第十六話 同郷の転生者
「…何で、僕が転生者だと気付いたんですか?」
まずは探りを入れることにした。この男は何者で、何の目的があってここに来たのか…。転生者であれば、あらゆる能力を神から授かっているはずだ。もしも襲われたら…あの時のように都合よく助かるとは限らない。
ユティスさんの方をそれとなく窺う。まだあの変態…ナイスミドルと話しているようだ。背はこちらに向いている。恐らく気付いていないだろう…。いつでも逃げ出せる準備をしておかなければならない。
「え?黒髪と黒目と顔立ちだけど?同じ出身なら一発で分かるぞ?」
まさかの落とし穴だった。外見を変えないことのデメリットがこんなところにあるとは…。
「そうか、それで…いや、アジア系の人間かもしれなかったじゃないか!何で日本人だと断定できたんだ?」
警戒を顕にしておこうと語気を少し強める。相手のペースに乗せられるわけにはいかない。
「お、なかなかいいところを衝くな。…話しててなんとなく分かったよ。お前はスキルを使って好き放題暴れるような馬鹿じゃ無さそうだ。理由を教えるよ。俺の持つスキルは『転生者名簿』っていってな、転生者の元の名前と元の国籍、あとは今どこにいるかの大まかな位置が分かるんだ」
なにそのストーカーみたいなスキル。怖っ。さすがの僕でもそんなスキルを貰うことは思い付かなかったってのに。
「おいおい、そんな目するなって!まぁどいつもこいつも俺のスキルを聞いたらそんな反応するから慣れたけどよ…。別にストーカー目的じゃねぇぞ?異世界で元の世界の奴らと交流を持ちたかったのは事実だけどな。あとは、なんかの間違いで俺の知り合いがいたり、家族が後からやって来たりしないかとか思ってな」
「…事情は大体わかりました。では、なんで僕にコンタクトをとってきたんですか?」
未だ警戒を解かずに問い詰めると、彼は片手で頭をガシガシと乱雑に掻きながら答えた。
「……たまに、いるんだよ。ゲーム感覚で好き放題やらかす馬鹿がな。確かにゲームみてぇな仕様の世界だけど…いや、だからこそか、前世では絶対にやっちゃいけねぇことを平然とやりだす奴がいるんだ。タガが外れちまったんだろうな。殺人、強盗なんて当然で、拷問や街を滅ぼす奴もいる。…そんな奴らをいち早く見つけるために、今は世界を回ってるんだ」
…やっぱり、僕が出会った魔物使いのように狂った奴らがこの世界には溢れてるのか。この人は…まだ確信は持てないけど、狂ってる連中とは違う…気がする。
「もしそういう人を見つけた場合…どうするんですか?」
僕の問いに彼は少し表情に陰を落とし、しかしすぐに真剣な顔つきになってこちらを見つめた。
「引くなよ…って言っても無理な話だけど…殺してる。別に悪を滅する自分に酔ってるわけじゃねぇけど…ろくでもない連中が力をつけたら何を仕出かすかなんて分かりきったことだ。そういう癌みたいな連中を、自分のために、そしてこの世界のために、早めに潰しておく。俺の持つスキルならそれが出来る。先に謝っておくよ、こんな辺鄙な村を選んだお前を少し疑ってた。なんせこんな村に転生してくる奴なんて初めてだからな」
日本では重罪である殺人をしていることを告白したからか、少しバツの悪そうな顔をしていたが、すぐにまた真剣な顔つきになり、改めて手を差し出してきた。
「すぐに信じてくれとは言わない。警戒する気持ちも分かる。だけど、この世界は想像以上に危険で…想像以上に面白い。ほんとに、夢みたいな世界だ。こんな辺境じゃ世界のことなんてなんも分からないだろ?俺なら少しくらいアドバイスしてやれる。お前さえよけりゃ、仲良くやっていこうぜ」
この人はあの魔物使いと同じく殺人を犯している。だけど、動機の核の部分は正反対といっていい。
この人なら信用できる。僕は迷い無くその手を取った。
「…あなたのことを疑ったり、軽蔑したりなんてしませんよ。僕は只野 等です。この世界ではタダヒトって名乗ってます。僕のスキルは」
「おいおい待て待て!ちょーっと待て!」
無警戒であることを伝えようと自己紹介をしたところ、黒野さんは物凄い勢いで僕の言葉を遮った。そして、周りをキョロキョロと見回したあとに僕の手を引いてひとけの無い村の隅っこまで連れてきた。なんだろう、態度の豹変っぷりに少しついていけない。
「ど、どうしたんですか一体…」
「いやな、信じてくれたのは嬉しいけども、少し不用心だぞ?自分の持ってるスキルなんてのはペラペラ喋るもんじゃねぇ。俺の場合はタダヒトの警戒を解くのに必要であったから喋っただけで、スキルは本来切り札だ!ワイルドカードだ!
