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サイドストーリー:プレイヤーネーム「シルク」編第1部
時間は防衛イベントの開始前まで遡る。
第2の町を目指す攻略隊。その1組の話だ。
「リスポーン地点が無くなったらどうなるのかわからないけど、さすがに不安だろ」
そう呟いたのはシルクというアカウントネームのプレイヤー。彼は防衛イベントを成功させリスポーン地点を守るよりも別なリスポーン地点を発見するほうが優先すべきだと考える。
ただし彼がやることは表面上変わらない。というのも彼は以前から次の町を目指し挑戦を続けていたプレイヤーの1人だった。
とはいえ攻略の進捗は芳しくない。というのもほかのプレイヤーがパーティを組んだのに対し、しばらくソロで活動していた彼はすでに組んだプレイヤーの間に入らなければパーティを組めない状態になっていた。
ソロでの一番の問題点は、出てくる盗賊は基本的に2人以上という点だろう。人数で負けている状況をステータスとスキルだけで補おうとするのは難しい。相手のレベルが低かったとしても連携されれば隙を突かれ、連戦で蓄積したダメージは無視できず、途中で倒れるか引き返すかという2択を迫られる。パーティを組めばそういった問題は解消されるのだが、組んでくれる相手が見つからない。
シルクに欠点があるのかといえばそういうわけではない。プレイヤースキルは低くなく、職業の剣士は不遇というほど弱くない。といっても聖戦士の廉価版のようにも思えるステータスをしており、優遇された職業と比較すると弱い。シルクというプレイヤーは欠点が少ない一方で特筆すべきアピールポイントが欠けていた。
ただしステータスでは測れない長所もある。彼は常に冷静でコンディションによる振れ幅が小さい。ゲームに閉じ込められた状況への不安を抱えつつもそれが行動に現れず、安定して戦果を出すことができる。しかし本人にその自覚はなく、引きこもっているようなプレイヤーを除けば大半が自分と同じようにできると考えていた。
そんな状況が変化したのが防衛イベントのアナウンスだ。あれによってファーストリアに留まっていると否応なくイベントに巻き込まれると知り、焦ったプレイヤーが攻略に協力する姿勢を見せる。といっても攻略に積極的だったプレイヤーたちにとって彼らは臆病者であり、またまだろくに戦闘していないのでレベル差も開いている。寄生プレイで成果を横取りされる。そんな思考に至ったプレイヤーまで現れ、声をかけてくるプレイヤーに対して険悪な雰囲気を放つプレイヤーが見受けられるようになった。
プレイヤー同士でいがみ合っている場合ではない。それは正論だが感情というのはその外にある。そんな騒動だが、シルクにとっては悪いものでもない。
彼は自分の目を信じ、パーティを組めずにいるプレイヤーに声をかける。
……
「ソロで攻略をしていた剣士のシルクだ。これからパーティを組む仲だ。なれ合う必要はないが協力してやっていこう」
「グラップラーの零音といいます。あの、まだレベルは低いですが役立たずにならないように頑張ります」
「ラッキーです! 職業は弓使いです! 前衛2人ってことなので、後ろからバンバン援護しちゃいますよ!」
前衛で敵に触れなければ攻撃できない職業なのに気の弱そうな零音と、戦闘経験が少ないはずだが調子のいいラッキーという真反対の2人に少し不安を覚えつつ、ここにいるのはあくまで攻略が目的で人格は二の次だとシルクは自分に言い聞かせる。
誘いに応じたのはこの2人は両方ともソロで街道に挑戦し、盗賊が出てきたので引き返してきたというプレイヤーだ。シルクとしては盗賊に挑戦したプレイヤーのほうが好ましいと思ったが、そういう前向きなプレイヤーはソロで無茶をするかすでに引き抜かれたり、そういったプレイヤー同士でパーティを組んだりしている。2人誘いに乗ってくれる相手がいたこと。そして自分の実力を理解して退くべき時に退けることも才能だと思えばそう悪いことでもない。そう結論付けたシルクは彼らとパーティを結成する。
