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魂粥術師(こんしゅくじゅつし):陰陽六氏とエクトプラズマーズ  作者: 金澤 弥芳


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7 仮面の向こうのおぼろげ。

獣のような衝動が腹の底でブロロロとエンジンをフカしている。

すぐさま、何かに噛みつき、食いちぎり、血をすすりたい。

血を浴び、身体の隅々まで血をこすりつけたくて仕方ない。

大気に混じる血の匂いを吸い込んだ。

指先についた血を舐めると、興奮と歓喜で身体が魂ごと震える。

打ち震える欲望に呑み込まれ、ロクを救出する目的がかすんでいく。

クソッ。

右前額部の角に手の甲を刺し貫き、自我の尻尾を掴み、引きずりおろす。


黒づくめAに担がれたロクは目測70m。


烏崑は舌なめずりをすると、舌先に尖った八重歯を感じた。

こんなものあっただろうか。実際に骨が変容しているのかもしれない。


「クソども、ロクに少しでも傷でもつけて見ろ、全員ぶち殺して内臓引きずり出してやる」

烏崑は下腿と大腿の筋肉を急激に収縮させると、2歩で黒づくめAの背後にまで距離を詰め、ロクに手を伸ばすが、黒づくめAはしゃがみ込み、烏崑の足元を回転蹴りで転がした。

