6 唇は温かく柔らかく、濃い血の味がした。
・・・・蓮寺の術師が到着する数分前。
黒づくめBことラナは、慶と黒づくめAが最後の力を振り絞り月面人外と戦っているさなか、限界を迎え、五感がまともに機能しなくなってきている。
月面人外の姿が時折りぼんやりし、音が遠のいていく。
ほんの小さな揺らぎで、灯が消えてしまう。
ラナは抗う気力が湧いてこず、バタリと仰向けに倒れ込んだが、その感覚もない。
「ラナ、避けろ!」
と黒づくめAの機械音に、何となく焦点を戻すと、ラナの眼前に月面人外の巨大な足裏が迫ってくる。
ヤッ・・・
避ける気力がなく、魂粥で身体をコーティングしたが、術が機能しているのかも曖昧であった。
ラナは、どうにでもなれと目をギュッと瞑った。
・・・・。
潰されると思ったタイミングに衝撃は来なかった。
ラナの脇腹横で、溶けた蝋のような野太いつっかえ棒が、月面人外の踏みつけた足を押し上げていく。
蝋のような魂粥は慶が形作っていた。
ラナは仰向けのまま、魂粥硬化を解き、月面人外の足裏が上昇していくのをぼんやり見上げている。
視界に夜が広がっていく。
ハラハラと燃え落ちるカラスがラナの瞳に映った。
希望の兆しに、冷えきった感情がほころぶ。
「きれい・・・」
スーっと上昇していく蓮寺の術者を目の端にとらえ、
「蓮寺のマー様か・・・」
慶は首を振り、
「マー様ではないです。ですがマー様の一部より強いかもしれません」
ラナは怒ったように、
「バカな。マー様を越えるチーゴナーなど聞いた事がない」
月面人外はバランスを崩しながらも、持ち上げられた片足を後方へずらし、着地すると、慶の魂粥蝋に掴みかかる。
慶は口をパカと開き、喉の奥に魂粥を戻し、なんとか月面人外の手をすり抜ける。
黒づくめAはすかさず月面人外に巨大な鉄球のような魂粥をぶつけ、よろめかせた。
「化け物、こっちだ!!」
自身を攻撃対象と認識させ、一時でもラナを休ませようという魂胆である。
木箱を背負った蓮寺のチーゴナーの放つ炎がまばゆく弾け、慶は目を細める。
「彼は産まれ持っての魂粥量が化け物級だから、魂粥を千切る余裕がある」
ラナは、慶に手を引かれ立ち上がり、
「蓮寺の秘術でなく、個人の問題か」
「えぇ」
ラナは立位となったものの、平衡感覚がおかしい。じっと目をつむり、
「蓮寺は優秀な術師が多いな。お前の魂粥量もなかなか」
「多いけど全然使いこなせていません。だから回復術専門なんです。今の魂粥も千切れたら一瞬で終わりです」
「そうか、リスクを追ってまで・・・礼を言う」
「万物への敬意は大観様の教えです」
「蓮寺の化主様か。立派な方らしいな」
「えぇ、とても」
大きく爆ぜる音がして、ラナの肩に炎に包まれた緑ゴブリンの頭部が落ちてきたので手で払った。木箱の彼を見上げ、
「ホントにアレでチーゴナーか・・」
「研究対象として興味がありますか」
「マスクの下がイケメンなのか興味がある」
「え?」
蓮寺の術師の目元は黒いマスクで隠されている。
「冗談だ」
「あなた方もそんな冗談言うんですね」
「格好をつけるのも疲れる」とラナは笑い、
「彼の名前は?」
「企業秘密です」
と慶はイタズラに微笑む。
「じゃあこちらも企業秘密を教えよう。私はラナだ。身長164センチ。Dカップ。羊の串焼きが好物で、今日の私のパンツはイチゴ柄で・・」
「はいはい、分かりました」と慶は苦笑いで、
「名前くらい、いいか。彼はマドカ」
ズガガン!!