そうして加入した2人だが、一番の問題はレベルが低いことだろう。当時のシルクのレベルが12であるのに対し、2人はレベル2とレベル3という低レベル。その差をある程度埋めるためにシルクは静寂の森の魔物との戦闘を行うことにする。その手間を考えると、焦りが行動に現れにくいシルクと違い、早く次の町に到達しなければと思うプレイヤーが、パーティメンバーを育てることに時間を割く余裕なんてないと苛立つのも納得だった。
先行きは不透明だが、この2人が攻略の糸口になってくれることを願うシルクだった。
シルクのパーティは静寂の森の浅い場所を訪れる。
2人はレベル1ではない。というのも宿代を稼ぐために数回だけ戦闘をしたらしい。彼らは引きこもって何もしないプレイヤーのように戦ったりHPを0にされたりすること自体に恐怖していたわけではなく、戦わずに済めばそのほうがいい。あるいは助けが来るまでおとなしくしていたほうがいい。そんな考えで攻略に参加していなかったに過ぎない。戦わないのではなく戦えない人は一定数存在している。その定義の上で2人は戦えない人ではないといえるだろう。
そんな2人の戦闘はそれほど悪くなさそうに見える。懸念材料があるとすれば、スライムやゴブリン相手の戦闘が参考になるのかというところだろう。そしてもう一つ、評価基準が一人ひとりの動きの話でしかない点も不安要素だ。武器の扱いは悪くないのだが、連携に関してはひどいもので、ラッキーは矢を当てようとして危うく零音を射抜きそうになり、零音はグラップラーゆえに遠距離攻撃とは相性の悪い敵との間合いをゼロにするような戦い方しかできない。初戦ではどれくらいやれるのか見るためにも黙って戦闘を見ていたシルクだが、戦闘終了後危うく喧嘩になりかけたところを仲裁する羽目になった。
「次からは俺が指示を出す。無理に従わなくてもいいけれど、たぶんそのほうがうまくいくと思う」
シルクの指揮能力を知らない2人は訝しんだが、ここでどちらが悪いのか言い争いを続けても決着がつかないとわかったのか、ひとまずはシルクの提案を受け入れる。
――「ラッキーが撃つから離れろ」
――「レオン、右に注意しろ」
――「俺が前に出る。3つ数えたタイミングで2人は攻撃してくれ。……今っ!」
低レベルの魔物を倒してもまともな経験値は入らない。主な攻撃は2人に任せ、補助に徹していたものの、シルクの状況把握能力は高く、素人2人に的確に指示を出す。その全てが最善手かといえばそういうわけではないが、複雑な指示ではなく簡潔な指示は2人の能力を十分に引き出している。
「きみって一体何者?」
「それは僕も知りたいです」
「名が売れるようなことはしてないから、聞くだけ無駄。それよりも目の前の戦闘に集中してくれ。無茶はしたくないがタイムリミットはあるんだからな」
そんな彼らは連携の確認とレベル上げを兼ねて静寂の森の魔物を倒す。途中にほかの個体とは色合いの違う濃い色のスライムを討伐することもあり、その時には1体倒しただけでレベルが上がった。次に似た色の個体と遭遇した際にはほかのスライムよりも二回り以上大きな躯体をしており、レベルを上げていなければ負けていたかもしれないと思えるほどの接戦になった。
そんな軽いハプニングもありつつ、レベルが上がり、ある程度連携が取れるようになったところでシルクは街道攻略の再開を宣言する。
その挑戦では途中NPCの援護を受けられた場面もあり、運にも恵まれた彼らは順調に街道を進む。
しかし次の町の門が見えてきたところで予想外の出来事が起こる。それは道中の盗賊をすべて倒した場合に発生する【頭領登場】というイベント。彼らの目の前に立ちはだかったのは、レベル20の強敵と彼が従えるレベル10の盗賊4人という過剰戦力。シルクがレベル15、他2人がレベル11という3人には厳しい戦力だった。
