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 意識を取り戻したハルトは、ひとまずヒュドラー戦がどうなったのか確認するためファーストリアに戻る。

 撤収作業をしている最中の兵士たちの間を抜け、顔見知りのNPCを探していると指示を出しているロジェとハーウェンの2人を見かけ声をかけた。


「2人とも無事だったんですね」

「また会えてよかったです」


 返事が「また会えて」ということはリスポーンすることになったのは知られているのだろう。そんなことを思い、ふと何も目的が果たせなかったことに気づく。今更だが、毒ガエルへのリベンジもヒュドラー戦というイベントへの参加もまともにできていない。やったのは濁流のように現れ押し寄せてくる雑魚蛇の処理ばかりだった。

 大型のイベントを前に通常の敵へのリベンジを目的にしていた時点でまともにイベントに参加する気が合ったのか疑わしいが、第一目標を果たせればイベントに集中できるという理由もあった。それにも関わらず起こったイベントといえばキーキャラクターと思わしきNPCとの接触のみ。

 当時は必至に戦っていたので気にする余裕もなかったが、思い返してみるとなんだかもったいないことをしたような気分になってきたが、今更あれこれ思ったところでどうしようもない。そんなことよりも今は目の前の2人から話を聞くべきだろう。


「被害はどのくらいになりました?」

「被害がゼロとは言えねぇが、災害級魔獣との戦闘にしては驚くほど被害が少なかったぞ。封魔の力を持つ精霊術士が早期に事態を決着させてくれたおかげだな」

「精霊術士ですか」

「前線に出てたくせに見てねぇのか。どこで何をしてたんだよ」


 精霊術士という職業のプレイヤーがいるのだろうか。そうであればプレイヤーの名前も話題に上がるのではないだろうか。だとしたらキーキャラクターということなのだろうか。疑問は残るがただでさえ悔いの残るイベントの話だ。これ以上何かを見逃したという話はしたくないというところでその話題は切り上げ何か別な話題を上げようと思案していると、先にハーウェンが口を開いた。


「そういえば防衛戦の参加報酬は受け取りましたか? 受け取り期日もあるので、忘れる前にギルドに行くべきだと思いますよ」


 そういえば貢献度に応じて報酬が支払われるという話だった。何をしたのか証明してくれる誰かはいないが、そこはデータに基づいて処理されるだろう。ボス戦への参加はないが、あの小さな蛇の魔物はイベントに関連する個体だろう。参加者はそう多くはないと思われ、報酬を受け取るチャンスは十分にあるだろう。

 本当ならここまで来た以上、前借していたチェーンメイルについて全損してしまったことを詫びようかと思っていたのだが、金が手に入るならそれで前借を清算するのが健全だろう。そのうえで高価な防具代を払ってどれくらい残るかわからないが、スキルレベルがまだ低い脇差もとい短刀とは別な武器を買う資金が手に入ればいいなと思う。というのも刀系の武器は狩人や一番槍の適正外だった。そのうえ武器屋に並んでもいなかったと記憶しているだけに、メインウェポンにしていくには入手難易度が高い。切れ味はいいが刃が細く少し無理をすればすぐに消耗して使い物にならなくなるだろう。

 そういった背景もあり、所持金の心もとない今、報酬の話は聞き逃せない話題になる。期限があるなら早いほうがいい。ハルトは報酬の話を思い出すきっかけをくれたハーウェンに一言礼を言うと、2人と別れる。

 向かう先はギルド。得られる金額次第で今後の方針が変わるだろう。


 ハルトがギルドに出向くころ、そこは人が出払い閑散としていた。おそらく大半の職員やNPCは事後処理にあたっているのだろう。プレイヤーも報酬さえ受け取ってしまえばほかに用事もない。そもそも現実に帰還できないよう首謀者によって囲われたプレイヤー達だが、そういった特別扱いを受けるような相手は、こんな状況下でも活発な人が大半を占めている。第2の町への行路開拓をせず防衛イベントに参加しているようなプレイヤーはギルドに立ち寄るというよりもイベントの流れでギルドを訪れ自然な手順で報酬を受け取ったらしい。

 そんな人気の少ないギルド内で受付係はいつもの席に立っていた。ありがたいと思いつつも独り立っているだけというのはどこか居心地が悪そうに思えた。


「防衛戦に参加していたハルトです。報酬を受け取れますか」

「確認します。少々お待ちください」


 すでに何人も処理した後なのだろう。なれた手つきで後ろの棚に収められた書類をめくりハルトのものが引き抜かれる。


「第2防衛線での活躍が評価され、総額は5000Gになります」


 ボス戦に参加せずにこれだけの額がもらえるのは破格だと思いつつ、イベントに貢献度の高いプレイヤーはどれだけの報酬をもらえたのだろうかと考えを巡らせたが、すぐに考えても意味はなく、実際の額を確かめたら虚しくなるだけだろうと考えるのをやめる。

