第8話 ラテラル
クラレット・シュナウの住まうメルシェンへ向かう事にしたジョン・マクノエンは、未舗装の道路を愛車を揺らしながら進んでいた。
「アンタの国、メルシェンだっけ?俺が言うのもなんだが、田舎過ぎないか?」
道路のうねり具合に参ったかのように、ジョンがクラレットに漏らすと、彼女の顔が暗くなっていた。
「気にしていたのか?すまんな。思ったことを直ぐに口にするタチなんだ」
「・・・・わるい」
「ん?」
ボソボソとクラレットが言う言葉を聞き取れなかったジョンが、彼女の顔を確認する。
彼女の顔は、次第に青くなっていき、口数も徐々に減っていった。
「もしかして、車酔いか?」
「気持ち悪いの。少し止めて頂戴」
ジョンは、慌てて車を隅に停めると、彼女の乗っている側の扉が勢いよく開けられた。
昨日からの緊張と慣れない車に耐えられなかったクラレットは、気持ち悪さを紛らわすために深呼吸をしていた。
ジョンも外に出て周囲を見渡してみると、少し行った先にある大木を囲んだ街を見つけた。
「ご婦人。もしかして、アンタの町っていうのは、あれのことかい」
「そうよ。あそこに見えるのが、『ラテラル』。メルシェン・マーゼン間の国境にある町で、私の住んでる所よ」
ジョンに聞かれた彼女は、そこについて指さしながら説明する。
「国境の街にしちゃ、そこまで栄えてねえな。俺を拾った町の方が、建物とかも多かった感じだし・・・・」
後ろから感じる殺気にジョンの言葉は、止められた。
「まぁ、田舎なのは否定しないわ。でも、マルサラみたいに下卑た豪華さは、この国に必要ないのよ」
少し強がりに近い言葉で、自身を奮い立たせたクラレットに、ジョンは少し微笑んだ。
「さあ!もう一息だから、頑張ってよ」
「はい、はい。頑張りますよ」
フォードのアクセルを噴かしたジョンは、丘を下っていきラテラルへと向かった。
「なんだ?あれ」
「新しい馬車?馬は、何処かしら」
町の皆が、この奇妙な乗り物に目を奪われているのにクラレットは、少し上機嫌になっていた。
「あの路地を抜けた先が私の店よ。これは、馬車小屋に入れてくれる?」
「了解」
ジョンが愛車をクラレットの店へと乗り入れる。
道側には、小さいながらしっかりした木造建築で建てられた交易店であり、裏に馬車用の小屋と住まいが設けられていた。
「おかえりなさいませ。奥様」
店番をしていたエルフがクラレットを出迎えると、手で挨拶を返してから、そのまま奥にある部屋へと入った。
「何かあったのでしょうか?あんなに動揺なされて」
店番のエルフがそのように気にしているのを後ろで見ていたジョンは、無視されていることを気にせずに店内を見て回った。
「交易商って言っていたから、多くの在庫を抱えていると思ったが、店のたたずまいや規模からして、仲卸の方が近いんじゃないか?」
ジョンは、あえて店番に聞こえるような声で、店内を皮肉ると、怒りの籠もった視線を店番が向けてきた。
「・・・・何者ですか?奥様と一緒だったみたいですが」
「彼女が拾ってきた海ごみだよ」
「なら、ゴミ箱に戻しませんと」
喧嘩腰で向かってくる店番の声を後ろに聞きながら、今度は店のものを物色し始めるジョンへと近づいていった。
「やめなさい、マント!」
奥の部屋から出て来たクラレットが店番ことマントに向かって注意すると、彼とジョンが振り向いた。
革製の茶色いベストとリネンの上着、綿製のズボンを履いて出て来たクラレットは、さっきまでの気品ある姿ではなくなっていた。
ジョンからしたら西部開拓時代に、一人で店をきり盛りする為に、店と結婚した女ってイメージであった。
「この人は、私が拾ってきた者よ。マントには、貸してあげないんだから」
「借りる気もありませんよ。なんで、こんなみすぼらしい生き物を連れて帰ってきたのですか?」
マントとクラレットの言葉使いから、彼女達が選民思想にかぶれていることを察したジョンは、少し呆れながら会話が落ち着くのを待った。
「大体、何故私達が他種族のような《《労働》》をしなければならないのですか?元々は、短命種に知識と道徳を与えて、敬われていたというのに」
「それは、我らの先祖達が作っていた叡智であって、私達のものでは無いのよ。それを『自分もそうなるべき』と考えるのは、全くお門違いというべきでしょうよ」
クラレットがマントを叱責すると、後ろで物色していたジョンは、高笑いしていた。
「何がおかしい!貴様みたいな短命種に笑われる故はないはずだ」
「いやいや。そこのご婦人が、あまりにしっかりしているなと思ってね。あんたに比べれば、よくできた人物だよ」
「何を!何も知らないよそ者が、生意気なことを」
「お前がしたい事は、紙とペンがあれば出来ることだろう。だから、彼女は将来のための行動を行っているんじゃないのか?」
マントが歯ぎしりしながらジョンに掴みかかる勢いで近づく。
だが、彼が掴みかかる前に、店の扉がひどい音ともに開かれた。
「おい!集金に来たぞ」
数人の屈強そうな者達に囲まれたエルフが、クラレットの店に入ってきた。