地揺れの震源地で月面人外が倒れ込んでいる。
赤い髪を振り乱し、呪術的なメイクを施した女が戦闘用にカスタマイズした車椅子を自在に操り、スピンし、跳びあがり、月面人外の顎のあたりを砕いた。
月面人外は赤黒く表面の色を変え、身体から蒸気を発し、凄まじい速度で赤髪女に攻撃を繰り出すが、とらえる事が出来ず、怒りの轟音を上げている。
ラナは面の奥の目を丸くして、
「な、なんだ、アレは?バグってんのはマドカだけじゃないのか、話が違うじゃないか!」
「『だけ』とは言ってません」
「チーゴナーとは分類がまるで違う」
「あの二人は何というか、遺伝子レベルでバグってるというか」
車椅子で飛び上がった赤髪が月面人外の繰り出した拳の上でバウンドし、
「うるぅあああ」
月面人外の頬を殴りつけると、月面人外は、後方にズシンと転がりズズと背中が滑っていった。
月面人外は背中が停止する前に両手を頭部横につき、腕をバネに跳びあがり、両足で着地し、身体中の前面の穴から、緑ゴブリンを一斉に噴出し、壁状に赤髪を包み込もうとする。
赤髪は、「かぁ!!」と数千の緑ゴブリンの壁に音圧で風穴を開け、その穴をくぐり、月面人外の鳩尾に拳をぶち当てると、巨大な円状の凹みが出来、数千の肛門穴のうちの数百から緑の液体がこぼれ、穴がビクビクと痙攣しうまく収縮しない。
「この程度か、くだらん」
と、赤髪は自身の数十倍ある月面人外を殴り転がした。
月面人外のこぼれ出る緑の液体は表面を覆い、肉づき始める。
「なんだ、まだ変態の途中だったか、待ってやる」
と、赤髪はキセルを取り出し火をつけた。
慶は焦った様子で、
「庵慈さん。早く殺ってください」
「完全体には私が負けると?」
「いえ、あなた方みたいな大怪獣が暴れると二次被害が凄いんです」
「そこはお前が何とかしろ」
慶は「尻ぬぐいばっかり」とため息をつく。
月面人外と赤髪の桁違いな攻防に、黒づくめAは、避けるのに必死であったが、「ラナ!」と声を張り上げ、魂粥ムチを20m先のラナに伸ばし、それにラナが捕まると勢いよく引っ張り、抱き留めた。
「魂粥を少しは回せたか?」
「うん。蓮寺(慶)も回復術をかけてくれていた」
「そうか。ラナ、ここは蓮寺に任せて、ロクだけでも連れ帰るぞ」
「うん。ここじゃ命がいくつあっても足りゃあしない」
ラナと黒づくめAは烏崑の守るロクの元へ駆けだし、迫りくるノットラレやカラスとの接触を最小限にターゲットを目指す。
漆黒の上空は闇夜というよりはカラスの黒で出来ている。
東京中のカラスがここに集まっているかのようであった。
マドカは上空にとどまったまま、龍のような炎を操り、膨大なカラスを屠っていった。
炎を背に翼を硬直させ滑空するカラス。
脱力しハラハラ落ちるカラス。
もだえ苦しみながら羽をバタつかせ落ちていくカラス。
緑の脳の頭頂部の手綱が焼き切れ、緑ゴブリンは分離しながら落ちていく。
烏崑とロクの周囲には、頭頂部を炎で揺らめかせ、人間ろうそくとなったノットラレが混乱していた。
炎を消そうとヘッドスピンで逆さで回転し続け、緑の脳をすり減らしているものや、脳を投げつけあってぶっ倒れるもの、ただひたすらに右往左往するもの・・・。
烏崑とロクは限界越えの身体にムチをうち、混乱の林を掻き分け、出口の鳥居を目指していると、目が虚ろな少年が立ち竦んでいた。
ロクは咄嗟に「大丈夫だからね」と抱き上げると、少年の目から緑色の涙がツーと流れ、眉から上の頭骨がゆっくりとズレ落ちていく。
「ロク、離れろ、罠だ!」
ロクが咄嗟に異変に気付き、少年を抱き離した瞬間、ぶぅわと少年の頭部から数百の緑ゴブリンが溢れ、ロクへ飛び掛かる。
緑ゴブリン達は無傷の少年の身体を隠れ蓑にしていたのだ。
ロクの術の発動も、烏崑の手助けも間に合わない。
緑ゴブリン数百匹がターゲットのロクに、爪の先がかかるその刹那、
ドンッ
ロクはその場から吹き飛ばされ、入れ替わって男がその位置に入り、
スパパパパパパパパパパパパパパッ
男は緑ゴブリンを全て叩き落とし、いつの間にか地面に敷き詰められていた釘に串刺しにしていく。
キュピピピピュー!!
