22 ポイズンの向こう側
玉臣の屋敷は、蓮寺大國魂神社と東京競馬場の間の丁度中間ぐらいの住宅街にあった。
外観は武家屋敷のようで塀に囲まれていた。
呼び鈴に指を伸ばしかけたところで、「やぁ」と何か髪型の変な玉臣が声をかけた。
「びっくりした。玉、その忍ぶ癖止めてくんない?心臓に悪いから」
「ごめーん。忍者に忍ぶなって、息をするなってのと同じなんだよな。出来るかな」
「let’s do it! 息を止めてけろ」
玉臣は息を止める。
「真面目か!」
「ボケてみたんだけど」
「生真面目がボケても分かりずらいんだよな」
「ごめ~ん。生真面目でもないんだけどな。あ、そうだ。老害ジョーク」
ボウシ施設長の真似をして、カツラをパカッと外す。
・・・・。
ダッハハハ。
「どうしたの?そのカツラ」
「あの鬼の国境に落ちてた」
「カツラ施設長大丈夫なの?」
「ボウシだってば」
「あ、そうだった」
「今日も元気に『歌舞伎町ハウス』で働いてるよ。今日届けるって伝えてある。今はスーパーミリオンヘアを振りかけて凌いでるって」
「あの禿隠しの黒い粉?」
「ツルッパゲに効果あるの?」
「さぁ」
「黒い粉がしがみつくものが何もないじゃん」
「そらそうだ」
と、烏崑と玉臣は笑いあった。
出会って数日なのに、長年の親友のような居心地の良さがある。
「こないだは、わざわざお見舞いありがとう。僕の事を気にかけてくれる数少ない人だからめっちゃ嬉しかった」
「もちろん、スーパー4忍のメンバーだから」
「スーパー4忍って、イントネーション気を付けてくれないと、ローカルなスーパーの従業員みたいじゃん」
「ごめん」
「スーパー」
「違う、スーパー」
「スーパー」
と、玉臣はイントネーションの練習をしながら、呼び鈴の横の鍵穴に鍵を挿し、回すと、
「早く、入るよ」
と烏崑を促す。
「え?早くが一番苦手なんだから」
「いいから。出ちゃうから」
と木造の重厚な扉を開け、入り、手招きをする。
玉臣の向こうには立派な松や池など日本庭園が広がっている。
「出ちゃうって、何が?」
「出ちゃまずいもの、早く」
「何だよ。ペット?番犬?」
烏崑が門を通り抜けると、玉臣は素早く扉を閉め、内側から鍵を閉めた。
「鍵を開けると、塀の電流がオフになる仕組みになっててさ。あの子らが、屋敷から逃げて近所からクレームがいっぱい出たらしくて、仕方なくね」
コウモリとじゃれていた玉臣を思い出した。
「色々飼ってるの?」
「僕じゃなくって、トメさん・・婆やが飼ってるっていうのかな」
玉臣がチラと見た先には、屋敷の角にある縁側の手前で、長い白髪の女性が薪割りをしている。
スコーンと乾いた音を弾かせ、薪を真っ二つにしている。
婆やは、袴姿で上の道着は、脱いで袴から繋がったままとなっている。
つまり、上裸である。
「女の人?」
「もちろん。婆やだから。元々楽々のおじいさんに仕えてたトメさんが、東京の屋敷を管理してくれてて、僕らが入塾するにあたって去年から住まわせてもらってる」
「婆やは上、何か着てるの?」
「例えばヌーブラとか」
突然、烏崑の横から声をかけられた。
「何かつける必要があるかな?」
瞬間移動でもしたのか、烏崑の横にトメがいた。
トメは胸に大きな傷痕があり、乳房も乳首もない。血色の良い身体からうっすらと蒸気が上がっている。
婆やというが、肌艶がよく、顔立ちが整っていて、どことなく色気を感じる。
「隠すものがないんだから隠す必要がない。まずいかね?」
「いや、すみません。珍しい光景だったものでつい」
「くノ一だったころ、獄獣に胸を喰われてな。だが、天から頂いた誇らしい身体を隠さなきゃいけないなんてバカバカしい。あたしゃあ、今のあたしを愛してるから、好きにさせてもらうよ」
「いや、素敵な考えだと思います」
