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魂粥術師(こんしゅくじゅつし):陰陽六氏とエクトプラズマーズ  作者: 金澤 弥芳


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12/24

12 歌舞伎町ハウス

烏崑は乙葉の興奮した生臭い鼻息に嗚咽しながら、乙葉を突き放す。

「やめて下さい」

乙葉の目に意識が宿り、

「ごめん。押しとどめてたけど、私食事中は臨戦態勢で、抑えきれないくらい(たかぶ)っているの。衝動を抑えきれない。これも私なのかな。烏崑君が美味しそうで美味しそうで」

と言いながら、口もとはぴくついていたが、ついには乙葉のおちょぼ口が耳まで割け、尖った乱杭歯を露出させ、烏崑の首元に迫る。

烏崑は力いっぱい乙葉の両肩を掴むと、乙葉は大きく開口したまま、メスを振り上げた。

烏崑は咄嗟に激痛と共に、乙葉の首元と、振り下ろしたメスを持つ手首を押さえ直した。

乙葉の身体はジワジワと熱を帯び始め、全身から分泌物がぬめり出す。

烏崑の掴んだ手首がじわじわと滑り、メスが顔面に近づいてくる。

顔を背け、スライドドアに身体を預けながら、しゃがんでいくと、背中で押し潰れたリュックの口から何か出ている。

レミーの部屋で転がっていた人魚のミイラである。右眼が3割、左目が半分見開いている。

これにも生命が宿っている。

人外だったのか?

きちんと確認する間もなく、乙葉のメスが烏崑のギュとつむった左瞼に僅かな切創を作ったその刹那、乙葉の身体は反対側の壁まで吹き飛んだ。

乙葉が起き上がる間も与えず、透明のボウリング球のようなものがゴスゴスと連打され続けている。

「やめろ、やめてくれ」

烏崑は直観のもと人魚のミイラにがなり声をあげる。

人魚のミイラはカスッカスの声で何か言っているが聞き取れない。

人魚のミイラの頭をゴツンと叩いても辞めないので、「この野郎」とクロスした腕で隠していた胸をオープンにすると、ギロリと睨まれ、乙葉への攻撃は止んだ。

乙葉は衝動が去ったようで、ギラついた感じはなく、痛みなのか悲しみなのか、肩を震わせ、泣いていた。

「ゴメンね。烏崑くん、ゴメン。空腹じゃなきゃまともでいられたの。うううぅ・・。私を殺して。人を傷つける自分が許せない。辛い。でも、私を殺すなんて、一生のトラウマよね。変な事言っちゃった。ゴメン。もうおかしいの。死んじゃいたい・・・。でも、本当は・・・本当は・・赤ちゃんと夫と幸せに暮らしたい。赤ちゃんにおっぱいあげて、可愛い洋服買ってあげて、プリンセンスみたいな服着せて、みんなで写真とって、パパより先にママと呼ばせて、初めてよちよち歩いてきたその子を抱き上げて・・・」

