表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/50

第15話 狂客の善行

 「すまないが、ガティール。後のことは、頼むぞ」


 徐々に地平線から明るくなってきている中で、ジョン・マクノエンが操るT型フォードが、けたたましい発動機エンジン音を響かせていた。


 「急ぐナラ、その道ヲ真ッスグ行けばいい。途中に森林がアルが、一番の近道ダ」


 ガティールがそう告げると、ジョンはアクセルを吹かして走り出す。


 「飛ばすぞ、キャッシー! しっかり捕まってろよ」


 「え!」


 彼女が言い返すより先に、フォードはいきり立った暴れ馬のように後輪を振り回して駆け出した。


 「ぎゃー! ちょっと待ってー!」


 遠ざかっていく彼女の悲鳴を、ガティールはゆっくりと見送る。


 「無事に帰ッテくれよ」


 未舗装の道で激しく車体を揺らしながら走るT型フォード。揺れに耐えるのに必死なキャッシーや子供たちを気にかけつつも、ジョンのアクセルを踏む力は徐々に強くなっていく。


 「ジョンさん! もう少しゆっくり走ってください!」


 「もう少し我慢しろ。この子たちを早く解放してあげなきゃいけないだろ」


 「だからって、こんなに跳ね回ったら……!」


 しばらくすると、目の前に広がる雑木林へと道が続いていた。


 「森の中を突っ切るぞ。シートベルトをしっかりしろよ」


 「シートベルト? どうするのよ!」


 昇る朝日の光を木々が遮り、未だ暗い雑木林を、車体から伸びるヘッドライトの光が切り裂く。


 「ガガガガ!」


 「口を開けっぱなしにしてると、舌を噛むぞキャッシー!」


 木の根や石ころのせいでさらに揺れが激しくなり、車内でキャッシーのお尻が上下に跳ねる。


 「来たぞ。兄弟たちを襲った奴らだ」


 「任せろ! 仕留めてやる」


 森の中に潜んでいた怪しげな者たちが、木々の間を縫う光の線に向かってクロスボウを構え、一斉に放った。


 「のわっと!」

 

 放たれた矢が、ジョンの操るフォードのボディをかすめていく。


 「こんな時に! キャッシー、手伝え!」


 ジョンはそう言って、キャッシーに拳銃を手渡した。


 「何ですかこれ? こんなの使ったことないですよ!」

 

 「上のハンマーを引いてから、下にある穴(トリガーガード)に指を入れて引っ張れ。相手に銃口を向けてからだぞ」


 ジョンがそう言うと、ギアレバーに手をかけた。


 「行くぞ! しっかり捕まれよ」


 「え! うそでしょ!?」


 ジョンは車体をさらに雑木林へ突っ込ませると、そのまま矢を射掛けてきた者たちへと向かっていった。


 「もう! どうなっても知らないからね!」


 キャッシーは慣れない手つきのまま、拳銃を撃ち始める。


 けたたましく唸るエンジン音に拳銃の発砲音が重なり、襲撃者たちは一瞬怯んだ。しかし、すぐに体勢を立て直してクロスボウを構え直し、次々と射かけてくる。


 「奴らを逃がすな!」


 「撃ち続けろ!」


 襲撃者の放つ矢が交差する中を、ジョンの操るフォードが潜り抜けていく。


 「やめろ! ボディが傷ついちまうじゃないか!」


 悪態をつくジョンの横で、弾を撃ち尽くした拳銃をどうしていいか分からず、キャッシーは子供たちに覆いかぶさっていた。


 「突っ切るぞ! 体を伏せろ!」


 「もうやめてー! キャー!」


 排気口から熱気を巻き上げてスピードを上げると、ついに襲撃者たちを引き離した。


 「畜生! あいつら、なんてものを持ってやがるんだ」


 「あんな馬車、見たことないぞ! あんなのアリかよ……」


 抜き去られた襲撃者たちは、遠ざかる背中を眺めて悔しがった。


 襲撃を逃れたジョンたちは、クラレット・シュナウの待つラテラルにたどり着いた。


 「キャッシー。隠れ家はどこだ?」


 「あの通りを抜けた先にあります」


 キャッシーの案内で到着した小さな小屋の前には、一人の老いたオークが座っていた。


 「よぉ、キャッシー。お前さん一人でどうしたんだい?」


 「ボブスおじさん。すまないけど、開錠用の錬魔石れんませきを渡してくれないかしら?」


 「おやおや。引き取られずに済んだのかい?」


 「は……、はい」


 はっきりしない回答を返すキャッシーを不審がり、ボブスは後ろにいる男に目をやった。


 「後ろの男は誰だい? うちじゃ見ない面だが」


 「この人は……その……」

 

 「しっかり答えられんのか?」


 言葉に詰まるキャッシーをかばうように、ジョンが前に出た。


 「悪いが、ちょっと野暮用があってな。すまないがここを開けてもらえねぇか、鼻欠けのじいさん?」


 ジョンはそう言って拳銃を構え、ボブスに向けた。


 「あまり人様に武器を向けるもんじゃないよ。しかも、こんな老人に向かってね」


 「俺だって年寄りは労りたいんだが、急ぎなんでな」


 ジョンとボブスがしばらく睨み合った後、ボブスがゆっくりと横に退いた。


 「……中に入りな」


 「すまないな」


 ジョンとキャッシーはボブスに軽く会釈し、中へと入っていった。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