「あんたも、額を出した方がいい」
と、烏崑の額の髪をかき上げる。
「うん、いい男じゃないか」
玉臣はニコリと笑い、
「僕もそう思うよ。ここでは婆やがルールだしね。僕も裸になろうかな」
「やめときな、楽々にぶっ殺されるよ」
トメは、快活に笑い、烏崑の顎をクイとし、見つめ、
「あんた、強くなりたいんだって?」
「最速で塾に入って、更にギアをあげたいんです」
「いい目だ。鍛錬しがいのある魂と見た。入塾コースを3つ用意してある。松、竹、梅。どれにする?」
「松でお願いします」
「極上コースでもてなしてやる」
烏崑が瞬きをした瞬間、トメは瞬間移動でもしたのか、薪割りをしながら笑い声をあげている。
「トメさん、はやッ」
「引退してるけど僕らより全然強いからね。婆やでいて、師匠みたいなもんだから烏崑も、存分にトメさんを頼りな」
烏崑はゆっくり大きく頷いた。
自分のテリトリーから出てみると、思いもよらない人がこうもいるものか。
「ただ、トメさんはその呼び方あんま気に入ってないみたい、ホントは婆やって呼んで欲しいみたい。僕もどうしてもトメさんって言っちゃうんだけど」
「婆やの方がイヤそうだけどな」
「『トメ』って名前は子供がたくさんいて、もうこれで最後の子だって意味で『止め』なんだけけど、彼女は長女なの。それで親は子はもう作らないつもりだったんだけど、その下に11人弟妹ができて、『ダダモレ』ってあだ名をつけられたとかで。だから『ダダモレ』だけは、トメさんの前では絶対禁句だからね」
「『ダダモレ』なんて、使った覚えないし大丈夫でしょ」
身体は堂々としているのに、名前には不寛容な感じが面白い。
「それにしても、伊賀でもない僕に住み込みで、入塾試験の手助けまでしてもらえるなんて、何てお礼を言ったらいいんだか」
「実は伊賀の生き残りがもう一人いて、今、中一なんだけど、どうしても修行したいって聞かなくってさ。烏崑も一緒にやってくれたら心強いかなっていうのもあってさ」
「へー、そういう事だったんだ。僕も一人よりいいや」
「ちょっと変わったヤツなんだけど、やる気はあるから」
「そうなんだ。今は中学校?」
「いや、早退してそこにいる」
と、玉臣が屋根の上を見上げると、学生服を着た中学生が、尺取り虫のような格好で、ズボンを下ろし、太陽に肛門を見せている。
「卍郎、何してんの?」
卍郎は閉眼したまま、聞こえないフリをしている。
「卍郎!」
「うっせー、邪魔すんな、肛門日光浴に決まってんだろ!!」
烏崑は目をパチクリとさせ、
「アレと?」
玉臣は目を逸らし、
「うん」
「アレと一緒に修行するの?」
玉臣は気まずそうに
「うん」と頷いた。
「う・・・うぅん・・・」
お茶室の隣、玉臣に案内された部屋の襖を開けると、10畳ほどの和室で鴨居の上に複雑な龍の彫られた欄間や、小面や翁の能面が飾ってあり、広めの小上がりには、菩薩の掛け軸が飾ってある。
烏崑は辺りを見回し、
「こんなとこ始めてだ。旅館みたいでいいね」
「そうだね。一見、いいとこだよね」
と、玉臣は奥歯に物が挟まったような物言いをする。
「?何かあるの?」
「忍者屋敷だから。多少カラクリがあったり」
「へー楽しそう」
どこから入ったのか茶運び人形がカタカタと烏崑の元にやってきた。
「これ、テレビで見た事ある。お茶をとると、また戻っていくんだよね。昔の人凄い技術だよね」
烏崑がお茶に手を伸ばすと、人形は、お盆をヒョイとずらし逃げる。
もう一度手を伸ばすもヒョイとずらす。
「これはトルコアイス的な感じなのかな?」
「さぁ、このパターンは始めてみた」
「トメさんの仕業?」
「指示を出してるのはトメさんだろうけど、それを独特の解釈でして実行しているのが「ムジナ」っていう、おじいさん。元忍者らしいんだけ、めっちゃ陰キャで姿は見せたがらない。料理を作ったり、掃除をしたりしてくれてるんだけど、時々いたずらが過ぎるんだよね」