と、肩を震わせている。

「乙葉さん、ごめん、僕がお邪魔したばっかりに。胎盤持って帰るの手伝うよ」

「烏崑くん、来ないで。分かるでしょう」

「でも」

「自分で出来るから」

と、立ち上がり、よろめきながら冷蔵庫へたどり着き、袋に入った胎盤を取り出す。

「普段は妹に持ってきてもらってうんだけど、急におがすいて出てきちゃった私がいけなかったの。もう戻って」

乙葉にとって、早々に姿を消した方が安心するだろう。

烏崑はスライドドアを開け、

「僕は乙葉さんを悪く思うことは絶対にないから」

「ありがとう」と乙葉の声が遠くに聞こえる。

烏崑は1歩踏み出し、スライドドアは自動で締まった。

「痛いな」

人魚のミイラが烏崑の指を齧っている。

「干からびた豆粒見たぐらいで怒るなよ」

カジカジ。

「痛い。悪かったよ」

と、人魚のミイラを引き剥がし、リュックに押し込んだ。


我那覇病院3階奥、特別室『剛力権三郎』のネームプレートの前で烏崑は逡巡していた。

レミーさんは、深夜でも構わず来て良いと言っていたが、緊急性があるかと言えばそうではない。

いや、分からない。

乙葉さんの事を話したいが、間違って駆除の方向に進む可能性がゼロではない。

そして、このリュックに入った異物だか呪物だかは僕の手に負えない。こっそり返してしまいたい。

でも、この人魚のミイラが、乙葉さんと同じように、人の魂が残存しているものだったとして、駆除されてしまうのは忍びない。

というか、乙葉さんに左目をメスで貫かれそうになった時、このミイラの何かしらの能力が発動していなかったら、僕は生きていなかったかもしれない。

少なくとも左目は使い物になっていなかった。

僕に向けられた殺意を同一視し、それを祓っただけなのか、僕を助ける意図があったのかは不明だが、無事で済んだ事に違いはない。

烏崑は気づくと、ロクとのラインのやり取りを眺めていた。

正確にはロクとのやりとりを望んだ、烏崑の一方的な安否確認メッセージである。

ロクに相談出来たら・・・。


烏崑はレミーの部屋のドアを静かにスライドさせ、古代遺跡のような部屋を覗くと、薄明かりのなか、レミーは、扉を背にベッドに座っていた。

烏崑が小さい声で「レミーさん」と呼ぶも聞こえていない様子で、近づいてみると、2代目ベティーさんのライブでベースを弾いている写真を眺め、静かに嗚咽している。

烏崑が静かに踵を返すと、

「初代ベティの事もあって、前線に出るのは禁止にしてたんだが、『レミーの活躍するところが一番セクシーだから一番近くで見るよ』って言って聞く耳持ってくれなんだ。全てを一緒に分かち合うのは最高だったがな。ガハハハハ」

「大切な時間にお邪魔しちゃって」

「構わんよ」

「その写真、バンドやってたんですね」

「アイアンメイデンの『Hallowed be thy name』を弾いていた時のだ。チョッパーのアクセントがサイコーにセクシーだった」

レミーは涙を拭い、写真を床頭台に置き、烏崑に向き直った。

「何かはあったようだな」

「追体験はしました」

烏崑はファイティングポーズをつくり、

「でも思ってたんと違うとこから、パンチを繰り出されてグロッキーな気分です。訳あって詳細は言えませんが、妊婦の追体験は出来ました。だから、ロクがどこかにいるという感覚に信憑性はあると思います」

「そうか、それは良かった。その確信をもとに次の行動に移りたい。その為にはどうしたらいいか相談したい。そんなところか」

「そっか。なんか頭が混乱してて、上手く整理出来てなかったけど、そういう事なんです」

「うむ。疑わしいフィルス家に直接問い合わせてみてもいいが、成果を得るのは難しいだろう。情報収集をしながら、協力者を増やしていくのが正しい筋道かと思う。そこでだ。蓮寺家の試験には不合格だと言っていたな。それはメールで確認はしたのか?」

烏崑は両手の爪を立てる仕草をして、

「いえ、何の爪痕も残せずスルーっと滑り落ちただけだったから、確認するまでもないと思って」

「まずは確認しなさい。おまんのウチに眠る何かを見出している可能性は無きにしも非ず」

試験では屁をこいただけなので、ウチに眠るウンチの成分がバレただけかもしれないが。

烏崑は携帯を取り出し、蓮寺家からのメールを探し、確認するも『不合格』と非情なメッセージを無感動に目にするだけであった。

「『不合格』でした」

「うむ。まぁそうだろう。だが、そのメッセージの下の方にスクロールすると何かないか?」

「うん?」

烏崑がスクロールしていくと、血液検査の結果、『適性』『下記の入職二次試験受験を許可する』とある。

更にスクロールすると蓮寺家が母体の老人施設や食品会社、警備会社、葬儀社などのアドレスがズラッと並ぶ。

「蓮寺家が母体の企業の試験は受験させてもらえるみたい」

「蓮寺家の血液検査の基準は良く分からないが、彼らはそこを重要視しているらしい。才能があっても入塾出来ない場合があるんだとか。烏崑は能力的な才は認められなかったが、血液の質で入職の可能性はもらえた。蓮寺家関連の企業には、塾生が勤めているから、彼らとの接点は増える。そこで情報収集をしていくのが妥当なのかもしれん」

