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第3話 浜に上がったマフィア

 樽に詰められてマサチューセッツ湾に沈められたジョン・マクノエンは、初めての死の淵で怪しげに蠢く闇の中に引きずり込まれていった。

 息が出来ない圧迫感と、重くのしかかる海水が体を包み込む。


 (畜生!このまま死んでたまるかよ)


 体が動かないにも関わらず意識だけはまだあることに腹立たしさすら覚え始めたジョンは、何とか立ち上がろうと無理くり起き上がろうとしていた。


 そんな彼の体を覆うように、黒い海藻のようなものが体にまとわりついていった。


 (ダメだ!だんだん重くなってきやがった)


 耳の中に聞こえてきた壊れたラジオのような雑音が徐々にく大きなっており、耳障りな騒音を引き付ける受信機のようになった。


 「オ…エルカ…オマ…聞コエナイ…」


 聞き取れない音がジョンを呼んでいることに気づいたのは、そんなに時間が掛からなかった。


 「オイ!聞コエルカ」


 「うるせぇ!耳元で叫ばんでも聞こえているわ」


 ただの雑音から《《声》》に変わった途端に、ジョンの怒鳴り声が返された。


 「ナンダ。ヤット聞コエタカ。中々繋ガラナカッタカラ、苛々シテイタゾ」


 「なんで、見ず知らずの奴に苛立ちを受けなきゃいけないんだよ。ぶっ飛ばしてやろうか」


 誰かわからない声に怒り心頭なジョンは、相手もいないのに喧嘩を挑むも、相手は動じないで話を続けた。


 「貴様ハ既ニ死ンデイルノダ。ダガ、運ノイイ事ニ、死ヌ前ニ私ト会ッタ事デ、ソノ定メカラ逃レルコトガ出来ル。喜ブガイイ」


 「そうかい。そいつは、ありがたいね。だったら、早くマサチューセッツの港に返してくれよ」


 謎の声が言うことを半分呆れながら聞いていたジョンは、生返事した。


 「アマリ期待シテイナイヨウダナ。信用シテイナイノカ?」


 「だって、お前さんの声を聴く限り、あった覚えがねぇんだぜ。そんな奴に『死から助けてやる』なんて言われてもよ」


 「ソウカ。ダトシタラ、私ノ手伝イヲシテモラオウ」


 謎の声がそう言うと、ジョンの目の前が明るくなってきた。


 「おい、待て!俺は、承諾していないぞ」


 ジョンの怒声をかき消すように光と謎の声は、次第に彼を覆っていった。


 「し・・・・?聞こえ・・・・?・・・・もし?」


 磯臭い感じが鼻につく中でさっきの声とは違う者からの声が、ジョンの耳に響いてきた。


 「うるせぇぞ・・・・お前の手伝いなんか・・・・するかよ」


 「聞こえてますか?大丈夫ですか」


 意識が戻ったジョンは、目の前で声を掛けてくれていたドレス姿の女性が、自身を看病してくれていることに気づいた。


 「あんたは?・・・・ここは、港じゃないようだが」


 「港?あなたは、この樽の中に詰め込まれていたから、私が助けてあげたのよ」


 頭がぼーっとする中で起き上がろうとしたジョンだったが、ふらついてうまく体を起こせない。


 「畜生。頭がクラクラする」


 「さっきまで意識がなかったのですから、当たり前でしょう」


 「すまねぇな。あんたには、助けてもらってばっかだな」


 上半身を起き上がらせていた体を彼女に預けながら礼を言うと、抱えていた違和感に気づく。


 「やけに長い耳だな。作り物か?」


 ジョンは、彼女の耳を雑に引っ張った。


 彼女は赤面しながら、彼に向かって平手打ちをお見舞いして地面に叩きつける。


 「ちょっと!何てことするのよ。なんて無礼な人なのかしら」


 「いてぇ~。何しやがるんだ!」

 

 床に倒れたジョンは、周りの景色に見覚えがないことから、ここがマサチューセッツではない事に気づいた。


 「アメリカじゃないようだが、一体どこに流れ着いちまったんだ?」


 「アメリカ?聞いたことない場所の名前だけど、ここは交易都市マルサラよ」


 多少の港町を知っているジョンであったが、一切聞き覚えのない町だったので少し混乱していた。


 「一体どこの町なんだ?俺の記憶にないが、南米かカリブ諸島にでもたどり着いちまったのか。でも、あんたの顔からヨーロッパ系みたいだが」


 「ヨーロッパ?どこの国の名前を言っているの?私の出身はメルシェンっていう所よ」


 「どこの国だ?聞いたことないが」


会話が噛み合わない中、ジョンは大事なことを思い出した。


 「そういや、あんたの名前を聞いていなかったな。ちなみに、俺の名前はジョン・マクノエンっていうんだよ」


 「クラレット・シュナウ。交易商を営んでいるわ」


 二人が自己紹介をした後に、落ち着いた後で周囲を見渡した。


 「ここは、別世界のようだな。一体どこに来たんだ」


ジョンは困惑を隠せないまま、闇夜を照らすマルサラの街並みをいつまでも眺めていた。


 

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