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神様に「やめじゃ」と言われて最底辺転生  作者: TKG
第一章 始まりは最底辺
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第十一話 やっぱり交渉スキル=ナンパスキルだった

 とっくに食卓からは食べ物がなくなっていたが、僕達の雑談は続いていた。雑談というよりは僕の一方的な質問タイムの様なもので、この国のことについて根掘り葉掘りきいていたところだ。


 交渉スキルが予想以上にポンコツだったため、様々な情報を事前に仕入れておかなければすぐにお陀仏なんてこともあり得ると感じたからだ。

 ユティスさんには転生者という身分を隠す必要がなく、かつ僕のことを信頼してくれているようなので、普通の人に聞いたら馬鹿にされるようなことでも何でも気軽に聞けた。




 ライヒトゥーム王国。

 無能で傲慢な王が、その本性を必死で隠しながら、各地の貴族の徴収した税を吸い上げてわがまま放題をしている国。


 その煽りを受けるのは勿論民である。不平不満は即座に弾圧され、不穏なことをしでかそうものなら領主によって一族郎党皆殺しにされるという。

 反乱の芽を潰した貴族には王から褒賞が与えられるので、みな喜んで領地の問題事探しに腐心するとのこと。領主の中には真っ当な経営をしているものもいるらしいが、民を気遣って税率を引き下げれば王への貢ぎ物が減り、無能と罵られて褒賞も貰えず、爵位を剥奪されることすら珍しくないという。

 領民の事を思って真面目な領地経営をするよりも、少しの不満が出るくらいの圧政を敷いた方がより贅沢が出来るというシステムができあがっているらしい。


 腐った国。反乱が起きるのもそう遠くない未来だ。ユティスさんは、そう辛辣な評価を下した。


「とんでもない国だな…。ユティスさんは王様とか貴族に喧嘩売っちゃったって言ってたけど、いいんですか?」


「自慢するわけではないが、愚王有する騎士団と貴族どもの私兵が束になってかかってきても負ける気がしないのでな。向こうもそれがわかっているから強く出れないのだ。奴等は弱者には強いが勝てない者にはめっぽう弱い。他国に侵略しようとして手痛い反撃を食らってからは尚更な」


「侵略…。やっぱり、まだ国同士で戦争とかしてるんですか?」


「進んで戦争を起こそうとしている国は少ないが、緊張状態といったところだな。だが、各国で軽い牽制が続いている中で、この国は面白いくらいに相手にされていないよ。

 今は国として最低限の体裁を整えてはいるが、何がきっかけで反乱が起きるか分からん国だ。そんな国にかかずらっている間に他国に攻められては目も当てられないからな」


 攻め落とすに値しない国と判断されているわけか…。僕としてはいきなり緊張状態の国に飛ばされなくてすんで喜ぶべきなのだろうか。


「だからこの国の目下のところの問題は反乱が起きることなのだが…私はその時に、少しでも多くの民が被害に遭うのを防ぎたいのだ。

 だからここ、エンデ村の領主を任されたのは幸いだった。王都から離れていて、行軍するのも至難だ。戦禍に見舞われることは無いだろう。圧政に嫌気が差した者を誘導してくれる商人や、私の考えに賛同してくれている貴族もいる。イーヴェンさんも着いてきてくれたから鍛冶や大工関連の仕事も滞りない。順調に避難地として機能し始めているよ。

 愚王は私に嫌がらせをしようとこの地の領主に任命したようだが、自らの首を絞めていることに気付いていないとは滑稽だな」


 ユティスさんは肩をすくめて笑う。

 僕としてはその凄まじい行動力に脱帽するばかりだ。


「でも、あの森は大丈夫なんですか?あんな凶暴な魔物がいるなんてとても安全には思えませんが…事実、僕死にかけましたし」


「ああ、あれは魔物使いに凶暴化させられていたのだろう。あの森にすむ魔物たちは本来とてもおとなしいんだ。エレファンボアーは攻撃を加えない限りは無害だし、ベアーコングはなかなかに人懐っこくて意外と優しいんだ。食料をあげるとお返しに動物の肉をくれることもある。

 ただ、繁殖期に縄張りに入ってきたものを追い出そうとするから注意が必要だがな。だから、道にさえ迷わなければミト…君が助けた少女でも、魔物を怒らせさえしなければ森に入って薬草や食べられる植物を採ってこれるんだ」


 それをあの馬鹿領主どもは無理やり森へ攻めこむから…魔物達の警戒を解くのにどれ程苦労したかと独り言を漏らす。

人の命を弄ぶのが生き甲斐だと言わんばかりに追いかけ回された僕としては少々信じがたい話だ。


「じゃあ、魔物って倒したらまずかったりするんですか?僕、冒険者になって世界を見て回ろうかなーなんて思ってたんですが、いつまでも貧弱だと心もとないから手頃な魔物を倒して鍛えようかと思っていたんですけど…」