採血した時、ちょっとしたハプニングがあったのを思い出した。

僕とロクの採血が終わったあと、スピッツラックが落ちて、ロクが慌てて拾い戻した。

どうという事はない。何故思い出したのだろう。

烏崑は募集条件を確認しながら、

「老人施設は看護師を募集してる。準看でも大丈夫みたい」

と、顔がほころぶ。

「そこを拠点にロクを探してみます」

「蓮寺関連は給料もいいらしいし。それが良かろう」

「ありがとうございます。なんだかうっすらと希望が見えてきました。すいませんでした、こんな夜分に」

「烏崑、俺の勝手な勘だが、お前にはとてつもない伸びしろを感じる。見込みのあるヤツへの協力は惜しまねぇ。ジンとマーコもおんなじ気持ちだ。俺らが絶対的な後ろ盾になってやる」

真摯な眼差しであった。

なんとも頼もしい。

何かにぶっ飛ばされても、彼の分厚い胸板に背中をぶつける事ができると思わせてくれる。

「めっちゃ心強いです」

「お前が何かに突き飛ばされたら、抱き留めてやる。そして後ろから蹴り飛ばしてやる。ガハハハ。ひたすら前へ進むのだ」

烏崑は苦笑いし、「ガハハハハ」とレミーの笑い方を真似をしてドアへと歩いていく。

そしてレミーもガハハハハと笑った。

レミーの笑い声が背中を後押ししてくれる。

烏崑は、ドアのバーハンドルに手をかけたところで、ふとリュックにいる人魚のミイラを思い出し振り返った。

「レミーさん」

「どうした?」

「人の心が残る人外って知ってますか?」

「さぁな。うむ。そういえば処分される間際にそういった嘘をついて、助かろうとする人外がいると聞いた事がある。ⅠQの高い人外がいて、変態前の人物の情報を調べつくし、成りきり、生存の手段にしていたヤツがいるんだとか。人外の話は鵜飲みにするなよ」

あの乙葉さんが、乙葉さんでない可能性がある?

「どうかしたか?」

「いや、何でもないです」


夏前にロクと魂粥塾の試験を受けた時と、蓮寺大國魂神社の参道の様子は大きく印象が違って見えた。

あの時の樹々の漲るような緑が落ち、シンとした幹からは(さなぎ)のようにうずまくエナジーを感じる。

神聖な敷地内の樹木たちは、嘘を見透かすような清廉な氣を醸している。

蓮寺に潜入するという後ろめたさが少し痛い。

そして迂闊にすかしっ屁もこけない。

御神木の大銀杏様を前に願う。

無事なロクと再会出来ますように。

入塾試験は本殿で行ったが、今回は、本殿を抜けて裏手にある施設である。

『歌舞伎町ハウス』

この3階建ての巨大な建造物は敷地を拡張して最近作られたと、総務の女性が電話で説明してくれた。

高齢な能力者、チィゴナーの中には、認知症を患う人もいて、対人外用の能力を発動してしまう事がある。

時に暴発してしまう兵器のような彼らを管理するような施設が必要になってのことだったとか。

とはいえ、彼らを僕のような弱者が管理できる筈がない。

彼らは3階にいて、彼らを管理するチィゴナー兼看護師が担当しているそうだ。

僕は1,2階に入居している普通の老人の看護をするとの事だった。

でも、なんで『歌舞伎町ハウス』なんだろう。

神仏と相いれない猥雑でいかがわしい赴きを遠目にも感じる。

壁面にはスプレーアートで悪魔やドラッグ、ちんぽこなどが描かれ、『煩悩のるつぼ、イエー』との文言がデカデカと目立つ。

あんぐりとした口を閉じ、もう1回あんぐりし、踵をかえそうとしたところで声をかけられた。

「びっくりしたでしょう」

白装束を来た白髪七三の男性。蓮寺の関係者の方か。にこやかに話を続ける。

「「歌舞伎町半壊事件」の時にね、ダメになってしまった老人ホームを蓮寺が面倒をみてるんですけどね、歌舞伎町って土地柄個性的な入居者の方が多くてね。ほっほっほっ」

「そうなんですか。思春期の掃き溜めみたいなところですね」

「ほっほっほ」

この人『ほっほっほ』でうやむやにしようとしているのか?言葉を変えてみる。

「売人のビチグソみたいなところですね」

「ほっほっほ・・・我那覇烏崑くんですかな」

「ええ。面接に伺いましたが、僕には合わなそうなので・・」

「採用です」

「はい?」

「よろしくお願いします。施設長のボウシと申します」

「あの、採用と言われましても、こちらとしては逆に不採よ・・」

「採用です。おめでとうございます。ささ、行きましょうか」

ボウシは烏崑の手を握り、強引に歌舞伎町ハウスへ向かおうとすると、突如ホーム内から緊迫感のある空襲サイレンのような音が鳴り響き、屋上に10人近くの黒蓮のマークを背負った白装束の人が現れ、次々と洗練された動作で浮遊するドローンに降り立ち、西の空へ飛び立った。

