていたのだという。

 魔族というのは気がかりだが、仮にその話が本当だとして、精霊術に通じるシキにとっては痕跡が残っているかもしれない貴重な情報源だ。精霊は災害級魔獣に対して力を行使すると同時に、魔族との大戦では人間勢力に力を貸した存在だ。現在精霊武器を持たないシキにはいささか重荷ではあるが、対抗手段を知る彼としては情報を集めないわけにはいかなかった。


 そんな考えもあり、シキは親切心から情報をくれた人物に謝罪すると、いこいの宿の一室を借りる。


「……(よこしま)なものの痕跡はありますが、それほど強くありませんね」


 その後、軽く調査をしたところで、シキはそう結論付ける。

 調査結果は予想の範囲内。というのも実力のある魔族が正体を隠すはずがない。かつての大戦の生き残りであれば人間への根深い憎悪をもっている可能性が高く、そんな個体が人の運営する宿屋に泊まるとは思えない。よしんば人間社会に溶け込み反撃の機会を狙っていたとして、それならば正体を知られ計画が破綻すると分かった時点でその力を行使しただろう。だがセカンダリアの騒動は魔族が見つかったというものであり、魔族に人が殺されたというものではなかった。

 1体捕まったところで痛手ではないほど多くの魔族がセカンダリアに潜伏しているという懸念はあり、油断ができる状況ではないという見方もある。ただ、1,2体ならまだしもそれ以上の数の魔族が暮らすとなると彼らが持つ邪気が淀み、無視できない影響が出ると考えられる。そこまで行けばいくら位が低い教徒であっても精霊協会の人間が気付くことができるはずだ。


「しかし本当に魔族の生き残りがいるのなら、由々しい事態です。……本当なら」


 この町に潜んでいたのが1体だとしても、生き残っていたという事実が与える影響は大きい。

 ただ繰り返されてきた魔族と人間の戦いの歴史を知っているシキは、最後の戦いがどうやって決着したのか知っている。

 人が生き残るために致し方ないことだったとはいえ、1つの種族を滅ぼす決断とそれを実現した手段がまともなはずがなく、残酷な事実は勝利者である人の手で表の歴史から抹消され、一部の人々のみが知るものとなっていた。


 邪気の痕跡を観察したうえで考えられる可能性は、邪気を宿した装備品を所有し、その影響を受けたというもの。

 魔族自体は滅されたが、魔族の遺物まで全て処分できたわけではない。稀ではあるが邪気を宿した品が出土することはあり、邪気に耐性のない人物がそれに触れ続けると影響を受けてしまう。しかし素人目には精霊武器と属性武器の見分けがつかないように、邪気の影響を受けた存在と魔族の違いが判る人物は少ない。魔族に関する歴史の多くが秘匿されているため、誤解は生まれやすいだろう。


「一度この目で確認する必要がありそうですね」


 もし誤解だとして、危険な魔族を野放しにすることはできないと性急な判断を下す役員がいないとも限らない。本来の目的とは異なるが手遅れになる前に対処すべき事案だと考えたシキは宿屋での調査を終えるとその魔族の正体を確かめるべくギルドへと向かうのだった。

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