3 エクトプラズマー 変態
ロクを神社に送り届けると、ロクはすぐにGパンとTシャツに着替えた。
だが、胸の膨らみは隠していない。
「疲れたから少し横になりたい」とロクがあくびをする姿を見て改めてホッとした。
蓮寺の慶さんは今日からここに駐在するので、ロクの父が迎えに行っている。
ロクを一人にするのはどうかと思ったが、ゆっくり休みたいだろうし、一人で考えたい事もあるだろう。
ぶっちゃけ僕の頭も、オーバーヒートでちんちんに熱くなっている。
こんがりとした目玉焼きが焼けるかもしれない。
半熟の方がいいな。
そういえば昼ご飯食べてなかったな。
てかもう夕方か。
マユは大学から戻ってるかな。
横目に電信柱がいくつも通り過ぎている。
なんだか疲れ過ぎて帰巣本能だけで歩いている気がする。
あぁ、そうだ、ロクん家にスクーターを忘れてきてるじゃん。
でも、もうすぐバス停だし明日にしよう。
我那覇病院前という停留所があり、自宅はそこから徒歩2分である。
ロクの子宮筋腫の手術は我那覇病院でこっそりやってもらおう。
マユからアリスさんに頼んでもらえば大丈夫だろう。
女子高生とすれ違う。
ロクの女子の姿が頭をよぎる。
女のロクのブレザーの姿。
そしてロクのおっぱい。
あー・・ゼッタイダメ・・疲れてる。
携帯の通知音が鳴る。
しばらく歩いたあと、ラインを確認するとロクからだ。
『だ』の一文字だけだ。どうしたんだろう。打ち間違えだろうか。
振り返るが、既に鳥居は見えない。
『どうした?』と返信してみるが返事が来ない。
何か胸騒ぎがする。
踵を返し、早足で神社へ向かう。
だが、有棘骨の激痛で心に身体がついていけない。
このポンコツの身体がもどかしい。
豆腐屋の軒先にスクーターがあり、鍵はついたままである。
「すみません、借ります』
と声をあげ、スクーターを拝借し、ハンドルを捻り、前のめりにフルスロットルとする。
西の鳥居からなら車両が通れた筈だ。
着信音が鳴り、表示を見ると、ロクからだった。スピーカーモードにすると、ロクは声をひそめ、
「物音がして裏山見たら棺みたいなのを持った黒ずくめ達がいて、ちょ、待って・・棺が動いた・・・棺をめった刺しにしてる。一人こっちきた。何だよアレ」
「蓮寺の人は?」
「まだ」
「今、バイクで向かってる。一か八かレミーさんからもらった発煙筒を窓から打ち上げて。電話は切らないでこのまま」
「分かった」
携帯から連続的なノイズののち、樹々の向こう、社務所付近から閃光弾と狼煙が同時に上がる。
スピーカーモードの携帯はザザザとノイズに混じり、「な、何ですか?」とロクの緊張した声のあと、携帯はゴツゴツと転がるような音が聞こえる。
「ロク、ローク!」
スクーターの速度がもどかしい。
鬱蒼とした樹々が開けると社務所が目に入った。
既にロクの父親と蓮寺の慶が社務所の手前にいた。
社務所内の異常を察し速度を上げた慶の速度は目で追えなかった。
やはり蓮寺は常識の枠の外にいる。
社務所からロクを担いだ黒づくめAが飛び出し、すかさず慶が銃を放つも、黒ずくめAは抜刀で弾き、慶に切りかかったところ、慶も抜刀し、刀を弾く。
残像同士の斬り合いであちこちに火花が飛び時間差で金属音が響き渡る。
黒づくめと慶はつばぜり合いとなり、
「殺意がないですね」
慶はふんわりとした声で言った。
黒づくめAの肩でロクはぐったりしている。
黒づくめAは忍者のようであり、顔は白い面で隠れている。しかし、直前に誰かと戦っていたのか、黒装束は無数の破れがみられ、露出した肌は黒く汚れ血が滴っている箇所もある。
