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魂粥術師(こんしゅくじゅつし):陰陽六氏とエクトプラズマーズ  作者: 金澤 弥芳


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19/24

19人魚のミイラ

・・・・・・・・。

何も起こらない。

楽々と烏崑の鼻が軽くこすれる位置で、お互いの鼻息を吸い合う。

スー。

スー・・・・。

何も起こらない。

「どう?」

「ダメみたい」

楽々は、眉をひそめ、

「ごめん、下手だった?」

「いや、そういうんじゃなくて・・」

烏崑が殺気を感じて見ると、粉雪の向こう。

タケルの黒目はかろうじて復活しており、血管がビキビキし、

「ブチブチブチ殺したる」

と、前前前世みたいなのを、声を出さずに発している。

楽々と烏崑は連続的に着衣はちゅうるんの尻尾に叩きつけられ、楽々はいくつかの骨が粉砕した。

烏崑は、その衝撃で有棘骨が内側を切り刻む。

レントゲンで見た有棘骨は、バラの棘のようであったり、ナイフの先端のようであったりと、長さも形も不揃いであったのを思い出す。

体内に拷問器具が仕組まれているようなものだ。

何故か玉臣は進化の2匹を相手にまだ戦えている。

何だか騙されてたような気分だ。

タケルは血液量の低下からか、急激な寒気でシバリングを起こしている。

「この猿ら、術は未熟ながら、最大瞬間風速は侮れん。全て息の根を止めてから進むぞ」

メス幹部はタケルの口に指二本を差し入れ、上あごを撫でるように口の奥にまで指を入れ、クンと指を曲げると左右の鼻の穴から鋭い爪を出し、動かす。

アガガガガ。

口元から血液が滴る。

そのままメス幹部が手をブチ引こうとしたその刹那、女の前腕が切断され、ボトリと落ちた。

女幹部が舌をチロチロさせながら、執行者の行方を探ろうと周囲を素早くザッピングすると、その視線を搔い潜り、人魚のミイラがメス幹部の眼前に制止している。

「ミイラ」

烏崑が思わず声を発すると、人魚のミイラが口を開く。

虎万璃(こまり)じゃ」

虎万璃が女幹部の顔面を魚の尻尾で叩く直前に、女幹部は顔面を鱗でガードする。

シャリンッ。

金属音とともに、鱗が数枚はじけ飛んだ。

虎万璃は、依然としてミイラではあるが、雪の湿度でやや膨らみ、血色は良くなっている。片手で乳を隠しながら、メス幹部の頬叩いていく。

シャリンシャリンシャリンシャリン。

「えーい鬱陶しい小魚めが!」

と叩き落とそうにも、すばしっこい。

「お主、何をぼうっとしておる。この身体ぢゃ、力が出ない。水をかけろ」

烏崑は起き上がりながら、

「水をかけろったって、う~ん、おしっこでいい?」

「無礼物!」

メス幹部の先のない右前腕は振り下ろしながらズンと生え、虎万璃をとらえた。

虎万璃は仕方なく、胸をかくしていた腕をクロスにして防ぎ、叩き落とされるも、地面にピチッと跳ね上がり、片手を上げ、瞬時に気円斬のようなものを作り、ワッと巨大化させ、メス幹部の首元を狙う。

