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第48話 裁判に向けて

 三港会サイガンフのゾーイによってジョンファミリーとの停戦が締結されると、マルサラ市長であるジョウノ・アピオスは、安堵の表情を浮かべながら司法官たちのもとへ向かった。


 「司法官。少しお話をしてもよろしいかな?」


 「おや? ジョウノ市長ではありませんか」


 グラスにワインを注いでいた司法官は、突然の訪問に目を丸くした。


 「どうなされました? わざわざお越しにならずとも」


 「そうもいかん。今日は、ジョンの釈放を求めに来たのだ」


 その言葉に、司法官は驚いたようにジョウノを見つめた。


 「そんな無茶を言わないでください。第一、市街であれほど暴れた犯罪者を釈放などできるわけがないでしょう」


 司法官の言い分はもっともだった。中央通りでは無数の死傷者が出ており、一般市民も恐れて近づかなくなっている。


 「それは分かっている。だが、彼らの働きによってこの町の発展が支えられてきたのも事実だ。何より、三港会が講和を求めてきた」


 「たとえ三港会が講和を望んだとしても、あの惨状を引き起こした者を許すわけにはいきません。司法を司る者として、それを認めれば私の沽券にも関わります」


 「……そうか」


 ジョウノは短く答えると、静かに部屋を後にした。


 その足で、彼は牢獄にいるジョン・マクノエンのもとへ向かった。


 「よう、市長さん。今日はどうしたんだ?」


 暗い表情を浮かべるジョウノを見て、ベッドから身を起こしたジョンが問いかける。


 「先ほど司法官のもとを訪ねたのだが、あまり芳しい返答は得られなかったよ」


 「まあ、普通はそうなるよな」


 ジョンは、自分のやったことを思い返しながら苦笑した。


 「すまない。力になれなくて」


 「構いませんよ。……ところで」


 「何かね?」


 「俺を捕まえた時、警備隊長が俺のことを『ジョン・ドー』って呼んでいましたよね?」


 ジョンの言葉に、ジョウノは不思議そうに首を傾げた。


 近くに置かれていたジョンの報告書を手に取り、中身を確認する。


 「確かに名前は『ジョン・ドー』と書かれていますね。それが何か?」


 「そうか……」


 それを聞いたジョンは、口元を歪めて笑った。


 「だったら、案外早くここを出られるかもしれねえな」


 「?」


 ジョウノには意味が分からないまま、裁判の日を迎えることになった。


 「ジョン・ドー。裁判を行う。出ろ」


 「はいよ」


 看守に呼び出されたジョンは、ふてぶてしく立ち上がると、手枷を付けられて牢から連れ出された。


 搬送用の馬車に押し込まれたジョンは、外の見えない鉄格子付きの荷台で、ぶつぶつと独り言を呟いていた。


 「おい! ぶつぶつとうるさいぞ」


 搬送担当の警備隊員が、鉄格子を拳で叩く。


 馬車は海岸沿いに並ぶ行政施設の一角へと入っていった。


 石造りの二階建ての建物には、見事な装飾が彫り込まれた大きな正門が構えている。


 「また随分と立派な建物だな」


 「おい、無駄口を叩くな」


 馬車から降ろされたジョンの足を、警備隊員が軽く棒で叩いた。


 「痛ってぇ! そんな乱暴するなよ」


 「今回の裁判は、お前を含めて二人いるんだ。手間を取らせるな」


 ジョンの後ろには、ぼさぼさの髭を生やした老人が、抜けた歯を見せながら笑っていた。


 「よう、お隣さん」


 老人はそう声をかけると、よぼよぼとした足取りで階段を下りていく。


 「アンタと顔を合わせるのは初めてだな」


 「そうなるね。よろしくな、《《ジョン》》」


 「こちらこそ。よろしく頼むよ、爺さん」


 ジョンが笑いかけると、老人も応えるように笑った。


 「本日の被告人、『ジョン・ドー』、『ノーガンル《名無し》』を連れてきました。手続きをお願いします」


 「承知しました」


 簡単な手続きを済ませた警備隊員たちは、そのまま馬車に乗って去っていった。


 「二人とも、裁判官たちの準備ができ次第、中へ入ってもらう。それまでここで待機してくれ」


 守衛にそう告げられ、ジョンとノーガンルは近くの階段に腰を下ろした。


 「なあ、爺さん。ちょっといいか?」


 「何だい?」


 しばらく二人が小声で話し込んでいると、守衛が再び近づいてきた。


 「二人とも。中へ入っていいぞ」


 こうして、二人の運命を決める裁きの時が近づいていった。




 


 

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