男にしては小柄である。
「我らの検討はついているだろ。邪魔はしない方がいい」
黒づくめAはボイスチェンジャーを仕込んでいる。
「やはり、あなた方ですか」
と慶は距離をとる。
「そういう事だ、この娘は予定になかったが、急遽指示が入った。そっちにてこずって、だいぶ疲れている」
と黒づくめAは裏山で棺をかつぐ黒づくめBを見やり、「物分かりがいいと助かるんだが」と続ける。
黒づくめ2名が満身創痍で倒した対象が棺の中にいるのだろう。
森がさざめき、ヒグラシが境内に反響している。
「あなた方がそれだけ息も絶え絶えになるとは棺には相当な獄獣が?」
「高賀茂の変態前の『マー』だ」
「『マー』様を?」
「変態前の弱っている一時なら我らチーゴナーでもどうにか捕獲する事は出来る。だが絶命させる程の余力が我ら2人にはない。もう刺しても刺しても刃が通らない。一刻も早く仲間と合流しとどめを刺さねばならない」
慶が力みを解除し刀を下ろすと黒づくめAは「ありがとう」とロクを担いだまま棺の方へ歩き始める。
黒づくめAの頭上、はち切れそうなモーター音とともに夕焼けを遮る影。
スクーターごと跳びあがっている烏崑である。
烏崑は黒づくめAの顔面目掛け突っ込みながら、
「返せ、クソ野郎が!」」
しかし、黒づくめAにスクーターの前輪をいとも簡単に片手で掴まれ、勢い余って烏崑は前のめりにスクーターから転げ落ちた。
地に着く寸前、黒づくめAに腹を蹴り上げられ、グングン上昇する。
不思議と痛みは少ない。
何でだよ。結局何もできねーじゃんか。
真下の黒づくめとロクがみるみる小さくなっていく。
身体を捻る事すら出来ない。
「畜生、なんもできねー、ロク、ロク!」
烏崑はうつ伏せのまま、まだ上昇している。
「慶さん、ロクは何も関係ねーだろ、助けろよ!」
「訳あって彼らとは争えない」
慶は刀を鞘にしまっている。
「いや、ダメでしょ。おい、何やってんだよ。ロクを返せ!返せって言ってんだろ」
黒づくめAはロクを担ぎなおし、黒づくめBのもとへ歩いていく。
『マー』との闘いのダメージがかなり残っているのか、一度よろめき、片膝をつき、姿勢を整え歩き出す。
「おい、ロク、ローーーック!起きてくれ、ローーーーック」
慶は烏崑の真下で喉の奥から白い粥状のものをジュクジュク吐き出し、ピザ状に広げている。烏崑の緩衝材を作っているようだ。
「ロォォォォォォッック!!」
黒づくめAが黒づくめBと合流し、茂みに消える刹那、バンと破裂音がして棺が爆発し蓋が弾け、ロクの顔面に直撃するかと思われた破片を黒づくめAが叩き落とす。
モクモクとした硝煙の中から死んだ目の妊婦が現れた。白いネグリジェを着ているが、あらゆるところに刺し傷があり、どす黒い血がドロドロと流れ落ち汚れている。
ネグリジェの腹部に破れがあり、ヘソの緒が地面に向かってゆっくり伸びていく。
「クッ、変態が始まった」
黒づくめAはロクを置くと抜刀し、黒づくめBに、
「まだ応援は来ないのか?」
「向かってる筈だが」
「このままじゃ大惨事だ。蓮寺も『マー様』は無理にしてもチーゴナー上位を至急!」
と、慶に鋭く伝えた。
慶は察してか既に蓮寺の本部に携帯で連絡している。
棺の妊婦、高賀茂の『マー』の口から白い粥状の気体と液体の中間のようなもの、魂粥がジュクジュクとこぼれ、首を大きくブン回すと白い粥状のものが、巨大化しながら一帯の木々をなぎ倒し、魂粥が無数に分離し、黒づくめAの顔面を殴打し、面が外れかける。
一瞬黒づくめAの口元が露出した。
???