と思ったが、彼らは何やら小競り合いをしており、一機が墜落していく。

「あ」

ボウシの目が泳いだが、握った手は離さない。凄い力だ。

「え?あのいいんですか?」

「大丈夫大丈夫。さ、行きましょう」

「いや、あの、ちょっと僕の脳内でもビープ音がけたたましく鳴っていますから帰らせていただきま、いや、ちょっと」

ボウシは聞こえないフリをして、入口での虹彩認証で、ロックを解除し、応接室へ通される。

ボウシはふーと汗を拭き、

「いや~良かった。大体ね、この建物を見て怖じ気づいて帰っちゃう人ばかりですからね。烏崑くんは実に勇敢だ。おじさん関心しましたよ。いや~素晴らしい」

「外で待ち伏せしてたでしょう」

「待ち伏せなんて人聞き悪いなぁ」

と口をとんがらがせる。

可愛くない。

烏崑はボウシに促され、ソファに座った。

ボウシはいくつかの冷凍食品をレンジに入れ、スタートさせ、口笛を吹いているが、吹けていない。

帰りたい気持ちはやまやまだが、ロクについての情報を得るためなら地獄にだって行くと決めたんだった。

ガハハハハハ。

レミーも後押ししている。

覚悟を決める為、休職扱いだった精神病院も退職してきた。

マユの『鼻から国旗事件』のあと、マユとその母のアリスとは相変わらず連絡がつかない。

フィルス家を手繰り寄せる紐が蓮寺のどこかにあると信じて。

「それにしても、何で蓮寺さんは歌舞伎町の老人の面倒を見てるんですか?あの半壊事件は蓮寺さんに責任はないでしょうに」

「あんまり内部事情は話しちゃいけないんだけど、こっち側の人になっちゃう?」

「えぇ、まぁ、なりますよ」

「ええ?うっそー、物好きだねぇ」

つんつんと指をさす。

「どっちなんですか」

「じょーだんじょーだん、マイケルジョーダン」

「つまんないですから」

「老害ジョーク」

ニヒと笑う。

「めんど臭いなぁ」

「実はね、あの歌舞伎町半壊事件はね、陰陽六氏の安倍が使役していたと言われる竜の幼体が暴れたと言われててね。蓮寺が退けたんですけど、家を失った人達に手を差し伸べたいと、ここにまだ空きが多いので移転してもらったんです。私としてはそこまでする必要はないと思うんですけど」

「ずいぶん立派なんですね」

「そう。大観様はおやさしい。そんな事安倍が全部やればいいのに。蓮寺が来なかったら、歌舞伎町どころか新宿が火の海になっていたくらいです」

「大観様って?」

「蓮寺の化主(けしゅ)、一番偉い方です」

「へー、ここ(蓮寺大國魂神社)にいらっしゃるんですか?」

「まさか。お忙しい方だから、滅多にお目に掛かれない」

「すっごいエクトプラズマー達を束ねるんだから、凄まじい方なんでしょうね」

「そりゃぁもう」

「どんな御姿をされてるんだろう」

「烏崑くんは、蓮寺の職員になれたから、一年に1回の聖餐式(せいさんしき)で、御姿を拝見する事が出来ますよ」

「聖餐式?」

「キリスト教にも聖餐式があって、パンとワインをイエス・キリストの血と肉に見立ててていただく儀式です。簡単に言うと、みんなでキリストと一体化して素晴らしいに人間になりつつ共同意識を高めていく。それの蓮寺版みたいなもんです」

