第40話 襲撃者
意識を取り戻したジョン・マクノエンは、港側にある治療所にて数日入院することになった。
ベースボール試験は主催者不在のため延期となり、ボブスとクラレット・シュナウ以外に面会に来る者はいなかった。
「生き返ってくれて、本当によかったです。会場で倒れていた時は、どうしたものかと頭を抱えていたのですから」
ボブスがほっとした顔で、ベッドから半身を起こしているジョンに向かって伝えた。
「心配をかけて済まなかったな」
「しかし、よく生きていましたね。普通なら死んでいた傷だったのに」
「それは……」
ジョンが説明しようと口を開くと、ガラガラと引き戸の開く音がした。
「それは、彼の心臓が反対側にあるからですよ」
入って来た治療師は、外で聞いていたのか、ジョンの代わりに説明してくれた。
「おお、先生。あんたのおかげで助かったよ」
「まったく。下手をすれば、大量に血を流したことで死ぬ可能性すらあったのですよ。あまり無茶をしないでください」
「わかったよ、先生」
軽口で礼を言うジョンに呆れながら、治療師は彼の触診を始める。
「ところで、ジョウノ市長に怪我はなかったか?」
「ええ。護衛の子が頑張ってくれたおかげです」
「そうか」
他の無事を聞いたジョンは真面目な顔になると、触診を終えた治療師を帰した。
「私を刺したのは三港会の人間だと名乗っていたが、あいつらの所在については掴めたか?」
「生憎、ボスを刺した奴は護衛が撃ち殺してしまい、結果を探りに来たであろう者は取り逃がしてしまいました」
「そうか……捕まらなかった以上、仕方ないな」
ジョンは傷口を撫でながら残念がる。
ジョンおよびジョウノ・タピオスが襲撃されたことで、マルサラ市内ではジョンファミリーやマルサラ警備隊による調査が始まっていた。
「よいか! 草の根を分けてでも市長を襲った輩を探し出せ!」
警備隊の隊長が苛立ちながら見張り台からメガホンで怒声を飛ばし、下にいる隊員たちもそれに応えるように走り回るも、成果を上げられなかった。
「警備隊の連中も血眼になっているみたいだな」
「おい! ボスがやられたんだぞ。のんきなこと言ってるんじゃない!」
血気盛んなジョンファミリーの構成員が、勇んだ声で他の構成員を叱咤する。
長が正体のはっきりしない連中に負傷させられたことで、自分たちのメンツに泥を塗られたことになるのだから、この者の言うことも道理である。
しかし、勇んで声を上げる若い構成員をよそに、ラピドゥスたちマルサラ組の方は暗い顔をしていた。
彼女らは桟橋襲撃以前からマルサラで人脈を築いていたにもかかわらず、有力な情報を一つも手に入れていなかったのである。
「ラピドゥスさん。襲撃してきた奴らが潜伏していそうな場所は、他にないのですか?」
隣にいた若い構成員が彼女に確認する。
「生憎ね。今知っている場所は全部調べたわ。他に隠れられる場所なんて……」
ラピドゥスは地図を見ながら、何かに気づいたように指で一点をなぞった。
「どうしました?」
他の構成員たちがラピドゥスに近づいてくる。
「まだ一か所、調べていないところがあったわ」
ラピドゥスが思いついた場所は、三港会の幹部たちが宿としている「ルペンシャホテル」であった。
「もしここにいるとしたら、三港会が後ろにいることになるわ。ちょっと、あんた。ボブスのおやじかソウルを呼んできて」
「わかりました」
彼女の命令を受けた構成員は、ソウル・レコードのもとへ走っていった。
「仮に三港会が関わっているとしたら、先の講和会談を誘い込むネタとして使ったことになります。勢力や人数が上回っている彼らが、そんなことをするでしょうか?」
若い構成員の疑問はもっともである。
彼ら三港会の人員と人脈を駆使すれば、内陸にできたばかりのジョンファミリーなど簡単に叩き潰せるはずなのに。
ジョウノの仲介とはいえ、わざわざ講和のテーブルに着く必要はなかったはずである。
「ラピドゥスさん。ソウルさんを連れてきました」
彼女らが理由について考えていると、ソウルたちの班が合流してきた。
「襲撃者の居所が分かったのか?」
ソウルの問いに、ラピドゥスは首を縦に振った。
「恐らくだけどね。私たちが探していない場所と言ったら、ここしかないから」
「おいおい。それは確かなのか?」
ラピドゥスが示した場所を知ったソウルは、顔をしかめた。
「仮に奴らがボスを殺そうとしたのであれば、何のためだ? 匿うとしたら何のためだ?」
「正直、わからないわ。でも、ここ以上に隠れやすい場所はそうないと思う」
「確かにな……よし! 俺の班はホテルの裏を固めろ。ラピドゥスの班は正面からだ!」
「了解!」
ソウルの指示に従い、二班はルペンシャホテルへと向かっていった。