寸でのところで、メス幹部はかわしたが、後方にいた進化はちゅうるんの胴を盾に斬り裂き抜けていった。

「虎万璃凄ぇ」

「実に術が不自由」

と、宙に浮いたままガサガサの髪をまとめようと両腕を上げると、胸が無防備になっている。

烏崑と目が合い、

「見るな。下賤のものが図々しい」

と、胸を隠し、メス幹部と戦闘を始めながら、

「ワシはこんなだが、耳は聞こえておった。烏崑、お主の有棘骨について少し、思い当たる事がある」

「どういう事?」

「魂粥術師にたまに見られる事だが、魂粥が体内で、固形化して、痛みを及ぼすことがある」

虎万璃は、もう1匹のはちゅうるんを切り刻み、ドスドスと、肉塊が地面に落ちていく。

残りはメス幹部ともう2匹のみである。

「それが、何か?」

「鈍いヤツだな。おぬしの骨を覆う有棘骨が、魂粥の固形物である可能性を言っている」

「骨が魂粥?」

「うむ。おぬしのバカ力や、野獣化は只の人では説明がつかない。おぬしの失った記憶に何かしらの秘密があるように思う」

「それで、僕の骨は治す事ができるの?」

「分からない」

「なんだよ。ぬか喜びさせて」

「だが、出来ないとも言ってない」

「どういう事?」

メス幹部の目が慣れてきたのか、虎万璃のエネルギーが消耗してきたからなのか、メス幹部の打撃が当たるようになってきた。

虎万璃の身体にメス幹部の尻尾がチップして、高速回転しながら、地面に叩きつけられるが、虎万璃は、地面に尻尾を叩きつけ、ビチッと跳びあがる。

「出来そうなヤツを知らないでもない」

「誰?」

「陰陽六氏、海神(わだつみ)家のものじゃ」

「海神家が僕の骨を治してくれるの?」

「治す方法を知っているものがいるかもしれんと言っているだけだ。判断するのはそいつだ」

メス幹部の口から放った炎が虎万璃のド正面に飛んできて、咄嗟に魂粥玉で何かを形成しながら飛んで行く。

虎万璃のはチリっと音をさせ、瞬間的に干物に戻り地面に落ちた。

だが、虎万璃もタダではやられない。

魂粥は気円斬のようなもの4つに変性していた。

メス幹部の四肢を切り落とした。

メス幹部は仰向けとなったまま、回転出来ずにいる。

断裂部から、四肢を再生させようと力むが、形になり切れず、ボトビチャと落ちる。

「あぁ・・・あ・・ぁあ・・・か・・」

息切れし、四肢の付け根から血を流すメス幹部に、「今だ、ぶち殺せ」と、別の部隊で後方支援をしていた蓮寺のモブ達が戦果をあげに群がり、衣類を引きちぎり、跨り、首を切ろうと刀を擦っている。