 ゴールドを受け取り、ついでにインベントリに溜まった魔物の素材を売る。依頼を受けていない状態では安く買われてしまうが、それを踏まえてもレベリング中に討伐した素材が溜まっていた。おそらく素材は防具に加工するなどできるのだろうが、依頼する相手もいない中持っていても仕方がない。ちなみにあの蛇の魔物にドロップアイテムはなかった。経験値は多めだったが、それはアイテムが獲得できない点を踏まえてのものだったのだろうか。かなりの数を倒したと思うのだが、目に見える形で得られるものがなかったのは残念に思う。

 それでも資金調達ができたことは間違いない。今後の出費次第では潤沢な額とは言えないかもしれないが、すぐに底を尽きるほど少ない額ではなかった。


 報酬を受け取った後は再び北の門へ向かう。

 一往復しただけだが撤収作業は進み、人の数は減っている。その様子に悠長なことをしていたかもしれないと思ったハルトは速足で整備士のいた場所を訪れる。しかしその嫌な予感は的中し、撤収が終わった後らしく片付けられた空き地にあの整備士の姿は見当たらない。僅かな望みを託して近くにまだ残っている兵士に話を聞いてみるも誰のことかわからないか行先は知らないといわれてしまい、情報は得られなかった。

 この状況ではチェーンメイルを返せない。もとから防具は壊れているので買い取りという形で未払いの額を手渡すことにはなっただろうが、それをしなくても何かペナルティがつくわけではないようだ。それでも恩を受けておいてそれを返せないというのはどうにもおさまりが悪かった。


 それでも会う方法がないとわかればあきらめるほかない。気持ちを切り替え次はリディクロムを探す。

 おそらく撤収が終わっていない今はまだ北部の戦闘エリアにいるだろう。そう思い門を抜けようとしたとき、後ろから声をかけられる。


「君はあの時の」


 その声に聞きなじみはなかったが、ハルトに声をかけるような相手は限られる。少し記憶を辿ればなんとなく誰だかわかった。


「また会いましたね。無事でよかった。それと、前回はすみませんでした」

「どうやら無茶した自覚はあるらしいな。こう、私が声をかけても避けられるだろうかと思っていたが、その心配は要らなかったらしい。とはいえ君は……生き延びたわけではないらしい。とはいえ、そのおかげで私たちは生きていられるのかもしれない。そう思うと無理をするなと言う権利はないのだろうな」


 振り返ったところにいたのは画一的な鎧を身にまとった兵士。見分けはつかないが、しゃべり方は覚えている。おそらく彼は以前北部の戦闘エリアに向かう際に一言忠告をくれたキャラクターだった。

 そんな彼は今日も門番として勤務していたらしく前回と似たシチュエーションで対面することになった。短い言葉を交わしただけだがどうやら記憶されていたようだ。自分で見つけるわけでもなく相手から話しかけられてしまい、何を言うべきかすぐには思い浮かばなかったハルトは当たり障りのない答えを返す。それに対して相手はリスポーンを繰り返していることを理解した様子で苦笑を浮かべる。今回の防衛イベントでプレイヤーを頼っただけに、無茶をするなと頭ごなしに否定するわけにはいかないが、それはそれとしてリスポーンはできる限り避けてほしいと思っているらしく複雑な心境のようだ。


「自分が言っても説得力はないかもしれませんが、あの1回で凝りました。無理してまで強くならなければいけない局面が来なければ、身の丈に合った戦闘で地道に経験を積みますよ」

「君の口からその言葉を聞くことができただけでも声をかけてよかった」


 ハルトのその言葉は本心からのものだ。目の前であっさりと食われた毒ガエルの魔物を見て、自身が固執していたことが無意味なことであるように感じていた。今後は必要がなければ無茶なレベリングは避けるだろう。

 とはいえ、無茶をしなければならない場面の基準はプレイヤーとNPCで異なるだろう。ハルトにその自覚はなく、兵士は無理をしないということはリスポーンしないことを第一に考えるという意味だと思っているが、そのことを指摘する者はその場にいなかった。


「そういえばリディクロムさんの居場所を知りませんか。師弟関係を結んだ相手で、防衛戦間近に無理言って弟子入りしただけに、一度ちゃんと話しておきたいと思っているんです」

「まだ帰ってきたという連絡はない。門の外に居るはずだが、目印もなしに行って大丈夫なのかい?」

「そこは一度外に出てみてから考えます。無理そうなら戻ってくるつもりです」


 どうやら北部の魔物と戦っても問題ない戦闘力があるとみなされているようで、今回は外に出るなと止められることはない。むしろリディクロムの情報まで得られたので話せてよかっただろう。

 思わぬ足止めを食らったが、頭の片隅に残っていた罪悪感は拭えた。突発的なイベントも悪くはないなと思いながら、ハルトは門を通り北部の戦闘エリアに踏み出すのだった。

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