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神様に「やめじゃ」と言われて最底辺転生  作者: TKG
第一章 始まりは最底辺
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第十八話 異世界の歩き方 前編

「聞きたいです!でも、あの、弟子入りの件に関しては…」


「まあ待てって。それを含めての話なんだ。答えは、そのあとでもいいだろ?長くなるし、腰でも据えて落ち着こうや」


 逸る気持ちを抑えて、壊れたおもちゃのように首を縦にコクコクと振って木を背にして座り込む。


 黒野さんはこの世界を素晴らしいと言い、秩序を守るために行動し、世界各地を巡っている。その話すなわち冒険譚だ。荒唐無稽な物語と切って捨てることの出来ない生の体験談。興奮しないはずがなかった。


 ユティスさんからの話を聞いたときもわくわくしたのは事実だけど、そのほとんどは両親の冒険譚の又聞きであったことと、わがままな王族と貴族から成る国での出来事というありふれたものであったため、『あぁ、ほんとに異世界にきたんだなぁ』と思う程度だった。


 だが!これから語られるのは妄想やフィクションではない、一個人のドキュメンタリーだ。

 一言一句聞き逃さぬよう黒野さんに向き直る。


「どんだけ興奮してんだよ!分からなくもないけどな…。さてと、どこから話すか。この世界について、どこまで知ってる?」


「えーと…この国は王さまと貴族連中が軒並み腐ってて、反乱間近の生きづらい国ってことはユティスさんと黒野さんに聞いたので知ってます。あとは、他に幾つか国があることと各国で戦争してるってこと位しか知りません」


「……他に何も知らないのか?」


「え?はい」


「…………そうか。まあ好都合か」


 言葉の意味が分からず首を傾げていると、「こっちの話だ」と、話を再開する黒野さん。


「じゃあ俺の知る全てを話していくか。まず、この世界は六つの国で成り立っている。貴族制度と精強な騎士団、豊かな国土と盛んな畜産と農業、良質な鉱石資源に溢れ栄えた『豪富国家ライヒトゥーム』。どこの国を言ってるんだと思う?今、俺達がいるこの国だ。数十年前までこんな立派な評価をされてたんだぜ?もはや見る影もなく、名前負けでしかないがな」


 そう言って肩を竦める。


 まだこの国の全貌を見たわけではないので詳しいことは分からないが、ユティスさんと黒野さんの二人から聞いた話とはかけ離れた評価をされていたもんなんだな。


「こんな国になっちまったのは現国王が即位してから…いや、その前から兆候はあったらしいな。転生者達がチートスキルで各国の悩みの種だった武器防具に使用する鉱石類、食料事情諸々を解決しちまったから、相対的にこの国の強みが潰れたんだ。


 各国との貿易は廃れ、精強な騎士団は転生者の能力と比べたら時代遅れのデク集団と化し、残ったのは王族貴族連中のちっぽけなプライドが支配する生きづらい国だ。転生者がこんな国に見向きすることも無く、せいぜいが犯罪者の隠れ家みたいな扱いになっちまった。


 各国との繋がりが薄れて焦った国王は、隣接する西方の『魔導国家グリム』に貿易再開の要求とは名ばかりの脅しをかけた。…時代遅れの騎士団達を引き連れて圧をかけたんだ。


 結果は、戦争ともいえない一方的な戦いで幕を閉じた。もちろんこの国が惨敗だ。魔法の研究に秀でていた国が、転生者の協力もあってその技術を飛躍的に向上させた結果、身体強化魔法だけを使い、剣と槍で戦う軍勢なんて蹂躙するに容易い的になっちまったってこった。


 おまけに、敗戦の傷も癒えぬ間に同じく隣接する南方の『竜帝国ドラフェイル』から飛竜軍団による威嚇を受けた。恐らく、『この国にまでふざけた要求をしたらどうなるかわかっているだろうな?』って脅しだろうな。国境線を飛び回る百は下らない飛竜の軍勢に、民衆と貴族連中は心を折られたって話だ。…もっとも、愚かな王はまだ侵略の糸口を探しているそうだがな。


 この一件で他国との貿易はほぼ完全にストップ。領民の暮らしはみるみるうちに貧しくなり、地産地消を強いられて贅沢は皆無。王は少しでも他国に見栄を張ろうとしてはいるものの、内情が伴っていないなんてことはバレバレだろうな。手を出す価値もない国として各国に知れ渡ってるよ」


 この国の大体の変遷とおかれている状況などは改めて理解できた。絶賛ピンチ中ってことだね。贅沢を望まないならば戦禍に巻き込まれる心配はないのか?しかし、殆どの領主は王に媚び、領民を虐げるクズらしいし…この国終わりすぎだろ。


 この国のことはもういい。そんなことより、さっきから素敵ワード飛び交いまくりじゃないですか!


