第47話 使者
三港会とジョンファミリーの抗争が、一応の終結を迎えたマルサラに、三港会所属の船舶が入港してきた。
「おい……三港会だぞ」
「また揉め事になるんじゃないか?」
港で作業をしていた者たちは、不安そうな表情を浮かべていた。
船から差し出された渡し板を渡り、一回り大きな一つ目の巨人が姿を現すと、港の者たちはさらに驚いた。
「ここがマルサラか」
一つ目の巨人ゾーイは、周囲をきょろきょろと見回していた。そこへ、マルサラ警備部隊が慌ただしく駆けつける。
「おい! 貴様、何をしに来た!」
警備隊員が大声で問い詰めると、ゾーイは頭を掻きながら鋭く睨み返した。
「お前らに用はない。市長の下へ案内しろ」
その威圧的な声に怖気づいた警備隊員は、慌ててジョウノ・タピオスの下へ走っていった。
しばらくして、ジョウノが警備隊員たちを伴って姿を現す。
「三港会の幹部の方ですな。一体、どのような御用でしょうか?」
ジョウノが訪問理由を尋ねると、ゾーイは持参していた停戦宣言書を差し出した。
「我々は、ここ数か月に渡って続いていたジョンファミリーとの抗争を終わらせるために来た。これが、その宣言書だ」
「なんと……停戦を申されるのか」
困惑した表情のまま、ジョウノは書面を受け取り、中身へ目を通した。
「……この内容が本当なら、今後は争わないということか?」
「《《当分は》》、ですがね」
ゾーイの返答に、ジョウノは不満げに眉をひそめながらも、停戦宣言書を懐へしまった。
「遠方より遥々お越しくださったのだ。宿でゆっくり休んでいただこう」
「それはありがたい。久々の長旅で、少し疲れたのでな」
そう言うとゾーイは、ジョウノに案内され、かつてヒゼンが命を落としたルペンシャホテルへ向かった。
「ところで、ジョンファミリーのボスはどうなったのだ?」
「現在は、一連の騒動の責任を取らされ、留置されています」
ジョウノの説明を聞きながら、ゾーイは顎を撫でる。
「すべての罪を償うってわけか……。そいつに会わせてくれないか?」
「構いませんよ。ここからすぐです」
ジョウノはゾーイを連れ、警備隊が管理する牢獄へ向かった。
独居房で横になっていたジョン・マクノエンは、退屈な時間を持て余していた。
顔には無精ひげが伸び、着替えもしていないのか、服は薄汚れている。
「おい、ジョン! 面会だ」
「おや。今日の差し入れは早いな」
いつもの面会だと思っていたジョンは、気楽な口調で返した。しかし、看守の険しい表情を見て、相手が違うと察する。
「ジョンよ。調子はどうだ?」
「これは市長。わざわざ、こんな小汚い場所へようこそ」
ジョウノに対して軽口を叩いていたジョンだったが、その背後に立つ大柄な男を見て、わずかに目を見開いた。
「初めまして。ジョンファミリーのボス」
「ご丁寧にどうも。一つ目の男を見るのは初めてなんだ。もう少し、ゆっくり眺めたいね」
ジョンの舐めた態度に、ゾーイはわずかに眉をひそめた。しかし、自分は停戦の使者だと言い聞かせ、怒りを押し殺す。
「私は三港会のゾーイという。今回は、三港会とジョンファミリーの抗争を終わらせる使者として来た」
「抗争を終わらせに、ねぇ」
ジョンはふてぶてしくゾーイを見つめながら呟く。
「何か不満でも?」
「いやなに。お宅のヒゼンさんも同じことを言っていたが、もう一人の方が納得しなかったようでね。結局、ご破算になっちまった。だから、不信感があるんですよ」
「納得してもらうしかない。こちらも要を失いながら、それでも歩み寄っているのだからな」
「よく言う。自作自演で抗争を続けようとしたくせに」
「ふざけたことを……」
互いに敵意を隠そうとしない二人を見かねて、ジョウノがわざとらしく咳払いをした。
「ジョンよ。彼らは、これまでの抗争による損失について、一切の賠償を求めておらんのだ。いい加減、手打ちにせよ」
「市長。俺はここでの暮らし、案外気に入ってるんですよ」
「馬鹿を言うな。お前が詫びれば、三港会は許すと言っている。素直に受け入れろ」
「……」
「ジョン!」
「分かった。分かりましたよ」
ジョンはなだめるように手を上げ、興奮しかけたジョウノを制すると、改めてゾーイへ向き直った。
「ゾーイさん。此度の件については、私からも詫びさせていただく。ヒゼンさんは、かなり出来た男だった。だから、彼が提示した講和案を受け入れたいと思っている。あなたの方で追認してもらえないだろうか?」
「いいだろう。このゾーイが、ヒゼンに代わって受け入れよう」
「これで決まりだな」
ジョンとゾーイは、牢越しに固い握手を交わした。