もし知られたら…そうだな、この国ならまず間違いなくめんどくさい貴族に目をつけられる。で、めんどくさいからって貴族の誘いを断るとその時点で犯罪者扱いだ!誘いに乗ったとしても、便利な道具として使い潰されるのが関の山。
…ぶっちゃけるぞ?早く他の国に移った方がいい。ここは小説でよく見るような冒険や立身出世とは無縁の国だ。俺の名簿で確認しても、この国だけ極端に転生者がいないんだ。それだけ生きづらくて旨味の無い国ってことだな。
話が逸れた。とにかく、スキルは軽々しく口にすんな。便利であればあるほど、とにかく利用してやろうと企む奴がおおいからな」
黒野さんは僕より異世界生活先輩なだけあって知識が非常に豊富なようだ。確かに貴族に目をつけられるってのは少し生きづらくなるかもしれない。気を付けておこう…と思ったけど…
言語理解。これは転生者としては普通だ。
早着替え。…誰に目をつけられるというのだろうか。サーカスでもあれば一目置かれるのか?
交渉術。これは商人辺りに目をつけられるかもしれないけど…今のところナンパスキルにしか見えない。
あともうひとつ?論外だろあんなの。
総括。目をつけられるほどスキルのスペックが無い。悲しいね。
「そういわれても、別に僕のスキルって大したこと無いから黒野さんになら教えても」
「ダメだダメだ!もしもタダヒトのスキルの情報が誰かに漏れたとき、俺が疑われる候補になっちまうだろ!だからダメだ。ジョーカーは誰にも見せない!これ鉄則な」
そのジョーカーが無いんですが。それに別にばれたところで黒野さんを疑う事は無いんだけど…でもここまで念を押すということは過去に何かあったのかもしれないし、触れないでおこう。
「理由は、分かりました。…ちなみに、ステータスとかも伏せておいた方がいいですかね?」
「当然だな。転生者なら誰でも200近くの基礎ステータスは持っているが、これもこの世界の人達から見れば破格だ。それにいつでもステータスを見れるのも転生者特権だから、軽々しくステータスを口にするのもやめた方がいい。本来ステータスは『商業国家ハンデル』で高値で売られてる使い捨てのアイテムじゃなきゃ確認できないからな。余計な詮索をされかねない」
ステータスは一般人には馴染みの薄いものであるという説明がされていたのだが、僕の頭にはあまり入ってこなかった。何故かって?
『転生者なら誰でも200近くの基礎ステータスは持っている』
…ちょーっとなに言ってるのかわかりませんねぇ…。これは神様にクレームを入れるべき案件が増えてしまいましたなぁ。
「……分かりました。ステータスについても黙ってることにします。他には気をつけておいた方がいいことってありますか?」
「そうだな…内政チート位なら許されるだろうけど、前世の機械みたいな技術は普及させない方がいいな。明らかにオーバーテクノロジーだし、そもそもこの世界にそぐわない。発明王として名を馳せたかったのか、車やら携帯やらを開発しようとした転生者が、世界観をぶち壊されるのを嫌った転生者に暗殺された、なんてこともあったらしいぞ。あくまで噂程度だけど、まあ分からない話でもないよな」
確かに、電柱が立ってたり、信号機があって舗装された道路を車が走ってる異世界とかあんまり想像したくない。そりゃ発明者は改革の祖として敬われるんだろうけど…。
「色々とありがとうございました。僕も異世界に来たからには楽しみたいんで参考になりました」
「そんな畏まらなくていいっての。それと、感謝してくれてるなら一つだけ頼みたいことがあるんだ」
う…なんだろう。やっぱり旨い話には裏があるよねぇ。お金とか言われたら困るし、力を貸してくれとか言われてもどうにもならないんだけど…。
「そう身構えるなって!…さっきも言ったように俺はこの世界で好き勝手暴れるような奴は許せない。そんな奴を見かけたら、次に俺に会ったときにでも知らせてほしいって、ただそれだけのことだ」
…お金とか、そんな卑俗な考えしか出てこない僕の頭が嫌になる。
「分かりました。…というか、既に一人会ってます。清々しい程のゲス野郎に」
僕の言葉を聞いて黒野さんは顔をしかめる。
「…詳しく教えてくれ」
僕は一日目に会った忌々しい魔物使いとの一件の一部始終を詳しく話した。話している最中にあの野郎のゲスさを思い出して声が荒くなってしまったのは仕方の無いことだろう。
「……そうか。一昨日この村に転生者が二人いたというのは俺のスキルで知ってたことだけど、タダヒトの他のもう一人がそんな奴だったとはな…」
話し終えたあと、黒野さんの表情は当事者である僕に負けず劣らずの怒りに満ちていた。…本当にこの世界のことを想っているからこそ許せないんだろう。
「…多分俺はそいつと戦うことになる。戦力の把握をしておきたい。その現場の森に案内してくれると助かる」
戦う、と言葉は濁しているものの、恐らく黒野さんはあいつを殺すつもりだ。…殺されて当然だ、あんな奴は。
僕は軽く頷いて黒野さんを森へと案内するために村を出た。