その男は蓮寺のチーゴナーのようである。
「よく頑張りました」
と振り返ったその男は、丸ボウズで、天津飯の目の位置にガーネットと思われる赤い宝石が埋め込まれていた。
「仙二郎!」
慶の呼ぶ声に、仙二郎と呼ばれるその男は、細い目を見開き、
「慶さん、遅くなりました」
「そっちはお願い」
「任せて下さい」
と、仙二郎は、まだ無傷のノットラレと滑空するカラスを鮮やかな武術で無効化していく。
彼は、ノットラレの体内の緑ゴブリンの位置を把握しているかのようで、皮膚を貫き次々と緑ゴブリンを取り出し、釘を放ち打ち付け綺麗に並べていく。
「続いて来れる?」
仙二郎は先頭に立ち、二人を逃がす道を作っていくが、烏崑が動作緩慢であるため、ロクが担ごうとする。
仙二郎は瞬時に戻り、
「ごめん、キツいよね」
ロクは、一瞬ためらい、
「慶さん側の人ですか?」
「そっか、そうだよね。見るからに怪しいもんね、こんな細目ツルパゲ赤石猫舌乳毛3本」
「さ、3本なんですか?」
「うぶ毛を合わせると4本かな」
「ごめんなさい。そこはあんまり興味なかったです。でも、悪い人ではなさそう」
「そっか、それは良かった。それじゃ、安全なとこまで担がせてもらうよ」
「お願いします」
仙二郎の両肩にヒョイと担がれたロクと烏崑。
烏崑はロクの視線に気付き、ぼやけた焦点のピントを合わせる。
安心感が緊張の糸をぶった切ったのか、朦朧とする。
ロクはニコリと笑い、
「烏崑、もう少しで助かるっぽいから頑張って」
烏崑は力なく笑い、近づく鳥居に目をやる。
もう少しだ・・。
加速して流れていく周囲の景色が突如止まり、仙二郎は振り返った。
黒づくめAとラナが仙二郎の喉元に魂粥刀を突きつける。
「そんなズタボロのあなた方じゃあ、私に勝つ見込みはないと思います。それに失礼ですが、伍獄かそこらでしょう?変態直前のマーだとしても捕らえられるレベルではない。ただの運搬係でしょう」
ラナは唇を噛み締め、
「こいつ全然格上だよ」
「分かってる。貴様の獄階は?」
「仇獄」
「・・だ、だが、私らがどこに所属しているかは想像に難くないだろう。女の方だけ置いていけ。ひいてはそれがお互いの為だ」
「ダメだ!」
烏崑は、身体をよじり仙二郎の肩から降り、
「何で、ロクなんだよ。僕じゃあダメなのか」
「烏崑!」
左肩のロクも続いて身をよじるが、仙二郎はビクともしない。
「この娘は渡さない。ここは蓮寺に任せなさい」
と、右手の拳が発光する。
「仙二郎」
黒づくめを追って続いていた慶が、手の平を広げ制し、
「あなたなら、その人達が何者か分かるでしょう」
「ユリカゴの一味でしょう?」
と仙二郎は黒づくめとロクの腹を見て続ける。
「だけど、この2人に関しては、こちらで預かって調査をしてからの方が良いと思いま・・」
「そんな猶予はない。男はどうでもいい。女だけ渡してもらおう」
と、黒づくめAは譲らない
「仙二郎、あなたが感じているものは私も同じです。でも、今ユリカゴとの関係を損ねてはいけない時期なのは、あなたも分かるでしょう」
