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第20話 抜け荷

 ジョン・マクノエンがレイロムと話をまとめていた頃、ボブスの姿は港町マルサラにあった。


 彼は、ジョンが進めている抜け荷の荷受け先を決めるべく、取引相手を探していた。


「しかし、ボブスのおやじをこんな交渉役に使うなんて。おやじの価値をまるで分かっていないな」


 ソウル・レコードが不満げに呟く。


 ドラゴニュートである彼の目は、爬虫類のような同心円の瞳を輝かせていた。


 外見は一見すると人間種に見えるが、腕や胸からのぞく竜鱗りゅうりんは、この者にドラゴンの系譜が連なっていることを示していた。


「あまり人の悪口を言うものではない。それより、どこか話に乗ってくれそうな奴はいたか?」


 「今のところはどこも。第一、素性の知れないジョンって奴の話に乗ろうとする奴なんて、いないでしょう」


 「そうかな? 案外、食いつきそうなネタなんだがな」


 ボブスが不敵に微笑むと、ソウルの後ろからラピドゥスが戻ってくるのが見えた。


 北部にある群島地域に住む魚人族出身である彼女は、幼い頃に捕まった時の肩の傷跡を覆うような服を身にまとっていた。

  

 「ボブスおじさん、話を聞いてくれそうな人がいました」


 「よくやった。一体誰だね?」


 「郊外にプランテーションを持つ経営者ジェントリーよ。最近新しい農園を入手したことで、新たな市場を開拓しようとしているみたい」


 「なるほど。それは興味深いな」


ボブスが立ち上がり、ラピドゥスが案内するジェントリーの元へと向かった。


 彼女は中心街にある一軒の酒場へと入り、そこの店主に相談すると、奥にある個室へと行くように促された。


「先ほどぶりですね、ルートビッヒさん。先ほどの話をうちの者に伝えたところ、大変興味を持ちましたのでお連れいたしました」


 「おー、そうでしたか」


 ルートビッヒが立ち上がり、ボブスに握手を求めようとする。


 「突然の同席にもかかわらず、わざわざ受け入れていただきありがとうございます」


 ボブスが応えるように手を差し出すと、ルートビッヒが掴み取るように握り締めた。


「よろしく。うちとしても、新しい取引先ができるのは喜ばしい。ところでそちらは、どちらの商人かな?」


 「メルシェンの交易商クラレット・シュナウの代理人をしているボブスといいます」


 「あー、先月ジョウノ市長の所で行われたイベントにて、派手に活躍した……」


 ルートビッヒが少し苦笑いを浮かべながら、ボブスの顔を見ていた。


 「……申し訳ないが、この話はなかったことにしてもらえるかな」


「どういうことですか! あんなに乗り気だったのに!」


 急に拒絶されたことに、ラピドゥスが慌てて詰め寄る。


 「私はマーゼン公国のジェントリーだ。ジョウノ市長に義理立てするつもりはないが、ここでの商売に支障をきたしたくはない」


 ルートビッヒの説明は、もっともなものだった。

 ルートビッヒのいるこの地には、複数の商業組合ギルドが構成されており、その多くにジョウノ・タピオスが名を連ねていた。

 市長である彼の発言力はかなりのもので、マーゼン公国内の商人たちは彼に逆らうのを避けていた。

 そのため、先の宴にて問題を起こしたクラレットと関わるのは、あまり好まれていなかった。


「彼女との交易が、あまりにも大きなリスクとなるのは分かります。しかし、ここでメルシェンとの取引を完全に断つのは、あまり得策とはいえませんよ」

 

 ボブスがそう言って、椅子を引いて腰を下ろした。


 「どういうことかな?」


 帰ろうとしていたルートビッヒは、その余裕たっぷりな発言が気になったのか、扉へ伸ばした手を止めた。


 「ジョウノ市長の顔色を窺いながら商売を行うのは、利益に制限がかかるということ。それは、商魂たくましいあなたのようなジェントリーには似つかわしくないでしょう」


 「感情を揺さぶったところで、私に実害が出るわけではないぞ」


 「いいえ。ただ私から見れば、あまりにも堅苦しいと思いましてね。我々と取引した程度で、あなたを切り捨てるような真似をあの方がするでしょうか?」


 「それはジョウノ市長の判断次第だからな」


ルートビッヒが再び席に着くと、ボブスが笑みを浮かべた。


 「なら、市長が関知しない荷物なら問題ないでしょう」

 

 今まで黙っていたソウルが口を開いた。


 「ほう。そこの若者は、何か考えがあるのか?」

 

 「ええ。少し教えてもらいたい事があります」


ソウルがそう言って、街道を記した地図を広げた。


 「ルートビッヒさんの農園は、ここですか?」


 「いや、そこより少し北にある穀物倉庫のあるところだ。街道沿いを進めば、でかいサイロがあるだろう」


 「なるほど。ここですね」


 ソウルが印を付けると、意図に気づいたボブスが彼の肩を叩いた。


 「いい考えだ」


展開の読めないルートビッヒは、彼らの話を注視していた。


 「……お前ら、もしかして」


 「ご安心を。そちらにご迷惑はおかけしませんよ。ちょうど、新しい道もできることですし」


 「新しい道だと!?」


 「そこは企業秘密ですよ、ルートビッヒさん」


ルートビッヒの顔色が徐々に変わっていくのを見つめながら、ボブスが少し前かがみになって彼を凝視する。


 「金銭の方は、互いに交渉していきましょう。それでは、また後日」


 ボブスがそう言って席を立ち、他の二人と共に部屋を後にした。


≪現在のジョンが所持している物一覧≫

 財布 チップ0枚

 倉庫 なし

 所持 拳銃 M1905 1丁 コルト・ニューポケット1丁 モーゼルC96 1丁

    弾薬 38口径 40発 32口径コルト 25発 7.63×25㎜マウザー弾 40発

    両刃ナイフ 4本

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