烏崑は片手を地に突き、前転し、黒づくめAに飛び込み殴りつけるも、黒づくめAは、全身を仄白く光らせガードし踏ん張る。

魂粥で身体を硬化したのだろう。

烏崑はエネルギー渦巻く丹田から咆哮をあげ更にギアをあげる。

黒づくめAの鳩尾に重い一発を見舞わせると、身体が『く』の字に曲がった。

すかさず、白い仮面をかっさらおうと手を伸ばすが、身をよじり避けられた。

烏崑は更に一歩踏み出し、渾身の右フックを繰り出す。

黒づくめAは咄嗟に仮面の下に粥状のものを形成しようとするも間に合わない。

烏崑の右フックが黒づくめAの仮面をぶち破り、顔面をガードする粥状のものを突き抜け、額をとらえる。

何かしらの緩衝作用はあったようだが、黒づくめAは血しぶきをあげ、後方にぶっ飛んだ。

黒づくめAは足元がもつれながらも、背を向け駆け出す。

ごたつく間に黒づくめの応援4名が追いつき、指先や手の平から放った粥状のものが鋭利な刃先となり、烏崑の顔面や腹部や背中に着弾した。

その刹那、魂粥を引きちぎれば、奴らは一気に消耗する筈と、全身の筋肉を収縮させ、身体に刺さった魂粥を固定し掴みにかかるが、刃先はバネのように引き戻されていった。

「貫通しない!」

「魂粥で通らない感じじゃない」

「ヤツは人か?」

「獄獣の亜種じゃあないのか?」

「エナジーが凄まじい!接近戦に持ち込まれるな」

など声がさざめき、黒づくめ達は、最低5mの距離をとり、魂粥弾を放ち続ける。

烏崑が吼え、一人にグンと間合いを詰めると、複数が足止めの連弾で、後頭部や腰や横っ腹などにブチ当て、その隙に距離をとる。

「クソが、ロクはどこだ」

気配の目星はなんとなくつくが、これ以上離れてしまってはどうしようもない。

烏崑は黒づくめらを無視してロクの元へ突き進もうと一歩踏み出したが、首元に魂粥の線が引かれていた。

左右の黒づくめが引っ張っている。

降下していたカラスが巻き込まれ、真っ二つになった。

烏崑の首を()ねようという魂胆だが、すかさず烏崑が力むと、皮膚を通さない。

「何?」

黒づくめ2名は魂粥線を強く握ったまますかさず、交差し、烏崑の首を締めにかかる。

「グェッ」

瞬きをした瞬間、眼前には魂粥刀を斬りかかってくる。

烏崑はのけ反りながら咄嗟に左右の魂粥ロープをグンと引っ張り、両端の黒づくめが、互いにぶつかる。

かに思えたが、空中で足裏を合わせ、力を相殺し着地した。

間髪おかずに黒づくめ4人と、烏崑とで壮絶な殴り合いとなった。

烏崑の避けた手刀が樹を粉砕していくが、烏崑の身体への打撃は肉体を貫く事はない。

意味が分からない。

黒づくめの速度は、人の数倍速である筈なのに、烏崑はそれについてイケている。

肉体だけでなく、凄まじい動体視力という事でもある。

とんでもない化け物の中に僕の魂が、迷い込んでしまったような感覚になる。

だが、烏崑の外した蹴りも、岩を砕くが、黒づくめにブチ当てた蹴りは、相手にダメージは与えるが、岩よりも硬い。

奴らの動きは鈍ってきてはいるが、身体硬化をされるので、致命傷を与えるには至らず、イラつく。

ロクはどこへ行った?

ロクの気配を見失い、周囲に目を走らす。

どこだ?

軽いパニックになった瞬間、足を刈られ、仰向けに倒れ、左右の黒づくめによって左右の腕肩が、固定され、自動梱包機のようにして足が魂粥バンドで無数に固定され続けていく。

ぬぐぅおおおおお!

