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第19話 森の民

 マーゼン公国と五大樹連盟メルシェンにまたがる森林地帯「ジャンガラの森」。ここを通行可能にするため、この地に住む「レイロム」を説得しようとジョン・マクノエン、クラレット・シュナウ、ガティールが交渉に向かった。


「おい。本当に道はこっちで合っているのか? 車を止めてから30分は歩いたぞ」


「このくらいでへばるな。奴らの住処は、もっと向こうだぞ」


へとへとになっているジョンに対し、ガティールが呆れた口調で先を促す。


 「でも、確かに疲れたわね。少し休みましょう」


 「ほら。彼女もこう言っている。少し休もうぜ」


クラレットがしゃがみ込むと、ジョンもならって腰を下ろす。


 「まったくな。体力のない連中だ」

 

ガティールはそう言って、近くの木にもたれ掛かった。


 「ん?」


 ジョンは、木々の所々にできている《《膨らみ》》が動いていることに気づいた。


 「ガティール! 伏せろ!」


 「え!」


 ジョンは懐から取り出したM1905をその膨らみに向けた。


 「ジョン! 待って!」


 「何っ!」


クラレットの声にジョンが銃口をずらすと、いつの間にか彼女の横にいた者が、クラレットの喉元に短刀を突き立てていた。


 「動くな、余所者」


 短刀を突き立てていた者が顔を上げた。


 顔の周囲には吸盤のような膜があり、口元にはサメのような鋭い歯が並んでいる。


 「落ち着けよ。俺たちは『レイロム』の代表と話しに来たんだ」


 「何……?」


ジョンの言葉に反応し、男はクラレットへの威嚇いかくをやめた。


 「お前たちがうちの頭目に何の用か知らんが、ここで殺しても問題はないんだぞ」


 「お前たちがレイロムなのか」


 「なんだ、知らなかったのか?」


 自分たちの正体を知らなかったジョンに少し呆れながらも、男は彼らを案内することにした。


 三人が男に連れられて森の奥へと進むと、少し開けた場所に虫のような殻を身にまとった者たちが生活していた。


 「ここが俺たちの砦だ」


 「結構な大所帯だな。100人はいるんじゃないか?」


 「数は言えん。頭目と話したいんだったな。伝えに行ってくる」


 隊長らしき男が、ひときわ大きな木をくり抜いた屋敷に入っていく。


 「木の中に住んでいるのか? 変わっているな」


 「彼らの種族は、元々木と一体になって過ごすものなのよ」


 「そうなのか?」


 「彼らも私たちと同様に『森の民』だったけれど、祖父の代に起こった『南王の侵攻』と、その後の近隣諸国の戦争によって、多くの居住地を失ったの。殆どは他国に溶け込んで生活しているけれど、馴染めなかった者たちが、こうして森に潜んで暮らしているのよ」


 「かなり長い間、迫害されていたのか。そりゃ警戒もするわな」


 「特に南の大樹であった『ボマールの大樹』は、彼らの心の拠り所だったらしいから」


 クラレットがレイロムの歴史を説明していると、先ほどの男が戻ってきた。


「頭目が会ってくれるそうだ。そこの男とエルフの女、俺について来い」


 「そうかい。ガティール、少し待っててくれよ」


 ガティールを残し、ジョンとクラレットは男と共に頭目のもとへと歩いて行く。


 大木をくり抜いた住処は、外見以上に広く作られていた。奥に設けられた玉座には、巨大な殻を背負ったレイロムの老人が座っている。


 「わしに会いたいという者共か。一体何の用だ」


 「頭目様、本日はお会いいただきありがとうございます。実は、こちらにいるジョンよりお願いがありまして」

 

 クラレットが社交辞令を述べた後、主役であるジョンに話を振った。


 「ジョンというのか。要求があるなら申してみよ」


 「あ、ああ。お会いできて嬉しく思い……だめだ、俺に敬語は似合わねぇな」


 ジョンは自分の頬を一つ叩き、服の前ボタンを外して一歩前に出た。


 「単刀直入にお願いだ。俺たちの荷馬車を、この森に通してほしい」


 「本当に単刀直入だな」


 ジョンの率直な物言いに、頭目は愉快そうに笑った。


 「頭目! 笑い事ではありません! 我らを侮辱するような発言ですぞ!」


 「だが、下手な言い回しをする近隣国の高官より、率直に意見を言う男の方が儂は好きだぞ」


 「しかし……!」


隊長の苦言を軽く流し、頭目は再びジョンに向き直った。


 「この森を通してやるとして、我らにどのような見返りがあるのだ?」


 「そうだな。通行料として、利益の2割を払おう」


 「それでは足りんな。せめて4割、それと運搬人をこちらから出す条件は欲しい」


 「森でくすぶっている奴らに仕事を振ってやるんだ。2割で納得できねぇなんて、欲深いじゃねぇか」


 「お前らこそ、そんな端金はしたがねで済むと思っているのか?」


ジョンと頭目の間に、しばしの沈黙が流れた。


 「申し訳ございません。ジョンはこの地に来て日が浅く、頭目殿のご配慮を理解しきれていないのです」


 横からクラレットがフォローを入れるが、頭目の視線はジョンから離れない。


 「いいだろう。あんたたちが泣いて喜ぶものを渡そう」


 「ほう。そんなものを持っているのか?」


「『ボマールの大樹』だ」


「!!」


 ジョンの提案に、頭目とクラレットの顔色が変わった。


 「何を言っているの、ジョン!」


 「本当か……! 本当にそれを持っているのか!」


二人が困惑と驚愕に包まれる中、ジョンは不敵に笑ってさらに一歩踏み出した。


 「どうする。欲しいなら、そこの兄ちゃんにでも取りに行かせればいいだろう、頭目さんよ」


 「……わかった。お前の提示した相場でよかろう」


 「交渉成立だ」


 ジョンと頭目は力強く握手を交わした。


 こうして一行は、これまで不可侵だった森林を抜ける「道」を手に入れたのである。



≪現在のジョンが所持している物一覧≫

 財布 チップ0枚

 倉庫 なし

 所持 拳銃 M1905 1丁 コルト・ニューポケット1丁 モーゼルC96 1丁

    弾薬 38口径 40発 32口径コルト 25発 7.63×25㎜マウザー弾 40発

    両刃ナイフ 4本

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