何だかいい気分ではない。

しかし、はちゅうるんの出した炎は、元々備わっていたのものなのか、修行して会得したものなのか。

獄獣に魂粥術を教えたものでもいるのか。

そんな恐ろしい事があってなるものか。

烏崑はノロノロと虎万璃をリュックにしまい、立ち上がれずにいる楽々を担いだ。

「何?どうすんの?」

「一旦、どこかに身を潜めよう」

玉臣は着衣『はちゅうるん』を一匹倒し、もう1匹と戦っている。

控え目な癖に一番強いではないか。

烏崑は、向き直った時、崖上からいくつもの咆哮が重なり、炎の玉を吐き散らしながら、進化はちゅうるんの群れが、トカゲのように身をくねらせ、走ってくる。

「セレナ、セレナ」

「ぶち殺してやる」

と、メス幹部の名を呼び集まってくる。

炎の玉は、地面に深くめり込む程重量があり、セレナを凌辱していた蓮寺のモブの身体を貫いていく。

烏崑は助かる術を探るが、助けてくれそうなチーゴナーの上級者はこの辺りにいなそうである。

さすがに生き抜くのは難しいのか。

せっかく僕の骨が治るかもしれなかったのに。

でも、ぜってぇ諦めない。

どこかで生きてるロクを奪還するために。

何故かは分からないが、ロクを強く感じる。

というか、何だろう。

ロクがすぐそばにいるかのようにロクの匂いが鼻腔に迷い込み、つい探してしまう。

楽々は立ち上がろうにも、まだ立てないでいた。

楽々へ襲い狂う火球から盾になろうと、烏崑は楽々の前に立ちはだかり、落ちていた『はちゅうるん』の尻尾で何とか防ぐ。

火球はゴスゴスと、烏崑の足元にうねり転がっていく。

はちゅうるんの尻尾を素早く振り回し、筋肉を動かす度に内側から切り刻まれていくような激烈な痛みで意識が飛びそうになった。

吐き気の波に次々襲われる。

着衣『はちゅうるん』達もみるみる近づいてくる。

下肢の痙攣も止まらない。

いつ倒れてもおかしくないが、必死に踏ん張る。

烏崑は火球を弾き損ねて、右の額にガコンとぶつかった。

チリッと前髪が燃え、額の有棘骨の先端が露出した。

頭部に唯一の棘。

右の前額部にのみにあり、鬼みたいで嫌なので髪で隠していたヤツである。

進化はちゅうるん達は、烏崑の角に気付いた一匹が咆哮し、追随するもの達の火球を制し、立ち上がり、烏崑の髪を掴み持ち上げ、角にチョンと触れ、

「貴様鬼なのか?」

「ち、違う、これはただの骨の奇形で」

「こんな人間見た事がない。鬼の血が入ってるのかもしれん。下手に殺さん方がいいかもしれん」

「人質に使えるかもだ」

「奴らを積極的に敵に回したくはない」

「いいや、こんなに騒ぎ立ててんだ、もうすでに敵とみなされてる」

「こんな、ボロボロにして返すのも奴らを逆上させるだけだ」

「証拠隠滅に肉霧にしてしまうのが最適だと思うが」

「ちげーねー」

「そうだ、そうしちまおう」

と賛同の声が続く。

着衣『はちゅうるん』が続々と増え、50匹以上だろうか。

「んじゃ、可愛い顔してるけど私がやっちゃおっか」

とメスの着衣『はちゅうるん』が前に出てきて、

「いいぞ、ベニ」

「血のミストでみんなのお肌をツルツルにしてあげる」

歓声が上がる。

「だから、僕は鬼じゃないから、鬼って一体何なんですか?」

「額に角があってエクトプラズマー並に強ぇらしい。それしか知らねぇ」

「我らもあまり関わりたくはないが、目的の為に石垣を越えなくちゃならねぇ」

烏崑は髪を引っ掴まれたままリュックをはぎ取られ、宙ぶらりんとなった。

ベニと呼ばれる、メスのはちゅうるんは衣類を脱ぐと、手足を長細い蛇の身体に収納し烏崑の身体に巻きついていく。

烏崑は力を込めてもがくが、頭部を除いて、巻き付かれてしまった。

ベニは烏崑に頬ずりし、

「いい匂い。もったいないけど」

と、顔面をメタリックな鱗で覆う。

冷んやりとした鱗の表面が、サメ肌状の突起に変質した。

烏崑はギュッと目を瞑る。

ベニはゆっくりと、高速回転に移行していく。

グワァ!

血の霧がファッと上がった。

だが、一瞬だけだった。

何かに引っかかったのか、突如回転は止まった。

烏崑がギュッと瞑ったまぶたの隙間からソッと覗く。

ベニの黒髪が引っ掴まれ、蛇に睨まれた蛙のように怯えた表情をしている。

庵慈であった。久麻野宇須神社で月面人外を圧倒した、女性のチーゴナーである。

一度見たら忘れない赤髪で悪魔のようなメイクをして、戦闘用の車椅子を自在に操作する。

「庵慈さん?」

庵慈は、ニヤッと笑い、

「神社でリリースしたヤツじゃないか?少しは強くなったか?」

「見た通りですよ」

「フッ、またリリースしてやる。期待を裏切るなよ」

庵慈はベニを睨めつけ、

「狐のペットどもが調子に乗るな」

と、ベニの尻尾に刀を突き刺し、

「目には目を」

と、車椅子のタイヤを高速逆回転させ、ベニの身体に押し付け、鱗を弾いていく。

シャリンシャリシャリンシャリン。そしてベニの皮膚を肉霧(にくぎり)としていく。

ぎゃああああああああ。

着衣はちゅうるん達は、

「エクトプラズマーか」

と囲み、火球を口から発射させるが、

全てを拳で簡単に打ち返し、次々と進化はちゅうるんの急所に返球していく。

庵慈は、すかさずベニの尻尾の先端を引っ張ると、地面に突き刺さした刀を中心にに真っ二つになっていく。

ぐぎゃあああああ。

「ベニ!」

ベニの顔も縦に真っ二つとなっていく。

ウォーーと怒りの地響きとともに、『はちゅうるん』達は眼球を剥きだし、歯ぎしりをし、

「よくもベニまで!」

涎を振り乱し、庵慈に四方八方から押し寄せる。

庵慈は、烏崑をチラと見て、

「役立たずはどこかへ隠れていろ」

と、身長ほどある魂粥玉を国境の石垣に投げ、烏崑の胸倉を掴み、魂粥玉に投げつけた。

魂粥玉に背を打ち付けた烏崑は、バランスボールのような弾力にバウンドし、前のめりに立ち止まった。

戦場を見ると、蓮寺を子供扱いしていた着衣『はちゅうるん』が、庵慈に子供扱いされている。

銃弾を通さない、『はちゅうるん』の鱗を手刀でいとも簡単に貫き、両手で背骨を掴み、「うるぅああ」と刀を鞘から引き抜くようにスライドさせ、蛇の肋骨をボリボリ折りながら、肉を剥がしていく。

