第41話 ルペンシャホテル
ジョン・マクノエン襲撃犯を探して、ソウル・レコードとラピドゥス達は、三港会が宿としているルペンシャホテルに入っていった。
「一体何の用ですか!あなた達」
受付にいた男が、慌ててラピドゥスの前に走ってくる。
「うちのボスを殺そうとした奴を探している。少し調べさせてもらうぞ」
受付を撥ね退けて、ラピドゥスが上の階へと上がっていく。
「一体何の騒ぎだ?」
下の騒動を聞いたのか、三港会のヒゼンが階段を下りて来た。
「申し訳ないが、邪魔しないでいただきたい。所用で、このホテルを調べたいのだ」
「そんな回答で通せると思うか?おい」
ヒゼンの声に応えるように、三港会の構成員達が数人、降りて来た。
「どうされました?ヒゼン様」
「おい!お前ら、何の用だ」
ヒゼンに呼ばれた者たちが、ラピドゥスらに向かって声を荒げながら威嚇する。
「あんたら、三港会の人間なんだね」
「いかにも。要のヒゼンだが、お主は?」
「ジョンファミリーのラピドゥスです!」
一歩も引かない態度を取るラピドゥスが、ヒゼンに向かって名乗ると、彼の顔が少し和らいだ。
「なるほどな。ピリピリしているのは分かるが、ここで構えても何もないぞ」
「何を根拠に!頭を狙われたんですよ」
「それは分かるが、ここで争うことは得策ではないぞ」
「何を……」
彼女が言葉を続けようとするも、急に息ができなくなってきた。
「おい。大丈夫か?」
「ラピドゥス姐さん!お前、何をした?」
若い構成員がヒゼンに掴みかかろうとして、三港会の構成員との間でいざこざが起こる。
「お前ら、やめないか!まずは彼女を助けるのが先であろうに」
ヒゼンはそう言いながらラピドゥスに覆いかぶさると、部下たちを怒鳴りつける。
バン!
つかみ合いと怒声をかき消すように響いた銃声に、両構成員が黙り込み、そちらを見る。
「やめろお前ら!講和後なんだから、みっともない真似するな」
そこには、拳銃を上に掲げて睨み付けるソウルの姿があった。
彼の傍にいた二人も、リボルバー拳銃を握りしめてヒゼンたちの方へと向けていた。
「やめろ。こっちも殺り合う気はない」
ヒゼンも立ち上がり、両手を挙げて見せる。
「はぁ!はぁ……」
急に息ができるようになったラピドゥスは、這いつくばりながら呼吸を整えると、他の構成員の手を借りて立ち上がった。
「お前さんら、お宅の頭を狙った犯人を捜してここに来たんだろう」
何事もなかったかのように階段から降りて来たスベル・マーシュが、ゆっくりと歩み寄る。
「何か知っているような口ぶりですな。確か、スベルさんでしたっけ?」
「ええ。そちらは確か……」
「ソウル・レコードだ」
二人が一瞬睨み合った後、ソウルは肩を借りて降りて来たラピドゥスに手を貸した。
「大丈夫か?ラピドゥス」
「急に息ができなくなったの。何をされたか分からないわ」
呼吸を整えるラピドゥスがそう話すと、スベルが不敵に笑いながらジョンファミリー達の方へ近づいていく。
「今日は帰った方がいいんじゃないか?」
「……そうさせてもらいます」
ソウルが短く答えると、他の者たちと共に外へと出て行った。
「ふぅ。何とも騒がしい連中でしたな」
「あの窒息は、お前がやったのか?スベル」
階段を降りきったスベルにヒゼンが問うと、彼の魚眼がぐるりと動いた。
「あなたには初めて見せましたね。私のスキルである『執着の水』です」
スベルがそう言って、手にくっ付いている水を見せながら能力を紹介する。
「私はね、自身の体に触れている水の粘度を操ることができましてね。手から離れても数分程度、その状態を維持することができるんだよ」
「なんということだ。お前は、自分が何をしたのか分かっているのか?」
「ですが、あのままでは彼らが引くことはなかったのですよ。向こうも意気盛んでしたから」
「だからといって、あのような対応をすれば、先の講和話もご破算となってしまうではないか」
ヒゼンの言葉にスベルは顔を顰める。
「まあいいでしょう。お前らは外の様子を確認してこい」
スベルの命令に従い、構成員達が走っていく。
「今回のことでジョンと結んだ講和話は、ご破算となるでしょうな。そうなれば、再び抗争となるでしょう」
「何を言っている。今回手を出した相手が分からない以上、先にそれを見つけることが必要なのであって……って、お前、もしかして」
何かに感づいたヒゼンが彼に視線を向けた途端、彼の口元に違和感を覚えた。
「あまり嗅ぎ回らない方が身のためですよ。いくら要といってもね」
「う!――」
ヒゼンが倒れ込むと同時に入ってきた三港会の構成員が、その姿を見て駆け寄った。
「おい!早く治療師を呼んできてくれ。息をしていないのだ」
「一体何があったのですか?要様の身に何があったのですか」
構成員達が慌てる様子を見ながら、スベルが怪しげな笑みを浮かべた後、思い至ったかのような声を上げる。
「……あの女がやったのだ。そうに違いない!」
「なんということを。穏健派であるヒゼン様を殺そうとするなんて……」
「よその者に、誰が穏健派など分かるわけがなかろう」
「やってくれたな!すぐに本部へ連絡します」
構成員が怒りに任せて出て行こうとしたが、スベルが手を挙げて止めた。
「待て。うちの連中だけで片付けることにしよう。島の連中を呼んできてくれ」
スベルがそう指示すると、構成員がこくりと頷いて走っていった。




