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星漢共鳴曲  作者: ふじま
第3章
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第25話 それぞれの愛の形

騒ぎが収まり、一行は再び酒楼の席に戻った。


星宇シンユーは運河の風に髪をなびかせ、いかにも「自分がすべてを解決した」と言わんばかりの顔で、優雅に扇子を扇いでみせる。


「いいかい、玲玲リンリン。男ってのはね、私みたいに顔が良くて、金があって、どんな窮地でも余裕を崩さない……そういう生き物のことを言うんだ。

浩然ハオラン殿みたいに、行き倒れに自分の飯まであげてしまうようなお人好しは、見ていてハラハラするからね。悪いけど、恋愛対象としては選外だよ、残念!」


星宇はニヤリと人を食ったような笑みを浮かべ、わざとらしく二人の反応を伺うようにからかった。

浩然は「はは、手厳しいですね……」と困ったように頬を掻き、玲玲は「兄様、またそんな意地悪を……!」と顔を赤くする。


だが、その軽口が完遂されることはなかった。

「……シン

低く、温度のない声が響くと同時に、星宇の扇子の端を烈華リェファの箸が鋭く押さえつけた。


「痛っ……! 烈華、扇子が折れる、折れるって!」

「黙れ。口を動かす暇があるなら、この不味い酒をさっさと飲み干せ」


星宇の軽薄な言動を数秒で遮断し、冷徹な一瞥をくれる烈華。その淀みのない所作に、浩然は目を丸くして感嘆の溜息を漏らした。


「……えっと。星宇殿と烈華さんは、その……恋人、なのですか?」


浩然の純粋な問いに、鳳嵐フォンランが剥き終えたばかりのはすの実を口に放り込みながら、冷静な口調で補足を入れる。


「正確には将来の伴侶ですが、本質的には『猛獣使いと猛獣』ですね。星宇殿が今のように浮ついたことを口にしたり、他所の女性に鼻の下を伸ばしたりすれば、物理的に烈華殿の制裁が飛びます。

……まあ、一種の自然摂理のようなものです」


「なるほど、自然摂理……」


浩然は深く納得したように頷き、再び烈華に押さえつけられて悶絶している星宇を、生暖かい目で見つめた。


「玲玲、あのお二人……とてもお似合いですね」

「ええ、本当に。……兄様のそばに烈華姉様がいてくれて本当に良かったですわ」

「おい玲玲!? 兄を売るのか!?」


わめく星宇を余所に、烈華は平然と茶を啜り、鳳嵐は「非効率な痴話喧嘩だ」と毒づきながらも、また新しい蓮の実に手を伸ばしている。

蓮華府の午後は、こうして賑やかに、そして少しだけ騒がしく過ぎていくのであった。



その夜、宿の庭園には涼やかな風が吹き抜けていた。

鳳嵐は、月明かりの下でまばゆい輝きを放つ漆塗りの箱を、恭しく玲玲の前へと差し出した。


「玲玲殿。君の類まれなる美しさを引き立てるために、街で一番の品を選んできた。」


箱の中から現れたのは、光の加減で文様が浮き出る最高級の反物たんものと、宝石のように細工された色とりどりの菓子。

そのあまりの豪華さに、玲玲は「まあ……!」と感嘆の声を漏らし、瞳を輝かせた。


鳳嵐は満足げに顎を引き、傍らで薬箱を整理していた浩然を、勝利を確信した視線で射抜く。


「……ウー殿。これらは真の目利きが、相応の対価を払って初めて手に入れられるものだ。君のようなしがない薬売りには、到底用意できないものだろう?」

「ええ、さすが鳳嵐殿、素晴らしい審美眼だ。私には逆立ちしても真似できませんよ」


浩然は、嫌味を柳に風と受け流しながら、懐から小さな紙包みを取り出した。


「そうだ、玲玲。これは市場の隅で安かったから買ってきたんだが、冷え性の薬草だ。君は夜になると足元が冷えるだろう。煎じておいた」

「……薬草、ですか?」


玲玲が不思議そうに首を傾げると、鳳嵐は鼻で笑った。


「雑草と見紛うような代物だな。玲玲殿、そのような苦いだけの泥水を飲むより、この都一番の甘味を――」


しかし、その夜。

鳳嵐が目撃したのは、自分の想像を絶する光景だった。

宿の縁側に腰掛けた玲玲は、鳳嵐が贈った豪華な反物を大切そうに膝に置きつつも、その手には浩然が淹れた、湯気の立つ粗末な湯呑みを握り締めていた。


「……浩然様ったら、本当にお節介なんだから。こんなに苦いお茶、普通は好んで飲みませんよ」


玲玲は文句を言いながらも、その顔には、鳳嵐に見せたことのないほど甘やかで、心からの安堵が滲む微笑みが浮かんでいた。彼女はふーふーと茶を冷ますと、宝物でも味わうかのように、最後の一滴まで嬉しそうに飲み干したのである。


物陰からその様子を窺っていた鳳嵐は、衝撃のあまりその場に崩れ落ちそうになった。


「……嘘だ。私の……私が心血を注いで選んだ最高級の反物が、あんな道端の雑草に負けるというのか……!?」


あまりの狼狽に、普段は一分の乱れもなくきっちりと結い上げられた彼の髪が、数筋ハラリと額に落ちる。


「……計算が合わない。……愛の重さは、市場価格に比例するはずではないのか……!」


夜風に揺れる彼の肩は、月光を浴びていつになく小さく見えた。


一方、部屋の中では、浩然が「明日も足元を冷やさないように」と、玲玲の靴の中にさらりと温熱効果のある薬布を仕込んでいた。

その無自覚な「生活密着型の愛」の前に、貴公子の美学は無慈悲にも粉砕され続けるのであった。


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