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星漢共鳴曲  作者: ふじま
第3章
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第21話 再会

その甘やかな静寂をぶち破ったのは、玲玲リンリンの兄・星宇シンユーであった。


突然、荒れ寺の屋根が轟音と共に崩れ落ち、もうもうと舞い上がる塵芥じんかいの中から、泥だらけの男が降ってきた。


北斗派の次期当主たる星宇は、侠客というよりは貴公子然とした華やかさをまとう男だ。整った目鼻立ちに、いつもなら人を食ったような不敵な笑みを湛えているのだが、今はその優雅さは微塵みじんもなく、全身埃まみれで喚いている。


「い、痛てて……! なあ烈華リェファ軽功けいこうをしくじったぞ! ……お、おわっ!? 玲玲!? なんだその、人に見られちゃまずいような空気は! 邪魔したか!? というかその男、誰だ!」


目を白黒させる星宇の頭を、天井の穴から舞い降りた烈華が容赦なく踏みつけた。


「……黙れ。玲玲!無事で良かった。遅くなってすまない」


星宇と同年代の烈華は、長身で艶やかな美女だが、背に負った大刀『断鉄だんてつ』と凛とした佇まいからは、確かな女侠の風格が漂っている。


そこへ悠々と入口から現れたのは、かつて玲玲と行動を共にしていた錦衣きんいの貴公子、魏鳳嵐ウェイ・フォンランだ。落ち着き払っていた彼の表情は、玲玲の姿を認めた途端に強張った。


「玲玲殿! 本当にすまなかった、貴女を見失うなど……って、その破廉恥な距離は何だ!」


鳳嵐が、浩然と玲玲の密着ぶりに目を剥いた。



星宇、烈華、鳳嵐の合流により、先程までの熱を孕んだ空気は霧散し、荒れ寺は一転して喧騒に包まれた。

浩然ハオランが我に返ったように玲玲を離すと、支えを失った体がわずかに揺れた。


(いけない……これ以上の醜態は晒せない……)


彼は懸命に毒の激痛を押し殺し、壁を背にして姿勢を正した。だが、鋭い観察眼を持つ星宇の目は欺けなかった。


星宇は、妹が信頼しきった瞳で見つめるこの「見知らぬ男」を、値踏みするようにじろりと眺めた。

最初は、大切な妹を掻っ攫おうとする不埒な輩かという警戒の色を宿していたが、玲玲が浩然の側に寄り添い、必死に彼の無事を喜ぶ姿を見て、ふっとその口角を上げる。


「…⋯そんなに顔を真っ白にして、幽霊と間違われるぞ? 浩然殿と言ったか。あんた、相当無理をしているな」


星宇はニヤリと人を食ったような笑みを浮かべながら浩然に歩み寄り、懐から小さなうるし塗りの小瓶を取り出した。


「玲玲をここまで守ってくれた手間賃だ。北斗派秘伝の回天丹かいてんたん――毒だろうが怪我だろうが、死ぬ間際じゃなけりゃ一息つくくらいの時間は稼げる。とっとけよ」


「星宇殿、そのような貴重なものを……」 


「いいから飲め。玲玲がそんなに案じている男に、ここでくたばられたら私の寝覚めが悪い」


浩然は差し出された薬を躊躇いながらも口に含んだ。瞬時に、腹の底から温かな気が巡り、荒れ狂っていた毒の脈動が静まっていく。完全な解毒とはいかずとも、立ち上がる体力すら危うかった先ほどまでとは雲泥の差であった。


互いにひとしきり状況を説明し終え、浩然の顔にわずかに血色が戻ったのを見届けると、星宇は彼を焚き火のそばへ連れ出し、ニヤニヤと意地悪く肩を組んだ。


「浩然殿、改めて礼を言う。妹が世話になった。……お人好しなのは結構。だが、佳人を焦らすのは野暮というものだぞ。

ほら、玲玲のあの顔を見てみろ。君に抱き寄せられるのを待ちわびているじゃないか」


「星宇殿! そ、そんな滅相もない……! 私はただ、彼女を安心させようと……」


からかい混じりの言葉に、浩然は耳まで真っ赤にして狼狽える。

魏鳳嵐はそんな浩然へ、拭いきれぬ不信感と苛立ちの混じった胡乱うろんな視線を突き刺していた。


一方、玲玲の隣に座った烈華は、無骨な刀を磨きながら、周囲に聞こえぬほどの小声で問いかけた。 


「……玲玲。あの男はお前が思っているよりずっと、お前のことを『一人の女』として見ているぞ」 


「烈華姉様まで……! 浩然様は、私のことなんて手のかかる妹としか思っていませんわ」


玲玲は目を伏せ、寂しげに呟く。そんな妹分の横顔を見つめ、烈華はぽつりと零した。


「……男は、ただの妹にあんな必死な目は向けないさ」

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