レンジがチンとなり、ボウシが冷凍食品をアチチと言いながらソファ前のテーブルに並べ、

「ここの職員の特典は、ここの冷凍食品は食べ放題」

ボウシがと、豚カツの袋を開け、皿に出し、

「良かったらどうぞ、人気商品だよ」

一切れ刺さったフォークを烏崑に差し出す。

怪訝な顔をしてしまうも、食べないのも何なので、

はむ。ハフハフ・・。

「うん、美味しいです」

普通においしい。

「でしょ、でね、蓮寺の敷地内で肉は禁止なのよ」

「はい?ここ敷地内ですよね」

「でもいーのよぉ」

「何をトチ狂ってるんですか?言ってることの意味が分からない」

「それ、人工肉、植物性のもので作ってんの」

「うそ、これ、肉じゃないんですか?この脂の感じとかうっすらと血も混じっているようだし」

「いい。その反応。いい。そんでね筋なんかもあるでしょ。再現されちゃってんのよ。蓮寺の技術半端ないよね」

「これが肉じゃないんだ。言われても信じられない」

「もっと褒めて。フルフルしちゃう(フルフル)。ハンバーグも食べる?これまたびっくりするんだから」

ハンバーグを一切れフォークに刺し、烏崑に渡す。

「うんまー。何コレ。これも肉じゃないんですか?」

「そうよ。安い肉には勝ってるくらいでしょ。豚肉だけじゃなくて牛肉とか鶏も再現してるから」

「ちょっと感動しました」

「でしょ、で、さっきの話だけど、最近はこの人工肉で聖餐式をやってるの」

「へー」

「数年前はちょっと豆っぽかったけど、今はホントに凄いからビーガンの人も大喜び。蓮寺に入信したけど、どうしても肉が食べたいって人がいたらしくてここまでに仕上げたらしいのよ」

「熱量凄いな。ホントどうなってんだか」

もう一つ頬張り、もぐもぐ。んまい。

「工場近いから今度連れてってあげるよ」

「ありがとうございます」

「別業種でも蓮寺の運営しているところがたくさんあってね」

この人、めっちゃおしゃべりだ。色々聞きだせるかもしれない。

「ちょ、ちょっといいですか?」

烏崑は遮り、フォークを置いた。

「何?」

「熊野宇須神社に常駐する予定だった慶さんって知ってますか?」

「あぁ、烏崑くんが来るって事で慶ちゃんから連絡あったよ」

「そうなんですか?覚えてて下さってるんだ」

話が早い。

「僕の友達の何か言ってなかったですか?」

「ロク君だっけ?」

「凄い。名前まで。ロクの行方がどうしても知りたくって」

「そこは分かんないけど、慶ちゃんが近いうち来てくれるって」

「ホントですか?」

「ここでちゃんと働いてくれるんなら」

「近いうちっていつ・・」

リリリリリリリ。

ボウシの携帯の着信音が響き、携帯の画面を見るなり梅干しを噛んだような顔をする。

「こっから掛かってくるってのはよっぽどだ。ボシボーシ(もしもし)」

と、通話を始め、

「あちゃー。百匹以上」

と、部屋を出ていく。

ドア越しに内容は分からないが、ただ事ではなさそうだ。

ドアが開き、ボウシがひょこっと顔を出す。

「人外が百匹以上だって。申し訳ないんだけど、残りのチーゴナーにも招集かかっちゃってね。留守番頼めるかな?」

「はい?留守番って何にも分からないですけど」

「いいのいいの。ここの老人達を外に出さない事と。1.2階だけ見てて。3階は元チーゴナーの認知老人だから、絶対行かない事。死ぬからね、死ぬ」

「し、死ぬ?いや、それに、だって何の申し送りもまだ・・」

「たった、30分だけだから。そしたら塾からチーゴナーの卵達がバイトに来る筈だから。老人同士、対立してて現役反社もたくさんいるけど、北棟と南棟に分かれてるから大丈夫。撃ち合っても、戻ってくるまでに何となく生きてれば何とかするから。くれぐれも警察とか救急車は呼ばないでね」

「何で?」

「歌舞伎町ハウスでしょ。基本『訳あり』しかいないから複雑なのよ」

「こ、困ります」

「いやいやこっちも困ります」

「嫌です」

「そんな事言うなら、さっき食べた人工肉90万円になります」

「はい?ぼったくりバー?」

「歌舞伎町だけに(ドヤ顔)」

「いやいや上手くないから」

「ホンッとごめんね」

上目遣いで手を合わせ、小首を傾げペロッと舌を出す。

「テヘペロ下手くそ」

パカッとズラを外し、テヘペロをする。

「修正点はそこじゃない」

「ガビーン」

とボウシはもう一度ズラをパカッと外す。

「・・・・」

意味が分からない。

「ガビーン」

もう一度ボウシはパカッとズラを外す。

「・・・・・・」

意味が分からない。

ボウシはそっとドアを閉めた。



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