カラクリ人形は背中に背負っていた手持ちの札を見せると、そこには『毒見イタス』
と書かれており、茶わんについていた吸い口から一気に飲み干した。
すると、カタカタと奮え、白目となり、浄瑠璃のガブのように変面の仕掛けがほどこされており、鬼の形相になり、倒れた。
人形は札を裏返し『毒ダッタナリ。心マセヨ』と見せた。
玉臣の顔を見ると、首を傾げながらも、心マのジェスチャーをするので、顔を近づけて、人差し指で心マすると、口からピュッとお茶が飛び出し、烏崑の口に入る。
「ブー・・んだコレ・・」
人形は札を裏返し、「ドウゾ、メシアガレ」と書いてある。
「なんだコレ~。さすがに毒はないだろうけど。美味しいは美味しい」
烏崑は心マをしながら、ピュッとでた毒設定のお茶を口に入れ、飲む。
「何だよ、コレ」
天井裏からキッヒヒと笑い声が洩れた。
玉臣は困惑した表情で、
「ムジナは表現は下手なだけで歓迎してるんだと思うよ」
「あー、うん」
「楽々も歓迎してるって言ってた」
「楽々は元気?」
「もちろん。多分今は塾で、魂粥防御の修行中。チャクラから魂粥を出して、10センチくらいの平たい餃子の皮みたいにして、瞬時に打撃ポイントに移動して、変性硬化する訓練。刃は保護されてるけど、遅れるとぶち当たるから滅茶苦茶痛いんだよね」
「そんな事も出来るんだ」
「こないだの『はちゅうるん』の時も、この術を使ったけど、だいぶ喰らったし、防御しても、骨が砕けたからね、もっと強度を上げないといけないんだよな」
「知り合いがチーゴナーの瞳にナイフを投げつけたんだけど、魂氣を身体の一部に凝縮させ、身体硬化をするってやり方をやってたな」
「魂氣は魂粥の上澄みみたいなもんだからね。凝集すると硬質化する特性はあるけど、きっちりと変性させないとナイフだと貫通しちゃうかもしれない。魂氣だけだと質量が少ないし強度もだいぶ弱いから、対獄獣になると難しいんだよな。その人技術がよっぽど高いのかもしれない」
マーコが実際にどっちの方法をとっていたかは分からない。
ピュッ。ゴクリ。
他人事であった魂粥術だが、乙葉さんの件で、そこに留まる『氣憶』を知覚することが出来た。
能力に覚醒した人をブルーマーと呼ぶらしいが、僕も能力が少し開花したと言っていい。
そして虎万璃が気になる事を言っていた。僕の有棘骨は魂粥が固形化したものであると。
何故そんなものが僕にあるのかはともかくとして、この身体中の骨を覆う棘が全部魂粥だとすると、僕の中の魂粥の量は何グラムという単位ではない。何キロである。
何か有効活用できないものだろうか。
ピュッ。ゴクリ。
せめて、入塾試験に合格するレベルまでには早々に達したい。
そして、安倍と接点を持って、アレが本当にロクだったのか確かめたい。
ロクだったとしたら、生きてるのに何で、既読してくれないのだろう。
ピュッ。ゴクリ。
豆電球のボンヤリとした明かりに柱時計がくぐもって見える。
23時17分。
薄明かりに浮かび上がる能面達は呪物にしか見えない。
うぅ・・うう、腹が痛い・・・。
烏崑は布団の中で身体を『く』の字に腹を押さえていた。喉の奥から緑の液体がせり上がりとどまっている。
吐いてしまえれば楽なのに、居座っている。コンチクショー。
こんな事は始めてだ。
給食で皆食あたりになった時も、一人平気だったのに。カラクリ人形の茶はホントに毒でも入っていたのか。いいや、それだけじゃあない。
思い当たるフシはいくつもある。
夕飯の黒い鍋に入っていたカラフルなキノコ達に、得身体の知れない肉に、あの白身魚、たぶん、フグだ。
何が、効いたんだろう。
たぶん、全部だ。
トメさんから、僕に帰れというメッセージなのか?
