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魂粥術師(こんしゅくじゅつし):陰陽六氏とエクトプラズマーズ  作者: 金澤 弥芳


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15 蓼科(たてしな)の獄獣

放心状態からふと我に返ると、ナースステーションにも廊下にも誰もいなかった。

いや、いた。

廊下の向こうにかりんとうばぁさんが何かを拾って口に入れている。

自警団は無事に居室に戻っただろうか。

ユウジは、AEDで卍解は成功しただろうか?

あぁ、疲れた。

何かを一歩踏み出すと、着地した大地が無限城みたいに、慌ただしく幾何学的に展開していく。

こうなってくると踏み出す一歩が、億劫になる。


烏崑は、とっ散らかってるバッグバルブマスクをトボトボ拾い、とりあえず救急カートの上に載せた。

こんな老人施設にこんなしっかりとした救急カートがあるのは、救急車を呼べないからだったのか。

真っ黒な企業だ。漆黒のブラック企業。何かカッコよくて嫌だな。うんこ色のブラック企業。烏崑色みたいで何か嫌だな。

尖端に血液の付いた点滴の留置針を捨てようと、医療廃棄ボックスを開けると、少量の血液が入った採血用のスピッツが二つ捨ててあった。

必要量が採れずに捨てられたものだろう。

大きいピンセットで拾い、手にした。

何故手にした?

意識下の判断に身をゆだねた結果、理にかなっているという事がある。

スピッツには3Fと、入居者の名前が記載されていた。

ロクとのキスと、血液の味が脳裏によぎる。

そしてあの興奮と漲るエナジー。

見ると棚に、採血済みのスピッツがズラッと並んでいる。

こういうのは大抵、朝採るものだが。

「タケルは?」

と後方から突然、女性の声がして、振り返ると、タケルと同じような道着の男女。

タケルの言っていた伊賀のなんちゃらだろうとピンときた。

咄嗟に血液の入ったスピッツをポケットに突っ込み、

「タケルはどこ行ったの?」

3忍の紅一点、楽々を烏崑が見つめると、楽々は視線を外した。

「百匹の獄獣のとこに行くんだとか」

楽々はポニーテールを大きく揺らし烏崑の胸倉を掴み、

「ぬわぁぁに?っていうか、やっぱりだけど、あいつバカなのかな。最短でこんしゅくじゅちゅ、こんしゅくじゅちゅし、あー言いづらい、最短でエクトプラズマーになってやるとか言って、バカじゃないの?」

と、烏崑を突き放し、

「勝手な事したら停塾になって、遠回りじゃんよ」

「そっか、停塾は大変だねー」

と、のんびりとした口調の男は玉臣(たまおみ)

「タマ、何その悠長な感じ、あーイラつく。アイツ、相手の力量を過小評価する癖あるから、ヤバい獄獣でも噛みついていくし、下手すりゃ死ぬよ。あんのちんちくりん」

と、楽々はオリの中のライオンのように落ち着かない。

玉臣はどこ吹く風で、

「僕、服部玉臣(たまおみ)。君、目がキレイだね」

と、ヒョロッと背の高い優男が烏崑にキレイな白い手を差し出す。

「あんた、真に受けないでよ。こいつ、ナメクジにもおんなじ事言ってるから」

と、楽々は烏崑の目をのぞき込み、目を伏せる。

玉臣の尻を叩き、

「タマ、行くよ」

「どこに?」

「屋上のドローンに決まってんでしょ。タケルを追うの」

「それでタケルを」

「ぶっ殺す」

「結果同じじゃん」

「いいから、早く行くよ」

と、楽々はエレベーターの位置を確認してから、忍術の速度で非常階段へ

駆けていった。

玉臣も、

「じゃ、またあとで」と後に続く。

凄まじいケイデンスで、力強く軽やかである。

狂おしいほど欲する彼らのスピード。

彼らの自在に移動する時の景色を、猛獣モードの記憶に重ねてみたが、何か違う。

烏崑はふうとため息をつき、点滴台をどこに片付けようか見回していると、真後ろから、

「ドローンの使い方が分からない」

ワァッ!

振り返ると楽々が泣きそうな顔をしている。

「ちょっと来て」

烏崑が頷きかけたところで、

ありがとうと、楽々は右肩にジャケットでも引っ掛けるように、烏崑の首元を引っ掴まえた。

烏崑より10センチは小さい楽々に背負われ、屋上へ一足飛びに駆け上がって行く。

体感3秒。

到着すると、

「あーーあ」

玉臣(たまおみ)がいじっていたドローンがバウンドして墜落していく。

「タマ、あんたそういうの苦手なんだから触るなって言ったでしょう」

「ごめーん、楽々が喜ぶかなと思ってさ」

と、下をのぞき込む。

楽々も下をのぞき込むと、爆発音と煙が上がる。

「まったくこんなポンコツばっかだから、甲賀が優先されるの。えーっと、何だっけ」

「あの、下ろしてもらえるかな?」

「わぁ!」

烏崑はまだ、肩に引っ掛けられたジャケットのように楽々に背負われている。

とは言っても、足は地面に着いている。

「あ、ごめん、背負ってるの忘れてた。とはいえ、あんた見た目より重いのね」

と、烏崑を下ろし

「負ぶってくれても良かったけど」

「そ、そんなの、バックハグ強要してるみたいに思われちゃうじゃん」

「そんな事思わないけ・・」

楽々は、聞いちゃいない。

「あーあ、一人用があと一機になっちゃったじゃん、4人乗りで行くよ。そこのイケメン、えーっと」

「烏崑」

「烏崑君、操縦お願いね」

「え?そんな急に。施設の管理は?」

「近くに人工肉の工場があるから、そこのスタッフに替わりをお願いしてみる。それより早くこいつを動かして」

僕の意思が介在する余地はなさそうだ。

4人乗りドローンはメタリックなクジラの尻尾のような形をしていた。

そういえば、

「タケルの場所は分かるんですか?」

楽々は携帯を操作しながら、

蓼科(たてしな)

「たてしな?」

「そう、長野県の」

「長野までこれで?」

「そう、超高速モードでお願い」

と、人工肉工場に人の手配をしている。

やはり、仰せの通り以外に選択肢はない。

烏崑がドローンのタッチパネルを操作していると、玉臣(たまおみ)がヌッとコウモリを差し出し、

「素敵でしょ、さっき友達になったの。コレ4人乗りだし、ちょうどいいよね」

何なんだこの人。

ドローンの操作にかまけてドスルーしてやったが、意に介すタイプではなさそうである。

玉臣はコウモリの頭を撫でている。

そういえばこっちのリュックにだって人魚のミイラがいる。

コウモリ君は定員オーバーなのだよ。

ドローンは上空に加速したのち、ふわりとし、再び加速し直線となっていく。


想定外の速度で夜空を斬り裂いていく。



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