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第42話 最悪の事態

 「なんてことをしたのだ、この馬鹿者ども!」


 帰ってきたソウル・レコードとラピドゥスが、ジョン・マクノエンの入院する治療所にて、ボブスから叱責を受けていた。


 「お前たちは、今がどんな時か分かっていないようだな。今、三港会と揉めるようなことがあったら、せっかく苦しい和平案を飲んでくれたジョンの努力を台無しにすることになるのだぞ」

 

 「申し訳ございません。私たちは、少しでも早く頭を襲った奴を捕まえようと必死になって……」


 「だからといって、こちらに伝えずに乗り込み、挙句の果てには三港会サイガンフの連中とつかみ合いをするとは……」


 「……」


 叱責された二人が頭を下げているのを見ながら、ジョンは呆れたように肩をすくめた。

 

 「もういいよ、ボブス。こいつらは、俺のために頑張ってくれたんだよ」


 「だからといって、このような対応は……我らに敵意があったと見做されます」


 「そうなれば、今までの話は無かったことになる。そうなれば、遊んでいる余裕もなくなるだろうからな」


 ジョンがそう言うと、置いていた羊皮紙に黒い線を引き、ボブスに手渡した。


 「彼らを起用する。ほかの連中は、その下につけよう」


 「分かりました」


 ボブスが下がっていくのに代わり、ジョウノ・タピオスが慌てた表情で入ってきた。


 「大変なことになったぞ! 三港会の要であるヒゼンが亡くなってしまった」


 「「何ですと!」」


 部屋に残っていた二人が、驚きの声を上げてジョウノへ振り向く。


 「……お前ら。もう一回話を聞きたい。細かいところまでしっかりとな」


 「はい……」


 彼女たちが、ルペンシャホテルで起こったことを詳細に話すと、ジョンの顔が徐々に曇っていった。


 「……思った以上に厄介なことになったな」


 「そんな悠長な! すぐにこの二人を連れて詫びに行くべきだろう」


 ジョウノが焦った表情のまま、ソウルとラピドゥスの二人を指さしてジョンに告げる。


 「いえ。ここは、しばらく様子を見ることにしましょう。どうもきな臭く思える」


 「はい?」


 「ラピドゥスは、ヒゼンへ掴みかかった途端に苦しくなったのだろう? しかも一人だけ」


 「はい。彼に掴みかかっていたら、急に苦しくなって……」


 「おそらく、三港会のヒゼンも同じようになったのだろう」


 「……ってことは?」


 「もしかしたら、自作自演だったのではないかと思ってね」


 それを聞いたジョウノは、報告に来た時以上に顔を青くした。

 

 「もしそうであれば、既にまずいことになっているでしょう。この町が血の海になってしまう」


 「そうなりますな。正直言って、してやられたと思っています」


 「なんと……。これからどうしろというんだ!」


 混乱しているジョウノに、ジョンは落ち着くよう手を差し伸べる。


 「なってしまった以上は、取り返しがつかないでしょう。ここは、しっかりと相手をするだけです」


 「軽く言ってくれるな! ジョンよ。もしも市街地にて双方が殺り合ったら、先の桟橋以上の被害が出てしまう。いや、もし市民に死傷者などが出たら……」


 「あなたが揉み消しても、悪評は広がるでしょうな」


 「あー! くそっ」


 ジョウノが頭を抱えて悶えている横で、ジョンがゆっくりと立ち上がった。


 「こうなったら、寝てられないな」


 ジョンは、部屋の横に掛けてあったYシャツに袖を通し、ショルダーホルスターには愛銃であるM1905を収めた。


 「スプーキー」


 ジョンがスキルボールを構えながら、行きつけの酒場へ通じる玄関を顕現させた。


 カランカランという入店を伝えるベルの音が店内に響き、目の前のカウンターでは、いつものように仕事をしているリッチの姿があった。


 「いらっしゃいませ。ずいぶんご無沙汰でしたね」


 「ああ。少しトラブルがあってね」


 「そうでしたか。それは大変でしたね」


 リッチは、拭いていたグラスを前に出すと、琥珀色の液体(ウイスキー)を心地よい音を立てながら注いでくれた。


 「まずは一杯どうぞ。店からのサービスです」


 「ありがとよ」


 ジョンは、注いでもらったウイスキーをゆっくりと口に運ぶ。


 アルコールの影響により、先に刺された傷跡が少し痛んだ。


 「ところでMr.ジョン。今日はどのようなご用件ですか?」


 「ここ最近のゴタゴタを片付けるために、色々と入用なんだが、ボニーと車をいじれる奴を紹介してくれないか?」


 ジョンの依頼を聞いたリッチは、しばらく待つようジェスチャーをすると、店内を軽く見渡した。


 「ボニーさんは今いらっしゃらないので、少々お待ちいただけますでしょうか? 代わりに――」


 リッチが指さした先には、繋ぎを腰で括った油まみれの男性がいた。


 「エンジニアなら紹介できますよ」


 自分が見られていることに気づいた繋ぎ姿の男は、立ち上がってカウンターへ向かってきた。


 褐色の肌にゴツゴツした手をした男性は、ジョンの方を見た後、何かを判断したのか、ニカッと白い歯を見せて笑った。


 「そうか。あんたが、あのフォードの持ち主か」


 「なんだ。このニガーは?」


 「すまねぇな。俺はテイラーっていうんだ」


 テイラーが手を差し伸べると、ジョンも彼へ手を伸ばした。


 「珍しいな。ニガーがこんな仕事をしているなんて」


 「おやじが寛容だったんだよ。ところで、俺に何をいじってほしいんだい?」


 「まずは、もう一台フォードが欲しいんだが、牽引用の装備を持っている奴だ」


 「了解。用意するよ」


 テイラーはそう言って、彼の前でメモ帳に鉛筆を走らせると、次の依頼を手招きしながら催促した。


 「それと、鉄板で囲った荷台に……」


 ジョンの依頼とは、一体何なのか。


 三港会との最悪の事態を、いかにして乗り越えるつもりなのか。

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