ただの、メッセージで済まされるのか?もう毒殺のレベルだ。
胃腸が聞いた事のない、地獄のBGMのような音を奏でている。
強烈な便意が断続的に打ち寄せてきて、たまに大津波のようなものも来るが、下手に動くと決壊してしまいそうで、どうにも動けない。
うっぷ、吐きそう。
「た、たま~」
か細い声しか出ない。力むと口と肛門が汚物放水車と化してしまいそうだ。
玉臣は、僕を部屋に案内したあと、塾に戻っていった。
そのあと、歌舞伎町ハウスに行って仕事の予定だ。
「だ、だれか~」
あ、アレだ。きっとアレだ。トメさんの言っていた入塾コースの松竹梅。
僕が選んだ松がきっとコレなのだ。
忍耐力でもつけさせようという魂胆なのか?
冗談じゃない。他にやり方はいくらでもあるだろうに。これで汚物を放水したら自尊心のサンドバッグである。立ち直る見込みはないぞ。
傍らのリュックの虎万璃に助けてもらおう。だが、あの乾物を元に戻す水がない。
おしっ(こ)・・いや、ダメだ。ぶっ殺されそうだ。
リュックの中をまさぐるが、居ない。何だよこんな時にどこに行った?
でも、動いているという事は、水戻しする必要はない。
「こ・・虎万璃・・虎万璃さん・・」
数回呼ぶが返答はない。
なんだよ、畜生。そうだ、天井裏なんかでムジナが見ていないか?
「む・・ムジナさん。へるっぷうっぷ」
天井で、ゴソゴソっと、物音がして、じっとその音元に耳と目を澄ませると、バサバサバサバサと、別の方から飛んできたきた鳥が烏崑の首元に止まった。黒と赤茶のツートーン
のこの鳥、異様に臭い。酸っぱいような何というか。こいつが更に吐き気を誘発する。
どこかへ行けと手で払うが、羽根をバタつかせ、顔の前が騒がしい。浴びた風が臭い。
何だよ、この波状攻撃は、痒いところに手が届く嫌がらせは。うっぷ。
左隅の暗がりから、ある程度の重量感がある何かが近づいてくる。畳からの振動と
物音から想像するに、ゾウガメか何かか?
奮える電球がソレを映し出した。
長い舌の先端が二又に分かれてチロチロって、コレ、コモドドラゴンじゃねーか。
そうだ、こいつら毒縛り何だからそっち系だよな。
おぼろげな記憶によると、噛まれるとめっちゃ強い毒で、血液が凝固できなくなり、血管拡張で、血がダダモレとなってしまう。
おまけに口の中で、泳ぎ散らかしているバクテリアが、僕の血液に我先にとダイブしてくる筈だ。
何コレ?ホントに助からないの?
ドッキリの札を持って、トメさんがヒョコッと姿を見せるとかないの?
ここまでの腹痛の時点で、ドッキリじゃあ済まされないけど。
オエッ。クサ。この鳥も何か毒でもあるの?
手足も痺れて来た。
もうろうとし、瞑った目をうっすら開けると、涙で滲んだ眼球の直前に紫色のうごめく何かがおり、のけ反ろうとした刹那、眉間に何かが、ぶっすりと刺さり、何かが注入された。
ずいぶんと奥まで刺さったので、のけ反りながらもそれは刺さったままついてきた。
毒サソリである。
ッッダイ!!
払いのけ、辺りを見ると、赤や、青や、黄色のヤドクガエルがざっと百匹はいる。
畳のイ草を掻き分け、いかにもなカラフル毒キノコが生えている。
天国には色とりどりの花が咲き誇るというが、地獄に咲き誇るのはこういうものなのだろうか?
バタバタと音がして後ろを見ると、コモドドラゴンが、涎を振り乱して迫っていた。
彼の前足には毒蛇が噛みついているがものともしない。
このままでは毒の王に噛みつかれてしまう。
さっきのサソリの神経毒か?筋弛緩作用があり脱力していく。
いかん。このままでは、必死に抑えていた肛門括約筋が抗えない。
くっ。うぅ、もうダメだ。
コモドドラゴンは臀部に向かって大口を開けたところで、
烏崑はギュッと目を瞑った。
キピィッ。
屁がでた。
そのまま噛みつかれる感覚を待ったが訪れず。
後ろで、バタンと倒れる音がした。
周囲のいくつかのヤドクガエルの前足が痙攣している。
勝った・・・のか?