黒づくめCは馬乗りになり、丁寧に魂粥で刀を作りながら、

「こんな人型に近い獄獣は始めてみた。一つ聞く。お前は人だった頃の記憶はあるのか?」

「何だよ、獄獣って、僕は最初から人だし、今だって、人だ。ただ友達を助けたいだけの准看護師だ。離しやがれ」

「こんな狂犬ならぬ狂獣がただの人な訳があるか」

と、魂粥を手の平で餅状にして、烏崑の口に捻じ込む。

ムムムンム。

吐き出す事が出来ない。

左肩を固定していた黒づくめDが口を開く。

「変態に失敗したヤツが、稀に人に近い姿を保つ事があると聞いた事があるが、こんなに形を保っているのか」

ボイスチェンジャ―は壊れ、女の声であった。

「人と見分けのつかない獄獣がいるとなると非情に危険だ」

「サンプルとして、持ち帰るか」

「いや、こいつを安全に持ち帰れる保障がない」

「そうだな。こいつは底が知れない。このバンドも今にもはちきれそうだ」

「あぁ、さっきから冷や冷やしている」

「ちょうど、こっちも出来上がった」

黒づくめCの刀は黄金と白金のロココ調の仕上がりとなり光輝いている。

「安らかに滅せよ」

黒づくめAは、短く黙とうし、烏崑の心臓に刃先を垂直にぶちおろした。

烏崑は身体を捩ろうにも動かない。

「ムぅオオオオオオオオ!」

刃先が烏崑のシャツと表皮、真皮、皮下組織と突き破りかけたところで、車椅子の車輪が黒づくめCの仮面をぶち破り、ぶっ飛んで行った。

さっきまで月面人外の完全体待ちをしていた赤髪の庵慈であった。



庵慈は車椅子ごと空中で回転し、烏崑の左肩を固定していた黒づくめDのサイドに着地し裏拳で仮面を叩き潰しスライドした。

危険を察知した、黒づくめ達は慌てて距離をとり、

「あのバケモンを秒殺したとでもいうのか?」

「マドカに手を出されると癪だからな」

庵慈が見た方を見ると、飛び散った月面人外の一部、巨大な耳の千切れたものが森の中に落ちており、20m先でウジ虫のようにうごめいている。

更に向こうでは、焼け焦げた巨大な足のようなものをノットラレ達がが運んでいる。

どうやらバラバラになった一部をもとに戻そうという魂胆なのだろう。

月面人外は絶命していないにしても、とどめを刺すまでもない物体となっているようだ。


庵慈は忌々しそうに、黒づくめを見渡した。

割れた仮面から、腫れた顔の一部が判別できる。

「クッ、雑魚ばかりか。ユリがいるっていうんで、世界の精鋭とやり合えるかと思ったらなんだ。ケツの青いへなちょこばかりではないか」

と、モゴモゴと声の出ない烏崑の口に手を突っ込み、餅を捻りあげると、そのまま烏崑も持ち上がり、そのまま立位となった。

庵慈は烏崑の目をのぞき込み、

「小僧、ずいぶん邪悪な顔をしている」

邪悪なメイクをした人がよく言う。とはとても言えない。

「庵慈さん、ユリには手を出さないで下さい」

と、森の暗がりから、足を引きずった慶がやってくる。

「くだらん。この国にユリなど必要ない。そうは思わないか?小僧!」

モゴモゴモゴ。

「その子はどうするつもりですか?」

「殺るつもりはない、こいつはいづれ化け物になる。芽を詰むべきじゃあない」

「あなたはいつだって、伸びしろのある獄獣を逃がす」

「当たり前だ、小魚はリリースするものだろう」

「戦闘狂は、いつか痛い目に合いますよ」

庵慈は、烏崑の餅を引っこ抜き、11時の方向に投げつけると、黒づくめから繋がっていた餅の線が引き千切れ飛んでいった。

「娘はあっちだ」

どうやら餅の進行方向らしい。

烏崑は口角を上げ、ふくらはぎの筋肉を収縮させると、その方へ噴射物のように駆け出していった。

黒づくめの一人が烏崑を追おうとするが、庵慈は素早く車椅子を発進し、黒づくめの首根っこを掴み、地面に叩きつけた。

「貴様らを肉塊にするのに1秒では有り余る。貴様らのエクトプラズマーを連れて来い」

黒づくめと庵慈とでは格が違いすぎる。

「やめなさい」

とマドカは、庵慈の手を払い、黒づくめの回復を始めた。

「止めるには、マドカを連れてくるしかないが?」

「それが狙いですか」

「ヤツとやりたくてウズウズしてるのに、いつも乗ってこない」



烏崑は一足飛びに黒づくめAの余韻を追いかけていた。

何となく感じられていた余韻が不自然に消失した。

どこだ?

背後数mでオイルの切れたライターのように火花が散った。

その残像の元に黒づくめAがいると確信する。

なにかしらの術が発動されるのを覚悟しつつ、武骨に木々をなぎ倒し、動物的な勘であたりをつけ、黒づくめAを殴りつける。

すんでのところで避けられたが、荒い息遣いが聞こえた。

彼女の魂粥術も発動されない。ついにエネルギーが切れたか。

ロクを救うため、エネルギーの1滴も余さず息の根を止めてやる。

情は排除する。こいつはマユではない。

ゴスッ!ゴスッ!

付近にロクの存在を感じない。どこかに置いてきているようだ。

ゴスッ!ゴスッ!

黒づくめAはユラリ倒れるが、烏崑は馬乗りになり力の限りの打撃を繰り返す。

ゴスッ!

相手が術者でなければ、一撃で頭骨の断片が脳にめり込む惨事だが、顔面を秘術でコーティングしているのだろう。

黒づくめAも時折り下から重厚感のある打撃を返してくる。

「クソッ、砕けろ。ロクはどこだ」

返答がない。ボイスチェンジャーを仕込んだ仮面が壊れて、声を出さずにいるのだろうか。

そこらにいる筈のロクを早く探したいが、黒づくめAの体力の底が見えず苛立つ。

こいつはここに来た段階で満身創痍だったし、それでいて月面人外と戦っていた。

どんだけ余力があるのだ。

この単調さが疲労を思い出させる。

全身の激痛がフラッシュバックし、汗が冷たく感じた。

アドレナリンが切れてきたのだろうか。

グゥオオオオー

「そんなの関係ねえー!死にやがれクソ野郎!」

ゴスゴスゴスゴス!!

黒づくめAは咄嗟に烏崑の目元に握っていた砂を投げつけ、素早く立ち上がった。

女の面やフードは完全に外れている。

燃える落ちるカラスで、顔が露わとなるが、視界がおぼろげでよく見えない。

畜生、やはりマユのようにも見える。

烏崑は雑念を消すために咆哮をあげ、黒づくめAに襲い掛かった。

が、瞬間的に鳩尾にボーリング玉のような重い振動に脳が揺れた。

蒼い光を放った掌底が烏崑の鳩尾におさまっている。

ガハァ・・・。

突き上げる嘔気が頭頂部まで貫き、意識が遠のく・・・・。

見下ろす黒づくめAは片手で顔を覆っているが、覗く目元はやはりマユに似ている気がする・・・。

ゆっくりと担ぎ上げられたロクが遠のいていく・・・。

ロ・・・ク・・・。



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