第36話 プレイボール 3
「ストライクスリー!バッターアウト」
第一試合も7回まで、激しい投手戦が続いており、両チーム無失点のまま続いていた。
「しかし、これほど点数が入らないものなのかね?さすがに、飽きが来るのではないか?」
すでに3杯目までラガービールを空にしたジョウノ・タピオスが、愚痴るようにジョン・マクノエンに訊ねる。
「既に7回です。そろそろ新しい動きがあると思いますよ」
ジョンがそう言うと、後攻の『西の小屋チーム』のバッターが入ってきた。
「あのバッターは、これまでバットに当てることすらできなかった男だ。さすがに無理だろうよ」
「さあ、果たしてどうでしょうか?」
ジョンがそう言って、バッターボックスに入ってきたゴブリンを見つめた。
「いけ!バンフス、かっ飛ばせ!」
「おう!見てろよ~」
バンフスは、バットを振りながら待ち構える。
しかし、先の打席同様に投げてきたボールに当てることができず、二球ともすり抜けていった。
「くそ~、なんで当たらねぇんだ」
「馬鹿野郎!しっかり見やがれ」
「言われなくても」
立ち上がったバンフスは、帽子をかぶり直すと、ギロリと睨みつけた。
「ふっ。睨みつけたところで、どうともならんよ」
ピッチャーが鋭いボールを投げつけると、バンフスのバットが吸い込まれるように当たった。
「当たったー!大きい!」
バンフスの打った球は天高く上がり、そのまま客席に飛び込んでいった。
「ホームラン!バンフス選手、今大会第一号ホームランです」
解説のキャッシーに応えるように、客席から大きな歓声が上がった。
「しゃ!」
こぶしを突き上げるバンフスは、そのままダイヤモンドを走り、ホームベースを踏む。
「ようやく試合が動いたな」
ジョンが言う通り、そのあとの試合は急速に動いていった。
バンフスに続くように、次々と好打が相次ぎ、瞬く間に3点を取っていった。
「一気に3点も取るとは、勢いがついたら早いもんだな」
「勢いがつけば、一気に試合が動く。ベースボールのいいところですよ」
ジョンの言葉に、ジョウノは半分聞きながら前のめりになって試合を見ていた。
8回になって『南の湖チーム』の攻撃になると、『西の小屋チーム』のシャリウットは疲れていたのか、徐々に投球に乱れが出てきた。
特に動く鎧のヒグ・ボローマンの強打は、先のバンフスを超えるほどに高い弾道を描き、客席へと飛び込んでいった。
この弾道を見て喜んでいたのは、ヒゼンであった。
「あのギアナイトは、実にいい動きだな。内にも何人かのギアナイトを入れているが、あんなに頼もしいのはいないよ」
さっきまで冷静であったヒゼンが、周囲の熱気と酒の勢いからか、だいぶ出来上がってきた。
「楽しんでもらえてよかったです。さあ、これも飲んでください」
ジョンは、透明な液体をヒゼンとスベル・マーシュの盃に注いだ。
「これは?匂いからして酒のようだが」
「大分強い酒だな。こんなのを飲んだら喉が焼けてしまうよ」
注がれた酒をいぶかしい目で口に含んだ二人は、思いっきりせき込んでしまった。
「なかなかいけるでしょう。うちの新商品ですよ」
「こんなもの、売れるわけないだろ!なんなんだ、これは」
「蒸留酒です。あまり飲まれない感じですかな?」
ジョンがそう言って、小さなグラスに入れて口に運ぶ。
「このまま飲むのは辛いかもしれないが、こうすれば飲みやすくもなりますよ」
後ろに控えていたクラレット・シュナウが二人から容器を取り上げると、炭酸水とオレンジの搾り汁を入れてかき混ぜる。
「何をしているんだ?」
「おいしく飲めるようにしているんですよ」
クラレットが軽くかき混ぜた盃を二人に返した。
「どうぞ」
彼女に勧められた二人は、恐る恐る口に運んだ。
「ほう!なんともうまいじゃないか」
「本当だ。このような喉越しのいい酒は、飲んだことはないぞ」
二人の驚きに、ジョンが笑顔になってヒゼンの方に近づく。
「いけるでしょう。まだ数を揃えることはできないですが、店に一本あれば、いくつもの酒を作ることができる品となります」
「うむ。興味深い品だな」
「ただのきつい酒でないということは、店ごとの個性が出るはずです。今後のしのぎに大きく益を出してくれるでしょう」
「確かにな」
ヒゼンは、何かに気づいたかのようにジョンの方を向き直る。
「欲しいのは、海運か?」
「話が早い。ひと箱当たり1レーニョロでどうでしょうか?」
「いいだろう。受けようじゃないか」
ヒゼンはジョンへ手を差し伸べると、彼も応えるようにそれを握り返した。
彼らが交渉している裏で、『西の小屋チーム』が何とか一点を守り切り、最初の勝利を手に入れていた。
≪マルサラ・ダイヤモンドLGでの賭け先≫
チーム名 賭け品
ジョン 『西の小屋チーム』 メリューラの木を加工した額縁
ヒゼン 『南の湖チーム』 スベルが持つ密輸品
ジョウノ 『風車チーム』 500レーニョロ
未投票 『中央畑チーム』




