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第7話 転移者

 「・・・・で。気がついたら、あの入り江に流れ着いていた訳なのね」


 襲撃者から逃れたジョン・マクノエンとクラレット・シュナウは、彼女が経営する交易事業の拠点に身を寄せていた。


 「正直言って、アメリカ(ステイツ)とか欧州エウロパの話をしても、無反応だった時は『こいつ、大丈夫か?』と思ったが。おかしいのが俺だと分かって、ある意味安堵したよ」


 「別世界の転移ていうのは、伝記にしか記載がないレベルの出来事だからね。ここ2、300年に起こったことは、無いわ」


 「それほどに、おかしい出来事なんだな」


 「当たり前よ。あなたの世界にオークやトロルが物語にしか出てこないのが、いい例だわ」


 彼女は、部屋に置かれている本を一冊取り出すと、ジョンの前に持ってきた。


 「『神に呼ばれた者』って、この本が何だって言うんだい?」


 「今から400年くらい前に現れた片腕の騎士が話した世界について、偉大なるニューグ教団が纏めた書籍よ」


 「変わった本だな。片腕の男ってのは?」


 「自身のことを『ゲッツ・ベルリヒンゲル』と名乗っていたそうよ」


 「『鉄腕ゲッツ』かよ!」


 ゲッツ・ベルリヒンゲルとは、1500年代に活躍した悪徳騎士である。

 彼は、片腕になりながらもヨーロッパ各地で暴れ回っていた男であり、その悪行や豪胆さが歌や演劇へと用いられ、ヨーロッパはおろかアメリカでも認知されるような人物となっていた。


 「ゲッツがこの世界に来ているとわな」


 「彼は、勇猛な指揮官だったそうだけど、粗暴な性格だったみたいね。《《私の父が》》晩年の彼と面識があってね」


 「何?父親って、この男がいたのは、400年前のことだろ。ハッタリを噛ますにしても、もっと現実味がないとな」


 ジョンが笑いながら、彼女の言った言葉を受け流そうとするも、真面目な顔で見つめる彼女を見て、笑みが凍りついた。


 「マジなのか?」


 「私達の種族は、長寿なのよ。私だって今年で150だしね」


 目の前にいる20代後半くらいと思っていた女性が、自分よりはるか年上であることを知ったジョンは、目を覆ってから大きくため息を吐いた。


 「頭が追いつかねぇよ。君みたいな若い見た目の子が、俺より120も年上とはね」


 「人間から見たら、そうかもしれないけど。こう見えてエルフの中では、だいぶ若い方よ」


 「そうなのか?まぁ、気にしたところで俺の頭で考えるだけ無駄か」


 ジョンは、机に置いてある水を口にすると、本の方を指さした。


 「このような本を書かれたって事は、少なからず俺みたいな『転移』してきた人が一定数現れたんだな」


 「ええ。この本が記された時も、歴史に影響を与えない程度の転移者が現れた事があるわ。父は、この時期を『知恵の恵みブーン・オブ・ウィズダム』と呼んでいたわ」


 「『神の英知』ね。何とも尊大な名前を付けたじゃないの」


 ジョンは、目の前に置かれている本を開くと中に書いてる言語を理解できたので、更なる疑問をクラレットへぶつけた。


 「ところで、なんであなたら使う言葉や文字が、俺にも理解できるんだ?」


 「そのことは、私もよく知らないのだけれども、そちらに出てくるゲッツ氏も普通に会話が出来ていたみたいですし、何かしらの神の加護があるのでしょう。なぜか、関わる者達の言葉が理解できているみたいなので」


 「何とも都合のいい事だな。まぁ、そっちの方がありがたいものだしな」


 ジョンがそう言って、視線を本に戻した。


 ”私は、ここ30年に渡るドワーフとの戦争に従軍している時に片腕を失った老兵に出会った。

 その男は、自身の名を「ゲッツ・ベルリヒンゲル」と名乗り、偉大なる騎士であると自称していた。

 わが軍の指揮官は、彼としばらく話した後に、人間の兵士たち数十人を指揮下に与えて遊軍として扱うことに決め、彼もそれに同意した。

 彼の軍は、南部へと進軍していくと、街道から外れた村々を焼き払い、主要都市へと難民を追い立てて行った。

 都市に集まった難民たちは、ゲッツの軍に怯えて都市から出てこない状態になり、最終的に戦わずに降伏してきたのである。

 私は、この戦いを勝利に導いた彼に興味があったので、戦闘後に彼の陣地を訪問することにした。

 彼は、私にワインを注ぐと、勝利の秘訣について「神が俺をこの世界に連れてきたことだ」などとはぐらかしながら答えたが、後ろに吊るされているエメラルド色のギフトボールが何か関係があるのではないかと推察している。

 彼についての疑問は多かったものの、数年建つと寿命で亡くなってしまい、問うことは出来なかった。

 だが、彼のもたらした影響は、我らの種族を含めたメルシェンの戦略史に大きな影響をもたらすことになった。

 また、これを製作するに当たって、近隣諸国にも資料を求めて行ったところ、同時期にゲッツと同じような人物が現れるという事案が発生していたことが分かった。”


 「・・・・何とも、参考にならねえ本だな」


 ジョンは、一通り読んだ後にボソッと呟いた。


 「でも、この本にいる人物みたいに、この世界に『転移』して来る人間たちは、何かしらのスキルボールをニューグ神からもらっているみたいなのよね」


 「このガラス玉がね。確かに、特殊な能力があるのは事実だが」


 ジョンは、首に下げていたスキルボールを眺めていた。


 「ところで、これからジョンは、どこにいるつもりなの?」


 「特に考えていないな。行く先も無いしね」


 「だったら、私の国に来ない?」


 クラレットは、ジョンに提案する。


 「お前さんの国か・・・・行く当てもないから、送ってやるついでに行ってみるか」


 「決定ね」


 こうして、ジョンはクラレットの母国である「メルシェン」へ向かうことが決定した。

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