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神様に「やめじゃ」と言われて最底辺転生  作者: TKG
第一章 始まりは最底辺
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第十二話 異世界ラプソディ

 くつろいでくれと言われたものの、特に暇を潰すなにかがあるわけでもなく、部屋を物色するわけにもいかないので外に出た。現代日本に毒された体が退屈に耐えられるわけがない。


 村のなかは活気があるとは言えないものの、悠々自適なスローライフといった様相を呈していた。


 男衆が大きな木材を運んで作業をしている。どうやら家を作っているらしい。そういえば移民を受け入れるとかいってたっけ。

 少し村を散策してみる。村の中央には川が流れており、洗濯物や食器を洗っている女性が多数いる。近くには畑があり、小麦のような植物を栽培しているようだ。


 何やら掛け声が聞こえたので視線をやると、男衆が木刀をもって剣の稽古をしていた。魔物や賊からの自衛のための演習であろうか。

 その周りを子供たちがはしゃぎながら駆け回る。俺が剣客ユティスだー!くらえーずばばばーん!ずるいぞー次は俺の番だろー!手には二つの木の枝が握られている。子供達からの信頼も厚いようだ。


「あ、お兄ちゃん!」


 妹なんていないから僕ではないだろう…と思ったら、川の方から十歳くらいの女の子が小走りで近寄ってくる。見れば、あの時熊ゴリラに襲われていた女の子だった。

 その様子に気づいた母親であろう女性が、手にしていた洗濯物を置いてこちらへ歩いてくる。


「おー無事だったか!良かった良かった」


 軽く手を挙げて挨拶すると、女の子はそのまま小走りで近寄ってきて…僕の腰に勢いよく抱きついてきた。僕の頭にある単語が過(よぎ)る。事案―――



「ぐすっ…助けでぐれて…ありがどぅ…怖かったよう…」


 …全く、何を考えているんだ僕は。


「よしよし、泣け泣け。強がって笑うなんて似合わないことしなくていいさ。子供は泣くのが仕事なんだからな」


 僕はあの時に人間として最低辺にまで落ちるところだったんだ。それを、あの強がった笑顔を見たときに思い知らされた。助けて貰ったのはこちらかもしれない。


「むぅ!ミト子供じゃないもん!」


 さっきまで泣いていたのはどこへやら。ぷくっと膨れて小走りで川へと戻っていってしまった。うん、まだまだ子供だ。


「あの、娘を助けていただいて本当に有難うございました。あなたが助けてくださらなければ、どうなっていたことか…そんなことになっていたら、私と夫は…」


「えっ?い、いやいやそんな別に大したことしてませんって!むしろお礼を言いたいのはこっちで、って違う、えーっと…」


 頭を深々と下げた感謝の言葉に戸惑ってしまう。ユティスさんにもされたことなのだが、目の前の女性は今にも折れてしまいそうな位に儚げで、そんな人が目に涙を溜めながら頭を下げているもんだから、こう…テンパる。


 な、何か気の利いた言葉を…こんな時はなんて言えばいいんだ!?

 そうだ、交渉スキルを……馬鹿やめろ!人妻に何をしようとしているんだ!


「ふふ、すみません。はしたないところを見せてしまいましたね。泣くのは子供の仕事、ですものね」


 そう言って目の端に溜まった涙を人差し指で拭って笑う。あー…これは中々に…反則だ。年が近ければ確実に惚れていた。夫は幸せ者だなこんちくしょう。


「いえ、ほんと、気にしないでください。親御さんにそれだけ想われてて、ミトちゃんも幸せだと思います。…物騒な世の中なんで、大切にしてあげてください」


 ああ、なんか人の好意を素直に受けとるのってむず痒い。でも不思議と嫌な気分ではないな…。気持ちが落ち着かなくてなんか変な心配してしまった。余計なお世話とか思われてないかな…。


「まあ、ふふ。確かに物騒な世の中ですよね。あなたのような人があの子を身近で守っててくれれば親としては幸せなんですけどね」


「なっ…!」


「ふふ、冗談です」


 な、なんだこの恐ろしい人妻は!男の心を弄ぶのに慣れているっ!僕なんかが太刀打ち出来る相手じゃない!ええい、騒ぐな心臓!こうなったら使うか、交渉スキル…!


「でも…少しは考えておいて下さい…ね?あなたが息子なら、歓迎しますから」



 負けた。うん、惚れた。普通に惚れた。大人の色香にこんなに心惑わされると思わなかった。

 恐らく、顔が真っ赤になっているであろう僕に微笑みを向けると、奥様はミトちゃんの方まで去っていった。


 旦那さん、あんた勝ち組だよ…。うらやましいぞこんちくしょう。

 なんか、こういう田舎の村でいい奥さんを捕まえてのんびり暮らすっていうのも悪くないかもな…。ああ、ファンタジー万歳。


「よう兄ちゃん!こりゃ惚れたな?なっはっは!青いねぇ青いねぇ。だけどあれを基準にすんなよ?俺も色んな女を見てきたが、ありゃ極上だ。俺が若けりゃ確実に口説き倒してる。比較なんてされちまったら他の女が可哀想だからな!なっはっは!」


 しばらく余韻に浸っていると、いつから見ていたのか、イーヴェンさんがバシバシと肩を叩きながら茶化してくる。痛い。


「…そんな話をしに来たんじゃないだろう。要件を簡潔に伝えろ」


「そう急かすなって嬢ちゃん。男にはな、けして避けて通れない道があるんだよ。これは人生の先輩である俺が、今まさに人生の岐路に立っている兄ちゃんに対して、けして変な道を歩まぬように指導してやろうという」

