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サイドストーリー:キャラクターネーム「シキ」編1章

――これは、ヒュドラーが再封印された数日後の出来事。


「……んっ」

「あ、目を覚ましたんですね」

「ここは?」


 ベッドから起き上がったのはシキ。彼は自分が知らないうちに倒れていたらしい。近くで看病していた看護師が目を覚ましたか彼に声をかける。


「ファーストリアのギルド。その医務室です。丸2日間眠りっぱなしだったんですよ。倒れる前のことは覚えていますか?」

「あー、記憶は大丈夫です。あの災害級魔獣の再封印に力を使ったせいだな。……自分の未熟さを痛感する」


 シキは精霊術師ではない。別段精霊に嫌われるような要素は持たないが、職業が扱える技能に大きく影響する世界では、並大抵の才能で適正外の技能を習得するにはそれ相応の努力やそれ相応の才能(センス)が必要になる。そういう意味ではシキはただ未熟というわけではないのだが、本人の劣等感というのは他人に何を言われたところで簡単にはなくならないのだろう。


「しかし2日か。あのとき災害級魔獣に対応していた人たちは今どうしているのか知りませんか?」

「その後のことはあまり詳しくは知りません。ただ多くの人はセカンダリアに向けて出発しました。残っているのは少数派ではないでしょうか」


 彼が気にしたのは、精霊武器を所持していた男。どうやって入手したのか問い詰めようと思ったが、居場所が知れない相手をむやみに探すわけにもいかない。手がかりがあればと思ったが残念ながら情報は手に入りそうにない。

 そんなことを考える彼のもとに来訪者がやってくる。扉がノックされ、看護師は誰だろうかと対応し、その人物を見るとシキのところまで案内する。


「この町の防衛を担っているリディクロムさんです。災害級魔獣の脅威を退けた人物に一度お礼が言いたいというので連れてきましたが、大丈夫ですか?」

「そのリディクロムさんが寝起きでいいというならばかまいませんよ」


 看護師はその返事に頷くと、リディクロムをベッドの近くに連れてくる。去り際、いつシキさんが目覚めたと知ったのだろうとあまりにもタイミングのいいリディクロムの出現に首をかしげていたが、無理ない話だろう。


「どうもこんにちは。無事に目が覚めて何よりだ。……ええと」

「シキです。そういうあなたは紹介のあったリディクロムさんであっていますか?」

「ああ。私はリディクロム。少し前まではあの災害級魔獣の封印を監視・保護していた。見事な精霊術だよ」


 その言葉には、賞賛のほかに何か含むところがあるようにも聞こえたが、その気配はすぐに薄れ、感じた印象が気のせいだったように思えてくる。

 そんなリディクロムだが、シキと彼に面識はない。それだけに礼を言いに来ただけなのかと思ったが、彼は少し躊躇ってから、話を続ける。


「あの精霊武器だが、もしかすると誰かから譲ってもらったものではないか?」

「とういうと」

「同じ気配の武器を一度見たことがある。ただ形状がだいぶ異なっていたので確証はない」

「それを知ってどうするつもりです?」


 精霊武器という言葉は意外と知られていない。それを扱う技能は一族で秘匿されていることが多いからだ。人には過ぎた力。個として自然災害と大差ない破滅を振りまく災害級魔獣と人が対等に戦えるほどの力を持つ武器は危険すぎる。(よこしま)な願いに精霊が力を貸すことはないだろうという前提のもとに人にその脅威が向けられることはないと思われているが、それを踏まえても脅威であることに違いはなかった。

 そんな言葉を知り、そのうえ精霊武器の出所を知っているという人物をシキが警戒しないはずがない。しかしそんな風にあからさまな警戒を見せるシキの様子を見てリディクロムはなぜか安堵の表情を浮かべる。


「どうやらタイキは良い弟子を持ったらしい」

「えっ、なぜ親父の名前を?」

「……弟子じゃなくて息子か。あいついつの間に。いや、そんなことはどうでもいいか」

「父をあいつと呼ぶ人はそういません。あなた何者ですか」

「昔の知り合いだ。それと精霊武器の話を持ち出したのは別段何かを咎めるためではない。むしろ私自身の予想が正しいなら、あの武器の正体が精霊武器だったと見抜けなかった私に落ち度がある。異常な性質はあったが、普通の武器に偽装されていたらしく確信が持てずに見逃してしまったらしい」


