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神様に「やめじゃ」と言われて最底辺転生  作者: TKG
第一章 始まりは最底辺
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第十七話 弟子入り志願

 黒野さんを森へと案内している間に、例の魔物使いの事について、転生者名簿に載っていることを聞いておいた。


 魔物使いの名前はギルといい、現在はこの国の王都に滞在しているらしい。名簿では外見等は分からないらしいので、銀色の短髪、黒衣を身に纏っていて、移動手段は大鷲を使っていることなどを報告した。


「大鷲か…飛ばれると厄介だな」


「そうですね…。僕を守ってくれたユティスさんという人は斬撃を飛ばして対抗して…あ、そうだ、あいつが逃げる時に斬撃で腕を切られたらしき悲鳴をあげてました」


「斬撃を…飛ばす?その人は転生者じゃ無いのに凄い離れ業を扱うんだな。ユティス…どこかで聞いたことがあるような…」


 やっぱり斬撃を飛ばすというのは珍しい能力なのかもしれない。…とすると、この事を軽々しく黒野さんに喋ったのは失敗だったか?あまりスキルの詳細を口にするなと言われているし、他人の切り札をバラしてしまったも同然なのでは…。


 でも、ユティスさんは既に貴族どころか国王陛下にまで飛ぶ斬撃の能力を知られていることだし、たいした影響は無いかもしれない。…それはまた別の問題か。迂闊に他人の能力を喋るのはやめよう。


「あの、黒野さん、今のスキルの話は…」


「ん?ああ、分かってる。秘密をペラペラと言い触らす趣味は無いから安心しとけって。それに転生者じゃないならそこまで強力なスキルじゃないだろうしな」


 両親が転生者ならばその限りではないのでは、と聞きたくなったが、それを聞くすなわちユティスさんの切り札をバラす事だ。さっき反省したばかりなんだ、同じ轍は踏まない。


「すみません、助かります。…着きました、ここが強化された魔物に襲われた森です」


 雑談を交えながら歩みを進め、僕たちは森の入口までたどり着いた。この位置からでも、ベアーコングが薙ぎ倒した木々の破壊の痕跡が見てとれる。


「あれが…さっきタダヒトから聞いた、強化されたベアーコングのつけた傷か…。ぶっとい木が根本からへし折られてるじゃねぇか。これを腕の力だけで…?こんなの、人が受けたらバラバラになるぞ」


 生々しい分析を聞いて、改めて身の毛がよだつ思いだ。あのベアーコングは、僕が逃げるのを楽しんで遊んでいた。もし本気でかかってきていたならば…結果は想像したくない。


「道中にあった、エレファンボアーの牙撃と踏みつけで出来た破壊の跡も中々に桁外れだったけど…こりゃ少し認識を改める必要があるな。こんなのを大量に呼ばれたんじゃ、尋常じゃない被害が出るぞ」


 多分、数々の悪人を…殺してきた黒野さんがそう判断するのだ。ギルという男のスキルはそれほどまでに厄介で、かつ危険なスキルなのだろう。


 だとしたら、それを軽々といなして見せたユティスさんは一体どれ程の実力者だというのか…。僕はとんでもない人を師匠としているのかもしれない。


「……もう少し調べてみる必要がある。ギルが大量の魔物を呼び出した地点まで案内してもらえるか?」


 僕の案内不足で、黒野さんがギルと戦ったときに負傷したなどとあっては目も当てられない。当然二つ返事で案内した。


 がむしゃらに走ったので、道を覚えているかどうか不安だったけど、破壊の痕跡が続いていたことと、食材を取りに男衆が森に入ったときにつけたであろう白い布の目印が、木の枝にくくりつけてあったので迷わずに現場へと向かうことが出来た。距離があったのでだいぶ疲れはしたけれども。


「ふぅ……。着きました…けど、これはちょっと…きついですね」


 現場は血の臭いと腐臭に満ちた地獄絵図であった。エレファンボアーの頭部や皮が剥がれたベアーコングの死体と思われるモノが転がっている。

 …冒険者としていつか魔物を殺すときが来るだろう。慣れておく必要があるけど…今はまだ精神的にきついものがある。


「………あぁ、どうも。しかしこれが…凄い量だな。こいつらを全員格納出来て、なおかつ予備の魔物もいたとすると…敵のスキルの見積もりを更に上方修正しないとな」


 黒野さんはこの凄惨な光景の前でも顔色一つ変えずに分析している。

 魔物の死骸に近づくと、懐から取り出した短剣で死骸を次々と刺している。


「…なるほど。魔物を改造すると筋繊維の構成と骨格にも影響を及ぼすのか…。加えて性格にも改造を施せる…と。応用力は色々とありそうだな」


 魔物の死骸の山から先へ進めない僕を尻目に、黒野さんは淡々と調査を進める。


「こいつはハードロックトータスか。…通常種より堅いな。おまけにでかい。骨格どころか身体のデカさまで調節できるとなると、戦術に幅を持たせられるな。格納容量は…体積ではなく個体数か?どちらにせよ、面白そうなスキルだ」


 研究者気質であるのか、黒野さんは改造された魔物の調査に余念がない。…恐らく慣れているとはいえ、あそこまで堂々と魔物の死骸の山で調査できるとは。僕としては早く立ち去りたいというのに。