盗賊は攻撃力と防御力が低い代わりに足が速く武器の扱いに長けている。そのため全員が異なる武器を持っており、入れ替わり立ち代わり攻撃をされると間合いが読みにくく戦いづらい。そのうえ彼らの後ろにはレベル20という高レベルゆえに本来盗賊は低い攻撃力が十分高い値にある手斧を扱う頭領の存在があった。
「俺が頭領を引き受ける。残り4人は任せられるか?」
「なんとかやってみます」
「任せときなって!」
ここで無理だからあきらめようといわれたらどうしようかと思っていたが、案外2人は根性があるらしい。弱気なセリフを吐いた零音も声ははっきりしていたので口先だけということはないだろう。
2人が4人を担ってくれるというのなら自分も宣言した働きはしなければいけない。シルクは覚悟を決めて格上の頭領に挑む。
「――パワースラッシュ!」
それは剣士が初期から覚えているアビリティの1つ。アシストが適度で扱いやすく、消費するMPは低い。使用回数が多いため紐づいているスキルのレベルが高く、レベルが上がってから取得した育っていないスキルよりも火力が出ることをシルクは知っていた。
「そんなちゃちな攻撃が俺に効くと思ってんのか!?」
しかし盗賊団の頭領はその攻撃を片手斧で軽々といなし、空いた左のこぶしでシルクを殴りつける。
エフェクトが散り、一瞬体が不自由になる。軽いがスタン状態になったようだ。追撃を繰り出そうとする相手に急ぎ回避行動を取り、なんとか致命傷は免れる。
「(さすがにレベル差がきついな)」
そう思いつつ、ポーションを消費しHPを回復させる。軽くHP残量を確認するとただの攻撃で3分の1ほどのHPが削れていたので、アビリティ込みで武器による攻撃を食らえばHPは消し飛ぶだろう。状況は不利を通り越して絶望的にも思えるが、これでも残りの盗賊4人をパーティメンバーに任せていること、そしてもともとはソロで活動していた矜持。そういったものが相まって、弱音を吐いてる場合じゃないと彼は自身の気持ちを奮い立たせる。
挑発するようなセリフを吐く相手が本気を出していないのは察しが付く。だがその油断のおかげでシルクが本気で回避行動をとれば相手の攻撃は避けられた。となると彼は自分を脅威とみなさないように立ち回り、そのうえでどうにか相手を一撃で倒す。あるいは猶予の間に本気を出しても間に合わないような策を講じる必要があった。
「オラオラァ! 攻めねぇと勝てねぇぞ!!」
「(ふざけんな。攻められるなら攻めてるんだよ)」
だがそんな都合のいい方法などあるわけがなく、彼はしばらく防戦一方になる。2人の様子を確認する余裕もなく、最悪4人の盗賊が今にも頭領の援護にやってくるかもしれない。そんなことを考えていた。
しかしそれはシルクの侮りだったのだろう。
「チャージ」
その声は目の前の相手との戦闘に集中しているシルクの頭にすんなりと入り込み、彼はその次に続く動作を予感する。
「撃つから当たんないでよね! ――ダブルポイント」
その味方に当たるかどうかを一切考慮せずに敵の一番痛いところに当てようとする軌道を予感し、シルクは余計にも思える歩数後ずさる。シルクを脅威に感じていない相手はその意図を読むことなく攻撃を当てようと深く踏み込む。
「なっ」
【【Critical Hit!!】】
そこへ弓使いのアビリティが炸裂する。
3秒間のチャージを必要とする代わりに、1発の矢で2発分の効果を発揮するそれは、単純に考えればダメージが2倍になるだけの攻撃だ。もちろん前衛職のパワースラッシュの倍率が1.2から1.5倍相当だと考えると破格の倍率だが、チャージが必要で連射が利かないことを踏まえると躱される危険を考慮してアビリティ不使用のほうが安定したダメージを取れるようにも思える。
しかしこのアビリティの真骨頂はダメージが2倍になる点ではなく、2発分の効果を発揮するという点。つまり矢に付与された効果が2倍になり、クリティカルヒットの判定まで2倍になる。