落下した烏崑は慶の作ったピザ状の魂粥に包まれ、地につくと、魂粥は慶の喉奥へと瞬時に吸い込まれた。
慶は妊婦を見つめ、瞳を充血させている。
「どなたかと思ったら蒼炎の茶々様。その節は仲間を助けていただいてありがとうございました。こんな形でお礼は言いたくなかった。いつも微笑んでおられたのに。おいたわしい。楽にして差し上げます」
慶は刀をなぞり白い光をまとわせ、ダッと推進する。
茶々のヘソから伸びた筒状のヘソの緒の先からジュルジュルと何かが形づくられていき、徐々に体の内容物がそちらへ移動していく。その先が人外になるのだろう。茶々は苦しそうに呻き、吐血しながら、黒づくめABに向かって、口から白い粥状のものを吐き出すと、無数のコンクリ状の鋭い円錐に変質し放たれていく。
黒づくめ達は、目にもとまらぬ勢いで、それらを叩き落とし、避けた。
茶々は、死角から襲い掛かる慶に気付き、手の平から粥状のものが滲むや、バックドラフトのように急激に炎が巨大化した。
慶は咄嗟に手の甲から魂粥を出し、広げ防御するも、炎圧で吹き飛ばされる。
烏崑にも猛々しい熱が届き、目を背けた。
黒づくめAは身を挺してロクを守り、すかさず魂粥を各指先から伸ばし、茶々の身体に巻きつける。
同時に黒づくめBも茶々の身体に魂粥糸を巻き付け、瞬間的に茶々の身体の自由を奪うと、
「今だ」
と黒づくめAが叫び、応じた慶が茶々との間合いに距離を詰め、茶々の首元へ光る刀をぶん回した。
胴から離れた首が飛ぶ。
しかし、茶々の頭部は中身のないマスクのようにひらりと舞う。
茶々の本体はヘソの緒の筒先にほとんど移動しており、ズルルと最後の麺をすするように茶々の中身を吸いつくした。
まだ肉体の不安定な人外は、全貌は分からないがかなり体積が大きい。
材料の質量が人外の質量と同等ではないらしい。
人外は慶を追い回転しながら、形を成していく。
その過程で白い塊が慶を幾度となく掴むが、その度に慶は刀を振り下ろし切断し、距離をとる。
人外は変態の次のフェーズに入ったのか、追うのをやめその場でイビツに回転を始めた。
慶は人外に強い視線を向け、刀は構えたまま、携帯で追加情報を蓮寺の本部に伝えている。ランクXと聞こえる。
茶々は未知の人外に変態したらしい。
烏崑は人外と黒づくめAの肩で気を失っているロクとを交互に見た。
黒づくめAは、ロクを足元に下ろす訳にもいかず、人外を見据えたまま本殿へ後ずさりしている。
この混乱に乗じてロクを奪い返す。
人外の回転が止まり、全容が明らかとなった。
5mはあるだろうか、月の表面に覆われたゴーレムのようである。
全身に数百はある肛門のような穴がゆっくりした鼓動のように膨隆している。
月面人外の周囲を慶と黒づくめABが囲んでいる。
ロクは?
烏崑は目を走らせるとロクは本殿横にもたれ、まだ意識は回復していない。
一時的に誰の支配下にもない。
彼らの意識が逸れている今のうちに・・・。
烏崑はロクを奪還しに近づく。
ギョンッ。
人外の全身の肛門穴が一斉に見開かれる。
穴から数千の眼球がのぞいた。
と、同時に数十の銃声が響き、眼球のいくつかがピチュンピチュンと破裂していく。
後方から助太刀に来たのはモーターヘッドである。
モーターヘッドがショットガンやマシンガン、ピストルなどを乱打し、人外は一歩後ずさった。
一斉に穴は閉じられ、
ギョンッ。
再度数千の穴が開いた時には、穴の奥は眼球が消失し全て暗闇となっていた。
煙りや銃声のなか、2代目ベティーさんがメンバーを率いている。
烏崑とロクを見つけ、
「おまえ達、大丈夫っか?」
「ベティーさん」
烏崑は呟く。
2代目ベティーはレミーの声真似をして、
「時には魂粥より銃が有効な時だってある。いけ、おめーら、今日はおおものが続くな、ガッハハハハ」
慶は怪訝な表情で、
「はっきり言って足でまといです。あなた方を守る余裕はない」
ベティーは、
「何を言う。手柄は渡さんぜよ」
慶は、人外から目を離さず、
「ランクXに民間は手を出してはいけないルールです」
「ガッハハハハ。正式にランクXの達しはない。それにモーターヘッドは仲間からの狼煙には命を賭して応えるのが掟。おめーら、撃ちまくれ」
ぐぅおー!!とモーターヘッド達は鬨の声をあげ、は人外に銃を乱射していく。
月面人外の表面は、銃弾がめり込み、肛門穴にいくつかの銃弾が吸い込まれていく。
効果があるのか判断しかねるが、モーターヘッドの士気が押しているような雰囲気を醸してくれる。
人外は数多の肛門穴からランダムに、ベフー、ブ、ベフーと紫と黒のガスを出している。
モーターヘッドの銃弾によって内部で何かの機能不全を起こしたのか?
