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第9話 厄介な訪問者

 「いったい何の用なの、ガイン。あなたに渡す金なんてないわよ!」


 扉を蹴破って入ってきたエルフに、クラレット・シュナウがほうきを向けて精一杯の威圧をする。


 ガインという男は彼女を無視し、取り巻きたちに店のものを片っ端から漁らせた。


 「この町でまともな仕事をするには金がかかります。私らへの献金もその一つですよ」


 「生意気な! 何もしてくれないあなたたちなんかに払えると思ってるの?」


 「何……?」


 ガイはクラレットを睨みつけながらすごんで見せるも、彼女も引くことなく睨み返した。


 「女にしか威張れないとは、恥ずかしい限りじゃないですか」


 取り巻きの一人を手で突き飛ばしたジョン・マクノエンが、ガインに向かってその振る舞いの浅ましさを指摘する。


 「誰だ、あんた? 仮にも知識階級のワタシに向かって生意気な!」


 「知識階級とは誰のことだ? お前なんかより、ボストン大学の学生の方が何十倍も知的だと思うぞ」


 「何を言っているんだ! このわけのわからん奴に、しっかり教えてやれ!」


 ガインが命じると、取り巻きたちが実力を見せてやろうと拳の関節を鳴らしながら歩み寄る。


 「やめとけって。怪我するだけだから」


 ジョンの制止も聞かず、一人の拳が彼の顔面に向かって振り下ろされる。


 しかし、拳が届くより先にジョンの右足が、男の下半身にぶら下がる弱点を蹴り上げ、動きを止めてしまった。


 「ふぐぅ……!」


 「やめとけって言ったのに」


 ジョンは短く言葉をかけると、握りしめた拳をもう一人の取り巻きに叩き込んだ。


 もろに一撃を食らった取り巻きは、扉の方まで吹き飛び、そのまま外へと追い出された。


 「何なんだよ! おい、お前らも行け!」


 ガインが残った取り巻きに命令し、ジョンへと向かわせる。


 「まだやるってのか? 無理しちゃいけないよ」


 ジョンは呆れながらもステップを踏み直し、鋭い拳を打ち込んでいく。


 ジョンの拳を食らった取り巻きは壁に叩きつけられて悶絶し、最後の一人はその光景に絶望したのか、一目散に逃亡した。


 「最後の一人も逃げたが、どうするよ、とんがり耳の兄ちゃん」


 「うっ……覚えていろよ!」


 ガインが慌てて逃げ出すと、ボロボロになった取り巻きたちも後を追うように出ていった。


 「まったく。口だけの輩はこれだからいけない」


 ジョンは逃げ帰る一同を見て鼻で笑った。


 「なんて乱暴な男だ。殴り返した挙句にボロ雑巾みたいにするなんて」


 横で見ているだけだったマントが、ここぞとばかりに噛みつく。


 「なら、黙ってやられろってのかい?」


 「力を見せる者は、老いた時に報いを受ける。我らが受けてきた歴史だ。だから、力で奪い取られたものは、いずれ返ってくると信じている」


 「なんとも気長なこった」


 マントの言葉に、ジョンは両手を挙げて「やれやれ」というジェスチャーを見せると、言葉を続けた。


 「第一に、あいつらを率いていたとんがり耳はどうなんだ? 奴の周りにいた連中は早く死ぬかもしれないが、とんがり耳が老いるのは何年後になるか分からないじゃないか」


 「それは……」


 「お前さんの言葉は綺麗だが、それだけだ。だから、さっきのとんがり耳みたいな奴が、こうやって『しのぎ』をしてくるんだよ」


 「……」


 マントが言葉を失っているのを見て、クラレットはジョンの顔を覗き込んだ。


 「ジョン、あなたこういう荒事って得意なの?」


 「まあ、そういうのが仕事だったからな」


 クラレットはジョンの体格をしばらく眺めた後、考え込んだ。

 

 「仕事がないのなら、この店の用心棒をしてくれないかしら。住まいは、夫が使っていた部屋を貸すわ」


 「ちょっと、奥様!」


 クラレットの申し出に、マントが反対の声を上げる。


 「あなたがいてくれれば、私やマントも安心できるの。どうかしら?」


 「俺は構わんが、そこにいる兄ちゃんは不満みたいだぞ」


 ジョンに指をさされたマントは、苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振っていた。


 「いけません、奥様。このような荒くれ者を店に置くなど!」


 「お前みたいな考えなら、そうなるわな。だが、決定権を持っているのはこちらのご婦人だぜ」


 「くっ……!」


 「ところでご婦人。さっき来た連中は、この町全体を仕切っているのか?」


 ジョンが質問すると、クラレットは首を横に振った。


 「彼らが仕切っているのは、中央街道の西側にある農業地域よ。この町は国境に近いせいで、人攫いなんかも多いの」


 「ほう、人攫いもね……」


 ジョンは一通りの事情を聞いた後、少し考え込んだ。


 「その用心棒の件、受けようじゃないか。ただ、少し自由に動かせてもらうよ」


 「え?」


 言葉の意味が分からなかったクラレットだが、ひとまず返事をもらえたことに安堵し、それ以上は詮索せずにいた

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