 魔物倒して強くなり、ギルドで素材を換金してもらって冒険者生活なんてのは王道中の王道だからね。夢見るのは当然だ。


「いや、魔物は基本的に有害だ。旅人や商人の馬車を襲うし、群れれば町を滅ぼしかねない。ただあの森にすむ魔物がたまたまおとなしいというだけだ」


「よかった。魔物保護法とかあったらどうしようかと思いましたよ」


 ほっと息をつくと、少し思案顔を浮かべたユティスさんが、「そうだ!」と話を切り出す。


「村を救って貰った礼と、私の愚行の謝罪をこめて、贈り物をさせてもらえないか?イーヴェンさんに頼んで手頃な武器と防具を用意させよう。あとは、剣術くらいなら私が指導して鍛えることも出来る。礼として返せるのはこのくらいだが、どうだろうか?」


 まさかの豪華報酬が提示された。どうやらこの世界にも漏れなくご都合主義が存在しているようだ。


「いいんですか!?そんな、いくらなんでも悪いような…」


「領地の恩人に尽くせずして何が領主か。また、私が君に働いた無礼もその程度で償えるものではないと思っている。どうか、受け取ってほしい」


 そう言って恭しく頭を下げるユティスさんの、さっきからの言葉が気になるのだが…。


「あの…謝罪とか無礼とか、僕なにかされましたっけ?」


「それは…君がエレファンボアーに追われていたあの時、助けた後に殴ってしまっただろう。魔物使いの手によって凶暴化していたなどという事実を知らなかった私は、君がわざとエレファンボアーを怒らせて、村を危機に晒したものと勘違いしてしまったのだ。心の中で悪態も吐いた。けして消せぬ恥だ。許してくれとは言わない。ただ、償わせてくれ」


 下げていた頭をさらに深く下げる。言葉をかけられるのを待っているのだろうか。


 しかし、いやぁ、殴られたあれかー…。実際痛かったしその時は腹もたったけど、今となっては村を危機に晒したのは事実だから殴られて当然だと思ってるし、今の今まで特に気にしてなかったんだよなぁ。

 それをわざわざ蒸し返して当時の心情を吐露したあげく、頭を深々と下げた謝罪。自分に厳しすぎるというか、馬鹿正直というか…。これも演技…じゃないんだろうなぁ。


 さてどう返答しよう。


 べ、別に全然痛くなかったし気にすんなよ。強がりか。


 いや、むしろ気持ち良かったからいいよ…。変態か。


 なんでこう両極端な考えしか出てこないのか。気の利いた言葉なんてそんなすぐ出てこないっての。えーっと、うーん…。



 ちょーっとだけ、ほんの少しだけ…。交渉スキル、オン。




「お優しいんですね」


「…え?」


「僕は確かにあの魔物を自分から怒らせてはいません。ですが、村を危機に晒したのは事実です。その結果として殴られるのは当然です。なのにあなたは、魔物が凶暴化していたことを理由に僕の事を責めないどころか、心情を打ち明けてまで自分が悪かったという。恐らくは、僕に負い目を感じさせないために。違いますか?」


「そ、そんなことない!あなたにはその後も領民を助けてもらったし、村から危機を遠ざけてくれた。そんなあなたを責めるなど、できるはずがない!」


「それはあくまで結果論です。ならばもし、あの後に僕が村も少女も救わなかったらどうしましたか?あなたは僕を恨むことはあっても、感謝することは無かったでしょう。殴って当然だあんな奴と…そこまで思うことは無いかもしれませんが、責める気持ちが残っていたはずです」


「それは…」


「では、村を救った場合と救わなかった場合に生じるその差はなんでしょうか?…僕は、嬉しかったんですよ。殴られたことが、ではありません。あなたが本気で民の事を思っているが故に、僕の事を殴ったということがです。他人を心からの想いで諌めてくれる人の、なんと貴重なことか。先程からの話を聞いて確信しました。あなたの心は汚れなく澄み渡っていて、美しい」


「ばっ…こんなときにふざけたことを」

「ふざけてません。本心です。自分に厳しく他人に優しい…口にするのは簡単ですが、実行するとなると途端に難しい。本心から実行するとなると尚更です。なればこそ、その優しさで僕の過ちを無かったかのように扱うのはやめて欲しいのです。謝罪と償いによって清算するようなことをせず、僕が将来に渡って教訓としていけるような出来事であってほしいのです」


「…ぁ……その…」


「だから、謝罪というのは受け取れません。そこで一つ都合のいい提案をさせてください。あなたは僕に恩を感じている。でも僕も命を助けていただいた恩を感じている。では帳消し…というのも味気ない。

 そこで、先程のあなたの提案、武器と防具を頂き、それから稽古をつけていただくというものを受け入れさせてください。謝罪などというものではなく、あなたの優しさから来る恩という形で受けとりたいのです。

 次は僕の番なのですが…僕は見た通り恩を返せるものがありません。

 貸し一つ、でどうでしょうか。必ず返します。…絶対に返すと約束します。打算にまみれたような貸し借りではなく、縁を繋ぐ貸しのようなものだと思っていただければ嬉しいのですが…それでは駄目でしょうか?」



「…………わ、分かった!剣とっ、防具、をっ!イーヴェンさんに、頼んでくる!く、くつろいでいてくれ!」



 顔を真っ赤にしたユティスさんが凄い勢いで走りだして家から飛び出していったのを確認してから交渉スキルをオフにする。


 このスキルはしばらく封印しよう。僕が僕でなくなるかもしれない。

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