「そうですか。分かりました」
烏崑は仙二郎を睨みつけ、
「なんなんだよ、ロクを六氏の政治に巻き込むんじゃねーよ」
と仙二郎からロクを奪い返そうとするが、スルリと身をかわされ、倒れ込んだ。
激痛が全身を貫き、身体の自由がきかない。
「申し訳ない。蓮寺の判断が私の中で最優先となる」
と仙二郎は抵抗するロクのベルトを掴み、「すまない」とラナに引き渡した。
ラナはロクを肩に担ぎ、
「協力感謝する」
と、小さく会釈をし踵を返す。
烏崑はロクに手を伸ばし、ロクも「離せよ」と手を伸ばすが黒づくめAとラナは歩き去っていった。
「なんだよ、このクソみたいな身体!」
烏崑は痙攣しながら、立ち上がろうとするも、バタンと倒れ、顎を打った。
ロクが遠ざかっていく。
「待てよ!マユだろ、何でこんな事をすんだよ」
「マユ?」
黒づくめAは振り返り
「誰かと勘違いをしているのか」
ボイスチェンジャーの乱れにマユの面影が混じっているような気がした。
「返せよ!」
烏崑は掴みかかろうと踏み出すが激痛で身体がついていかず、また倒れ込む。
地面に落ちていた金属片を拾いあげ、激痛とともにラナの背中にブチ当てた。
黒づくめAは立ち止まり、振り返り、
「首を突っ込まない方がいい世界がある。今もこれからも」
「これからなんてどうだっていい。ロクをどうする?」
「私は君は傷つけるつもりはない」
烏崑は噛みつくように、
「でも、ロクは傷つけるつもりはある」
「少し確かめる事がある」
「何を?」
「それは言えない。君には譲歩して会話をしている」
ロクは、ラナに担がれながらも、出来うる魂粥術を駆使し、魂粥弾をぶつけたり、逃れようとしているが、仙二郎と同じように微動だにしない。
烏崑はジッと目を瞑り、
「マユじゃないにしてもその仮面の下は人なんだろ、人の心くらいあるんだろ、最後に、数分だけでもロクと話をさせてくれないか」
黒づくめAは、一瞬ためらうも、
「1分だ」
「よかろう。チーゴナー4人に囲まれ、逃げる術はない」
黒づくめAはロクを背負ったラナを引き連れ、烏崑の目前まで歩み寄り、
「おろしていい」
ラナはロクをおろした。
「悪いけど、起こしてくれないか?」
と、烏崑は手を差し出し、黒づくめAが応じる。
烏崑は黒づくめAの手を握り、引っ張り起こされると、その勢いで、ラナに飛び掛かり、首を締め、ありったけの握力を込めた。
石を砕く程の握力である。
「死んでも離さねぇ。こいつを殺されたくなきゃ、ロクを逃がせ!」
しかし、チーゴナー達は誰も動じない。
ラナは、
「殺してみるがいい」
「僕の握力は石を砕く」
と、力を込めるが、ラナの首は鉱物のような硬さでビクともしない。
「ロク、逃げてくれ!」
ロクは結果は分かるが、烏崑の好意に逃げ出すが、すぐさまラナに首根っこを掴まれ、引きずられる。
「烏崑、魂粥を操るヤツ等は銃弾すら通さない」
「そう・・なのか・・?」
「悪いが六氏の端くれでも、レベチなの」
ビキッ!
