表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/50

第37話 娯楽の後

 第二回戦の準備が行われているグラウンドを見ていた観客は、つまみや酒を補充するために下の販売店へ降りて行った。


 「いやはや。ベースボールとは、なかなか白熱しますな」


 下に降りて行ったジョウノ・タピオスは、横にいるジョン・マクノエンに自身の熱気を語っていた。


 「いいものでしょう。第二試合も観ていきますかな?」


 「もちろんですよ。そのためにこうして軽食を買いに来ていたのですから」


 「それはよかった。若い連中も喜ぶでしょう」


 その後ろから降りて来ていた三港会サイガンフのヒゼンとスベル・マーシュが、そのまま外に向かって歩いて行った。


 「どうされました? お二方」


 「すまないが、少しホテルで休ませてもらうよ。どうも、さっきの酒にスベルが酔ってしまってね」


 「そうでしたか。お大事になさってください」


 そう言うと、三港会の一行は取っていた宿へと帰っていった。


 「あの程度の酒に酔うとは、顔に似合わず下戸なんだな」


 「まぁ、魚人系の人種は酒への耐性が低いからね」


 ジョウノの説明に少し納得したジョンは、軽食を購入すると会場へと戻って行った。


 「市長。ジョンさん。おかえりなさい」


 特別席で待っていたクラレット・シュナウが出迎えてくれる。


 「クラレットさん。立ちっぱなしも疲れるだろう。下に降りて休んできたらどうだ?」


 「ありがとう。そうさせてもらうわ」


 彼女が下に降りて行くと、ジョンはジョウノに向き合って座った。


 「今回の大会はデモンストレーションです。あくまでうちの若い連中を選抜する試みだったのですよ。ただ、予想以上に好反応だったので、提案したいことがありまして」


 「新しい娯楽が広まったんだ。何をしようとするんだ?」


 「これを売り出したいのです」


 それは、ベースボールマニュアルであった。


 「これの遊び方か。興味深いな」


 「これをマルサラにて特売してほしいんです。庶民にも手が届く価格にして売り出してほしい」


 「そんなに安く売るのか? もったいなくないか」


 「やる人がいないと成り立たない娯楽です。何人も選手がいてこそ盛り上がるものですから」


 「確かにな。できれば地域大会とかにして、街の活性化につなげられるものになるだろう」


 ジョウノが食いついたのを感じたジョンは、更なる提案を提示した。


 「ジョウノ市長が街の活性化を求めるのであれば、昨年のパーティーで行ったボクシングも加えるべきだと思いますよ」


 「あれか……。あんたが勝って帰ったおかげで、少し扱いにくくなっていたんだよ」


 ジョウノは少し渋い顔をしてジョンの方を見た。


 「港町であるマルサラの強みは、人の往来にあると思うんですよ。そうなれば、娯楽を求めて宿を取る者も多いのではないですか?」


 「そりゃもちろんだ。色々と試しているが、定着した娯楽はないがな」


 ジョンは彼の発言を聞いて手を叩いた。


 「なら、この『ベースボール』と『ボクシング』はちょうどいい娯楽だと思いますよ。少なくとも、やっている会場はここだけですので、このホールを使った競技場として運営できると思いますよ」


 「娯楽会場としてのホールの活用か。確かに、今使われていないコロシアムを活用できれば、収益の足しになるだろう。特にベースボールは、かなりの人気になりそうだしな」


 「やってみませんか?」


 ジョウノは少し考えた後、ジョンの方へと視線を戻した。


 「もう一つぐらいないか?」


 「そうですね。ないことはないですが……」


 「なんだ。口ごもるなよ」


 「場所が要るんですよ。ここ以外に、これくらいの規模のものが」


 ジョンは近くにある紙に必要なものを書いていった。


 「……なるほどな。これを用意できればできるんだな」


 「ええ」


 「わかった。私が用意しよう」


 ジョウノはドンと胸を叩き、受け入れる意気込みを示した。


 「でしたら、喜んで用立てていきましょう」


 「しかし、整備に時間がかかりそうだな。その間の繋ぎに何かないか?」


 「そうですね。少し考えてみましょう」


 ジョンとジョウノがそのような話をしていると、会場では「風車チーム」と「中央畑チーム」の試合が始まっていた。


 「お! 始まったようだな」


 「まずは、楽しむことにしましょうか」


 「そうだな」


 二人が試合を楽しみながら見ていると、ジョンのもとに一人の男が走り込んできた。


 人の流れが、ほんの一瞬だけ途切れたのだ。

 

 売店へ降りていたはずの観客が、なぜか戻ってこない。


 ――静かすぎる。


 その違和感に、護衛のエルフが注視してそれを見ようとしていた。


 丁度その時だった。


 「おい、通してくれ。三港会の者だ」


 見慣れた腕章を付けた二人の若者が、足早に近づいてくる。


 「……待て。確認を――」


 言い終える前に、一人が懐から何かを取り出す。


 次の瞬間。


 一人がドンと護衛のエルフを突き飛ばしていく。


 「ぐっ……!」


 突き飛ばされたエルフに視線を送った後にジョンは、その犯人の方に目を向けた。


 「ジョン!覚悟しろ!」


 怒号と同時に、空気が張り詰めた。


 「――ッ!」


 ジョンは反射的に立ち上がり、懐へ手を滑り込ませる。

 内ポケットに忍ばせたM1905の冷たい感触が指先に触れる――


 だが。


 「させるか!」


 一人が踏み込み、ジョンの腕を強く捻り上げた。


 「くっ……!」


 関節が軋み、銃を引き抜くことができない。


 もう一人が、低い姿勢から滑り込む。


 その手に握られているのは、鈍く光るナイフ。


 狙いは迷いなく、心臓。


 「――ッ!」


 避けきれない。


 次の瞬間、刃が深く突き立てられた。


 「ぐ……ふ……!」


 鈍い衝撃とともに、呼吸が止まる。


 「ジョンさん!」


 クラレットの悲鳴が響いた。


 「ボス!!」


 倒れていた護衛が慌てて懐からリボルバー拳銃を取り出して、暴漢二人に向ける。


 ――パン!パン!パン!


 至近距離から放たれた銃弾が、二人の体を貫いた。


 それでも、男たちは崩れながらジョンにしがみつく。


 まるで――確実に仕留めるために。


 やがて、ジョンに圧し掛かるように二人が倒れ込むと、二人の鮮血により、ジョンの服を赤く染めて行った。


 「ボス!しっかりしてください!」


 「う……うう……」


 口元から血が溢れ、言葉にならない。


 「おい!治療師ドクターだ!治療師を呼べ!!」


 特別席は一瞬で混乱していながらも、観客たちの歓声がやむことはなかった。


 ジョンは、戻ってきたクラレットに耳打ちするようにして指示を出した後、意識をなくした。


 「ジョンは何を言ってきたんだ?」


 「試合を続けるようにですって」


 「なんとまぁ。……まずは、治療師だ。早く呼んで来い!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