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魂粥術師(こんしゅくじゅつし):陰陽六氏とエクトプラズマーズ  作者: 金澤 弥芳


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25/26

25 トメタル歌劇団

ブラックアウトし、気づくと、床に横たわっていた。

となりに悪魔が横たわっている。

うわぁ。

相手も反応してうわぁと跳び起きる。

卍郎であった。

「烏崑かよ、まぎらわしい」

「お互い様」

烏崑は起き上がり、

「烏崑・・・見た?」

「あぁ、日葵ちゃん・・・」

「俺はタカトシ君・・」

追体験についての話を続けるには尋常でない疲労感を伴うため、言葉が続かない。

沈黙ののち、辺りを見回すと、そこには並んでいた髑髏はなく、朽ちたコンロだけがそこにあった。

「これを経験させたかったて事か」

「そうなの?」

「確かにそこに漂う魂氣は追体験できたけど」

「もう帰っていいんだろ。めっちゃ疲れた。きっちぃ・・」

「卍郎、早く出よう。ここにいると不可逆的に心が破裂して飛び散る」

「出口はあっち」

二人で指さした方が一致する。多分この感覚は合っている。

卍郎は、一歩踏み出し烏崑に向き直った。

「卍郎、先に行きな。僕は身体が悪いから」

卍郎は「早く来いよ」と行きかけて、舌打ちし

「クソ。一緒に居てやる。貸しだからな」

「ひょっとして怖いのか?」

「ちげーよ。おもらしは3ヵ月してねーし」

「卍郎、後ろ」

「ちょ、やめろって。そうゆーの、おま、ホント、ふざけんなよ」

「卍郎、ホンッツ、後ろ」

卍郎がチラと振り返ると、

ゆっくりといくつもの首吊りが天井から降りてくる。

いくつもの声が大なり小なり重なる。

「ころころころころこここここ・・・」

「かえっせ・・」

「痛い。うぅううううぅ」

「ぶつぎりにして・・・」

「煮込んでやぐぁあああ」

「ぶっつつつりとと切断ししたみらいヴぉ、お、がえすぃやが・・」

「痛い。痛いううぅ。たずげって・・」

いつの間にか周囲を取り囲まれている。

きゃーーーーーーーーーーー

次々と子供達の悲鳴が頭内に反響する。

「烏崑、これ・・ど、どうなんだよ?」

「どうにもならんし」

幽霊が見えたからって、実害に対処する能力はからっきしである。

ぶら下がっている首吊り達は、ベキッ、ベキベキベキと、大腿骨の折れるような音を響かせ、一つになっていく。

「トメさん、どういうつもりなんだよ。こっから何も出来ねーって。どっかで見てるんなら出てきてよ。もう無理だし」

「トメさん、もうギブ!ギブだから」

「そうか、死霊の恨みの対象になる為にこの格好をさせてたんだ」

「だから、何だよ」

「今度は物理攻撃で僕らを死なせるつもりなのかもしれない」

「ぇえ?もういいって」

首吊りらは次第に羽根のもげた蝶に無数の足がついているように見えてくる。

足の一つ一つをよく見ると、両腕のない大人達が頭部を足先として生えている。

頭部を叩きつけながらうねり歩き、顔や頭部はひしゃげながら血しぶきをあげ呪詛を吐き散らし、喚き散らす。

芋虫の複眼の一つ一つには、顔の欠損した子供達が呻いている。パパぁ。ママぁ。だずげで・・・。

死霊は烏崑と卍郎に鎌首をもたげた。

烏崑と卍郎は半ばあきらめ、目をギュッとつむった。

芋虫の足と化した血みどろの親の身体が振り下ろされ、いくつもの足先である顔が連なり近づいてくる。

なるようになれ。

涎と血液を振り乱し、唇をめくりあげ、歯をむき出し、ガチガチと歯を鳴らし、舌先が千切れるのも構わず、烏崑と卍郎に襲い掛かかり、ぶつかりながら、服や皮膚を噛みちぎり、吹っ飛ばす。

卍郎は床にバウンドしたあと転がりながら、横壁に向かって床を蹴り、襲い掛かる芋虫を飛び越えると下方には、悪魔姿の烏崑が白目を剥き、芋虫の腹に吸収され、足の一となっている。