 そう前置きして、リディクロムはシキに提案する。


「目覚めて早々で悪いが、いやな予感がする。俺の弟子の様子を確認してもらえないだろうか」


 シキは突拍子のないその提案に動揺するが、その一方で詳細を聞かなければ判断のしようがないと話を聞くことにするのだった。


 リディクロムは精霊武器についての知識を持っているらしい。その一方で精霊武器を扱う技能やそれを明確に見分ける能力は持ち合わせていないとも語った。


「属性武器と精霊武器の見分けがつかないのが悔やまれるところだな」


 ファーストリアの武器屋の店主が青の短剣を紹介する際に口にした属性武器という代物だが、これは何も精霊武器であることを気づかれないために用意された造語というわけではなく実在する武器の一種だ。精霊武器に比べて希少性は落ちるが、魔法を扱う魔物の素材を用い素材を属性励起させることで造られる。

 そんな属性武器は素材にした魔物の素材に対して属性励起した素材の剛性が不足している場合、耐久度が著しく下がり基本的には自壊してしまう。しかし高い技量を持つ技師であればその常識を覆し武器として完成させることができると言われている。ただそんな腕の立つ技師がわざわざ低品質な素材を使う理由はなく、そして仮に武器として自壊しないとしても武器が受け止めきれない魔物の素材が持つ力を外に逃がすため、武器を握る使用者に負荷がかかる。それこそ資格のない者が精霊武器を手にした時と同じように。

 これがリディクロムに青の短剣が精霊武器であることを見抜けなかった理由だ。精霊武器を手に入れるほどの財があるようにも思えない相手に加えて武器屋で譲ってもらったという話から、未熟な技師か高名な技師の練習作が市場に流れていたのだろうと勝手に納得してしまった。


「仕方ないことです。そもそもこの町にも精霊教会の人は居ますよね?」

「居るにはいるけれど、技量の低い者が多いな。箱に仕舞われているものまで感知できるような感応性のある実力者は希少だ。災害級魔獣の封印場所が近隣にあるなんてことも知らなかった様子だったな」


 精霊教会というのは災害級魔獣に対抗できる力を持つ精霊を人々を救済してくれる神の使徒であると捉え信仰する宗教だ。しかし単に信仰だけをしているのかといえばそういうわけではなく、精霊に関する多くの知識を有している。その1つに精霊の気配を感知する技能があると言われているが、今回の青の短剣はその感知に引っかからなかった。

 そして精霊教会はシキの一族のように精霊を武器に宿し、人間が振るうことができるようにしたものを扱う技能を継承する思想とは相いれず、精霊は自由であるべきと精霊武器の存在を否定している。だからハルトが精霊武器を所有していることを知っていたなら回収しようと接触していたはずだった。

 無論災害級魔獣の出現という大きな問題の最中通常業務をこなしている暇があったのかといえばそんなことはない。むしろ当時こそ信仰している精霊に縋りたい場面であり、彼らは祈祷に忙しかっただろう。


「そうですか。その武器商人の足取りはつかめていますか?」

「それがうまくいっていないんだ。足取りどころか名前さえ不確か。人によって別な名前と容姿が返ってくる」

「そんなに怪しいとなると、適当に仕入れた欠陥品の属性武器が本当は精霊武器だったなんて偶然ではなさそうですね。何かの意図があってあなたの弟子にその武器を譲った」

「その意図がわかれば対応がいるのかいらないのか判断もつくが、現状何が目的なのかわからない相手だ。それに私の弟子を選んだのは無差別に誰でもよかったのか、それともあいつが目をつけられたのか分からない。それが不気味なんだ」


 リディクロムの憂慮するような表情を浮かべながら告げた言葉にシキは同意する。


「精霊武器がかかわっているとなると僕も見逃せません。情報が不足していますが、できる限りのことはしてみます」

「すまない。私は(しがらみ)があってすぐにファーストリアを()つことができない立場だ。そのうえ事情を説明するには精霊武器に触れることになる。そんなことができる相手は限られているだけに、君に頼むことになってしまった」

「謝らないでください。こちらとしても情報が手に入ったのはいいことです」


 その後は堅苦しい話はせず、シキは父であるタイキの話を聞くなどする。初めて聞く話も多く会話は楽しかったが、長く話していたところに看護師がやってきたところで話は切り上げることになった。


「……まだ検査もあります。見たところ元気そうですが、早期に退院できるのかは結果次第ですからね」


 リディクロムが去ったあと、看護師が釘を刺す。会話内容まで聞かれたわけではなさそうだが、何かを感じ取ったらしい。

 それもそうかと思う一方で、時間を置けば置くほど調査は難しくなるだろう。早く体調を整えなければならない。無理して精霊武器を扱った悪影響がどんな形で出ているかはわからないが、検査結果が少しでも良くなるように休息をとるシキだった。

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