その煙に誘われるかのようにカラスが空を覆う程集まってきている。
防災無線からサイレンが鳴り、「人外出現、人外出現。蓮寺久麻野宇須神社、ランクX。繰り返します。人外出現、蓮寺久麻野宇須神社、ランクX」
遠巻きにいた参拝客の携帯アプリから鳴るアラームもけたたましく聞こえた。
銃撃に持ちこたえていた巨大な月面人外がゆったりと前傾姿勢になると、ドスドスとモーターヘッドに突進し、両腕を広げてダイブし、ズシンと両手両膝をつく。
モーターヘッドは覆いかぶさる人外に銃をぶちかますものもいれば、逃げ惑うものもいた。
モーターヘッド10数名の頭部付近にあった人外の穴のみが大きく開く。
穴の内側にはチェーンソー状の刃が囲んでいた。
モーターヘッド10数名は帽子のように穴をかぶると、ウィーンと切断音がし、穴の脇から流血した。
モーターヘッドを覆っていた人外が起き上がると、数十人のモーターヘッドの眉のあたりから頭骨のみが円形に切り取られ脳が剥きだしとなっている。
モーターヘッド達は流出する血液で眼球が紅く染まりながら青ざめていく。
露出した脳の頂点に緑の染みがじんわりと浮かび、やがて脳全体を緑に覆っていく。
ゴリゴリゴリ。
人外の肛門穴10数か所がさきほど切り取った頭骨を咀嚼している。
頭骨を喰われたモーターヘッドそれぞれの脳の頭頂部がモゾモゾと動いている。
何かがうごめいている。
ベティーは仲間の異様な光景に唇をわななかせながら、自身の脳に触れて確かめる。
脳みそは温かく柔らかい。
ベティーは、眉から上の頭骨がなく、ブロンドの髪は襟足のみとなっている。
ヌルヌルした緑色の液体がついた両手を確認し、表情筋がみるみるこわばっていく。
「なななななぬん・・・」
ベティーらの脳の頭頂部がグネグネと盛り上がると緑色の液体が飛び散り、子供の親指程度の緑色のゴブリンの上半身が姿を現す。
キュルルと音をあげ、両手を脳みそから引き抜くと、手綱状の神経を束ねたものを握っている。
ゴブリン同士でアイコンタクトをし、キュルルと言葉を交わし勢いよく手綱を引き上げると、モーターヘッドの男達とベティーの眼球はグリンと上転し、眼窩から緑色のゼリー状のものが溢れた。
「おわぁっ」
無事なモーターヘッド達が元仲間達に向け一斉にショットガンをぶっ放すも、緑ゴブリンにノットラレたもの達は身体をグネらせ、弾を避けると、時に酔拳のような動きで無事なモーターヘッド達に襲いかかった。
緑ゴブリンは人のポテンシャルを大きく超えて引き上げるらしい。
ノットラレは高速で動く操り人形のような動きで、モーターヘッドAの間合いに飛び込んだ
「ジョン!」
モーターヘッドAはノットラレの生前の名を叫び、銃身で殴りかかるも、それより先に張り倒された。
やはりノットラレは純粋な人の力ではない。
モーターヘッドAは仰向けに倒れ、バウンドしながら
「クソミドリめが!」
と、銃口を脳の頂上で操縦する緑ゴブリンに向け、ショットガンがブチかます。
しかし緑ゴブリンは、すんでのところで脳内へ隠れ弾丸をかわした。
怒ったゴブリンはキュルーと自身の手で脳をちぎり、投げつける。
ちぎった脳みそがモーターヘッドAの鼻腔に入り生理的拒否反応でパニックになり、カーッペ、カフッカフッカフッ、ゴケー・・アペッ、
「やべ、飲んじゃっ」
言いかけ、上体を起こしたところで、月面人外の手がモーターヘッドAの頭を押しつぶす。
かに思えたが、手のひらの肛門穴を広げ、モーターヘッドAの頭を含む。
チュイン。
秒でモーターヘッドAの頭骨が切り取られ、仲間と同様に脳が露出した。
ゴリゴリガリ・・・。
頭骨を美味そうに喰う手の平。
他のメンバーも次々に頭骨を喰われ緑ゴブリンが注入されノットラレとなっていく。
烏崑は気配を消し、ほふく前進でロクに近づくが果てしなく遠く感じる。
目の前で誰かが立ち止まった。どっちだ?ノットラレ前か後かどっちだ?
見上げようとしたが、やめた。
死んだふりをする。
ピチョン・・・・ピチョン・・・・。
烏崑の拳に緑色の体液が滴る。
烏崑が見上げると、頭骨のない男が見下ろしている。
緑ゴブリンが首を傾げるのに同期しノットラレも首を傾げた。
目をぱちくりさせたのち、烏崑にショットガンを向ける。
ダン!
