第46話 後始末に向けて
マルサラ中央通りで起こった三港会とジョンファミリーの抗争は、三港会の港代スベル・マーシュが負傷し、ジョンファミリーのジョン・マクノエンが収監されるという結果で終結することとなった。
その後に判明した被害として、ジョンファミリー側はマント以下死者六名、負傷者十二名。三港会側は、船頭ブラフ・マーシュ以下十八人が死亡し、十二人が負傷したままマルサラに残されていた。
撤退できた三港会構成員の中にも負傷者は多く、船を操る者たちは、かろうじて動ける身体を無理やり動かして操船していた。
「港代。動かないでください」
船に残っていた治療師が、スベルの砕かれた肩を治療していた。
「早く治療しないか!兵を再編して、復讐せねばならんのだ!」
痛みよりも怒りが勝るスベルは、手に持っている酒を口へ運びながら唸る。
「港代。こちらへ船が近づいてきます」
「旗は?」
「『一つ目のタコ』です。ゾーイ様の船かと思われます」
「っち。あの単細胞か」
スベルがそう言って部下を下がらせた。
しばらくすると、「どすどす」という地響きのような足音を響かせながら、ゾーイがスベルのいる治療師の部屋へ入ってきた。
「何とも情けない姿だな、スベル港代?」
「わざわざこんな所までお出ましとは。暇なのですかな、ゾーイ港代」
「まぁ、そう身構えるな。ジョンファミリーにやられたのであろう?」
ゾーイは、スベルが飲んでいた酒を奪い取ると、そのまま口へ流し込んだ。
「笑いに来たのか?要であるヒゼンの敵を討ちに行った結果が、これだぞ」
「いや。むしろお前を見直したのだ。自身の利益ばかり追い求める守銭奴かと思っていたが、そういう義理を通す場面もあるのだな」
「うるさい」
スベルがそう言って顔を背けると、ゾーイが彼の背中を叩いた。
「ぐっ……!」
「ははは。結果はこんな有様だが、儂は貴様を高く評価しているのだぞ」
「痛ってぇ!何しやがるんだよ!」
痛みに身体をよじらせるスベルを見ながら、ゾーイはここへ来た理由を話し始めた。
「ジョンファミリーとの抗争は、一旦保留だ。北の海にいた奴らが縄張りを広げてきた」
「『古の民』が?なんでまた」
ゾーイの訪問理由を聞いたスベルは、不思議そうに問い返した。
「古の民」とは、北部海岸に住む原住種族の者たちであり、三港会ともたびたび衝突している一団であった。
元々は人の踏み入らぬ地に住む者たちであったが、海域拡大の影響によって彼らの縄張りへ人々が侵入。
その際に操船技術を得たことで、外界へ進出するようになったのである。
「今はザイガルが対応している。総代からも、ジョンファミリーとの抗争を取りやめるお達しが出た」
「……っち。総代に言われたら、仕方ないな」
「『古の民』は、俺たちだけで相手をするには厄介な連中だ。下手をすれば、どこかと手を組んで抑え込まなければならなくなる」
「『船砕きのゾーイ』の言葉とは思えない弱腰だな」
「一人で戦うんじゃないんだぞ。とにかく、お前は港へ戻って再編に尽力しろってことだ」
「承知した」
スベルが渋々了承すると、ゾーイはニカッと笑って立ち上がった。
「俺は、ジョンファミリーとの再度の停戦交渉に行ってくる。くれぐれも無茶するなよ」
「お前こそ。下手に暴れるんじゃないぞ」
こうして二隻は、それぞれの目的地へ向けて舵を切った。
同じ頃。逮捕されたジョンは、警備隊長によって事情を問い詰められていた。
「……つまり今回の一件は、三港会とのすれ違いが原因だと、お主は言いたいのか?」
ジョンの説明を聞いた警備隊長は、不満そうに腕を組む。
「警備隊長さん。私だって、こんな事がなければ町中でドンパチなんてしませんよ。こっちは元々、市長襲撃の犯人を捜していただけなんですから」
「それは先ほどから聞いて分かっている。だが、市街地でこれほどの騒動を起こしたとなると……」
納得しきれない警備隊長は、不満げに椅子へもたれ掛かった。
「警備隊長」
「どうした?」
入ってきた警備隊員が、警備隊長へ何事か耳打ちする。
「……分かった。ジョンよ。しばらく独房で待っておれ」
「わかりました」
ジョンはそう言って、牢へと歩いていった。
ジョンが入れられた牢は二畳ほどの狭い独居房であり、藁を敷いただけの寝床と、排泄用のバケツだけが置かれていた。食事も、カビの生えたパンと薄いスープだけである。
「何とも、いい寝床じゃないの」
ジョンは肩をすくめながら、藁のベッドへ腰を下ろした。
「おい。おまえさん、新入りか?」
隣の房から、囚人が声を掛ける。
「ああ。ちょっと町中で暴れちまってな」
「馬鹿だなぁ。この町で暴れるなんてよ」
ジョンの答えに、隣の房から馬鹿にしたような笑い声と、どこか同情するような声が返ってきた。
「そっちのほうは古株みたいだけど、何をやったんだい?」
「なーに。昔、市長に糞を投げつけただけだ。あいつにムカついてたからな」
「お前こそ、馬鹿みたいなことをしてるじゃないか」
「違いねぇ!」
二人は少し笑い合った後、「はぁ」とため息を漏らした。
「ジョン!面会だ」
牢番に連れられたボブスが、中へ入ってきた。
「頭。お辛い立場に追いやってしまい、申し訳ございません」
「大丈夫だよ。それより、他の奴らの様子はどうだ?」
「多くの者が亡くなったので、皆かなり沈んでいます。特にクラレットさんは、マントとあなたが居なくなったことで、一時は取り乱していたほどですからね」
「そうか。何とか再編を進めてくれないか?」
「承知しました」
ボブスはそう言って、差し入れを手渡した。
「これをどうぞ」
「ありがとう」
ジョンは軽く笑いながら礼を言う。
「市長からは、一か月後に判決を言い渡す予定だそうです」
「ああ。報告ありがとよ」
報告を聞いたジョンは、ゆっくりと藁のベッドへ寝そべった。