「目がっ」
「これ高いんだから無駄にしないでよね!」
「そんなこと言われなくてもわかってますよ」
煙幕の矢がシルクの誘導によって相手の頭部に命中し、相手の視界を奪う。そこに零音が接近し、背後から攻撃を放つ。
「――アームロック」
「痛ってぇえ!!」
その攻撃で零音は武器を持っているほうの腕を締め上げる。その攻撃で相手は武器を落としたが、うまくいったのはそこまでだった。
「離れ、ろっ!」
「うぁあ!?」
目を閉じたまま乱暴に腕を振るい、STRで負けている零音は吹き飛ばされ地面を転がる。
「ちょっと何ぼーっとしてんのよ!」
「あっ、わ、悪い」
そんな2人の連携に驚き思考が止まっていたシルクにラッキーが発破をかける。その声に正気を取り戻した彼は、今ならアビリティを使えそうだと判断する。
「――リミットオーバー」
剣士がレベル3の時に習得できるアビリティであり、その内容は防御力を犠牲に攻撃力を上げる背水の陣ともいえるバフ。MP消費はないが効果時間は5秒と短く、効果終了後は5秒のスタンが入る。その間も防御力低下は解除されないので、5秒以内に決着をつけることができなければほぼ敗北が決まる。
しかし2人のパーティメンバーが作ったチャンスを最大限に生かし相手にダメージを与えるにはこれしかないと判断する。
「――パワースラッシュ!」
ふらついている相手の腹を切り裂き、派手にエフェクトが散る。それでも相手は膝をついただけでまだ光となって消えていくことはない。
「っ、届かないのか?」
大きなダメージに怯みが発生しているが、スタンと違い怯みからの回復は早い。シルクの5秒間のスタンが解除される頃には相手が復活するだろう。
「――バーストナックル!」
「――パワーシュート!」
しかしシルクはソロではない。先ほど攻撃を食らい倒れていた零音が立て直し、シルクに当てる不安があり攻撃に参加できていなかったラッキーも攻撃を再開する。
2人の攻撃を食らい地面に倒れた盗賊団の頭領は、光となって消えていった。
「まったく、いつもと違って頼りなかったですよ。シルクさん」
「……悪かったと思ってるよ」
「まあまあ2人とも、勝てたんだから細かいことは気にしないの!」
「ラッキーさんはおおざっぱすぎるよ。もう少し弓の扱い丁寧にできたりしないの?」
「何? 喧嘩売ってる? 買うわよ?」
「ま、待ってくれ。次の町を目前にしてリスポーンはさすがに勘弁だ」
パーティであることを忘れ負けかけたシルクは自分を責めたが、反省する間もなく2人の会話に巻き込まれる。
普段なら焦って疲れるだけの仲裁も、今は嫌なことを忘れられる。
確かに反省すべき点はあったが、それはそれとして勝つために最善を尽くしたことに違いはない。次があれば間違えないと固く誓いつつも、今は勝てたことを喜ぼうと、2人のおかげで前向きに考えることができた。
高レベルプレイヤーが軒並み防衛イベントに参加者していたために戦力不足により【頭領登場】というイベントを攻略できず、もう片方の攻略方法である盗賊に対してゴールドを支払うという方法では資金不足に陥っていたプレイヤーたち。
しかしシルクというプレイヤーが立ち上げたパーティの活躍により、セカンダリアというエリアは解放された。
といっても1つのパーティが次のエリアに到達しただけだと思われるかもしれない。だが【頭領登場】というイベントは1度でも攻略されるとその発生率が著しく低下する。そのうえ街道に登場する盗賊の数も減少するため、イベントに挑む場合にはわざわざ盗賊を探し連続で倒すという手間がかかるようになり、今までと状況が一変。運が良ければ1度も盗賊に遭わずにセカンダリアに到着するプレイヤーも現れ、現実に戻らなかったプレイヤーたちの多くは新天地に移り住むことになる。その中には当然ギルドで報酬を受け取ったプレイヤーの姿もある。彼らはほかの攻略隊に出遅れまいとイベントの処理が終わり次第すぐにセカンダリアへ渡っていた。