ラナの首が強烈な光を放ち、
電流が烏崑の全身を貫き、眼前がホワイトアウトする。
烏崑は白目を剥き、痙攣し、再び意識が戻った時には、ロクを肩に担いだ黒づくめAはラナと並び、10m先にいた。
更に遠ざかっていく。
烏崑は声の限りに叫ぶ。
「ローック!」
ロクは、「離せよ」と、黒づくめAに、背中に強い打撃を与えるも意味を成していない。
ラナは、
「少しうるさいな」
とロクに電流を流すと、意識を失いぐったりした。
「ラナ、こっちは大丈夫だから、あまり痛めないで欲しい」
「ごめん、やっちった」
烏崑は立ち上がりながら、
「ロク!起きろ!ローック!」
ロクは烏崑の声にハッと開眼し、咄嗟に黒づくめAの仮面をを剥がし、フードに隠れていた頭部が露わになる。
黒づくめAが慌てて落ちた仮面を拾いあげ、しゃがんだ隙にロクは身をよじり、ダッと烏崑の元へ走りだした。
顔は見えないが、黒づくめAの髪はブロンドでアップにしている。
マユは西洋と沖縄のハーフであるが、優性遺伝の法則を無視して髪色はプラチナブロンドで、顔立ちは純血なコーカソイドのようである。
やはりマユなのか。
逃げ出したロクは烏崑のもとに全力で走ると、ラナは「私が行くよ」
と、走る事はせずロクを追う。
フードとマスクを戻した黒づくめAが振り返った。
烏崑はダイビングしてきたロクを抱きとめた。
烏崑はその衝撃に激痛を伴ったが、それよりも強い感情に支配されている。
ロクの熱い涙が烏崑の頬に伝わった。
最後の抱擁なのはお互いに分かっている。
逃げる機動力を持ち合わせていないし、蓮寺が助けてくれる訳でもない。
ロクがラナに力づくで奪われるのは時間の問題だ。
この愚鈍で不便でクズで役立たずなこの身体が恨めしい。もどかしい。
畜生畜生畜生!
今出来る事は力強く抱いたロクを離さない事だけだ。
クソが。この呪われた身体をぶち壊してやりたい。
烏崑はロクをギュと抱きしめると、ロクは苦しそうに顔を上げた。
その口元が烏崑に触れた。
むっ・・
偶発的な唇が、意思を持ち始める。
炎をまとったカラスが、闇夜に揺らめきハラハラと舞い落ちている。
ロクの唇は温かく柔らかく、濃い血の味がした。
女性の甘やかな匂いが鼻腔をかすめ涙腺を刺激する。
鼓動の高鳴りが眩暈を誘発し魂が揺れる。
幽体が肉体をはみ出し揺れている。そんな感じだ。
続いて烏崑の前頭葉は激しくスパークし、激しいドーパミンの洪水が全身を駆け巡り、隅々の細胞のエネルギーのボリュームが振り切れるほどほとばしる。
そしてヒクヒクとひきつるように口角が上がっていく。
身体中の骨が変容していくイメージ。
ギシギシギシ・・。
肉体を束縛する逆棘がゆっくり溶けていくイメージ。
いつの間にか、ラナがロクを担いでおり、再び距離が離れていく。
烏崑のギラついた目玉がロクを追う・・・。
烏崑の丹田から無限のエネルギーが脳に充填されていく。
口角が痙攣しながら広がっていく。
グウォー!!!!