庵慈は『はちゅうるん』の頭部を(つか)に、背骨を刀身とし、着衣『はちゅうるん』達を切り刻んでいった。

着衣『はちゅうるん』が気の毒になるほど、格が違う。

遠くの戦場では、まばゆい光が増えたなと思って見ると、木箱を背負ったマドカがいて、はちゅうるんを、いとも簡単に駆除していく。

楽々に続いて玉臣も、魂粥玉に投げられ、バウンドし、前のめりになりながらもなんとか立ち上がった。

さすがに、内臓がこぼれているタケルは、その場に置きざりである。

「楽々(ららたま)大丈夫?」

「結構骨いっちゃってるみたいだけど、何とか」

と、言葉とは裏腹に楽々の膝が地面スレスレで震えている。

「あー、ぜんっぜん修行が足んない」

「生きてるだけ大成功」

と、玉臣は楽々を抱き上げた。

「氣癒(治癒)はいらないからね」

「こっちはまだ余裕はあるから」

玉臣は楽々に魂氣を分け与えているようである。

「きもちぃ・・けど・・」

楽々は遠くの戦場に目を馳せ、

「アレ、マドカ様だよね」

「箱背負ってるし多分」

「凄すぎ。庵慈様も。これでこんしゅくじゅちゅ・・・こんしゅくじゅちゅ」

「これで魂粥術師じゃない」

「そう。私らが目指すのはあの人達より上」

庵慈は白塗りの顔を血まみれにして、はちゅうるんの背骨でこしらえた刀を振り回し惨殺していく。

どちらが悪なのか分かりゃしない。

玉臣は苦笑いし、

「あの方々より上って・・、魂粥術師をも凌駕しているって言われてるのに」

「想像できないけど、想像しなくちゃいけない」

楽々は幾分か血色が良くなっている。

玉臣はふらつき、楽々を下ろす。

「ごめん、このくらいしかあげられない」

「ありがとう。随分軽くなった。庵慈様がここを鎮圧するのは時間の問題だから、タケルの一命をとりとめる方策を考えたい」

「そうだね、生命反応もほとんど感じられない」

マドカのいる主戦場に白地に赤い蓮の旗が見える。

「医療班は来てるけど」

と、楽々は眉をひそめ呟く。

医療班が素早く色分けのカードをトランプ投げし、トリアージし、続く搬送部隊が、レッドを回収していく。

タケルの場合、助かる見込みが限りなく少ないブラックと判別される可能性が高い。

つまり、救命の対象外である。

「こっちに来るにはまだ時間がかかりそうだな」

「タケルを動かす訳にはいかないし」

タケルは血だまりの上にしゃがみ込み、こぼれた腸を押さえたまま、口を半開きにしていて、異様に血色が悪い。

極度の貧血、もしくは絶命しているのだろう。

今、輸血をして間に合うのかさえ分からない。

烏崑は、玉臣と楽々にダメ元で聞いてみる。

「玉か楽々、どっちかタケルの血液に適合する?」

「2人とも適合はする筈」

「そしたら、イチかバチか治療をしたい。玉臣は鳥の羽を探して、川があったらたくさん水を汲んで持ってきて」

「分かった」

「そして、楽々は、そうだな、タケルの横の胴体だけの『はちゅうるん』のところに行ったら、僕の手元を照らして」

庵慈は危なげなく、駆除しているが、はちゅうるんが次々と湧いて出てくる。

庵慈は烏崑と楽々の動きを察してか、闘いの渦をタケルから遠ざける。

楽々が携帯ライトで烏崑の手元を照らす。

烏崑ははちゅうるんの鋭い鱗で、はちゅうるんの膀胱と頑丈そうな血管をいくつか切り出し、タケルの正面に膝をつき、

「タケル」

タケルの反応はなく、爪の間に鱗を差し込み、痛覚を刺激するが、反応はない。

頸動脈に触れるが、脈は確認できない。

「烏崑」

玉臣はビニール袋にたっぷりと水を汲み、大小いくつもの羽をとってきてくれた。

「早いね。ありがとう」

「足りるかな」

「ないのを覚悟してたから充分。君ら忍者は感染には強い?」

「毒慣れはしてる筈だけど」

「感染の事が気になったけど、そうも言ってられない。もう少し協力お願い」

「何でもやるからタケルを頼む」

「うん」

「羽をむしって羽軸(はねじく)だけにして、これを針とする。一つは止血用の針として。そしてもう一つは輸血用。どっちか釣りをやった事は?」

「私らは、貧乏だったからよく釣ってた」

「じゃ、糸の扱いは出来るね」

「うん」

「腹腔内を洗浄するから、玉臣が出血してる箇所の止血をして。終わったら、心臓マッサージをお願い。はちゅうるんの膀胱と血管を洗ってから、羽軸を針にして、はちゅうるんの膀胱に楽々の血液を満たし、タケルに輸血する」




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