烏崑は瞑った目をおそるおそる開けると、眼前に落ちて来た弾丸に再び目を瞑った。
黒づくめAがすんでのところで銃弾を手で受け、それを落としたのである。
ノットラレは、後方に飛んで距離をとり、緑ゴブリンがキュピピピと威嚇音を発していた。
黒づくめAの手の平をよく見るとジュクジュクとした白い粥状のものがうごめいていた。
何故こいつは僕を助けた?
ノットラレはキュピーと手綱をひき、黒づくめAにショットガンで殴りかかろうとするも、黒づくめはすかさずショットガンを取り上げ、ノットラレの脳天にショットガンを奥深く突き刺し、引き金を引く。
ズダン!
黒づくめAは、うつ伏せの烏崑の胸ぐらをつかみ持ち上げ、
「邪魔だ。どこかへ行っていろ」
と機械音。
「ふざけろ」
と、烏崑が黒づくめAの手を払いのける。
と、その手の指先が何かを指し示す。
どこから迷い込んだのか老婆のノットラレが烏崑に飛び掛かり、黒づくめAが回し蹴りハイキックで撃ち落とす。
黒づくめにまた助けられたのか?
老婆の剥きだしの脳から振り落とされそうになるのを緑ゴブリンはこらえて、手綱を引いた。
ギャウと老婆は噛みつくように烏崑の首元を狙うが、黒づくめAの手の中で螺旋丸のようなものがうずまき、脳天に掌底をぶち込む。
老婆のノットラレは、緑ゴブリンごと脳天からミキサーされたように肉片が飛び散った。
黒づくめAの白い仮面が返り血で緑に染まった。
本堂では、慶はノットラレの弾丸を身体に受けながら、ロクの父親を扉の中へ押し込んでいた。
慶に着弾した弾丸は多少身体にめり込むが貫通せずに落ちていく。
魂粥術で身体にコーティングがなされているといったところか。
仲間を殺られた緑ゴブリン(ベティの身体)は怒り狂いキュルキュルと音を発し、8倍速で黒づくめAに迫っている。
黒づくめAは、手の平の螺旋丸からドロリと魂粥の形を変え刀とし、横一文字に緑ゴブリンに切りかかる。
緑ゴブリンはヌチャと脳に隠れ、ベティーの口から飛び出し、黒づくめAの眼前で破裂した。
緑の液体と化した破片は黒づくめAの面を溶かし、左目と身体の一部が露出させる。
黒づくめAはチラと見た烏崑と目が合うと、フードを深くかぶる。
瞳はエメラルドグリーンのような気がした。
マユ・・・なのか?
「マユ・・」
と思わず呟いた。
ベティーの脳からピョコっと別の緑ゴブリンが出てくる。
キュルッキュ・・
ノットラレには何匹か緑ゴブリンが寄生していたのだ。
そのピョコッと出た緑ゴブリンの頭が途端に破裂する。
後方にいたノットラレがショットガンをぶっ放したのだ。
銃を撃つ事が楽しいのかキュルッキュと笑いながら、ぶっ放し、ベティーの緑ゴブリンもキュルッキュとはしゃぎ、乱射する。緑ゴブリンの情緒が全く分からない。
黒づくめAは、烏崑に飛んできた流れ弾を魂粥刀で弾き、
「クソッ、元を絶たないとダメだ。お前は邪魔だ!隠れていろ!」
と、ダッと増殖元である月面人外との距離を急速に詰めていった。
ノットラレ同士で打ち合っている間に、烏崑は本堂にもたれているロクを建物の中に入れようと、全身の激痛に耐え、不細工な小走りで向かった。
走りながら烏崑は南の鳥居をふと見やると、向こうから脳みそ剥きだしの参拝客がゾンビのように身体を揺らしながら歩いてくる。
「マズいな、かなり増殖している・・・」
ある緑ゴブリンはガトリングガンのように脳の手綱を引き、口から緑ゴブリンを発射し、次々ににげまどうやじ馬の口に潜り込んでいく。
更に増殖するノットラレ・・・。
全方向に彼らの姿がある・・・絶望じゃんかよ・・・・。
ノットラレ一人でさえ、マッチョが束になっても敵わないってのに。
百匹近いバケモン、そして一部が銃を持っている。
さらにはその親玉の本体がいる。
湧き上がる絶望をタコ殴りして飲み下す。
僕はいい、でも、何としてもロクだけは・・。




