第44話 血塗られたストリート
中央通りに入ってきたスベル・マーシュ率いる一団を捉えたジョン・マクノエンは、改造されたT型フォードに乗り込んだ。
「ポイントに入り次第、合図の照明弾を上げろ。それまでは待機だ」
「了解」
後ろに座っていたマントが、フレアガンに弾を込めながら答える。
「連中は、ルートビッヒさんのお屋敷に向かっているみたいですね」
横に座っている運転手のエルフが、ジョンに告げる。
「そのようだな。連中に、相手が悪かったと教えてやろうじゃないか」
ジョンがそう言って、トンプソンの装填レバーを引く。
ルートビッヒの屋敷前には、ジョンの命令により、道を塞ぐように荷車が置かれており、困っている運搬員が謝罪をしながら通行を妨げていた。
「すみません。荷下ろしが済むまでお待ちください」
荷下ろしの指揮を執るようにしていたボブスは、周囲を通る者たちに詫びながら、三港会を待ち構えていた。
「氷の槍」
短い詠唱の後に飛んできた氷槍が、荷車の前にいるジョンファミリーの構成員へと向かってくる。
構えるのに遅れた彼の肩に、その氷槍が突き刺さり、襲撃の狼煙となった。
「敵襲だ! 備えろ!」
慌てるボブスと彼の部下たちは、近くの武器を手に取って、氷槍が飛んできた方向へ走っていった。
「砂針」
魔術師たちの唱える術は、ジョンファミリーの構成員たちを次々と射殺していき、ボブスを怖気づかせる。
「まずいぞ! 撤退だ!」
撤退の号令を聞くまでもなく、人数が減ったジョンファミリー側は、雲の子を散らすように逃げ散っていった。
「ふん! ジョンファミリーとかいう新興組織など、その程度よ」
スベル・マーシュが意気揚々と前を歩いていく。
「港代。まだ我らが仕掛けたことで混乱しているだけです。安全が確保できるまで、後ろでお待ちください」
近くにいたスベルの部下が自重するよう進言するが、彼はニンマリと笑いながらさらに前へ出た。
「儂を殺せるものならやってみろ。それこそ、あいつらの最後になるのだからな」
笑みを浮かべたスベルが、押さえつけようとする構成員を押し退けて前へ進む。
「バシュッ!」
風を切るような音と共に、スベルが吹き飛ばされるように倒れ込む。
「港代!」
倒れ込んだスベルを囲むように、三港会の構成員が集まっていく。
「港代を守れ! 盾を張れ!」
「了解! 甲羅の壁」
数人の魔法使いたちが、盾の呪文を唱える。
しかし、屋根の上から飛んでくる高速の鉛玉を止めることはできなかった。
「ぎゃっ!」
「ぐふっ!」
瞬く間に二人が吹き飛ばされていく。
空いた隙間を狙って、銃火器で武装した者たちによる一斉射撃が浴びせられた。
「連中の飛び道具だ! 守りを固めろ!」
銃弾の雨により、次々と倒れていく三港会のメンバーは、徐々に後ろへと下がっていく。
「下がるな! こっちも建物などを盾にして撃ち返せ!」
後ろから現れたブラフ・マーシュが、ブレードを振るいながら指示する。
港にいた構成員たちも集められた三港会は、数に任せて押し込みにかかった。
その瞬間を、ジョンは見逃さなかった。
「マント! 照明弾を上げろ!」
「了解!」
「ボン!」という音と共に、黄色く発光する弾が打ち上がる。
すると、ソウル・レコードら、建物の上に待機していた者たちが、一斉に撃ち下ろし始めた。
トンプソンや拳銃を撃ち込み続けたソウルたちは、硝煙と閃光を撒き散らしながら、集まっていた三港会員を次々と仕留めていく。
「よし! 車両を前に出せ!」
頭上を制圧された三港会のメンバーは、徐々に撤退しようと後ろへ下がっていったが、ジョンが改造を命じた装甲付き荷台によって進路を塞がれた。
「撃ちまくれ!」
ジョンの号令で、装甲荷台から突き出されたブローニングM1918と、フォードに据え付けられたルイス軽機関銃が火を噴いた。
「ハチの巣になれ!」
銃を手に高揚しているマントが、次々と構成員たちをなぎ倒していく。
余裕のなくなった三港会の面々は、何とか撃たれまいと身をかがめていた。
ブラフもその一人であり、スベルの遺体のそばに伏せていた。
「このままじゃ全滅だ! 嵌められちまった!」
「誰が嵌められたって?」
次の瞬間、生き残った三港会員を囲うように血の混ざった水の膜が作られた。
「この『北海のスベル』を舐めてもらっては困る!」
「スベル様!」
「港代!」
生き残った三港会の面々は、スベルの復活に歓声を上げ、士気を取り戻した。
粘性を持つ水に守られたスベルたちは、反撃へ移っていく。
「そらよっ!」
スベルが手を前に突き出すと、前方を守っていた水が、ジョン側構成員たちの体を貫いていった。
「ちっ! 水に気を付けろ。奴の能力だ!」
ボブスがそう言って、部下たちへ指示を飛ばす。
「あの男、変わった魔法を使うんだな」
「いえ! あれは奴の異能です!」
ジョンが車内から出て、スベルの猛攻に驚いていると、装甲荷台にいるマントが違いを説明する。
「じゃあ、あいつ固有の能力ってことか」
ジョンはトンプソンを構え直すと、そのままスベルたちへ向けて乱射した。
「ぎゃっ!」
スベルの周囲にいた構成員たちが、この弾丸によって倒れる。
だが、弾丸はすぐさまスベルの操る粘性の液体によって受け止められた。
「やけに硬い水だな……」
スベルの堅い守りに、ジョンが悪態をつく。
この厄介な男を、果たして何とかできるのか――。




