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第23話 ラガー

 マルサラ市長ジョウノ・タピオスは、自身が主催するうたげを行うため、会場の準備を行っていた。


 1年前に開かれたパーティーは、予想外のゲストにより散々な結果に終わっていた。それゆえ、今回の酒宴は絶対に成功させたいという強い意気込みを見せていた。


 「だいぶ出来上がっているようだな。上々、上々」


 ジョウノは、会場を色とりどりに飾る作業員たちを労いながら、その進捗具合に満足げな声を漏らす。


 各地より集められた宝石をあしらった美術品や、旧王国時代に描かれた絵画が掲げられていた。事前に用意された酒や料理も非常に豪華なもので、パーティーの演出に合わせた品々が揃えられていた。


 「市長。今回の宴用に用意した酒ですが、味見をなさいますか?」


 準備をしていた使用人が、ジョウノにいくつかのグラスを差し出す。

 カラフルな液体で彩られたグラスが並ぶプレートは、まるで祭りの花火のように美しく光を放っていた。


 「ほー。見たことのないエールだな。これを頂こう」


 グラスの中心で明るい黄色を放つ液体が気になったのか、ジョウノはその一つを手に取り、口に運ぶ。

 キリッとした喉ごしに、弾けるような炭酸の風味。そして後から来る苦みが彼の五感を刺激した。


 「なんだこれは! 今までにない味のエールじゃないか」


 「最近、公国の各都市に出回り始めた品で、『ラギア』というものであります」


 「ラギアか。何とも興味深い。どこが作っているのだ?」


 「実は、内陸国家から仕入れているようでして。どのように仕入れているのか、詳しいことは分からないのです」


 「そうなのか。それは残念だ」


 心底残念そうなジョウノは、手に取ったラギアを再び口に含みながら呟いた。

 ジョウノが絶賛するラギアは、マーゼン公国の中央道路沿いを中心に広まり始めており、高額ながらも高い人気を誇っていた。


 最初は、国境沿いで路上販売をしていたエルフによって持ち込まれたものだった。だが、その新感覚の味を覚えた公国市民が、こぞってそれを求めるようになるまで、一ヶ月とかからなかった。


 それから2ヶ月後には、国境沿いの町に専用の樽で納品されるようになり、一部の酒場では定期購入されるまでになっていた。


 このエルフが持ち込む酒樽は「禁則の森」から運ばれているという噂が立ち、その正体を探ろうとするゴロツキどもが動き始めていた。


 その酒の出どころであるジョン・マクノエンの醸造所では、クラレット・シュナウが集めた地元エルフたちの協力のもと、生産が行われていた。


 「みんな、ありがとう。午前の仕事はこれくらいにして、休憩にしよう」


 集まったエルフたちに、ジョンが笑顔で労いの声を掛ける。


 「まさか、錬磨石れんませきをこんな使い方するなんてね」


 クラレットが驚いていたのは、目の前の酒造樽に取り付けられた「青の錬磨石」だった。


 「ラガーは、冷えてなきゃ意味がないんだ。だからこんな手の込んだことをしてるのさ」


 ジョンがラギアこと「ラガービール」を流行らせるために練った戦略は、2つある。


 1つ目は、生産数を制限して希少価値を上げること。人は、手に入りにくい物ほど大金を積んででも手に入れたがり、それを自慢したくなるものだ。


 2つ目は、氷結系魔法を封じた錬磨石「アイシィ」を活用することだ。

 苦みのあるラガーを美味く飲むには、冷却が不可欠である。だが、樽で醸造・輸送する以上、どうしても外気温の影響を受けてぬるくなってしまう。

 そこでジョンは、一般人でも能力を発動できる使い捨ての錬磨石を樽に組み込み、買い手が飲む直前に温度を調整できるようにしたのだ。


 この宣伝戦略は大成功を収め、国境沿いの酒場には多くのお得意様がつくようになった。


 「ジョンの作ったエールがこんなに流行るなんて。1年前は小屋で数樽作っていただけなのに、今や醸造所を構えるまでになるなんてね」


 クラレットは、ずらりと並ぶ樽の列を見ながら、しみじみと驚きを口にする。


 「まあ、俺が本気で商売をすればこんなもんだよ」


 少し満足げなジョンだったが、一方で、目の前の樽を眺めるその瞳にはどこか晴れない色が混じっていた。


 「……まだ、能力の中にいる『武器屋』には会えていないの?」


 「ああ。最近はスピーキーにも行けていないからな」


 ジョンは地図に書き込まれた運搬ルートを見つめ、表情を曇らせる。

 最近地図に追加された「×印」は、輸送中に怪しげな人物の監視を確認し、危険を感じて放棄したルートだ。


 「今のところ、マントたちが危ない目には合っていないけれど……。なんとか安全な道を確保したいわね」


 「そのためにボニーに会いたかったんだが、なかなかタイミングが合わなくてな」


 ジョンは頭をかいた後、換金したチップを確認した。

 この1年弱で30枚ほどを確保したが、ジョンの下に集まってくれた警備担当者ら10名余りに渡すには、まだ予算が足りない。


 「解決策を考えないとな。犠牲が出てからでは遅い」


 打開策を模索するジョンとクラレットは、目の前に置かれたM1905を見つめながら、しばし沈黙に沈んだ。


≪現在のジョンが所持している物一覧≫

 財布 チップ32枚

 倉庫 なし

 所持 拳銃 M1905 1丁 コルト・ニューポケット1丁 モーゼルC96 1丁

    弾薬 38口径 40発 32口径コルト 25発 7.63×25㎜マウザー弾 20発

    両刃ナイフ 4本

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