第45話 北海のスベル
中央通りにて響き渡る銃砲火の轟音を聞いたジョウノ・タピオスは、「ついに始まったか」と思いながら、その様子を眺めていた。
「市長! 中央通りにて三港会とジョンファミリーの者たちが衝突したそうです!」
「そうか。市民には周囲へ近づかないよう封鎖を。あと、素早く手入れが出来るよう、警備班を集結させておけ」
「は!」
命令を聞いた警備隊員は、すぐさま警備所へと走っていった。
(本当にいいのか? ジョンよ)
暗い顔で再び外の景色を眺めながら、ジョン達の行く末を思っていた。
そんな中央通りでは、ジョンファミリーと三港会が死力を尽くして戦い続けていた。
「負傷者を中に運び入れろ! 三港会の者も構わずだ!」
ラピドゥスの班が、負傷者たちをルートビッヒの屋敷へ運び入れていく。
複数人の負傷者が屋敷に運び込まれると、ルートビッヒが抱えている治療師たちが素早く怪我の処置を行った。
ジョンを含む残っている者たちは、目の前に現れた難敵――スベル・マーシュに手を焼いていた。
「ゴミ虫どもが! いかなる邪魔をしようと、このスベルを止めることは出来んぞ!」
スベルが手を振るごとに、硬化した液体が次々と飛び出し、ぶつかった者たちの体を貫通してジョンファミリーの構成員へ襲い掛かった。
「何とも厄介な奴だな」
弾切れになりつつあるトンプソンを構えたまま、ジョンが愚痴る。
「頭! ここは俺に任せてください!」
装甲荷台に乗っていたマントが、飛び降りて前へ進み出た。
「よせ! マント!」
ジョンの制止も聞かず、マントは持っていたモーゼルC96を構えて突っ込んでいく。
「くたばれ! 魚人野郎!」
怒りに任せてモーゼルの弾を叩き込むマントだったが、スベルが作り出した水の壁を撃ち抜くことは出来なかった。
「さっきからパチパチと……うるさいゴミ虫めが」
スベルがそう言って、マントへ赤い水の塊をぶつけた。
赤い水がマントの体を包み込む。
その瞬間、息が出来なくなったマントは、もがき苦しみ始めた。
「ゴボッ! ガボッ!」
空気を一切通さない水の壁は、マントの意識を徐々に奪っていく。
「マント!」
ジョンの大声が聞こえたのか、マントは彼の方へ手を伸ばした。
だが、その手が届くことはなく、力尽きた。
「クソが!」
ジョンは残っていたトンプソンの弾を撃ちまくった。
弾はスベル本人までは届かなかったものの、その水の壁をジョンの方へ集中させることには成功した。
「無駄だと言うに!」
スベルが苛立ちながら、ジョンの撃ってくる弾を止めていく。
「フグゥッ!」
うめき声と共に、スベルが前へ倒れ込んだ。
「港代!」
スベルの肩を貫いたのは、キャッシーが放ったG98の7.92ミリ弾だった。
貫通力の高いライフル弾を受けたスベルの肩の骨は砕け、もはや立ち上がることも出来ない状態となっていた。
「もはやこれまでだ! 港代を担いで避難しろ!」
立ち上がったブラフ・マーシュが代わりに指示を飛ばす。
他の三港会の者たちもそれに従い、裏路地へと避難していった。
「敵が逃げるぞ! 一気に押し込め!」
ボブスの命令に、生き残ったファミリーの構成員たちが次々と押し込んでいく。
銃弾を撃ち尽くした者たちは、最初に持っていた近接武器へ持ち替え、ブラフの下へ向かっていった。
「掛かってこい! 貴様らごときに負ける儂ではない!」
ブラフが立ちはだかろうとした瞬間――。
上から狙っていたキャッシーの弾が、無情にもそのこめかみを貫いた。
「あ、兄貴!」
目の前で倒れるブラフを見たスベルが悲痛な声を上げる。
だが、部下たちが足を止めることはなかった。
「マント! 生きているか!」
双方の死傷者が転がる中、ジョンがマントを抱き上げる。
だらりと力なく垂れた両腕と、空気を吸えなかったことで紫色に変色した唇が、すでに手遅れであることを示していた。
「っく……!」
「頭。なんとか連中を追い払うことが出来ました」
ボブスがジョンの下へ報告に来る。
「……被害は、どれ程出たんだ?」
「こちらの参加構成員二十六人中、十人が負傷、六人が死亡しました。三港会側の死者数はまだ不明ですが、こちらで保護している負傷者は十二人です」
「そうか。手当をしっかりしてやれ」
力なくジョンがそう命令すると、ボブスは一礼して指揮へ戻った。
「すまんな……。直ぐに助けてやれなくてよ」
ジョンは憐れむように、マントの亡骸を見つめていた。
「お前ら! 動くんじゃない!」
「沈まれ! マルサラ警備隊だ!」
不意に突撃してきたマルサラ警備隊の声に、後始末をしていたジョンファミリーの者たちが動揺しながらも掴み合いで応対する。
「今更、何をしに来た! もう終わったぞ!」
「ここにいるのは怪我人ばかりだ! 何もないぞ!」
互いに血の気が立っているせいか、徐々に収拾が付かなくなってきた。
それを察したジョンは、持っていたM1905を天へ向けて撃った。
「これは、俺が仕掛けた喧嘩だ。俺を連れて行ってくれ」
「いいのか? お前が全部背負っていくので」
警備隊長がジョンに手枷を掛けながら問うと、ジョンはこくりと首を縦に振った。
「よし。《《ジョン・ドー》》。お前を逮捕する」
こうして、中央通りで起こった抗争は、ジョンが捕まることで終結した。