「私の父はイーヴェンさんを万年発情ベアーコングと呼んでいたぞ。そんな人間の助言は毒にしかならん。早く本題に入れ」


「んだとぅ!?男が女を求めることの何が悪いってんだぁ?大体嬢ちゃんはもうすぐ十九になるってぇのに、男の影もねぇじゃねぇか。魔物討伐、領地経営、誠に結構なことだが、そんな調子じゃあっという間に行(い)けず後家(ごけ)ああああぁぁぁぁぁ!!スネぇっ!!スネはやめろよおおぉぉっ!!」


 木刀でスネを強打されたイーヴェンさんは打たれた箇所を押さえて地面をゴロゴロと転がる。せっかく人がいい気分でいるところを…この二人は何をしに来たのだ。コントでもしに来たのか。


「このゴリラが使い物にならなくなったので私から説明する。武器と防具だが、他の仕事が山積みだそうですぐには作れそうにないらしい。だから、ほら」


 ユティスさんは持っていた木刀を僕に渡す。意外と重いな、これ。


「稽古をつける。着いてこい」








「はぁっ……はぁっ……もう無理!げっほ!無理!し、死ぬ…」


「…剣術は子供のそれ。筋力は標準以下。体力はご覧の有り様…今のままでは冒険者など夢のまた夢だぞ。危険と隣り合わせの状況で今のように弱音を吐くのか!魔物の餌になりたくなければ走れ!無駄口を叩く余裕と死ぬ心配をしてる暇があるなら基礎体力作りに専念するんだ!」


「鬼!…悪魔!げほ…」


「よし、まだまだ余裕みたいだな。あと三十分追加だ」


「………………」


 全力で睨むも鬼教官はどこ吹く風だ。


 なんでこんな昭和のスポ根アニメみたいな展開になっているのか。それは少し前にさかのぼる。




 木刀を持たされ向かった先は、先ほど男衆が訓練していた広場の奥の方。そこで剣術がどの程度出来るか確認したいから好きに打ち込んでこいと言われた僕は、一度やってみたかった居合いをしたらふざけるなと怒られた。カチンときて、剣術アニメの達人のごとき乱撃を浴びせていたらそのうち腕がプルプルして持ち上がらなくなっていた。

 どうした?はやく続きを打てと言われた僕は、腕がもう限界だということを正直に告げた。その時のユティスさんの信じられないものをみる目は忘れることはないだろう。


 下された評価は、子供のチャンバラごっこと同レベルというものだった。加えて筋力も打たれ強さもスタミナも足腰も何もかもダメだと冒険者失格の烙印を押された。通知表ならオール1といったところか。前世で1を取ったことのない僕は結構、いや、かなりへこんだ。


 ならば魔法はどうかと提案したところ、とりあえず魔力を流してみろと言われて固まった。なにそれ、と。

 私の両親は転生した瞬間に魔力を感じることができたと言っていたぞ、この世界の人はみんな多かれ少なかれ感じることは出来るはずだと言われて、見よう見まねで魔力を流すイメージを持ってみるものの、何かを感じることも魔法的な現象も起きない。どうやらこの世界の魔法はイメージでどうにかなる類いのものではないらしい。


 参考になればと、この前ステータスで見た魔法力と魔防力が0だったということを正直に告げた。その時のユティスさんの信じられないものをみる目は忘れることはないだろう。


 一連の流れを総括して、ユティスさんはこう言った。


 農民として生きろ。



 僕、超猛反発。悪いことは言わないからと宥めるユティスさんに冗談混じりで、教えられる自信がないんだろーと言ったらそれは逆鱗を撫で撫でする行為だったらしい。


 熊ゴリラ教官が裸足で逃げ出す体罰上等カリキュラムで鬼シゴキをされているというわけである。チートスキルが無いというだけでここまで苦労せねばならんのか。修行シーンが受けるのは少年誌だけだよ。



「…ひゅー………ひゅー……」


 呼吸がだいぶ危ないものに変わってきた。足が震えて走っているのか歩いているのか分からない。酸欠でフラフラする。


「そこまで。もう休んでいいぞ」


 鬼教官の許しが出たところで芝生にへたり込む。全身が虚脱感に陥り、立つことすらままならない。心臓が破裂しそうなほどバクバク鳴っている。なんで昨日の今日でこんなに体を酷使しなければならないのか…。


「これが王都の騎士団連中がこなしている訓練と同等のものだ。休憩は三十分だ。終わったら同じ距離をもう一回。それが終わったら夕飯にして今日の訓練は終了にする」


「もう一回!?無理!ホントに死ぬから!」


「なら諦めてこの村で農民として生きるんだな」


 ぐっ……それを言われると厳しい……。だけど!


「それは、嫌だ…。分かった、三十分後、もう一回…やる」


 そうと決まれば全力で体を休める。四肢を放り出し、脱力して深呼吸する。体の中の魔力とやらを回復に利用できないかと試行錯誤してみるも、やはり何も感じることができないので諦める。



「…………そんなに、嫌か、この村で生きるのは」


 ユティスさんが不意に呟くように漏らす。


「嫌、かな。のどかで落ち着けて良い村だけど、やっぱり旅に出てみたい」


「死ぬぞ」


 あまりにも短く、要領を得ない一言であったが、心に釘を打ち付けるような言葉だった。

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