 黒野さんはその後もしばらく魔物に短剣を突き刺したり、得物を金槌のようなものに変えて叩いたり、火の魔法のようなものを撃ち込んでいた。

 戦うことになるかもしれない相手の魔物だから、念入りに弱点を調べているのだろう。生々しい音と、焦げ付くような臭いが不快感を呼び起こす。


 うぅ、かなり気持ち悪くなってきた。グロ耐性はそれなりにある方だと思っていたけれど、直接見て、かつ臭いがあるとなると、まるで別物だ。


「ああ、悪いな。少し熱が入ってたみたいだ。…でも、冒険するつもりなんだろ?これくらいでえずいてたら身が持たないぞ?」


「ええ、まあ…。でも、やっぱ慣れなくて…」


 現代日本で売られている肉や刺身も、元は生きていた動物の成れの果てだ。

 だけど、それらは頭の中で食料として認識されているものにすぎない。動物の死骸を焼いたものと、食料として売られている肉を焼いたものの臭いを同一として見ることは出来ない。

 同じく村で鍋パーティーをした時に見た肉も、既に血抜きはされていたし、これから食べるのだという意識があったから平気だったのだ。

 血と肉片の渦中にいては、肉が焼ける臭いに食欲を見出だせるはずもない。


「転生したばかりならそんなものか。こんな田舎じゃエンチャン糖が出回ってるとも思えないし…まあ、慣れるしかないな」


 エンチャントー?魔法付与的な何かであろうか。出回るということはアイテムか装備の類いかもしれない。気になるなぁ。


「ギルのスキルはある程度理解したし、こいつらはもう用済みだな。少し離れてて」


 従って距離をとると、黒野さんは魔物の死骸全てに炎弾を飛ばした。みるみるうちに炎が燃え盛り、森が炎に包まれ……無かった。


「これは…一体…」


「魔法に指向性を持たせてるからな。これは魔物の死骸だけを焼く炎、そしてこれは」


 黒野さんが手を振るうと、黒野さんを中心に水の渦が広がった。勢いを増して迫り来る渦は、腕を交差して衝撃に備える僕を濡らすこと無く通過し、しばらくの後霧散した。燃え盛る炎だけを消滅させて。


「魔法により生じた炎にのみ影響を及ぼす水。そして、仕上げに」


 再び手が振るわれると、どこからともなく暴風が吹き荒れた…のだが、風は僕や木々を撫でること無く駆け抜け、立ち込める腐臭と炭化した死骸を纏めて散らしていった。


 僕たちがいた場所は、先程までの地獄絵図が嘘のように感じられるほどに整った森の一角と化した。


「焼けた死体と、臭いだけを運ぶ風。魔法に指向性を持たせることが出来ればこんなことは造作もないんだ。どうだ?便利だろ?これでも結構な使い手なんだぜ」


 イケメンがどや顔なんてしてもただただ苛つくだけであったが、今は素直に思った。


「すっげぇ!かっけぇぇ!!今の魔法って僕にも出来るようになるんですか!?」


「そんなに難しいほどの事じゃないよ。まあ、鍛練次第かな」


 すかした態度で言ってのける黒野さんだが、恐らく並大抵のことじゃないだろう。さっきも自分で結構な使い手を自称していたし。


 …決めた!魔法のことに関しては黒野さんに弟子入りしよう!


「お願いがあります!僕に魔法を教えて下さい!村の人達には教えるのは無理そうって話をされて諦めかけてたんですが…どうか、お願いします!」


 不躾なのは重々承知しているが、何せ魔法力が0だ。転生者ならだれでも200近い基礎ステータスを持っていると知った今、焦りもするさ。


「教えるのは無理…?ああ、確かに、そこらの村人だと転生者と魔法力が離れすぎてて教えるには苦労するか」


 あっ…勘違いされてる。魔法力が離れすぎてる、うん、離れすぎてるんだよね。恐らく、逆方向に。


「少し言いづらい事なのですが…僕、あんまり魔法に適した能力ではないみたいで…」


 ステータスの詳細を簡単に話すなと言われているので軽くぼかしたが、これで他の転生者より若干、『若干』才能が劣っていることは伝わっただろう。


「そうなのか?転生の際にステータスパラメーターを物理寄りにしたとか…それにしてはさっきの…いや、いい。なら有用なスキルをいくつかもらったとかか?あ、詳細は伏せろよ?」


 残念ながら物理寄りステータスでもなければ有用なスキルを貰ってもいないんだよなぁ。

 でも善行ポイント関連は僕だけに与えられた特別な要素だと思う。勘でしかないけれども。


「いや、そんなに有用なスキルは…ちょっと珍しい程度ですかね」


 後にも先にも『家具に足の小指をぶつけるのを未然に防ぐ』なんてスキルを持ってるのは僕くらいのものだろう。世界に一人しか持ってないスキルって凄くない?天然記念物として国に保護されるべきだと思う。我は国宝ぞ。


「そうか…。……そうだな。決めた」


 長考とまではいかないものの、無言で考え事をしていた黒野さんは意を決した顔で僕を見た。


「タダヒト。俺が巡って知ったこの世界のこと、もっと詳しく知りたくないか?」


 弟子入りを受け入れるか拒むかの答えが返ってくるのかと身構えていたが、的が外れたようだ。


 期待していた答えとは違っていたが、その一言はこれ以上無いほどに僕を昂らせた。

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