第6話 襲撃者と好々爺
「はぁ!はぁ。はっ!」
襲撃された馬車から、何とか這い出してきたクラレット・シュナウは、必死にその場から逃げていた。
慣れていない森林の中を駆け回る彼女の足には、細かな傷がいくつもついており。
真っ黒なドレスは、あちらこちらが裂けてしまった為に、型が崩れていった。
限界であった彼女の足は、少し出ている木の根に引っかけた事で、その場に倒れこんでしまった。
「痛たた」
クラレットがよろよろと立ち上がると、周囲を囲む怪しげな者たちが、武器を構えていた。
「一体、誰からの差し金なの?」
「あなたには関係ない」
襲撃者達は、じりじりとクラレットへと近づいていく。
「ご覚悟を!」
間合いに入った襲撃者が、勢いのままに短剣を振り上げる。
「パン!」
乾いた炸裂音と閃光が、木々の向こう側より発生すると。目の前にいる襲撃者の頭が、ザクロのように砕け散った。
「なっ!」
襲撃者が後ろを振り向くと、子気味の良い発動機の「ブルルンッ!」という音が響き、ヘッドライトが彼らの姿を照らした。
「どかねぇと痛い目見るぞ!」
ジョンの大声とクラクション音が森に響かせると、一気に走りこんでくる。
襲撃者達が、突っ込んできたT型フォードにより、クラレットと囲いをとくと、彼女の前に横付けしたT型フォードの扉を開いた。
「早く乗れ!」
ジョンが運転席から手を伸ばすと、クラレットが彼の手を掴んで乗り込んでくる。
彼女が乗り込むと、アクセル踏み込んで枝木が邪魔をる雑木林を抜けると、林道へと出て行って駆け抜けていった。
「あれは、一体?」
「頭には、どういいますか?」
「私が報告しておこう。後始末をしておけ」
襲撃者達は、通り過ぎていくT型フォードを眺めていた。
「追っては、来ないみたいだな」
「これは、一体?馬車とは、違うみたいですが。あなたの能力で呼び出したのですか?」
初めて見たT型フォードに驚くクラレットが、そわそわしながらジョンへと問う。
「俺のいた国が生んだ偉大な発明品だよ。それより、道案内を頼む。何せ、初めて通る道なんだからな」
「分かったわ。まずは、この林道を抜けてからね」
彼女は、なんとも座りにくそうにもぞもぞと位置を変えながら、ジョンへの道を教える。
ガサガサと周囲の木枝が擦れる音が次第に止み、道の広さを感じたジョンは、少しアクセルを緩めると周囲を見渡した。
「ここまで離れりゃ大丈夫だろう」
「なんで私が襲われなきゃいけないわけ!ほんっとに有り得ないんだけど」
今になって怒りが込み上げて来たクラレットが横でキーキーと叫ぶ中で、ジョンがこの世界に連れ込まれた意味を見出だせないでいた。
その頃、クラレット殺害に失敗した襲撃者達は、雇い主のもとに戻っていた。
「なんだと!しくじっただと!?」
雇用主のゴブリンがブチ切れながら、持っていたパイプを投げつけた。
「貴様らは、ただ飯を食うだけの無能か!エルフ1人殺せんとは」
「まぁ、そう怒るな。君の部下たちは、苗木の回収という仕事には成功しているんだ。上出来じゃないか」
怒れるゴブリンをなだめながら、パイプに火を着けるジョウノ・タピオスは、襲撃者の顔を見ながら、話を続けた。
「それよりも、あの男だ。何者か知れないが、変わった風体の人間であった。しかも、あの格闘技を知っているような動きでガディールを倒して見せおったのだ」
「あの格闘技は、市長が古の書籍の中から掘り出したものでしたな。やつが何故」
「とにかく、ジョン・ドーについての情報を集めよ。くだらないものでも多くだ」
ジョウノがそう言ってゴブリンに命令していると、外から慌てた様子の使用人が部屋に入って来た。
「旦那様!カリュウ会長がお越しになっております」
「カリュウ会長だと!三港会のか?」
ジョウノが慌てて使用人に問うていると、件の男がのそりと顔を出した。
「マーゼン国内で一二を争う港湾都市の市長ともあろうものが、この程度の始末屋しか入れていないとは、いささか不用心ではありませんかな?」
ジョウノが恐ろしそうな顔で、目の前にいる老齢な小人を見つめていた。
この男は、マーゼン公国の港湾都市を縄張りにしている一大組織「三港会」を取りまとめる「総代」カリュウ・ダイフである。
「港湾の総代が、私のようなものに何の用ですかな」
ジョウノが、震えながらも虚勢を張ろうと、椅子から降りて近づいていく。
「いやいや。今日は、この町に住む友人を訪ねに来たのですがね。近くにある森林にて奇妙な物音と怪しげな一団が見えたので、友人の案内の下で訪れたのです」
「一体何の話ですか?私どもがそのようなことしている証拠もないのに」
「あんまり行儀の悪い事を言うものじゃないですよ。ろくな目にあいませんよ」
カリュウがそう言って、近くにいたゴブリンの首を掴んでへし折る。
「何をなされる!」
「なに。薄ノロを一人潰しただけですよ」
「・・・・私に何をさせたいのだね」
「今回は何もありませんよ。ただ、おいたをする時は、目立たないようにしなさいよと、警告に来ただけですよ」
そう言って、カリュウが部屋から出て行った。
「まったく・・・・今日は、厄日だ」
部屋から出て行ったのを確認したジョウノは、襲撃者達が取り返していた苗木を確認しようとカバンから取り出した。
「ん?なんだ、これは!」
彼が怒る狂うように叫びだした声を後ろにカリュウは、少し強張った顔をほぐしていた。
「だらか、まともな奴を置いておけと言ったんですよ」