「そ、その魔導国家と竜帝国とやらの話を詳しく教えて下さい!」


 鼻息荒くがっつく僕に苦笑しながら黒野さんは話を続けた。


「『魔導国家グリム』は、そうだな…日本でいう学校が国の体を成しているようなもんかな。国中であらゆる分野の魔法が日々研究、研鑽されていて、技術や知識の集積が行われている。この国で研究を積まなかったものが魔法使いを名乗ったら、もぐりだと言われるくらい魔法に関しては他国の追随を許していない。


 俺もこの国には足繁く通ってるよ。なんせ、数ヶ月前までは最先端だった技術が、次に訪れたときにはもはや過去の技術として扱われるような国だ。魔法の知識をかじったものが意気揚々と自国へ帰り、詠唱省略を披露して持て囃されていたその時には、グリムでは無詠唱技術が主流になっていたなんてのは有名な話だそうだ。最新の魔法技術をチェックしておかないと、いつか足元を掬われるかもしれないからな。


 例えば、俺がさっき使った身振りだけでの魔法、そして指向性を持つ魔法の行使もグリムで習った技術だ。グリムは魔法を学ぶ意思のあるものには広く門戸を開いているから、技術の発展速度も尋常じゃない。その分、高度な技術にはついてこれないものも多くいる。自慢じゃないが、指向性魔法の習得者は中々いないぞ。その代わり、魔方陣を用いた威力強化と術式反転に関してはさっぱりだったがな。


 そうそう、国を名乗ってはいるが厳密には国王はいなくてな、魔法研究の権威として認められた者が国王のような、いわば象徴として崇められる変わった国だ。政治的手腕を持たないものが国のトップになっても国としての体裁を保てるのは、ひとえに魔法技術の希少性と脅威のお陰だろうな。最新の魔法技術は貿易や交渉の切り札になる。度々戦争になるが、国としての纏まりが弱いのに滅びないってことはそれだけ強いってこった」


 決めた!まだ一つの国しか詳細を聞いていないけど、次に行く国はもう決まった!

 魔導国家グリム!目指すべき理想郷はそこにある!


「おーい、目がどっか行ってるぞ!お、戻ってきたな。じゃあ次は『竜帝国ドラフェイル』についてだ。俺はこの国には一回しか行ったことは無いからそこまで詳しいことは分からんが、広く知られているのは中立を望む国ってことだな。


 国を治めるのは竜帝ドラフェイル。かつて前竜帝に仕え、侵略してきた敵国の兵を一人残らず虐殺し、侵略してきた国に単騎で乗り込み、大災害を巻き起こして各地を絶望に陥れた様から、ついた名が『死神の化身』だ。前竜帝が崩御した際に竜帝の座につき、国名が今のドラフェイルになったんだ。


 帝王の座についたことで戦場に赴くことが少なくなったが、一線を退いたわけじゃない。面白半分で挑んだ転生者の末路は…まあ、言わなくてもわかると思う。


 そんな噂が先行してるからか、国の治安は荒れているものだと思われがちだが…実はめちゃくちゃ過ごしやすい。そこら中に様々な種類の竜が生息していることに目を瞑れば、他の国で過ごすことと何ら変わりはない。人もそれなりに住んでいるし、今は種族間の仲も良好だ。


 中には腕前を認められて、竜騎士として過ごしているものもいるぞ。上位の竜は人の言葉を操ることもできるし、なにより知性的だ。人を見下すようなこともあまりない。争いを好まず、仲間意識が強いから、その跳ね返りとして侵略者には容赦しないんだろう。


 竜の戦闘力は圧倒的だ。硬い鱗は刃を通さず、魔法による飛翔は捉えることかなわず、爪と牙、魔法による攻撃は苛烈を極め、生半可な防具では無いものと同じだ。間違いなくこの世界の生態ピラミッドの頂点だな。幸いなのは、手出しさえしなければ温厚であることだ。自らの生活を脅かそうとしなければそれでいいと、強者の余裕というやつだろうな。


 だから、あまり怪しいことをしていると目をつけられる。例えば、商人でもないのに出入国を繰り返したら他国の間者を疑われる。俺のスキルで転生者がドラフェイルにいるとわかっても、あまり手出しできないのはそのためだ。悪人かどうか確かめたいと説明をしたところで、厄介事を持ち込むなと言われるのは目に見えてるからな。


 そういうわけで、『竜帝国ドラフェイル』に立ち入るならば注意事項は三つ。竜に手を出すな。怪しい行動はするな。出来るならば定住しろ。こんなところかな。」


 ファンタジーでお馴染みドラゴンさんも概ね異世界知識と同様であるみたいだ。やっぱファンタジーには圧倒的強者の存在ってのは必要不可欠だよねぇ。

 今のところ竜には用事がないし、この国は回るとしたら後回しかな。竜騎士とかめちゃくちゃ憧れるけど、まだ竜達には相手してもらえなさそうだ。


「さて次は…『亜人国家ウトピア』の説明なんだが…すまん、俺には出来ん」


「えっ?な、なんでですか?」


 亜人国家なんて聞いただけでファンタジー要素の宝石箱みたいな名前なのに!エルフにドワーフなんてド鉄板を外してファンタジーを語れんでしょうに!


「あー、ほらな?そういう目をするだろ?転生者ってのは全員亜人と聞いたら飛び付くんだ。エルフにケモ耳ばんざーいって言ってな。そして、各地で色々と、それはもう色々と問題があったらしくてな…一部を除いて国に引きこもっちまった。そして、『竜帝国ドラフェイル』と同盟を結び、人族の入国を固く禁じた。

 …この意味が分かるよな?」


「…もし無理にでも入国しようとしたら、ドラゴンさんが飛んできて…」


「そのままプチっとな」


 ひえっ!怖い!ドラゴンさんの後ろ楯半端ねぇ!


「ま、そういうわけであんま興味を持っちまうような説明はやめにさせてもらうよ。そうそう、一部の亜人は他の国にもいるけど、そいつらにもあんまり滅多なことをしない方がいいぞ?どこからともなく聞き付けた竜がトマト潰(プチっと)しに来るみたいだからな」


 イエス、ケモ耳。ノー、タッチ。心に刻み込んでおくとしよう。

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