右足が地をとらえ、右ふくらはぎの筋肉の異様な収縮とともに一歩目がギュンと加速する。
地獄の痛みの枷が外れ、野獣の躍動を内に感じ、烏崑は咆哮をあげた。
自在な思いと自在な身体のリンクが楽しすぎる。
行く手にいたノットラレを裏拳で打ちのめすと面白いように飛んで行った。
続いて襲い掛かるノットラレとの間合い詰め、首を掴み力を込めてみると、腐った桃のようにグチュと潰れ、首は後屈してもげた。
人を超越していると感じていたノットラレの動作が緩慢にすら見える。
彼らの打撃を避けた後に余白がある。暇なほど。
楽しくて口角が引きつるように耳元に近づいていく。
烏崑は身震いし、地面に刺さっていたロープ止めを2本続けて引き抜き、ドラムのスティックのように、石畳や金属を打ち付け、呪術的なリズムを刻みながら、ノットラレの顔面を潰していく。
身体の開放と直観的な動きで自由を手にしたと思ったのもつかの間、あふれ出るエネルギーが更に更に強大化していき、思考が追いつかない。
変に制御しようとすると、身体が捻じれるのを感じる。
しかし鼻腔が血液を感知すると猛々しい荒ぶりがどうしようもない。
烏崑は恍惚な表情から一転、涎を振り乱し、一気にラナとの距離を詰めると、ロープ止めをぶん回し、振り返ったラナの顔面をとらえた。
と思いきや、ラナは、ロクを盾にし、烏崑は咄嗟にブレーキをかけるが、勢いを殺しきれない。
着打直前、黒づくめAが面をづらし、喉奥から粥状のものを吐き出し、ロクを防護する。
「ッぶねぇ」
ロクの無事を目で追う烏崑の隙をつき、ラナがほの白く発火した左足を烏崑の脇腹にぶち込む。鉛のように重く硬い。
烏崑の肋骨は粉砕しただろうが、脳内ではドーパミン麻薬が爆発し続け、激痛はかき消される。
烏崑はラナの足をミシシと掴み、肩のロクを引き剥がしながら、ぶん回し地面に叩きつけた。
「はぅあ!!」
顔面から叩きつけられたラナの面に亀裂が入る。
烏崑がロクの腰を抱くや、ロクの腰は軋み、カハァッと顔面を歪める。
後方に瞬間的に気配を感じ振り返ると黒づくめAのローリングソバットが顔面に直撃する。
鉛の塊のように重い。
なんとか、倒れまいと足を踏ん張った足元に倒れたラナの身体があり、踏みつぶし、態勢を崩した。
上体がのけ反り、脱力した刹那ロクを黒づくめAに奪われた。
「ロクを返しやがれ、いくらマユでも許さねー」
ふと見た本殿裏の森がガササと揺れた。
燃え落ちるカラスが黒づくめの一団を照らした。
新手の応援である。
認知した直後、烏崑の両腕は二人の新たな黒づくめにガッチリと捉えられた。
森のとは別動で左右にも黒づくめがいたのである。
烏崑の肩が白くコーティングされていく。
動きを封じられる。
ぬおおおおおお。
烏崑の凄まじい腕力で、白いコーティングにヒビが入り、両腕を振り回すと、両サイドの黒づくめは、吹き飛んでいく。
右サイドにいた黒づくめと急激に距離を詰めると、そいつの顔面を狙い、斜め上から蹴り下ろす。
相手はを防御するも、堪え切れず、地面に叩きつけられバウンドする。
数名の黒づくめが魂粥刀で斬りつけるも、烏崑は凄まじい脚力でダッと間合いに入り、ヘッドバットをして、刀に噛みつき、バリンと割りムシャムシャと食らった。
そして、頭部を掴み、面を割ると、黒づくめは退き、顔を隠す。
その黒づくめの女は魂粥を千切られた為か、急激に体力を失ったようだ。
過呼吸のように必死に酸素を取り込んでいる。
息も絶え絶えに、
「な、なんですかこいつは?」「人外?」「バケモン」など黒づくめ達がさざめく。
ラナは応援の黒づくめに抱き起こされた際に、面が割れ落ち顔が一瞬露わになるも隠された。
黒づくめは一様にブロンドのコーカソイドの女であった。
あいつ(黒づくめA)もコーカソイドだからマユに見えただけなのか?
残虐さが口角を引き上げる野獣の意識に乗っ取られつつも、理性的な自我のようのものが鼻腔を彷徨う。