「烏崑!チッ、これだから動けねーヤツは」

芋虫は足先の頭達を床に叩きつけながら、うねり、方向転換し、着地した卍郎に飛び掛かる。

卍郎は逃げ道を探すが、空間のどこも芋虫の足と化した身体と先端の頭部に覆われている。

「ムリムリだって、わーーー」

卍郎は芋虫にズブズブと吸収されていった。

芋虫の中はぎゅうぎゅうに詰まった、子供のパーツがぬめりながら動いているようだ。

必死にもがき、外に半身出ると、腕のない怨霊が密集していて、ガチガチと音を立てながら、次々と噛みついてくる。

「何だこの野郎!俺は悪魔じゃねーから、翼も壊れてんじゃねーか、見てくれよ」

襲い掛かる顔を押しのけながら背中の翼を掴み外そうとすると、背中合わせに烏崑であった。

烏崑は噛みつかれながらもバカ力で、襲い掛かる腕欠損怨霊を引っこ抜き、卍郎に噛みついてきたヤツの顔を潰す。

「っくしょー、卍郎、もう腕が上がらなくなってきた」

「こっちももう無理。どっかにトメさん見てたりしないの」

「トメさん、トメさーん。言うよ、言っちゃうよ。よーし、んならもう、ダダモレダダモレダダモレダダモレ」

「ダダモレダダモレダダモレ」

2人を中心に怨霊達が集まってくるため、圧死しそうに苦しい。

噛みつかれる痛みより苦しいの方が強いかもしれない。

卍郎は両手を組んで突き上げ、次々顔を潰していくが、その顔に変わって、無垢な子供の顔がせり上がってきて、一瞬ためらう。

その瞬間、集団のピラニアに噛みつかれるように、一斉にカジカジカジカジ・・・。

ぎゃあああああああああ。

「こんな死に方したら、身体が残らねぇじゃねーか。何かんがえてんだよ」

「ダダモレ~」

ぎゃああああああ。

何だよ、この終わり方。ロク・・ロク・・。

意識が遠のいていく。

聴覚のボリュームが途切れ途切れとなってゆくなか、小気味よくチャッパが打ち鳴らされ、呪術的な2本の三味線の音がグルーヴしていき、デス声のお経が攻撃的な音波となり、ビリビリと空間を揺らしていく。

明らかに、周囲の身体達に動きは鈍化していき、徐々にあえぎ、苦しみ悶え、身をよじっている。

烏崑と卍郎の周囲はゆっくりと晴れていく。

チャッパを打ち鳴らしデス声でお経を唱えているのは、袈裟をまとったトメであった。

続くのは、ベケベケと三味線をかき鳴らす服部玉臣と三線の藤林(ふじばやし)楽々が、リードヴォーカルのトメにデス声でコーラスとして絡み、時にメインに取って代わる。

肩掛けのエイサー太鼓を打ち鳴らしているのは百地(ももち)タケル。合間に口から火を噴き、塩を投げ、時にコーラスに加わる。

これはお祓いなのか?

トメは、チャッパを鳴らしながら

「遅れてすまなかった」

とデス声。

楽々もデス声で

「タケルが、ごねるごねる」

タケルは、アクロバティックに回転し烏崑と卍郎に塩を投げつけ、

「ったりめーだ。バカ兄弟と、楽々の唇を奪いやがった貴様らは怨霊よりタチガ悪い。なんならおめーらも成仏させてやる」

卍郎もつられてデス声を出そうとするが、相撲取りのそれである。

「兄ちゃん、そりゃねーよ」

「黙れ死ね、卍野郎!」

トメはタケルを制し、「祓い周波ギアファイブ」チャッパを鳴らし、一瞬の静寂のあとギアを上げお経を再開する。

お経の呪術的な波動に、芋虫はズリズリ押し退けられ、咆哮を上げると、足と化した怨霊達がヌルジュポンと排出されていく。

それらにトメは歌い唱えながら、「ニルヴァーナ」と、親指と小指で輪を作ったまま自身の眉間にあて祈り、怨霊達に優しく触れると、穏やかな顔に変容し霧散していく。

怨霊に同調した玉臣は、涙を流していたが、トメの目からも右目からのみ、一筋流れていた。

烏崑と卍郎はふくらはぎの締め付けが解け、芋虫の身体からぬるりと押し出された。

悪魔衣装は嚙み千切られ、ほとんど裸同然となっている。

卍郎に至っては、右眼の瞼が千切れ、眼球が露出している。

「あぁ、助かった。お~いおいおいおい」

と、涙を流し烏崑の手を握った。

微かに手が震えている。

変なヤツだが、まだ可愛いところもあるじゃないか。

それにしても身体中バチクソに痛い。

烏崑は自分の(まぶた)もやられていないか閉じてみると、暗闇の中にある。とりあえず、良かった。

「目ぇ大丈夫?」

卍郎は声を震わせながら、

「俺には太陽がついてっから」

「肛門日光浴はそんな万能なのか?」

「ったりめーよ」

愛すべきバカなのかもしれない。

慶さんみたいな人ならきっと治してくれる。

トメバンドのお経は徐々にスローになり、デス声から、いつの間にか地声に戻っていた。

最後に残った芋虫にトメが触れると、スーと縦に線が入り、生前の姿の子供達が掻き分け出てきて、待っていたモヤを抱きしめるように混じり消えていった。

親子は双方の愛で混じり合い地球の一部となった。

怨念が愛に変換された。

かどうかは分からないが、少なくとも烏崑と卍郎の目にはそう見えた。



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