何とか身体を動かし、見回すと、鳥はポトリと落ち、毒の王は白目を剥いて、泡をふいている。
それにしても凄まじい臭いだな。目がシパシパする。
僕の屁が毒界に君臨するものを打ち倒したのか?
いやぁ、臭い。吐きそうだ。早く障子を開けよう。
お尻を押さえながら、芋虫のように這う。誰にも見られたくない姿である。
目の前で勢いよく乱立していた毒キノコが、そろいもそろってうなだれている。
凄まじい威力だな。この屁は獄獣との闘いに使えないだろうか?
いや。ダメだ。「ロク、助けに来たぜ。キピィッ」は絶対にダメだ。
たまたま、僕の腸で色んな毒が調合されて、凄まじい化学反応が起きたのだろう。
それにしても臭い。シュールストレミングと腐った卵と違法薬物を濃縮したような臭いだ。嗚咽が止まらない。
障子に手を伸ばしたところ、「烏崑大丈夫?」自動で障子が開いた。
塾帰りの楽々と玉臣、前にいた楽々は顔を引きつらせ、ウッと袖で口元を押さえ、白目を剥き後ずさった。
「毒圧すごッ」
と、楽々は目を拭い、ウッと息をとめ、烏崑を救出し、廊下に寝かせた。
「何てにおい、鼻に千枚通しでめった刺しにされたみたいな・・」
玉臣の膝が震えている。
「全細胞が拒否してる」
楽々は涙を流しながら、
「うん。赤ちゃんが産まれた瞬間にこのニオイを嗅いだら、慌ててもがきながら子宮に逆戻りして、ブルブル震えながら一生引きこもるな」
「産まれるという輝く希望が一瞬にして絶望に変わって、トラウマで子宮の中で薬物中毒になる」
「グスん、赤ちゃん、可愛そう」
「このにおいの元を、地中千キロに埋め込んでも、地球が嘔吐して、天変地異で、大洪水や火山爆発、大陸が真っ二つになるほどの大地震が起きる」
酷い言われようだ。
楽々は、部屋に踏み込もうとするが、臭圧に押し戻される。
「ウッ、烏崑、一体何をされたの?婆ややりすぎでしょもう許せない。ウップ」
「部屋のどっかの穴から毒ガスを流し込まれたのかもしれない」
「元を絶たなきゃ、どこの穴?」
「いや、僕のあ(な)・・」
「烏崑、ごめん、黙ってな。タマ、あんたは生き物片付けて」
楽々は、部屋の隅々に発光した手で照らし穴を探る。
「ご、ごめん、それ、僕の」
「へ?」
「屁」
「ん?いいよ、烏崑、安静にしてな」
「だから、このにおい、僕の屁なの」
「へ?」
「屁」
楽々と玉臣は作業を止めて、烏崑を見つめ、
「この絶望的なにおいを繰り出したのは」
「僕です。出火元は僕の肛門です」
楽々は混乱したように眉をひそめ、
「百匹のゾンビを大きなカメに詰めて熟成発酵させて、ボコボコ出てきた泡のようなこのオイニーの元が?」
「僕のお尻!僕のお尻が犯人です」
楽々と玉臣は顔を見合わせ沈黙したあと、大爆笑した。
「ヒッヒ、苦しい。コレ烏崑のお尻から」
「笑いすぎ」
「だって、コレ、寿命あと3年のおじいちゃん達なら、一気に召されるでしょ」
「酷すぎるよ。いつもはこんなじゃないし。色んな毒盛られてお腹んなかで、化学変化しただけだし。はら痛っ。そんな事いいから、早くトイレ連れてってよ」
「分かった。ちょっと待ってて。半径5キロに緊急アラート出すから」
「毒ガスじゃねーし。いいからそういうの」
お姫様抱っこしてトイレへ連れてってくれる玉臣の腹筋が震えてる。
「笑いごとじゃないって」
「トイレのドア開けとく?」
「何で?」
「密閉してアレじゃ死んじゃうでしょ」
「閉める!!」




